軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百八十七話 食べる子供達

精霊の村の村開き。遊びにきたちびっ子達は両替を済ませ、食堂に到着した。想像していた以上の騒ぎで少してんやわんやだが、メインのちびっ子達は楽しそうだから、イベントとしては成功しているんだろう。

ジーナ達と協力し、注文が終わり席についてはしゃいでいる浮遊精霊や下級精霊の面倒をみる。注文した時にもらった、引き換え札と厨房を交互に見ながらまだかなまだかなとソワソワしている。偶に鳴き声を上げているのは、教えてもらった自分の番号を復唱しているんだろう。

「フニャ!」

俺の方を向いて、何か言いたげに鳴き声を上げた浮遊精霊の子猫?の側に行く。……子猫にしては足が太いから、たぶんヤマネコとかヒョウとか普通の猫よりも大きくなるタイプの動物だな。でも、今の姿はひたすらに可愛らしい。

「どうしたの?」

「ニャフ!」

自分の持っている引き換え札を俺の方に押し出す子猫。自慢したい感じでもないし、自分の番号が分からなくなったんだろう。

「君が持っている番号は八番だよ。忘れないようにね」

「ニャー」

コクコクと頷き、ニャーニャー言いながら引き換え札を見つめる子猫。忘れないように八番、八番って繰り返しているようだ。

「八番さん上がったんだぞ!」

タイミングよく料理が完成したが、問題の子猫はニャーニャー言いながら一心不乱に札を見つめている。おうふ、プレオープンではあぶりだせなかったパターンだな。

「ほら、八番が呼ばれたよ。あせらなくて大丈夫だからゆっくりと取りに行くんだよ」

子猫に声を掛けると「フニャ!」っと驚き、ワタワタと札を咥えて厨房横の受け取りカウンターに向かう。俺の言葉を理解していたのか、飛ぶスピードはゆっくりだ。

心配なので子猫について行くと、カウンターでエメが料理の運び方を説明している。周囲にディーネやドリーが配膳要員として待機しているが、子猫はビシッとキッチンワゴンを前足で指した。

エメやディーネ、ドリーが苦笑いしているところを見ると、どうやらキッチンワゴンが大人気のようだ。エメがラフバードステーキのトマトソースかけを、キッチンワゴンに載せると、子猫は料理を凝視しながらヨタヨタとワゴンを押していく。

エメ達が心配そうに見ているので、俺が一緒に行く事を伝えて子猫を追いかける。自分が座っていたテーブルに到着すると、子猫はグリグリと料理を頭で押して料理をテーブルに載せ、ワゴンの返却に向かう。

見ていると心配になるが、言葉を理解して意識がある精霊を連れてきているだけあって、ちゃんと説明された事は問題なく熟せるようだ。

無事にワゴンを運び終え、大急ぎで戻ってきた子猫は料理の周りを興味深げに歩き回り、おそるおそるラフバードに噛りつく。食べやすいようにラフバードのステーキが切り分けられているのは、ルビーの心遣いなんだろうな。

子猫は一度驚いたような表情をしたあとに、ガツガツと食べ始めた。横には白飯が添えられてるしスープもあるんだが一切無視してお肉に夢中だ。このままだと白飯とスープだけが残ってしまう。

自由に食べさせるべきかもしれないが、メインを先に食べ終わってモソモソと白飯とスープで食事を終えるのは寂しいだろう。一応アドバイスだけはしておくか。それでもメインを先に全部食べるのが子猫のスタイルなら、もう俺が口出しする事じゃないな。

「えーっとね、メインのお肉だけ食べてると後が寂しいよ。隣にあるご飯やスープも、お肉と一緒に食べたら美味しいから試してみて」

子猫の隣に移動して話しかける。俺の声が聞こえたのか、キョトンとした表情でこちらを見る子猫。口の周りはトマトソースで真っ赤になっている。声に反応しただけで、内容は理解していないようなので、もう一度説明する。

子猫は俺の話を聞いた後に、試してみるとばかりにお肉をかじり、続いて白飯を口に入れる。これでいいの?っと言いたげに俺を見ながら口をモムモムしている。可愛い。

「おいしい?」

「んにゃ!」

頷いたから気に入ってくれたんだと思う。

「まあ、君の好きに食べていいんだけど、スープや白飯を一緒に食べても美味しいから、色々試してみてね」

コクコクと頷き食事に戻る子猫。今度はスープに口を付けたので、色々試してみるようだ。子猫はこれでいいとして、俺は見回りを続けるか。

食堂の中をゆっくりと周囲を見回りながら歩き回る。みんな楽しそうに食べているが、気になるのは赤ん坊だな。スプーンやフォークをグウで握って、一生懸命に食べているが大変そうだ。ある意味動物型の方が口から行ける分、食べやすいのかもしれないな。

ジーナ達も同じ意見なのか赤ん坊の隣に座り、色々と手助けしている。特にキッカはお姉ちゃん気分が味わえるのが嬉しいのか、満面の笑みで赤ん坊にご飯を食べさせている。赤ちゃんがお肉にかぶりついている姿に違和感を覚えるが、そこは精霊だから大丈夫なんだろう。おっ、シルフィだ。

「シルフィ、結構大変だね」

「ええ、思っていた以上に大変よ。ほとんど食事をした事がない子達と、ベル達を一緒にしたらダメだったわね」

シルフィも俺と同じ考えのようだな。これからここに遊びにくる精霊の中で、小さい子達は食事を取った事がない子が多いだろう。俺達が出かけている時は手が回らなくなる可能性がある、対策を考えないと厳しいな。

