軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百二十二話 相変わらずなマリーさん

迷宮都市に到着した翌日、マリーさんの雑貨屋を訪ねるとソニアさんに先手を取られてしまった。なんとなくペースを握られているようで不安だが、俺は負けない。

「マリーさん、お久しぶりです。突然すみません」

応接室に通されるとすでにマリーさんが待機していた。俺の行動が完璧に読まれてたんだろうな。

「いえいえ、裕太さんでしたらいつでも大歓迎です。もう少し頻繁に顔を出して頂けたら嬉しいくらいですから」

ニコニコと笑顔でマリーさんが言うが、頻繁にの部分にやけに力がこもってたな。たぶん、迷宮に潜って素材を頻繁に卸せって意味だな。

「あはは、ありがとうございます」

「あっ、アダマンタイトの報酬が用意できてます。すぐにお渡ししますか?」

そういえばアダマンタイトの報酬を受け取ってなかったな。お金に余裕があると、こんなにもおおらかになるのか。お給料日を待ちかねていたあの頃が少し懐かしい。

「いえ、色付きの石を前回と同量持ってきてますから、買い取ってもらえるのなら、あとでまとめてでお願いします」

精霊貨って名前にしたけど、よく考えたら楽園以外では微妙に使い辛い名前だな。精霊って名前に含めたのは失敗だったかも。

「ああ、あの石ですね。転売は完全に防げていませんが、商業ギルドから情報が出回ってますから迷宮都市では問題なく捌けています。細工にも使いやすいと評判で、もっと数を増やして頂けたら助かります」

へー、結構人気なんだ。綺麗な石だしたしかに細工物には利用できそうだな。卸す数が増やせるのもいい情報だ。

「今回は前回と同量ですが、次からはもっと沢山持ってきますのでよろしくお願いします」

そう言って魔法の鞄から精霊貨を取りだし、マリーさんの前に置く。

「確認してまいります」

マリーさんの背後で話を聞いていたソニアさんが、精霊貨を受け取り部屋を出て行った。品質の確認なんだろうけど、俺の目の前でしないのか? ……信頼されているというよりも、少しぐらい変な物が混ざっていても、なにも言わずに買い取られそうで怖いな。

「裕太さん、銅貨と大銅貨を用意しているんですが、代金の一部は銅貨と大銅貨でお支払いしましょうか?」

俺が店を始めて硬貨が足りないって覚えててくれたんだな。こういう前に話した小さなことを覚えていてくれて、なにも言わずに協力してくれると普通に嬉しい。やっぱり欲に溺れていない時のマリーさんは凄腕の商人なんだな。欲に溺れているマリーさんは、よく分からない迫力をもったアグレッシブな商人だけど……。

「ありがとうございます。銅貨と大銅貨を混ぜてもらえたら助かります」

「分かりました。それで裕太さん、今回も迷宮に潜られるんですか?」

首を傾げながら聞いてくるマリーさん。表面上は美人なマリーさんが首を傾げて、可愛らしく質問しているように見える。なのに、当然潜るんだよな? それでいっぱい素材を卸すよな? 潜れよ、絶対だぞ!って言われている気分になるのはなんでだろう? スキルか?

でもどうしよう、次で迷宮の100層にたどり着きそうだから、どうなるか興味はあるんだけど、メラルをずいぶん待たせてるんだよな。潜るのと潜らないのでは10日くらい滞在期間が違うし……まあ、メラルが待ちきれない感じだったら、100層到達は次回に回して、薬草だけ取ってきたことにして時間短縮するか。

「ええ、一応潜るつもりです。今回は短期間になる可能性もありますが、最低でも各種薬草は卸しますので安心してください」

「くふっ……あら、ありがとうございます。裕太さんに卸して頂ける薬草は、薬師ギルド等でも引っ張りだこですので、大変助かります」

一瞬で取り繕ったけど、あのイヤらしい笑いは間違いなく薬草で得られる利益を想像してのものだよな。こういう残念臭が漂うところが残念だ。

「……いえ、マリーさんにはお世話になってますので、気にしないでください。それで、まだいくつか知りたい事があるんですが、お時間は大丈夫ですか?」

「ええ、もちろん大丈夫ですよ。ですが、スリーサイズは、ひ・み・つ、です!」

たしかマリーさんの必殺技だったな。久しぶりに見たが、相変わらずどこか古い印象を受ける。前の時に不発だったのを忘れてたのか?

「……………………」

「……あっ、どうしてもお知りになりたいのであれば、別荘に部屋を用意いたします」

俺、結構冷たい目線を送っていたはずなのに、なんでそういう方向に話が進むんだろう?

「いえ、大丈夫です。それで聞きたい事なんですが、迷宮都市の情報がほしいのと、枝豆っていう食べ物を試してほしいんです」

「大丈夫って……いえ、分かってますからその冷たい視線はやめてください。えーっと、迷宮都市の情報と枝豆の試食ですね。裕太さんが持ってこられる食べ物ですから大変興味があります。では先に迷宮都市の情報をお教えしますね」

――――――――――――俺が離れている間の迷宮都市の情報は、特に大きな動きはなかったそうだ。ただ、商業ギルドと料理ギルドが冒険者ギルドに依頼して、迷宮都市のほど近くに大きな牧場をつくることになり、経済が活性化しているらしい。

たしかに新しく外に牧場をつくるなら、魔物除けの為にも冒険者ギルドの協力は必要だろうな。それにしてもかなり大掛かりに牧場をつくるようだ。そこまでやると人数も必要になるし、いずれ村くらいになりそうだ。しかも、同時進行で王都の近くにも牧場を作っているそうだ。他にも大きな都市の近くにも牧場を作る計画が持ち上がっているらしい。

