軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百三十八話 コア

100層を突破して101層におりると、そこにあったのは激しく点滅して自己主張する迷宮のコアだった。とりあえず、コミュニケーションをとってみることにしよう。

「えーっと、迷宮のコア? 俺は君を持ち出さないと決めたから、安心してくれ。色々と聞きたいことはあるけど、質問してもいいかな? いいなら点滅を1回、駄目なら点滅を2回、答えられない質問は3回で頼む」

激しい点滅が収まり、少し間を開けてコアがチカっと1回点滅した。十分にコミュニケーションが取れる知能はあるようだ。

少し面倒だけど楽園が聖域になる前には、ジーナ達がフクちゃん達と同じようにコミュニケーションを取っていたんだ。俺にもできないと偉そうに師匠面できないよな。

***

沢山質問した。やっぱり返事が3種類しかないと、コミュニケーションは難しいな。ジーナ達の苦労を少しは理解していると思ってたけど、実際に自分でやると想像以上に大変だ。

コアとしても意思疎通ができるのが面白いのか、途中からは楽しそうに答えてくれた気がする。なんとなく点滅が軽やかだった気がするし、そうだったらちょっと嬉しい。俺がモールス信号を理解していれば、コアに教えて会話も可能だったと思うと少し残念だ。

でも、モールス信号を覚えている人ってどんな人なんだろうな。俺の身近にはモールス信号を使いこなせる人はいなかった。まあ、覚えていないものはしょうがない。分かったことをまとめてみるか。

・迷宮はだれが作ったの?

知らない。気がついたら存在していた感じらしい。

・他の迷宮のコアも意識があるの?

知らない。この迷宮のコアは50層を作ったあたりから意識がハッキリしてきたらしい。迷宮の成長と共にコアも成長するのかもしれない。

・なんで迷宮は財宝や素地で人をおびき寄せるの?

分からないらしい。本能的にそうするものなんだそうだ。

・精霊の声は聞こえる? 姿が見える?

聞こえなくて見えないが薄っすらと存在は感じることができるらしい。少しだけ精霊術師の才能があるんだろうか?

・なんで100層で終わりなの?

俺が原因らしい。誰も来ないから100層で十分とのんびりしていたら、空気を読まない俺登場!

普通の冒険者なら捨てて帰る素材や、持ち帰らないものまで丸ごと収納。捨てられた素材を吸収してリサイクルしていたコアは困ったようだ。

それプラス繰り返される乱獲と大量の貴重な資源の奪取。普通ならそんなに倒されないはずの強力な魔物までお手軽にお持ち帰りされて、その補充に四苦八苦していたらしい。久しぶりに本気で謝った。

これからは無茶な魔物の乱獲をしないことと、必要な素材以外は取らないことを約束した。ただ、帰りに重力石の島と飛び石だけは、いくつかもらっていくって伝えた。なんか引かれた気がするけど、表面上は納得してくれた。ごめんねコア。でも、重力石はどうしても欲しいんだ。

・俺がここまで来たから新しい層を作るの?

コア、まばゆいばかりの2回点滅。なんで激しく否定するのかを質問を重ねて聞き出すと、どんな層を作れば俺が止められるか分からないからだそうだ。次の層を作っても乱獲されて終わりって言いたいらしい。

・迷宮を移動できる転移陣的なものは作れないのか?

エネルギーがあれば作れないこともないようだが、コア的には気が進まないらしい。まあ、今までも十分に採算が取れていたなら、冒険者に便宜を図る理由もないか。

あれ? まとめてみたらたいしたことが聞き出せてない。結構な時間を費やしたのに……なんか少し泣きそうだ。

「ゆーた、ごはん?」

俺が地味にショックを受けていると、ベルがふよふよと飛んできてクリンと首を傾げて聞いてきた。への字になった眉毛と、ちっちゃな両手をお腹に当てたペコペコだよアピールが可愛らしくて悶絶しそうになる。精霊はお腹が空かないよねっとか、そういう理屈が吹っ飛ぶ可愛さだ。どこで覚えてきた?

「そうだった。101層を少し見たらご飯の約束だった。ごめんね、すぐに用意するよ。あっ、コア、ここでご飯を食べるけど、構わないか?」

チカっと1回の点滅。問題ないようだ。待ちかねているベル達の前に、急いで沢山の料理を並べて夕食にする。いただきますをすると、出された料理に嬉しそうに飛びつくベル達。待たせてごめんね。

俺も料理を摘みながら、シルフィとコアについて話す。シルフィとしても迷宮との意思の疎通は面白いようで、次はどんな質問をしようかとワクワクしている。……通訳は俺なんだけどね。今夜はここで1泊……眠れるかな?

「ゆーた」

串焼きを片手にベルがふよふよと飛んでくる。お行儀が悪いと叱るべきなのか?

「ゆーた、こあ、くしやきたべる?」

「へっ?」

えーっと……ベルは迷宮のコアが串焼きを食べるのかを俺に聞いてるのか? 意思疎通はできるがコアって食べ物を食べるのか?

