軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百五十三話 マルコのアイデア

重力石の設置の一部をジーナ達に任せることによって、俺の中でだけで弟子達に負けられない戦いが始まった。ひとり相撲だけど、俺は頑張る。

「じゃあ説明するわねー」

「ディーネが説明するの?」

「お姉ちゃんじゃ駄目なのー?」

可愛らしく小首を傾げるディーネ。そう素直に聞かれると困る。

「えーっと、今回のことはジーナ達に頼んだから、ジーナ達にメインで説明してもらった方がいいかと思う。ディーネはジーナ達の説明の補足をしてくれると嬉しいかな」

「なるほどー。ジーナちゃん達のお仕事だから当然よねー。ジーナちゃん達、お姉ちゃんが見守ってあげるから頑張るのよー」

ディーネがすんなりと納得してくれた。ディーネって自分の欲求に素直で、変なところに拘って意地を張ったりするけど、こうやって普通に納得してくれる時もある。なんとなくその境界が分かってきた気がする。

とりあえず、お姉ちゃんのプライド的な場合はほとんど折れない。でも、お姉ちゃんとして優しく見守るとかそういう場合は素直に折れてくれる。

……あれ? 俺の師匠の威厳的な拘りに似ている気がする。えっ? 俺ってディーネと同タイプなの? 美人でホンワカしたディーネと俺……同タイプだとしたら確実に負けてるな。俺とディーネは違うタイプってことにしておこう。じゃないと心が折れる。

「分かった。えーっと、メルさん、あたしが話していいか?」

「はい、私もお手伝いしただけなので、ジーナさんから説明してください」

「分かった。じゃあ、あたしが説明する。えーっと……このドーム型の休憩所から、小島の重力石に登れるようにしたんだ。それで、バラを近くで感じられるように低い場所に小島を一つと、ローズガーデン全体が見渡せる上空に小島を設置してみた」

ジーナの性格なのか説明がシンプルだ。まあ、分かりやすいと言えば分かりやすいか。上空の小島はバラを植えて描いた大きなバラを見せるために設置したらしい。たしかにあれは綺麗だから、見ながらお茶できたらオシャレな気がする。

「なるほど、いい場所に設置したとおもうよ。それで、改造してある重力石はなにに使うの? マルコのアイデアなんだよね?」

配置がシンプルだからこそ、あの改造が気になる。

「ああ、それはマルコから説明してもらうよ。マルコ、お願い」

「うん!」

ジーナが話をふると、マルコが嬉しそうに返事をした。自信ありげなマルコに俺の内心は戦々恐々だよ。

「師匠! せつめいのまえに見てほしいんだけど、いい?」

「いいよ。小島にのぼる?」

「ここからでだいじょうぶ。ディーネねえちゃん、おねがい!」

改造した部分は小島に乗って体験するギミックじゃないらしい。ディーネの力を借りるってことは水関係だよな。

「ふふー、任せてー。えいっ!」

ディーネが右手を振ると、水路から水が浮かびあがり、小島に吸い込まれていった。ん? 岩なのになんで水が吸い込まれるんだ。

少し経つと小島の重力石から雨のように小さな水が下の池に降り注ぐ。もしかして、雨が降らない死の大地に雨を表現したのか……マルコってもしかして天才?

たぶん増設した部分は空洞になっていて、水をため込んでいるんだろう。でも、どうやって雨粒みたいに水が出てるんだ? 普通はホースから水が出るみたいになるよな?