シルフィと別れて再び食堂を回る。ウインド様とライト様が、一生懸命下級精霊や浮遊精霊の面倒をみている姿が微笑ましいが、たぶんウインド様の望んでいた展開とは違うんだろうな。

「裕太、今度から中級精霊も一定の参加者を含める事にする。それに加えて付き添いの人数を三人程増やしたいが、問題ないだろうか?」

慌ただしく見回りを終え、一息ついたところでアルバードさんが話しかけてきた。俺達が対策を考える前にアルバードさんの方が、対策を提案してくれた。付き添いが増えるのも助かるし、中級精霊は手が掛からないだろうから、ずいぶん楽になりそうだ。

「ええ、そうしてもらえれば助かります」

「助かる」

大変だなって思ってたけど、丸投げで良さそうだ。だが今日はまだ、昼食、おやつ、夕食がある。まだまだ大変な時間が続きそうだ。アルバードさんも付き添いを減らして、できるだけ多く子供達を連れてきたかったんだが、無謀だったと呟いている。

付き添いがアルバードさん一人だったのは、人数制限の影響か。三十人前後でお願いしますって事になったから、できるだけ子供達を詰め込んだんだな。ウインド様とライト様も乱入してきたけど。

「シルフィ、人数制限は遊びにくる子と、付き添いで別に考えようね」

「ええ、その方がよさそうね。アルバード、そういう事だから精霊宮で調整して。それに私達も毎回手伝える訳じゃないから、その辺も考えておいてね」

「分かった。話し合っておこう」

俺も丸投げなんだけど、シルフィも丸投げなんだな。まあ、他で調整してくれるのなら楽だからいいか。アルバードさん頑張って!

***

「ふー、ようやく落ち着いたね」

ぐでーっと食堂のテーブルに顔を付けて呟くと、周囲に座っているシルフィ達からも同意の声が聞こえてくる。

「ふん、儂は酒造りで忙しいんじゃがな」っとノモスの声も聞こえるが、もはやツンデレにしか思えないので放置しておく。

宿屋に案内してからの騒ぎ、雑貨屋に案内してからの騒ぎ、昼食での騒ぎ、おやつでの騒ぎを乗り越え、ようやく落ち着ける時間を手に入れた。

今の子供達は部屋を飾る子や、楽園中を飛び回る子、公園で遊ぶ子、ローズガーデンで遊ぶ子、精霊樹で遊ぶ子、プールで遊ぶ子、各場所にいい具合に分散し、自由に楽園を楽しんでいる。

今大活躍なのはベル達、ジーナ達、フクちゃん達だ。それぞれに遊びにきた子達の相手をしながら自分達もしっかりと楽しんでいる。ジーナが少し大変そうではあるが、それでもまだ若いから大丈夫だろう。

「しかし、おやつの時間は大変だったね」

珍しくヴィータが苦笑いをしながらポツリと言う。疲れを見せるヴィータも珍しいが、それもしょうがないと思えるほどに大変だった。初めてのおやつに大興奮した子達が、食堂の中で弾けるように騒ぎ、一つ食べ終わると他の種類のデザートも食べたいと、注文カウンターに殺到。

注文を待っている間は、自分が食べた事のないデザートを食べている精霊の周りを飛び回り、引き換え札を落とす。もう、あれやこれやで天手古舞だ。

その中で子供達の面倒を見ながら、ジッとデザートを見つめるライト様。可愛い玉兎なのに、妙な哀愁を漂わせた姿に、後でコッソリとデザートを差し入れする事を心に決めた。忘れないようにしないとな。

新しいデザートが完成してたら、もっと楽しんでもらえたんだろうが、そこまで余裕がなかったから、今回はルビーが作ったデザートの味を見てもらうって事で納得してもらおう。

もし、ウインド様がデザートに興味があれば、子供達の隣で一緒にデザートを堪能してただろうに、威厳を気にするライト様は色々と不自由だよな。

「たぶん、落ち着くまで毎回新しい子がくるから、しばらくはあんな感じの騒ぎが起きるんだろうね」

「裕太ちゃん。お姉ちゃんくじけちゃいそうだわー」

「ガキどもの元気には俺でも敵わねえな」

めずらしくディーネとイフが弱気な発言をする。割とポジティブな性格の二人がこの反応、子供達に振り回された事がよっぽど堪えたようだ。元気がいい子供達の相手って体力もなんだけど、精神面でも疲労するからな。

「次からは、アルバードさんが手を打ってくれるから大丈夫だよ。だから問題は今日と明日だね……」

俺の言葉に大精霊全員が顔を見合わせて苦笑いをする。自分で口に出して思ったが、明後日の子供達が帰るまで長い戦いになりそうだ。……そろそろ休憩を終わりにして、もうひと頑張り、見回りでもするか。

「じゃあ俺は楽園を見回ってくるよ。誰か一緒に行く?」

「…………じゃあ一緒に行くわ」

シルフィが葛藤の末に申し出てくれた。他の大精霊達は、ニコニコと微笑んだり、そっぽを向いたまま誰も動かない。もう少し休憩が必要らしい。

「まあ、ディーネ達もあと少し休んだら、もうひと頑張り頼むよ。子供達が宿に戻ったら、お酒も出すからね」

大精霊達の顔が少し明るくなった。この調子なら明後日までなんとか持ちそうだな。シルフィと一緒に見回りに出発する。店にはルビー達が待機しているし、まずはローズガーデンあたりを見て回るか。