軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百四十五 感動の対面?

「メル、もうすぐ拠点に到着するけど、落ち着いた?」

「あっ、はい、落ち着きました。もう大丈夫です」

少し疲れた表情だけど大丈夫みたいだな。出発前にユニスの説得に苦労したし、死の大地に拠点があることを内緒にした俺のせいで、ビビりまくってたからしょうがないだろう。

なにも言わずに死の大地に突入し、奥に進むにつれて蒼ざめていくメルの表情。ちょっとした悪戯心で黙っていたことを後悔した。悪戯は仕掛ける相手を選ばないと駄目だな。ジーナ達が大丈夫だって落ち着かせてくれなかったらパニックになってたかもしれない。

「そうかよかった。あっ、あそこが俺達の拠点、精霊達の楽園って呼んでいる聖域だよ」

遠目に見える精霊樹を指さしてメルに教える。

「見えました。あの木があるところが拠点なんですね。結構距離があるように見えるんですが、かなり大きな木なんですか?」

「うん、あれって精霊樹だからかなり大きな木なんだ」

メルが俺を見ながら口をパクパクさせている。精霊樹って伝説クラスの木らしいから驚いてくれるとは思ってたけど、これだけ驚いてくれると言った俺も気分がいいな。メルを驚かせる場合はこういう怖い感じじゃないネタなら問題ないようだ。

メルが驚いている間もどんどん楽園に近づいていく。驚いたままで聖域に入ってメラルの登場ってのも面白そうだけど、せっかくの感動のご対面だからせめて正常な状態で会えるようにしておこう。

本当は楽園に到着してメラルの登場シーンにもこだわりたいところだけど、メラルも待ちきれない様子でソワソワしているから無理だろうな。

「メル、精霊樹の話はあとで教えるから、今はメラルとの対面に集中しよう」

「えっ、ああ、はい、分かりました!」

メラルとの対面って言葉に、本来の目的を思い出したメルの表情が引き締まる。これで問題ないな。

「シルフィ。メルとメラルをゆっくり会わせたいから、楽園の手前で止まってくれ」

「ふふ、了解」

シルフィは俺がしたいことが分かったのかすぐに了解してくれた。次はメラルに……すでにメルの目の前にスタンバイが完了しているな。わざわざ俺がなにかを言う必要はなさそうだ。

俺はベル達を呼び集め、フクちゃん達もジーナ達の側にいるように指示を出したところで楽園の境界線に到着した。

「じゃあメル、ここから少し進むと聖域に入ってメラルが実体化するから慌てないようにね。それとメラル、会えて嬉しいと思うけどはしゃぎ過ぎないようにね」

メルはともかくメラルはソワソワしっぱなしだから少し心配だ。

「分かりました!」

「大丈夫だ!」

メルとメラルが元気に返事をしたのでシルフィに向かって頷くと、メルとメラルがスーっと進んで楽園の中に入る。

「メル!」

「メ、メラル様?」

楽園の中に入ったとたん、実体化したメラルがメルに抱き着く。抱き着かれると思ってなかったであろうメルは、いきなりのことでアワアワと混乱している。こうならないように事前に注意したんだけど、言葉が足りてなかったようだ。

まあ、少年のようなメラルと少女のようなメルが抱き合う姿は、アワアワしているメルの姿を含めて甘酸っぱい感じで悪くないな。どちらも成人年齢を超えているから倫理的にも……たぶん問題ないはずだ。

「メラル様、お、お会いできてとても嬉しいです。私達の一族を長い間見守ってくださり本当にありがとうございます。み、未熟な私ですがこれからもお力をお貸しいただけますか?」

メルがアワアワしながらも一生懸命に話す。普段のメルと雰囲気が違うし、会ったら言おうと思って考えてきたんだろうな。ちょっとつっかえ気味なのは抱きしめられたのが予想外だったからだろう。

「俺はメルの契約精霊なんだ。様なんて言わなくていいんだぞ。それに俺はメルが頑張っているのをずっと見ていたんだ。メルは未熟なんかじゃない、立派な俺の契約者だ。会えて嬉しいぞ!」

おお、なんかメラルがかっこいいことを言ってる。メルは……再びギュッと抱きしめられて顔を真っ赤にしているから、感動しているのか恥ずかしがっているのか分からない。でも、ちょっと嬉しそうだし、悪くない対面っぽい。

「ふふ、青春してるわね」

「青春? ……精霊の青春っていつ頃までなの?」

シルフィのつぶやきに思わず質問してしまった。でも、メラルも中級精霊なんだし青春って年齢じゃないよな?

