軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百九十一話 ガッリ親子3

「父上、難しい顔をされて、どうしたのですか? せっかく新しい国にたどり着き、祖国にまた一歩近づいたのですぞ」

「うむ、この国はクリソプレーズ王国と友好関係にあるのだ。顔を知った貴族もいる」

「なんと! ではこの辛かった旅も終わるのですな!」

ダブリンはまだ未熟であるな。友好国。これこそが悩みの種である事に気づいておらぬ。

「ダブリンよ、友好国だからこそ問題があるのだ。話を通せば保護を受けられるだろうが、その場合は儂等のみすぼらしい姿を晒す事になる。……栄えあるガッリ侯爵家が両国で笑いものになる……許されぬ事だ」

「……なるほど、それはゆゆしき事態ですな。……しかし父上、いくら恥をかこうとも祖国に帰り着く事、それが一番なのでは?」

「ダブリンよ。状況は刻一刻と変化するものだ。もちろん必ず祖国にたどり着く。その事が一番大切である事に変わりはない。だが、いきなり見知らぬ土地で目覚めた時と、今の状況が同じか?」

「……いえ、祖国まであと国を一つ越えるだけ、路銀も何とかなりますし自力で帰り着く事も可能ですな」

うむ、まだまだ頼りないが、考えさせればちゃんと正解を出す。このまま成長すればガッリ侯爵家の当主として、ふさわしい男に成長するであろう。父は鼻が高いぞ、ダブリンよ。

「そうであろう。状況が変わり余裕ができたのであれば、今後の事も考えねばならぬ」

「では、このまま身分を隠し、王都に帰還しますか?」

「最悪、そうするしかあるまいが、まずは商業ギルドを見張るぞ」

「冒険者ギルドではなく商業ギルドですか? 護衛の依頼であれば冒険者ギルドの方が……なるほど、クリソプレーズ王国の商人を探すのですね」

「うむ、よくぞ正解にたどり着いた。そうだクリソプレーズ王国の商人、それも我が侯爵家と関係が深い商人を探すのだ。そうすれば因果を含めて利用できるであろう。間違っても我がガッリ侯爵家に敵対する貴族と繋がっておる商人に会うわけにはいかん。慎重に行動するのだぞ」

「はっ、お任せください。ん? 父上、この国に店を構えている我が国の商人には声をかけぬのですか? 迷宮素材を卸すために、この国にも我が国の商人がいるはずです。迷宮都市の商人であれば軍に影響力があるガッリ家には逆らわぬはずですが……」

「うむ、ダブリンよ、この国に店を構えるという事は、この国の有力者とも繋ぎを持ちたいものなのだ。この国に店を構え、この国で商売をしている店は信頼できん。分かるな?」

「はっ、理解しました」

「分かればいい。では数日はこの国に滞在し商人を探すぞ。儂は大店の主くらいしか顔を知らん。色々と動き回っておったダブリンが頼りだ。頑張るのだぞ」

「お任せください」

都合よく使える商人が現れてくれればいいのだが……。

***

「父上、あ奴です! たしかあ奴はエヌゲウス商会の番頭です。前に軍の備品購入で口を聞いてやった事があります。あ奴も一緒に献上品を持ってきておりました」

商業ギルドを張り込んで四日、ようやく見た事がある顔を発見した。私が世話をしてやった商人の部下であるし、条件はピッタリだろう。父上に商人を探すように言われてかなり時間がかかった、まさしくギリギリであったな。もう少し早くくればいいものを、罰を与えたいところではあるが、今後の働き次第で許してやろう。

「ふむ……エヌゲウス商会、聞いた事がないがどのような商会なのだ?」

「従者が話を聞いていたので詳しくは分かりません。たしか交易を営んでいたのですが、迷宮都市の勢力に押され軍に伝手を求めてきたかと……献上品も力を入れており、従者によく口を聞いてやるように言いました。私は会っていませんが、そのあとも何度か手土産を持って訪ねてきたようです」

「ほう、交易というのが気になるが、この国にきている商人であればそこは変わるまい。軍に伝手を求めておるのであれば、見返りを求めてよく働くであろう。では、あ奴を連れてまいれ」

「分かりました。お任せください」

商業ギルドの前で荷下ろしを監視している男に話しかける。

「お前、たしかエヌゲウス商会の番頭だったな。話がある、ついてこい」

声をかけ、父上の元に戻ろうと歩き出すが番頭はついてこない。要領の悪い奴だ、

「どうした、なぜついてこんのだ。グズグズするな!」

私が怒鳴ると、番頭は不満そうな顔をする。こやつ、役に立たぬかもしれん。どうしたものか……。

「……失礼ですが、どちら様で? これでも商会で番頭を任されている身です。たとえ高ランクの冒険者様であろうとも無礼を働かれるいわれはございません。その程度の装備しかしていない下級冒険者風情が、失礼ではありませんか!」

こやつ、何で怒っておるのだ? ん? 下級冒険者風情が?

「まてまてまて、お前、もしかして私を忘れたとでもいうのか?」

もし忘れたのであれば、こやつ、店ごと葬ってやるぞ。

「忘れる? 私はこれでも商人ですからね。人の顔を覚えるのは得意中の得意です。その記憶の中にあなたはいませんな。だれと勘違いしているのか分かりませんが、礼儀を学んで出直してきなさい!」

こやつ、本気で分かっておらんな。

「礼儀? 私がお前に礼儀を払わねばならぬと? たかだか一商会の番頭風情にか? お前、我がガッリ子爵家に出入りしている商会の番頭であろう? その当主の顔を見忘れたか?」

「はっ? ガッリ子爵家の当主の顔? むろん存じておりますとも。一方ならぬお世話になったお方、忘れるはずがございません。……なるほど、エヌゲウス商会の人脈を知り、ガッリ子爵様、侯爵様が行方不明な事を利用して私を騙すつもりだったのですね。愚かな。私は直接お会いした事があるのです。騙されるわけがありませんよ。今引き下がるなら手間ですし許してあげます。ですが、これ以上騒ぐのであればひっ捕らえますよ」

……こ奴は私の事を覚えているという……なのに目の前にいる私にどうして冒険者風情などと? 私の名を語る偽物でもでたのか? それとも、ここで私の身分を明かすと何か不味い事でもあるのか?

