軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百六十五話 お説教

シルフィが精霊の村でお店をやってくれる精霊達を連れて来てくれた。なかなか癖が強そうなメンバーだが、やる気は十分のようなので少し安心だ。

っと安心していたはずだったんだが……。

「裕太の兄貴! 朝なんだぞー! おきろーー!」

騒がしく俺を呼ぶ声に目が覚めた。あの声はルビーだよな。……どうやら待ち切れなくなって、朝一番で俺を呼びにきたらしい。上級精霊って相当長い時間を生きてるはずなんだが、なんであんなに子供っぽいんだろうな。

……そういえば前にノモスが言ってた。停滞していた精霊の生活に、俺という異物が混じってシルフィ達もはしゃいでるって。ルビー達も同じ状態なのかもしれない。

しょうがないので寝起きの体を無理やり動かしベッドから出る。ルビー達もさすがに部屋の中までは入ってきていないようで、廊下から声が聞こえる。ん? ルビー達の声に混じって楽しそうなベル達の声も聞こえる。騒ぎを聞きつけて楽しそうだから混じっちゃったんだな。

ドアを開けるとベル達がご挨拶をしながら突撃してくる。もみくちゃにされながらベル達を落ち着かせ、ルビーに向き合う。

「裕太の兄貴、朝なんだぞ! 店にいこう!」

「ルビー、エメ、サフィ、シトリン、朝って言っても俺達が起きる時間はもう少し後なんだ。楽しみにしてくれている気持ちは嬉しいけど、時間を考えてくれないと困る」

「そうよ。昨日私も言ったわよね。これからは人と生活をするんだから注意しなさいって。あなた達、ちゃんと聞いてなかったのかしら?」

突然、ひやっとした空気と共にシルフィが俺の目の前に現れた。声も普段よりも冷たいし、これはお怒りかもしれない。

「ひっ、シ、シルフィの姉貴」

シルフィはルビーの方を向いているから表情は分からないが、ルビーが顔を引き攣らせてるところを見ると、間違いなくお怒りのようだ。

「あそこを見なさい」

シルフィが指をさす方向を見ると、サラ達とジーナが部屋から顔を覗かせている。サラ達もジーナも早起きだけど、普段ならもう少し寝ているはずだ。

「あなた達が騒いだから子供達が起きちゃったわね」

「も、もう朝だし大丈夫かなって……」

あっ、ルビーが燃料を投下しちゃった。ここは謝るの一択だろうに、何を考えてるんだ? エメ達は不味いって顔をしているから、悪手だとは認識しているみたいだな。ん? そういえばオニキスが居ないな。あの子は自称ストッパーのはずなんだから、しっかりとストップしないとダメだろう。

「大丈夫じゃないわね。裕太!」

「は、はい!」

「朝からこの子達が迷惑を掛けてごめんなさいね。ちゃんと叱っておくから今回は許してあげて」

「あ、ああ。少し起きるのが早くなっただけだし、もう気にしてないよ」

だからいつもの優しいシルフィに戻ってください。

「そう、ありがとう。じゃあ、ちょっと行ってくるわ。朝食は要らないから、先に食べててね」

どこに? 疑問に思う間もなく、シルフィの風がルビー達を拘束し、強制的に飛び立っていった。壁をすり抜けたって事は、実体化も強制的に解いたんだろうな。大精霊と上級精霊でも結構な力の差がありそうだ。

それに普段なら人と同じように扉から移動するシルフィが、壁を通り抜けていった事に少しだけ恐怖を感じる。確かに迷惑ではあったが、そこまで怒る事でもなさそうだよな。なにか理由があるんだろうか?