「シルフィ、どうなの?」

「私が知るわけないでしょ。目の前にいるんだからコアに直接聞きなさいよ」

……おっしゃる通りですな。シルフィが頼りになるから、分からないことはシルフィに聞く癖がついてしまったようだ。

「コア、コアは食べ物を食べられるの?」

少し時間が空いて、チカっと1回点滅した。

「……食べられるんだ」

「……食べられるのね」

俺とシルフィの声が重なる。俺も驚いたがシルフィも驚いているようだ。それはそうだよね。チカチカ光る丸い宝石のようなコアが、飲食できるんだもの。漫才師並みのツッコミを炸裂させなかっただけ上出来だろう。

「今までに食事をしたことある?」

2回点滅。ないようだ。

「食事をしてみたい?」

1回点滅。食事をしてみたいらしい。そして俺の隣では、ワクワクしながら串焼きを持つベルの姿が。……精霊だし、危険はないよな。

「ベル。コアが食事をしてみたいんだって。食べさせてあげてくれる?」

「わかったー」

ベルが嬉しそうにコアの前まで飛んでいき、ためらいもなくコアに串焼きを押し付ける。今更だけど、迷宮のコアの口ってどこなんだろう? ハラハラしながら見ていると、スッと串焼きがコアに吸い込まれていく。

「ふおぉぉ」

ベルがものすごくはしゃいでいるが、串もそのまま吸い込んでるんだけどいいんだろうか?

いいらしい。いくつか質問してみた結果、基本的になんでも吸い込めるそうだ。石や鉱石なんかでもエネルギーに変えて迷宮運営に利用できるそうだ。味が分かるのか聞いたところ、串焼きはとても美味しく感じたそうだ。

今は面白がったベル達がどんどん料理を運んでコアに与えているが、嬉しいのか激しく点滅しながら料理を次々と吸い込んでいる。完全に餌付けされているな。

「迷宮のコアなのに、なんだか微笑ましいわね」

シルフィがポツンと呟いたが、たしかにその通りだな。子供達が一生懸命にペットの面倒をみている雰囲気だ。こうなってしまうと、迷宮のコアを取ってこいとか言われても無理だ。まあ、コアからしたら、ベル達の気配が薄っすらと分かる程度らしいから、勝手に食べ物が飛んでくる感じなんだろうな。

***

「またくるー」「キュキュー」「ともだち」「ククー」「あそんでやるぜ!」「……」

ベル達の言葉をコアに通訳して101層のコア部屋を出る。昨日はシルフィと一緒にコアと色々話して、シルフィの好奇心を満足させた。その結果、かなり重大なような、そうでもないようなことが分かった。

次の層を作る力が足りないのなら、迷宮が吸収できる物を持ってきて吸収させれば力が溜まるんじゃないかってことになり、それが可能だと分かると次はどんな層を作れるのかという話になり、俺が吸収する素材を用意すれば、リクエスト通りの層を作ってくれるって話になった。

これってある意味ダンジョンマスターの能力なんじゃないかな? まあ今のところ作ってほしい層があるわけじゃないし、なにか思いついたらってことでいいだろう。空飛ぶ島まで作れるんだから自由度は高そうだ。ベル達が喜びそうだし、遊園地とか無理なのかな?

それと、100層までくるのが時間がかかって面倒だって言ったら、次に廃棄素材をもってきたら、俺専用の秘密部屋に転移陣を作ってくれることになった。これは便利だよな。

話し合いが終わり、また迷宮に潜る時に時間があれば遊びに来るって言ったら、ピカピカとコアを点滅させて喜んでいた。……喜んでたんだよね? 俺が帰るのを喜んでたんじゃないよね?

コアからしたら首元にナイフを添えられての尋問って見方もできる。俺の機嫌を損ねたら絶体絶命だから、実際には怯えまくっている可能性もある。まあ、朝食を食べていたら、コアの方からピカピカと料理を催促していたから大丈夫だよね。

「じゃあこれからの予定を発表するよ。まずは重力石を確保しながら95層におりて、そこから91層まで宝探し。そのあとは海で神力草の採取と魚介類の確保。それで、時間次第だけど魔力草と万能草の採取だね。迷宮のコアが困るから魔物の乱獲はできるだけ避けるように行動するよ」

絨毯と箒が気になるし、迷宮の中で財宝の鑑定もノモスに頼もうかと思ったけど、今回は数も多いし時間もないから楽園に戻ってからにしよう。

「まものたおさないのか?」

なぜかフレアがショックを受けた表情で俺を見る。魔物と戦えないのが嫌なようだ。

「襲ってきた魔物は倒すから、今までとあまり変わらないよ。ただ、理由もないのにこっちから魔物を探して討伐したりしないのと、魔物がたくさん集まってきたら逃げたりする可能性もある」

「にげるのはいやだぜ!」

うん、言葉のチョイスを間違えたな。

「えーっと、逃げるってのは言葉が悪かったね。沢山魔物を倒し過ぎるとコアが困っちゃうんだ。だから沢山魔物が集まってきたら、コアのために倒さないでおいてあげるって感じだね」

「……こあのためならしょうがないんだぜ! こぶんだからな!」

うんうんと頷くフレア。子分うんぬんは初耳だが、友達ってことだろう。まあ、なんとかフレアの説得に成功した。魔物の乱獲を避けるとレベルが上がり辛くなるだろうけど、今回の迷宮探索でレベルが一気に212まで上がったから乱獲を避けるくらい問題ないはずだ。

沢山の鳥の魔物を全滅させたし、グリーンドラゴンとワイバーンの乱獲に加えて、ポイズンドラゴンにライトドラゴンにダークドラゴン……それはレベルも上がるし、迷宮のコアも困るよな。そのうえ重力石を島ごと持っていくのか。次に来るときは、ちゃんとコアにお土産を持っていこう。

マリーさんから素材で捨てる部分があれば分けてもらおう。魔物の全てを使う訳じゃないもんな。それでも迷宮としては力に還元できるしコアも喜ぶ。考えもまとまったし、さっそく出発するか。