「一つ聞くが、お前はガッリ家に商会長ときて、女奴隷と金を献上した時に一緒にいた男であろう?」

「ほう、そんな事まで調べているのですか。その熱意は買いますが、もっと他の方向に頭を働かせて頑張りなさい」

私の記憶に間違いはないようだ。ではなぜこやつは偉そうなのだ?

「私がそのガッリ子爵だと言っておるのだ。この顔、見忘れたか!」

「はは、何をバカな。ガッリ子爵様はたいそうふくよかなお体で、あなたのように少し太った程度の体では…………」

むっ、番頭が私の顔をマジマジと見つめている。普段であれば許さぬところではあるが、今回は見逃してやろう。その腐った眼で私の顔を思い出すがいい。

「……もしかしてなのですが、本当に行方不明のガッリ子爵様だったりしますか? お痩せになったりしちゃったりしてます?」

番頭が引きつった笑いで、聞いてくる。

「ん? そういえばたしかに痩せてしまったな。まさかお前、私が痩せたから分からなかったとでもいうつもりか?」

「い、いえ、お痩せになられただけでしたら、このドルネオ、子爵様を見間違えるような事は致しませぬ。ですが、行方不明になられたという先入観と、冒険者のような恰好をされていますので…………申し訳ありませんでした!」

なるほど、このような場所に私がいるはずがないか……たしかにそうであろうな。さて、この男をどうするか……普段であれば土下座をしているこやつの頭を踏み潰すところではあるが……。

「不愉快な態度ではあったが、お前のこれからの頑張り次第では許してやろう。私の想像以上の働きをすれば、見返りも約束してやる。精一杯励め。では、いくぞ。父上をお待たせしておるのだ。グズグズするな!」

「は、はい! ただちに!」

***

「ダブリン、遅かったな」

「申し訳ありません父上。この愚か者が、私が痩せたからと気づかなかったのです」

ふむ……たしかにダブリンは痩せたな。儂はずっと一緒におったから分かるが、いきなり会った者では気づかぬのも無理はないかもしれん。だからといって無礼が許されるわけではないがな。

「ガッリ侯爵様、ガッリ子爵様、誠に申し訳ありません!」

「普通であれば許される事ではないが、今後の働き次第では許してやる。まずは儂が泊まるに相応しい宿と衣服を用意せよ。それと我が屋敷に至急迎えを寄こすように使いを出すのだ。よいな」

「それと女も用意しろ。むろん、最上級のだぞ」

「ハッ、至急、エヌゲウス商会の全力をつくしまして手配いたします。ですが……」

言い辛そうに言葉を詰まらせる男。

「なんだ、まさか褒美を確約せねば儂の為に働けぬとでもいうつもりか?」

もし、儂等の弱みに付け込み過大な要求をするようであれば、屋敷に戻ったら即刻首をはねてくれる。

「い、いえ、滅相もございません。ただ、ガッリ侯爵様のお屋敷に使いを出していいものかと愚考致しまして……」

「なぜ、屋敷に使いを出す事を躊躇う」

「このような事を申し上げるのは無礼になってしまいますが、実はお二方はお亡くなりになったと考えられておりまして、ガッリ侯爵家、ガッリ子爵家、両家で跡目争いが起きております」

「「なんだと!」」

「ですので、いま、お屋敷使いを出しますと、当然お喜びになる方も多いとは思いますが、お二方の跡目を狙っている方々が、どのような行動をとられるか分からないのです。私の考え過ぎでありましたら誠に申し訳ありません」

跡目争いが起きておるだと? ……たしかに栄光あるガッリ侯爵家の当主、野心に火を灯すには十分な価値があるだろう。いまの儂等では闇から闇に葬られては抵抗できん。迂闊に行動できぬな。

「誰が跡目を争っておるのだ?」

「はい、侯爵様の跡目争いでは、侯爵様の弟君であるデール様と子爵様の弟君であるダブトス様が当主の座を得ようとなさっています。現在は侯爵様の弟君が当主代理になっておられるのですが、国王様が両者の相続要求に頷かれておりませんので、跡目争いは継続中です。子爵様の方は子爵様の二番目の弟様のダブシン様と、デール様のご長男であるデーム様の争いが起きております」

「なんだと! 叔父上が侯爵家を手に入れようとしておるのか! 父上、ゆゆしき事態ですぞ!」

「分かっておる。少し考えるから黙っておれ」

デールの奴が動き出したか。儂がおる間はすべては兄上のためにと、よく儂に仕えておったが、擬態であったか、欲に目がくらんだか……どちらにせよ、動き出したのであれば、儂の存在をしれば殺しにくるだろう。儂の復帰を認めれば、自分達の身の破滅だからな。面倒な事になったものだ。だが、儂の地位を受け継ぐのはダブリンだ。デール、己の欲を抑えられなかった事を後悔させてやろう。

しかし、王都に帰り着いても忙しい事になりそうだ。無礼を働いた者共に慈悲を与える前に、身内に手間をかけさせられるとは、不愉快だな。