あれだな、商業ギルドと冒険者ギルドで、牛乳を独占するつもりだな。これで牛乳を使った料理やお菓子が広まれば、かなりの利益になるんじゃないのか? 大きな組織はやる事が派手だ。

迷宮都市を美食都市にするって話はどうなったのか確認すると、すでに高級住宅地に高級菓子店が開店している上に、魔術師を使い王族に料理とお菓子を献上、迷宮都市に居る貴族達にもお菓子を献上し、新しいお菓子が迷宮都市にある事を宣伝したそうだ。仕事が速い。

その結果、本気でレシピを国に取り上げられそうになったそうだ。そこで商業ギルドと料理ギルド、冒険者ギルドが牧場を作るなど、多大な資金を投入していることを訴えて、なんとかレシピの独占を阻止。代わりにレシピの献上と王城にも牛乳の流通を命じられたらしい。

そうなったから、王都の周辺にも牧場をって話の流れになったんだな。迷宮都市でのレシピの独占は叶わなかったが、牛乳の流通を取り仕切ることで満足した形になったようだ。それと、レシピに関しても、迷宮都市が発祥とお墨付きを王様からもらったらしい。

「でもマリーさん、ずいぶん詳しいんですね。そんなに情報が広まってるんですか?」

「ふふ、ポルリウス商会も一枚かんでますから詳しいんです。裕太さんが絡んでいるのに私共が出遅れる訳にはいきませんからね。たっぷり先行投資しました」

おおう、特に相談した訳じゃないのに、がっつり食い込んでるんだな。ポルリウス商会の情報網ってかなりすごいっぽい。

「迷宮の素材でかなり潤ってるのに、新しい流通にまで絡むと周囲から妬まれませんか?」

「ふふ、裕太さんからの素材を独占しているだけで、すでに殺したいほど妬まれているので大丈夫です。父いわく、こうなったらとことん突き進み、クリソプレーズ王国の商業を牛耳るほどに成り上がるんだそうですよ」

マリーさんは艶やかに笑っているが、それは大丈夫って言わないよ。これってアレか? 出る杭は打たれるけど、打たれないほど杭を伸ばそう的な話か?

俺が知っているだけで、迷宮素材に雑貨屋、牧畜ってことになる。屋台とか出してたし料理の分野にも食い込んでそうだよな。このまま多角経営が進めば本気で商業を牛耳りそうなところが怖い。

「えーっと……頑張ってください?」

「はい、頑張ります。それで、最近急成長のポルリウス商会ですから、私にも沢山縁談がきて困ってるんですよねー。私は政略結婚とか嫌なので、どこかに頑張る私を見て、お嫁にしたいって人が居てくれたらいいんですけど」

……なんでチラっと俺を見る。だいたい政略結婚が嫌ってウソだろ。途中から店のために露骨に俺を口説こうとしてるし、商売のために自分の兄も差し出そうとしてたよね。

「……ははは、いずれ素敵な出会いがありますよ。マリーさんなら大丈夫です」

「……すでに素敵な方と出会っていて、燃え上がるような恋が始まることもありますよね?」

だからチラっと俺を見ないでほしい。それは燃え上がるような恋じゃなくて、燃え上がるような富に対する欲望です。マリーさんは美人だけど、手を出したら馬車馬のごとく働くことになりそうだから嫌だ。

「それでですね、枝豆のことなんですが、これを食べてみてください」

話を変えるために枝豆を取りだし、マリーさんの目の前に置く。そんなに露骨に不満そうな顔をしても食いつかないよ。

「あら……これは大豆ですよね? 主に家畜の飼料や貧困層の食料に使われているんですが、これは乾燥前のものですね。食べるんですか?」

マリーさん、お嬢様なのによく収穫前のサヤに入っている状態の大豆のことを知ってたな。

「貧困層の食べ物なのに、よく知ってましたね」

「牧場の経営に手を出したんです。飼料を作っている農家とも契約しましたから、調べはばっちりですよ」

マリーさんって女性としては怖いけど、商人としては優秀だよな。

「大豆自体も料理をすれば結構おいしいんですが、俺が一番好きなのは黄色くなる寸前に収穫したものを茹でたものなんです。こうやって食べてください」

見本を見せるように、枝豆を目の前で食べる。少し躊躇したあとマリーさんも枝豆に手を伸ばし、俺がやったように枝豆を口に含む。あっ、ちょっと不思議そうな顔をして、次の枝豆に手を伸ばした。

「……不思議です。驚くほど美味しいってわけじゃないんですが、延々と食べ続けられそうな……なんと言えばいいんでしょう?」

そういいながらも、次の枝豆に手を伸ばすマリーさん。ふふ、完全にハマったな。

「これって商売になったりしますか?」

「ええ、父にも相談が必要ですが、この味であれば新たな流通を演出できます。ふふ、すでに飼料を作る農家とは契約済みです。作付けを増やさせましょう。契約する農家を増やしてもいいかもしれません。売れ残っても飼料に利用できるんです。損はありません。商業ギルドも契約はしていますが、今なら出し抜けます。ああ、もちろん教えて頂いた裕太さんには情報料をお支払いします。私共に任せてくださいますよね?」

ニタリと笑うマリーさん。あれ? 商業ギルドを出し抜くとか言ってるよ? 大丈夫なのか?

「マリーさんにお任せします」

……まあいいや、俺は枝豆が出回って、気軽にトルクさんの宿屋で食べられれば十分だ。ついでに小金になるのなら好きにやってください。なんかやる気に満ち溢れてるし、さっさとアダマンタイトと精霊貨の代金をもらってお暇しよう。