「そうね、特に決まってないけど、ディーネとかはまだ青春している感じね。たぶん精神が大人になるまでが青春だと思うわ」

精霊の青春の期間はずいぶん長いんだな。下手したら青春真っただ中の精霊王様もいるのかもしれない。とくにウインド様とか怪しい気がする。ライト様もあの見栄を張った話し方は怪しいよな。そして……目の前にいるシルフィも、私は大人ですって顔をしているけど怪しい。

「なんだか裕太の視線に不愉快なものを感じるんだけど?」

「い、いや、シルフィも青春してるのかなって思って」

背筋がゾクッてなって反射で地雷を踏んでしまった気がする。

「あら? 裕太は私が青春しているように見えるの?」

「ん? んーっと、どうだろう? シルフィも俺からしたら美人のお姉さんだし、青春しててもおかしくないかなって思うな」

どうだ、よいしょをまじえた会心の切り返し。とっさの状況だけどなかなか上手に返せたよな。これ以上の回答は俺には無理だぞ。無表情のシルフィが怖い。

「そうかしら? ……そうかもしれないわね。今は結構楽しいし、青春しているのかもしれないわ」

ウンウンと確認するように頷くシルフィ。なんか普通に納得してくれたからよかったけど、美人のお姉さんって言ったのを軽くスルーされたのは少し悲しい。ディーネなら結構喜んでくれるパターンなんだけど、シルフィはやっぱり少し大人だな。

とりあえずこの話題が続くと怖いことになりそうだから話を変えよう。この場の主役のメルとメラルに視線を向けると、2人とも落ち着いたのかお互いに見つめ合いながら楽しそうに話している。今はメルのお父さんについて語っているようだ。

そして、いつの間にか現れたディーネと数人の浮遊精霊と下級精霊……あとベル達とフクちゃん達も交ざって2人を暖かな目で見守っている。

「これが愛なのよー」っていうディーネの教えに、ちびっ子達はそうなのかーって感じでフンフン頷いている。この教育はありなんだろうか? ただ遊びにきただけの浮遊精霊や下級精霊達に歪んだ教育が行われている気がする。

メルの工房でもメルとメラルの関係を教材に、愛について教育してたよな。精霊の世界の愛がどんなのかは知らないけど、ディーネは精霊の世界に愛を広めたいのかもしれない。

「はわっ! はわわわ、なんですか? なんで見られてるんですか?」

あっ、メルが見られていることに気付いた。しかしパニックになってるとはいえ、はわっとか言う人を初めて見たな。かなりあざといけど、メルのことだし天然なんだよな? これが計算だったら人間不信になりそうだ。

「んふー、メルちゃん、メラルちゃん、すれ違う精霊と人間がついに楽園で出会う! お姉ちゃんはとっても感動したわー」

ディーネが両腕で自分を抱きしめるようにしながら、クネクネとのたまう。言ってることはおばちゃんなのに、両腕からこぼれそうになる母性がハンパない。

「あ、愛とかそんなんじゃありません。私はメラル様に感謝を伝えてたんです!」

メルが顔を赤くしつつもキリっとした表情でディーネに説明する。メラルは……メルの背後に隠れて様子をうかがっている。

ここはメラルの頑張りどころのはずなんだが、ディーネに対する苦手意識で前に出られないらしい。少し情けないが、ディーネに対してちょっとトラウマみたいになってるからしょうがないか。

それにしても、メラルはともかくメルはディーネを直接見るのが初めてになる。大精霊との出会いがこんなのでいいのかな? ……せっかくのメルとメラルの感動の対面を悲しい思い出にするのは忍びない。介入しておこう。

「ディーネ、ただいま」

「お帰り裕太ちゃん。お姉ちゃんワクワクが止まらないわー」

それは顔を見たら分かるよ。でも少しは空気を読むことを覚えてほしい。

「まあ気になるのは分かるけど、今は邪魔しないようにね。それで、今日はメルとメラルの歓迎会も兼ねて宴会する予定なんだけど、みんなに知らせてきてくれるか?」

「宴会ね! うふふー、今日はメルちゃんとメラルちゃんの歓迎会なら、いつもよりもお酒が増えるのかしらー?」

「……うん、人数も増えるしいつもよりもお酒の量は増やすよ。それに蒸留酒も出していいからね」

「やったわー。じゃあお姉ちゃんはみんなに知らせてくるわねー」

「ああ頼むね」

毎回のことだけど、大精霊を動かすには酒で釣るに限るな。お酒の量を増やされちゃったけど、この場合はしょうがないか。

「あっ、そうそう裕太ちゃん。アルバードちゃんが裕太ちゃんに話があるって言ってたわよー。宴会に呼んでおくー?」

「アルバードさんが? 急ぎだったらすぐにで、宴会の時でもいいなら宴会に呼ぶ感じでお願い」

アルバードさんは真面目だから、話があるって言われるとちょっと怖いな。

「分かったわー。じゃあみんな行くわよー」

ディーネが浮遊精霊や下級精霊達を率いて去っていった。なんかちびっ子の扱いに手慣れてたな。

「裕太、助かったぞ!」

ディーネが去ると、嬉しそうにメラルが寄ってきた。キラキラとまぶしい笑顔……そこまでディーネが苦手なんだな。

「ああ、でも楽園で行動するなら、いつもディーネが近くに居るってことだからな。無理をする必要はないけど、少しは慣れるように努力しような」

「……ああ、せっかくメルと話せるんだ。俺も頑張る!」

「あいー」

「もえるんだぜ!」

メラルが気合を入れたところにベルとフレアの無邪気なツッコミが入る。ベルとフレアは手足をワキワキさせながら喜んでるし、悪気はないんだよな。

メル、メラル、色々とあるだろうけど、頑張って楽園を楽しんでほしい。俺もできるだけ協力するからね。