軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百七十四話 こだわり

迷宮都市の門の閉まる時間を完全に忘れていて、急遽、迷宮都市の近くの森でキャンプをすることになった。色々なことが重なって出発が遅くなったせいだけど、ここは逆転の発想で楽しむことにしよう。

「じゃあ、フレア、シバ、焚き木に火をつけてくれ。崩れないようにそっとお願いね」

もうすぐお肉が焼けるので、焚火を見ながら夕食としゃれこむことにする。一瞬、不安定な焚火だからメラルに着火を頼もうかとも思ったが、フレアとシバのキラキラした視線に負けてしまったのは内緒だ。

「まかせろ!」「ワフ!」

フレアとシバが小さな火を生み出し、そっとうずたかく積まれた焚き木の中に投げ入れる。吸い込まれるように焚き木の中に入った火は、消えることなく焚き木を燃やし、ゆっくりと火が大きくなっていく。

「ふおお、もえたー」「キュー」「たきび」「ククー」「ひはすごいんだぜ!」「……」「「ホー」」「フギュ」「ワフー」「……」

「やった、もえた!」

「おにいちゃん、すごいね!」

焼き台で串焼きを管理している、俺、ジーナ、サラ、メル以外のちびっ子達のテンションが上がり、焚火の周りではしゃいでいる。その気持ちはよく分かるが、不安定な焚火だから、あんまり近くではしゃいでいると怖い。

「よーし、こっちのお肉も焼けたから夕食にするぞ! 俺のところはオーク肉とラフバード肉。ジーナがジャイアントディアー。サラがアサルトドラゴンのお肉でメルがワイバーンのお肉だ。好きなお肉を取りにこい!」

俺の掛け声で、ワッとちびっ子軍団が焼き台の前に集まってくる。うん、このくらい焚火から離れたら安心だな。

「ゆーた、おにくー」

満面の笑みで俺の目の前にふよふよ浮かんでいる。視線はお肉に釘づけだ。

「オーク肉とラフバード肉、どっちにする?」

「どっちもー」

迷うことなく両方選ぶベル。すがすがしいほどに欲望に正直だな。オーク肉の串焼きとラフバード肉の串焼きを両手に持ち、とてつもなく嬉しそうな顔をするベル。可愛らしいな。

ジーナ達のところにちびっ子達が並んでいるが、スムーズに串焼きの受け渡しができてるようだ。姿が見えなくても、迷いなく串焼きを渡せるところに精霊術師としての成長を感じる。

「あー、たおれるー」

ベルの声と同時にガラガラっとした音が聞こえる。振り向くと焚火が倒れ、広場の中心付近に火が付いた焚き木がバラまかれている。

ちびっ子達をお肉に引き付けておいて正解だったな。ベル達は残念そうだが、あの不安定な焚き木の塔が、そんなに長持ちする訳がない。

「みんな、倒れた焚火には近づかないようにね」

これくらいの散らばり具合なら、タマモが植物を移動させてトゥルが整地してくれたから、火事にはならないはずだ。

残念そうに散らばった焚火を見ていたちびっ子達も、気を取り直したのか串焼きに集中しだした。ジーナ達にも串焼きを食べるように言って、俺も串焼きを食べるか。

……自分が担当しているのはオーク肉とラフバード肉の串焼きなんだけど、1発目はアサルトドラゴンの串焼きにかぶりつきたい気分だ。あと、エールもキュっと行きたい気分だから、軽く一杯だけ飲んじゃうか。シルフィ、ジーナ、メル、メラルにもお裾分けして共犯にしておこう。

***

「そろそろ寝る時間だよ。ちゃんと体と口に洗浄の魔法をかけるようにね」

しっかり串焼きを堪能して、散らばった焚火も落ち着いたので、積みきれなかった焚き木を追加しながら焚火の周りでデザートを食べた。

本当なら串焼きを食べている時も焚火の周りがよかったんだが、デザートだけでも焚火の周りで食べられてよかったな。

「師匠、おやすみ」「お師匠様、おやすみなさい」「おやすみ!」「おやすみなさい」「お師匠様、お先に失礼します」

「ああ、おやすみ」

洗浄をかけたジーナ達とフクちゃん達+メルとメラルが魔法のテントに入る。初めての魔法のテントでの宿泊で、ちびっ子達のテンションが上がっているけど、ちゃんと寝るかな? 少し心配だ。

ジーナ達を見送ったあと、まだまだ元気いっぱいのベル達を、移動拠点のベッドに連れて行き、寝かしつける。相変わらず1つのベッドでお団子になって眠るベル達は可愛らしい。あと、眠る必要がないのに、一瞬で眠りにつけるベル達が少し羨ましい。

