軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百三十六話 恐怖?

イフを呼んで100層のボス部屋に突入すると、ライトドラゴンとダークドラゴンが待ちえていた。50層で属性竜が1匹、100層で属性竜が2匹、この迷宮がまだまだ続くのであれば、いずれは全属性の属性竜が揃うのかもしれない。まあ、それも気になるが、それよりも目の前の状況の方が大切だな。

「ねえシルフィ。イフが殴ってから考えるとか叫んでるんだけど。あと、属性竜が言葉を話してるよ?」

シルフィが風でイフの叫びと属性竜達の会話を聞かせてくれる。よく分からないけど、なんだか変な展開になってるよな?

「イフはどう素材を残すのかを考えて、面倒になったのね。それと属性竜は話す知能があるわよ?」

「……イフの状況は分かったよ。少し素材は心配だけど問題ない。でも、ファイアードラゴンは話さなかったよね」

「ファイアードラゴンは話す間もなく倒したでしょ」

「……なるほど」

そういえばシルフィがサクッと首を落としてたな。戦う前に話す機会があれば気付いていたと思うけど、戦う前に話したら倒し辛くなるから逆によかったんだろうな。

いや、属性竜達の会話で俺を殺すのを競争だとか言ってるし、倒し辛くはならないか。おとなしく討伐されてほしい。

「あっ、まだ属性竜達が会話してるのにイフが仕掛けた。あれってありなの?」

属性竜達が私が勝つとか、いや、俺が勝つとか言い合ってる間にイフが急接近してライトドラゴンの横っ面をぶん殴った。

「いいに決まってるじゃない。戦いは始まってるのにのんびり会話しているのが悪いのよ。だいたいあの属性竜達、経験がほぼゼロだからかイフのことを舐めてるわね。ウロコが軽く焦げた程度だから自分達が負けるはずないって思ってるんでしょうけど、不愉快だわ」

シルフィがなに温いことを言ってるのよって顔で俺を見る。……なんとなく日曜朝の特撮物を見ている雰囲気で見学していたから、セリフ中の攻撃に驚いたけど今は普通の戦闘中だったな。

そしてシルフィは油断しまくっている属性竜達の態度が不快なようだ。まあ相手からしても大精霊が相手とは分かってないみたいだし、しょうがないよね。

「はっ、小僧共、調教の時間だぜ! 掛かってきな!」

ライトドラゴンをぶん殴ったイフが、見栄を切るように言葉を放つ。いや、属性竜達にはイフの言葉は聞こえてないからね。

「こぞうどもー」「キュキュー」「つよい」「ククー」「ちょうきょうだぜ!」「……」

……属性竜達には聞こえてなくてもベル達には聞こえてるか。たしかにイフの行動や攻撃はヒーローっぽくてカッコいいけど、セリフが教育に悪い。特に、目をキラキラさせて「ちょうきょうだぜ!」って叫んでいる幼女は、いずれ必ず調教だぜってセリフを変なタイミングでぶち込んでくるだろうな。心の準備だけはしておこう。

「ふん、こうるさいハエだな。まあいい、無抵抗の獲物を潰してもつまらない。せいぜい自分の主を守ってみせるがよい」

イフにぶん殴られたライトドラゴンが、イフを小バカにしたような発言をする。

「そうだな、俺としてもすぐに決着がつくのも面白くない。せいぜいあがけよ精霊。あんまり温いと俺の力で人間を操るぞ?」

ダークドラゴンも余裕たっぷりだ。そういえばダークドラゴンって精神関連の力も持ってたな。ジーナに渡したダークドラゴンの装備にも、そんな効果がついていたはずだ。

「シルフィ、俺が操られる可能性は? 精神に関係する魔法も風壁で防げる?」

操られる可能性があるのなら、楽しんでいるイフには悪いけど、サクッと討伐してほしい。

「大丈夫よ。魔力が裕太に届かなければ操られることはないわ。そしてダークドラゴン程度の魔力では私の風壁を越えるのは無理ね」

自信たっぷりにシルフィが言う。確実に大丈夫なようだ。「操るぞ?」っとかカッコつけて言ってるのに、実際には通用しない。

……それが分かったら完全に黒歴史だな。俺だったらもだえ苦しんで転がりまわるけど、ダークドラゴンって厨二っぽいし、精神関連の力も持ってるから大丈夫かな?

なんにしろ余裕たっぷりな属性竜達。イフは素材のために力を抑えてるんだけど、そのせいで相手にならないって思っているらしい。たぶんその伸びた鼻はポッキリと叩きおられるんだろうな。一瞬で討伐されたファイアードラゴンの方が幸せだったのかもしれない。

「さて、そろそろ始めるぞ!」

「おう!」

属性竜達が羽をはばたかせて飛びあがり、こちらに向かって襲いかかってきた。競争と言うだけあって、ライトドラゴンとダークドラゴンが互いに押しのけ合うように向かってくる。

「あめえんだよ!」

イフがライトドラゴンの横っ面に蹴りを入れると、ダークドラゴンを巻き込むように地面に落ちる。

「バ、バカな!」

うろたえるような声を出すライトドラゴン。イフが火の温度を上げたのか、頬のウロコの一枚を貫き、黒い穴があいている。焼け焦げたのか血が出ていないのはグロくなくて助かる。