「えーっと、師匠、なにがどうなったんだ?」

ジーナが少し困惑した表情で聞いてくる。そう言われても、俺も状況を理解できてないから、なんとも答え辛い。

「よく分からないけど、みんな起きちゃったみたいだし着替えて朝食にしようか」

着替えてリビングに集まり料理を並べていると、玄関からノックの音がした。……そういえばドアノッカーが使われるのって初めてだな。

「おはようございます」

玄関の扉を開けると、オニキスが礼儀正しく朝のご挨拶をしてきた。興味津々で一緒に付いてきたベル達も元気にご挨拶を返している。

「おはよう、オニキス。えーっと、君の友達達はシルフィに連れていかれちゃったから、ここにはいないよ」

「分かっています。一応止めたんですけど、止めきれませんでしたのでお詫びにきました。朝からルビー達がご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」

深々と頭を下げるオニキス。ルビー達と一緒に来なかったのは、お詫びの為なのかな? この子もよく分からないな。

「もう気にしてないから頭を上げて。えーっと、今から朝食なんだけど、一緒にどう?」

「お誘いはありがたいのですが、先にお食事を頂きますと、ルビー達に恨まれてしまいますから。では、失礼します」

謝るだけ謝って帰って行ってしまった。昨晩と違って色気も引っこんでたし、礼儀正しく謝りにきただけみたいだ。シルフィにルビー達が連れて行かれてたのも知ってたし、謝るタイミングを見計らってここに来たみたいだな。ストッパーとしては緩々だが、フォローはちゃんとするって感じらしい。よく分からないがとりあえず朝食にしよう。

***

「おかえり、遅かったね」

お昼を済ませて少し経った頃、シルフィ達がようやく戻ってきた。ちびっ子軍団+ジーナには広場の建設に行ってもらったから、一人で待つのは少しだけ寂しかったよ。

「ふふ、ごめんなさい。でもしっかり言い聞かせておいたから、もう今回みたいな事はないわ。ねっ、あなた達」

「「「「はい、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!」」」」

声を揃えて綺麗に一礼するルビー達。洗脳とかしてないよね? なんだか俺が抱いていた精霊達のホンワカしたイメージが壊れちゃうんだけど。

「もう、気にしてないから大丈夫だよ。頭を上げてくれ」

俺の言葉にホッとしたように頭を上げる、ルビー、エメ、サフィ、シトリン。とりあえずこのままだと可哀想だから、願い通りにお店に行って食材や調味料を見せるか。

(シルフィ、少し厳し過ぎたんじゃないか? 別に何時間もお説教する事じゃないよな)

店に向かいながらシルフィに小声で聞いてみる。

(普通ならそうなんだけどね。彼女達は精霊としてのルールを破ったから、少しきつめに叱ったの)

(ルール?)

(ええ、他の精霊と契約している契約者に、他の精霊が迷惑を掛けてはいけない。頼みがある場合は契約者の精霊に仲立ちを頼む。メラルも最初は裕太に頼みごとをした時はベル達を間に挟んでたでしょ。仲良くなったり、一緒に契約精霊がいたら話は別なんだけど……)

そういえば最初はベル達がメラルを連れてきたんだったな。

(ずいぶん昔に精霊との親和性が高い人が生まれたの。その時に迷惑を掛けちゃってできたルールだから、ほとんど使用される機会がないルールなんだけど、破っていい訳でもないのよね。彼女達もルールの事は知ってたんだけど、お店の事で浮かれてたから引き締めを兼ねてのお説教をしたの)

(そういう事だったんだ……)

俺以外にも精霊の声が聞こえたり、姿が見えたって人が何人か居たってシルフィが言ってたもんな。その時に作られたルールなんだろう。

「裕太の兄貴! まずは食堂からなんだぞ! 調味料と食材を早く見せてほしいぞ!」

ルビーが浮れたように俺に話しかけてくる。……さっきまで怒られてシュンとしていたのに、立ち直りが早過ぎるぞ。チラッとシルフィを見るが、ちょっと困った顔をしている。まあ、エメとサフィとシトリンがルビーを抑え込んだからセーフかな?