……なるほど、逆三角形のような重力石の下に、四方八方に水が飛ぶように穴が開いてるのか。スプリンクラーみたいなシステムのようだ。

おっ、上の小島からの水がこっちまで届いた。結構距離があるからか、雨粒と共に霧のようになった水も落ちてきている。上の小島は噴出口が絞ってあるのか、水の広がる範囲が広い。

「師匠、どう? 雨みたいになってる?」

マルコが嬉しそうに俺に聞いてくる。悪意の欠片もない笑顔を見ると、子供に対抗意識を燃やしている自分の心に大ダメージが……なんか色々負けた気がする。こうなったら師匠として精一杯褒めよう。

「うん、ちゃんと雨みたいになってるね。すごいよマルコ。俺はそんなことまったく思いつかなかったよ

一瞬、中規模の島や大規模の島にも同じ改造を施して、楽園に雨を降らせるようにしようかとも思ったが、ディーネに頼めば改造しなくても同じようなことができるんだよな。あくまでもローズガーデンの演出ってことにしておいたほうが丁度よさそうだ。

「やった!」

「おにいちゃんすごい!」

誉め言葉にマルコとキッカが喜んでいる。うん、ここで弟子の成長を喜ぶのが、正しい姿のはずだ。笑顔で見守ろう。

「キュキュー」「おみずー」

レインとベルが小島の下に潜り込み、降ってくる雨に打たれながら遊んでいる。ベルはともかく、レインは水の下級精霊だから、このギミックは楽しいんだろう。

「じゃあ、そろそろ小島に移動しようか。あっ、これは絶対に守ってほしいんだけど、小島に上り下りする時は必ず風の精霊と一緒に行動すること。うっかり地面に落ちたら危ないからね。シルフィ、ベル、フクちゃん、マメちゃんはもしもの時は助けてあげてね」

「私がいる時は注意しておくわ」

「べるもたすけるー」

「「ホー」」

「たしかに柵もないから少し危ないな。サラ、マルコ、キッカ、メ……コホン……上る時は約束を守るんだぞ」

楽園の風の精霊組も請け負ってくれたし、ジーナの注意にサラ達も真剣に頷いてくれた。約束は守る子達だから間違いは起こらないだろう。

ただジーナ、咳払いしただけでは誤魔化せてないからね。サラ達の組にメルも含めようとしたよね。メルも気づいて地味にショックを受けてるぞ。

「じゃあ師匠、小島に行こう」

ジーナはなかったことにしたいのか、少し引きつった顔で小島に上がるように促してきた。メルの方を見ないようにしてるし、メルが地味にショックを受けているのには気づいているみたいだな。

まあ、ここで子供と間違えたって言い辛いからしょうがないか。俺が引っ掻き回しても空気が読めてない大人になるだけだから、素直に小島に上がろう。

「ん? 小島の重力石ってもっと揺れたはずだけど、なんか安定感が増してない?」

不思議に思ってノモスに質問する。飛び乗ったりしてないけど、迷宮では体重移動でもグラグラしてた。

「動きを固定したんじゃ、安定感が増すのは当然じゃろう」

当たり前のことのように話すノモス。それなら迷宮でノモスを召喚すればよかったか? 無意味な苦労をしてしまった……いや、そもそもシルフィに頼んで飛んでいけば苦労しなかったんだから、今更だな。あの時は冒険気分を味わいたかったんだから召喚しなくてよかったんだ。

ただ、精霊樹での頑張りが少し無駄になったかもしれない。安定度が増すのであれば、設置した重力石をもう少し減らせたよな。

「……なるほど、それなら落ちる心配も減るから助かるよ」

ノモスにお礼を言って小島に向かって進む。重力石の端に立った時に、わずかにグラつく程度だから、かなり安全になった。

足場と足場の間は階段を一段飛ばしたくらいの幅で、キッカやメルだと少し大変にみえるが、レベルも高いし、風の靴も履いているから問題ないだろう。

一つ目の小島は池の上に浮いていて、上から咲き誇るバラを楽しめる雰囲気。2つ目の小島は、しっかりとバラで描いた巨大なバラが見える位置に浮かんでいる。

そして、死の大地のローズガーデンに霧のような雨が降り注ぐ光景は、幻想的と言っていい。俺は景色を見ながら優雅なお茶会ってガラじゃないけど、お茶を好む精霊達がいれば人気のスポットになりそうだな。