俺も寝ようかとも思ったが、ちょっと思いついたことがあるので外に出る。

「あら裕太、寝ないの?」

風に溶けていたシルフィが現れた。……なんかゲームみたいなことを思ってしまった。

「うん、寝ようかとも思ったけど、ちょっとやってみたいことを思いついたから出てきたんだ」

「なに? おもしろいこと?」

シルフィに興味を持たれてしまった。

「裕太、どうしたの?」

「いや、俺的には面白いことなんだけど、シルフィからしたらものすごくくだらないことだから、なんていえばいいのか言葉に迷ったんだ」

よく分からないわねって感じで首を傾げるシルフィ。申し訳ないけど、そうとしか言えないんだよな。完全な自己満足だもん。

「私は一緒に居たほうがいい?」

「んー、今回は1人の方がいいな」

別にシルフィがいたら駄目ってことはないんだけど、付き合わせるのも申し訳ない。

「そう。よく分からないけど、頑張ってね?」

そう言ってシルフィが風に溶けた。でも、たぶん俺が何をするか見てるんだろうな。まあ、シルフィから見たら、あまりのつまらなさにすぐに興味をなくすだろう。

まずは、焚火の横に丸太を転がし光球を消す。そして、魔法の鞄からホットコーヒーを取りだし丸太に座る。これで準備完了。簡単だな。

暗い森の中で、丸太に座って焚火を眺めながらコーヒーをすする。うーん、今の俺、まるで映画のワンシーンにいるようだ。

寝る前にコーヒーを飲むのは微妙な感じだけど、このロマンのためならなんてことない。少し残念なのが、暑い大陸だから焚火とホットコーヒーが微妙に辛いってことだ。

俺の映画のイメージだと、もう少し寒い地域で、蒸留酒で暖を取れたら完璧だった。まあ、蒸留酒を飲んでたらシルフィが黙ってないだろうし、宴会になってしまう。

森の中で焚火を囲んで宴会ってのも悪くないが、今回はハードボイルドに1人でコーヒーだな。

…………よし、そろそろ寝るか。

焚火に砂をかけて火を消し、移動拠点に戻る。

「ちょ、ちょっと裕太。焚火の前でコーヒーを飲んで、ニヤってしただけじゃない。それで終わりなの?」

移動拠点に入ろうとしたら、シルフィが慌てた様子で現れた。やっぱり見てたんだな。

「うん、もう十分に満喫したから終わりだよ」

「……たしかにそこはかとなく満足そうな顔をしているけど、なにがそんなに楽しかったの?」

クールな無表情が崩れて、心底不思議そうな顔のシルフィ。かなりレアだな。でも、残念なことに俺の語彙では、この自己満足な行動の説明が難しいんだよな。

「えーっと、俺の元居た世界では、渋めの劇で今みたいなシーンがあってね、それを真似して悦にいってただけなんだ」

劇って言うか映画なんだけど……あっ、シルフィがものすごく白けた顔をしている。たぶんそうなるんだろうなって思ってたけど、実際にそうなると少し寂しい。

「そ、そう、よかったわね」

「……う、うん、よかった。おやすみ」

微妙な雰囲気になったので、そそくさと移動拠点に入る。いいんだ、俺はやりたいことをやっただけ。異世界に来たんだから、俺は自由に生きるんだ。おやすみなさい。

***

「よし、じゃあ出発しようか」

「師匠、本当にその格好で行くのか? 結構煌めいてるぞ?」

光竜の防具、兜も含めてフル装備だからな。たしかにジーナの言う通り俺は煌めいている。これに加えて魔法の絨毯で城門に乗りつけてやろうかとも思ったが、さすがに目立ちすぎて心が折れそうだから止めておく。

空を飛ぶ魔道具自体は、数は少ないが存在を認知されているらしいから、絶対に秘匿しなければいけない訳じゃない。ジーナ達の迷宮での探索が一段落ついたら使わせるのもいいかもな。

洞窟の層で魔法の絨毯は微妙に使い辛そうだけど、それ以外なら十分に使えるから、かなりの時間短縮になる。

「たしかにちょっと煌めいてるけど、俺もAランクの冒険者なんだからこのくらいは許容範囲内だよ」

周囲から高ランクの冒険者に見られないから、装備の力に頼ったのは内緒だ。

「そうか? いや、師匠はAランクの冒険者だったな。それならそのくらいの鎧を装備してても普通……なのか? ワルキューレとかもっと普通の装備だった気がする」

ワルキューレ……そういえばあの人達もAランクの冒険者だったな。……あの人達はあれだ、外見からして目立ちまくってるから、派手な装備が必要ないんだよ。あとジーナ。師匠の冒険者ランクを忘れないでほしい。

……なんかこの話題を続けると、心が傷つきそうな気がするからさっさと出発しよう。

***

ふむふむ、ジーナにも言われたが、やっぱりこの装備は目立つな。迷宮都市への道ですれ違った人も、俺に注目してたし、門でも視線を独り占めしてしまっている。

早朝だが結構人が居るし、あの装備、かなりの値打ち物だ!とか、自然と煌めいている装備をみて、素材を推測しようとしている商人もいる。元々がそこまで目立ちたがり屋ではないと思っていたけど、なんか少し気持ちいいかもしれない。癖になったら怖い。

「裕太、尾行されてるわ。人数は2人ね」

門での手続きを終え、目立つことに快感を覚えるようになったらどうしようかと考え込んでいると、シルフィが物騒なことをサラリと教えてくれた。

(もしかして、この鎧が原因かな?)

どう見ても高そうな鎧だし、尾行してどうにか盗もうとか考えているのかもしれない。

「いえ、鎧は関係ないわね。最初っから門を見張っていたし、明らかに裕太の顔を見て動き出したわ」

んー、鎧が原因じゃないなら、なんで今更尾行されるんだ? 迷宮都市の中では結構恐れられている方だし、ギルドや王国からの圧力で、俺には手を出し辛いはずなんだが。

(すぐに襲ってきそう?)

「どうかしら? 暗殺者と言うよりも斥候って感じだし、裕太を知っていると考えると、2人では襲ってこないんじゃない?」

すぐに襲われるって感じじゃないみたいだ。そうなると、尾行を捕まえて尋問するか、様子見してシルフィに探ってもらうかだな。俺の尋問で相手がペラペラと話してくれるとは思えないし、拷問なんかできる気がしない。シルフィに探ってもらうのが一番だな。面倒なことにならなきゃいいんだけど……。