「うっしゃぁ、これくらいの火なら肉が焦げるのも一部分だし十分だな。さあ、小僧共、こっちの調整は済んだ。気合を入れて掛かってきな!」

「……ねえシルフィ。独り言を言ってるみたいになってるんだけど、イフの言葉を通訳した方がいいのかな?」

届かない挑発ってむなしいよね。

「イフも伝えようと思って話しているんじゃないから必要ないわ。ああやって自分の気分を盛り上げてるのよ」

そういうことなら、俺が通訳で口を挟んだら気分が盛り下がるか。

「チッ、舐めるなよ!」

おお、言葉と同時にダークドラゴンが黒いブレスをイフに放った。全体に広がるんじゃなくて、収束しているのか黒いビームみたいでカッコイイ。

その黒いビームに対して、イフが右手を向けて同じような火のビームで迎え撃つ。そのまま黒いビームが当たってもダメージにはならないはずなんだけど、イフはとことんまで楽しむつもりらしい。

黒いビームと赤いビームが拮抗するように押し合い爆発した。派手な戦闘に俺もベル達も大興奮だ。イフが意識しているのかは分からないが、見せる戦いってやつを分かってるな。

自慢の黒ビームが相殺されて呆然としているダークドラゴン。こういう自分が思っていない結果に呆然としてしまうところが戦闘経験のなさなんだろうな。観戦する者の気楽さから解説者のようなことを考える余裕がある。

「ボーっとしてんじゃねえよ!」

イフがダークドラゴンの頭に拳骨を落とす。いや、拳骨って言い方は生ぬるいな。ウロコどころか頭蓋骨を突き抜いてない? 普通死ぬよ? ついでに一緒に呆然としていたライトドラゴンにも拳骨を落とすイフ。痛みにのたうち回るダークドラゴンとライトドラゴン。

ここまでくると弱い者いじめみたいだな。んー、これってどうなんだ? 相手は敵で迷宮のボスなんだから、倒すのは問題ない。ただ、猫がネズミをなぶるような感じになってるので残酷に思えるのかもしれない。

っていうか、あいつら、俺を狙わないと勝ち目がないことを忘れてるんじゃなかろうか。自分でも精霊に攻撃が通用しないって言ってたじゃん。契約者の俺を倒すのが唯一の勝機だって分かってたよね。攻撃されたからってイフに気を取られてたら駄目でしょ。

俺が攻撃されるのは嬉しくないが、属性竜が自滅しそうな状況もそれはそれで悲しい物がある。せめて敗れるにしても無意味な敗れかたじゃなくて、意味がある敗北を刻んでほしい。

俺では到底勝てない属性竜なんだからカッコよくお願いします! シルフィが絶対に守ってくれると信じているから、無責任に属性竜達を応援する。

「クッ、闇の、合わせろ!」

「お、おう」

ライトドラゴンがダークドラゴンに呼びかけ、白いビームと黒いビームがイフに襲いかかる。

「あめえよ」

2本のビームにイフも両手から赤いビームを2本出して、白と黒のビームに対抗する。

「バカめ!」

おうっ、ダークドラゴンがブレスを止めて、こっちに飛び掛かってくる。なるほど、ライトドラゴンのブレスに合わせたのはフェイントだったのか。

爬虫類の顔なのに、確実に喜んでいるのが分かる顔で俺に巨大な右手を振り下ろすダークドラゴン。そのまま振り下ろした右手はシルフィの風壁に跳ね返された。

「イフ、久しぶりの戦闘が楽しいのは理解しているけど、油断して敵に出し抜かれるのはどうなのかしら? 力を制限してある程度対等な戦いがしたいというのならそれでも構わないけど、最低限の礼儀として真剣に戦いなさい」

シルフィの冷静な声が天空の闘技場に響き渡る。特に声を張り上げた訳じゃないのに、有無を言わせぬ迫力がある。

「ゆーた……」

ベル達が俺の背中にしがみついている。うん、今のシルフィ、超絶に怖いよね。精神的に俺もベル達を撫でくり回して落ち着きたいが、今はそんな雰囲気ではないので気配を消して無になる。右手が風壁に弾かれて驚いているダークドラゴンも気にはなるが、今は関われない。ごめんね。

「あ、ああ、悪かった。ちゃんと戦うよ」

イフもシルフィの迫力にビビっている。いつもの自信に満ちた肉食獣の迫力が消えて、背後に小動物が見える。俺的には相手も油断しまくりだったから、イフが遊ぶのも問題ないと思うんだけど、思うだけでなにも言えない。イフ、頑張って。

***

「じゃあ、俺は戻る」

戦闘が終わると、イフは俺に送還を要請して、そそくさと楽園に帰っていった。

「まったく、ちゃんとやればできるのに、戦いを楽しみ過ぎるのがイフの欠点ね。裕太、次からイフが油断したら問答無用で送還しちゃいなさい」

「イ、イエッサー」

反射的に敬礼をしてしまう。その冷静な迫力を俺に向けないでほしい。でも、シルフィの言いたいことも少し分かった。

シルフィのお説教のあとのイフの戦いは、本気でカッコよかったもん。油断も隙も無い2匹の属性竜の攻撃やフェイントを徹底的に叩き潰したパーフェクトな戦いだった。

まあその分、ライトドラゴンとダークドラゴンの顔は絶望に染まって、最後には心を折られて「これは夢だ」とか呟いてたけど……あれ? シルフィのお説教って、ライトドラゴンとダークドラゴンに礼儀を尽くすってことだけど、結果的に絶望に叩き落してるよね? そこんとこどうなんだろう?

「どうかしたの?」

俺の疑問が顔に出ていたのか、シルフィが聞いてくる。

「い、いや、ほら、あれだ、あっ、いつの間にか初回クリアボーナスの財宝が出現してるよ。今回も出現するシーンを見逃しちゃったね」

「あら、そうね」

……クリアボーナス、次は確実に出現するシーンを見ようと思ってたから残念だったけど、話を逸らすことができたからある意味助かった。シルフィがお説教をしたのはイフに対してなんだし、もう普段の優しいシルフィに戻ってるんだ。ビビってないでテンションを上げていこう。