……お酒よりもお茶が好きな精霊って想像がつかないけど居るよね? まあ、お酒も好きだけどお茶も好きって精霊なら結構いるはずだから、最低でもたまには利用されるだろう。小島に設置する家具も次に迷宮都市に行った時に買わないとな。

***

「かいだんがついてる!」

「あれってすべりだい?」

「師匠、こんなに長い滑り台で大丈夫なのか? 落ちないか?」

「お師匠様、少し危ない気がします」

「私、怖いです」

ノモスに重力石の固定をお願いして、ジーナ達に俺が作ったお茶会場の説明をする。んー、階段はともかく、滑り台への反応が分かれたな。マルコとキッカは興味津々、ジーナ、サラ、メルは少し不安のようだ。

「精霊樹はかなり大きいから、下りくらいは楽に移動できるように考えたんだ。両サイドのストッパーは深めに作ってるから、普通に滑るだけなら落ちたりしないよ。まあ、慣れるまでは風の精霊と一緒に滑れば問題ない」

俺の自信作の精霊樹をクルクルと回りながら下まで降りる滑り台と、ジグザグの階段。スパっと切れる魔法のノコギリと、木材を器用に曲げながら接合してくれるドリー、アダマンタイトでスベスベにメッキをしてくれたトゥルの力がなければ、こんなに短期間で完成しなかった傑作だ。開拓ツールと精霊の力って改めてチートだと思う。

重力石単独で浮かんでないからファンタジー感は薄れたけど、階段にしても滑り台にしても、足場が重力石だけなので独特の雰囲気があってカッコイイ。

それに、重力石をメッキした木材で繋げることによって安定感が増した。ここからノモスが重力石を固定すれば更に安定するだろう。

「お師匠様、あちらの階段の方は上り下りのどちらでも利用していいんですよね?」

メルが明らかに滑り台を避けるための質問をしてくる。メルは気弱なところがあるし、あれだけ高い滑り台だと怖いのかもしれない。俺は手すりを付けたとはいえ、精霊樹の高さから階段で降りる方が怖いと思うけどな。

「うん、好きにしていいよ」

ホッとしたように頷くメル。時間が経てば滑り台が怖くないって分かってくれるだろう。ただ、メルとメラルは滞在期間が短いから、今回の訪問中では無理かもしれないな。

「ゆーたー」「キュキュー」「たのしい」「クーーー」「もっとはやく!」「…………」「うふふー、けっこうはやいわー」

ジーナ達に階段と滑り台の説明をしていると、ベル達が団子になって滑り台を滑ってきた。全員飛べるんだけど、実体化して滑るのは違った感覚で楽しいらしい。最後のディーネは……見なかったことにしよう。

「師匠、おれもすべりたい」

「キッカも!」

その様子をみたマルコとキッカが我慢できなくなったらしい。キラキラした目で俺を見ながら早くいきたいと訴えてくる。

「んー、ノモスの固定も終わったみたいだし、フクちゃんとマメちゃんが一緒に行くなら、先に行っていいよ」

速攻でサラにお願いして、フクちゃんとマメちゃんを連れて階段に向かうマルコとキッカ。そこまで楽しそうにしてくれるなら俺も嬉しい。

残った俺達はのんびりと階段を上って、精霊樹の木陰に設置したお茶会場に向かおう。滑り台以外は普通に階段を作っただけだから特に見どころがないけどね。

「裕太。用がないなら儂はもう醸造所に戻るぞ」

「あっ、ノモス、ありがとう。それと、夜に大精霊達に相談があるから、悪いけど時間を空けておいてくれ。イフやヴィータにも伝えておいてくれたら助かる」

「む? なんの相談じゃ?」

「少し重力石の島の利用法を思いついたから相談したいんだ」

「ふむ、分かった。伝えておく」

酒島計画……すぐに取り掛かれるか分からないけど、話だけは通しておこう。さて、俺もみんなを案内して、もう一度滑り台を滑るか。あれって、大人でも結構楽しいんだよな。