食堂に行くとオニキスが出迎えてくれた。ルビー達がシルフィに怒られたと報告しているが、オニキスからも後でお説教だって言葉が、ルビー達に告げられている。エメ達はともかく、ルビーはもう一回お説教を受けておいた方が、間違いないかもしれないな。

「とりあえず、後でノモスが内装に手を入れてくれるはずだから、リクエスト通りにまずは調味料と食材を見せようか」

魔法の鞄からテーブルを取り出し、その上に沢山の調味料と、食材を並べる。トルクさんに作ってもらったケチャップを始め、塩、胡椒、唐辛子、酢等の一般的な物を出し、続いてマリーさんのところで開発された、様々な調味料を粉にして混ぜ合わせた物を並べる。

「辛いのもあるけど、とりあえず味見していいよ」

調味料が出てくる度に食い入るように覗き込んでいるルビーと、興味深そうに観察しているエメ達に告げる。みんな食べる事が好きらしいけど、その中でもルビーは自分で料理人だって言うだけあって、興味の度合いが強いみたいだ。

「これがケチャップか! トマトの味と酸味、ニンニクや香辛料が混じり合ってる。これは色んな料理に使えそうだぞ!」

「ねえ、ルビー。こっちの色んなハーブの粉が混じったのも凄いわよ。これをお肉に掛けて焼くだけで、お店の味に大変身するんだって」

感嘆の声を上げるルビーに、エメが説明書を読みながら、マリーさんの開発した調味料を教える。うん、あの調味料は秀逸だよね。お肉に掛けて焼くだけでかなりの味に仕上がる。一時期迷宮都市の多数の屋台で使用され、屋台の差別化に問題が出たらしい。

それから一般にもマリーさんの調味料が広まり、屋台としても独自の味わいを出す為に苦労しているようだ。でも、そのおかげで迷宮都市の主婦層にも、マリーさんの店の様々な組み合わせの調味料を自分なりにアレンジするようになり、一般レベルから料理の質が上がったそうだ。時にはマリーさんの店に自分好みの調味料の調合が依頼される事もあるって聞いたな。

「あっ、シトリン……」

「うえっ……」

遅かったか。

「シトリン、横に説明書が置いてあるから、読んでから味をみた方がいい。それはニンニクを粉にしただけの物だから、単独で食べるのは辛いと思うよ」

ちょっと涙目で頷くシトリン。俺もニンニクパウダーが大好きだけど、それでもそのままでは美味しいとは思わない。あれは料理にちょっとかけ過ぎかな? って罪悪感が出るくらいに掛けるのが美味しいんだ。

だいたい調味料の確認は終わったみたいだし、今度は食材を並べるか。海の幸に迷宮都市で仕入れた各種野菜。迷宮で確保したラフバード、オーク、ジャイアントディアー、マグマフィッシュ、アサルトドラゴン、ワイバーン、エンペラーバード。

まあ、ファイアードラゴンは少し様子をみよう。これはあまりにも美味しいから、できるだけ自分で消費したい。

「ルビー、基本的にラフバードとオーク肉と海の幸でメニューを考えなさい。他の食材は裕太が好意で出してくれた物よ。ちゃんとしたお肉の供給体制が整うまでは、特別メニューって事にしておきなさい」

そう言った後にシルフィが俺をメッって顔でにらむ。あんまりにもルビー達が喜ぶからドンドン出しちゃったけど、基本的にラフバードとオーク肉で食堂を回すって言われてたな。あとで俺もシルフィに謝っておこう。

「シルフィの姉貴、分かったんだぞ。ちょっと残念だけど、それでもこれだけの食材を調味料で好きに料理ができるんだ。すごい食堂にしてみせるんだぞ!」

ルビーがシルフィの言葉を受けてやる気を漲らせている。とりあえず、ガッカリしなかったんだからよかったと考えよう。精霊の村で一番の食堂を目指して頑張ってほしい。一軒しかないけど。