軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百五十四話 戻ってきた

時間が空いたのでドリーにコーヒーの実を成長させてもらい、いつでもコーヒーが飲めるように行動する事にした。大精霊の三人はお茶会で収穫に不参加だが、ベル達、ジーナ達、フクちゃん達は楽しそうに収穫に参加してくれて、大量のコーヒーの実が手元に集まった。

ここまでは予定通りだな。でもこれから一番の難関が待ち構えている。種子の加工……なんとなく想像はつくんだが、実際にやってみるとなると大変なんだろうな。

焙煎をする事は知っているが、どのぐらい焙煎すれば自分好みのコーヒーになるとか、インスタントが専門の俺には分からない。深煎りとかコクとかキレとか、なんか色々あり過ぎて不安が大きくなる。……ん? キレってビールだったかも。コーヒーにキレとかあるんだろうか?

今、焙煎の事を考えても仕方がないか。まずは何をするかだな。とりあえず焙煎できるまでに持って行かないとダメって事だ。コーヒーの実を一粒手に取り、じっくり観察する。

外側の皮、果肉、なんかぬるぬるした部分、そして種が二つ入っている。とりあえず、この種がコーヒー豆になるんだっけ? それとも梅干しで言う内側の天神様の部分がコーヒー豆になるんだっけ?

……とりあえず外側の部分は要らないんだよな。食べられる部分も少ないし、まずはそこを分離するか。一気に全部加工するのも失敗したらもったいないし、一樽だけ挑戦してみよう。一樽でも多過ぎるか? うん一樽の半分ぐらいにしておこう。

果肉を分離させる方法は、水で洗い流せばいいだろう。ディーネに頼んで……ディーネは今いないんだったな。レインに頼むか、もしくはドリーなら種だけ操って取り出してくれるかも。

……レインに頼むか。ドリーに頼んだ場合を想像したら、果肉が自ら割れて中からぬるりと種だけ出てくる感じだった。ちょっとだけキモイ。

「レイン、ちょっと来て」

収穫物を詰め込んだ樽の周りで、つまみ食いをしながら飛び回っていたレインに声を掛ける。

「キューー」

なにーって感じで飛んで来るレイン。デフォルトで上に乗っているベルも一緒に来るのは、実体化していても変わらないらしい。

「この樽の半分ぐらいの実を水で洗って、中の種だけ取り出して欲しいんだけど、できる?」

「キュー?」

レインが何か疑問なのか、首を傾げるような仕草をする。できないのかな?

「あまいところはーっていってるー」

果肉の部分か。確かにもったいないんだが、一つ一つ選り分けるのも大変なんだよな。確かに甘みもあって美味しいけど、食べる部分は少ないしそれ以上に美味しい果物が普通にある。これがこの世界でコーヒーの実が、メジャーじゃない一つの原因なんだろうな。

「今回は種だけ使うんだ。甘いところは後で皮とまとめて肥料にするね」

なんとなく捨てるって言い辛かったから、肥料にする事にしよう。周囲は死の大地、肥料はどれだけあっても問題ないはずだ。

「キューー」

納得したのかレインが目の前に水の玉を作りだした。

「おてつだいー」

ベルがそう言うと風が樽を包み込んで持ち上がり、樽を傾けてコーヒーの実が水の玉に流し込まれる。なるほどコンビプレーだな。

流し込まれたコーヒーの実が水の玉の中でグルグルと回転しだす。野菜とか良く洗ってもらってたけど、種だけ取り出すのは上手く行くかな?

しばらく眺めていると水の玉の中で、だんだんと中身が二つに分かれていく。下には種が集まり、上には果肉と皮が集まっている。あっさりとやってるけど、凄く器用な事だよな。

「キュキューーー」

「終わったんだね。ありがとうレイン。種はこのテーブルの上に置いてくれ。果肉と皮はこの空き樽に入れておいてね」

「キューー」

さて、この種をどうするかって事なんだが、焙煎する前は固そうだったし乾燥させるのは間違いない。米の時は、俺には味の違いがよく分からなかったし、最初は手間を掛けないで、水分を抜いてもらえばいいな。

「レイン、それでこの種の水分を抜いてほしいんだけど、できる?」

「キュキュー、キュキュキューー」

「なかはむりー」

「外側の水分は取れるけど、中の水分は無理って事?」

「キュー」「そーー」

そうなのか……そうなると、シルフィに乾かしてもらうか、ディーネの帰りを待つかだな。

「シルフィ、風でこの種の中身を乾かすのって大変?」

「そうねー、完全にって事なら、風の温度を上げれば時間は掛からないわね」

……それって、水分を抜いてないのに豆を焙煎するって事になるよな。それは有りなのか? 手抜きをするにしても段階を飛ばし過ぎてる気がする。まだ、殻ごと使うか天神様部分だけを使うのかも分ってないのに突っ走るのは止めておこう。

「とりあえず熱を加えるのはまだの予定だから、ディーネに水分を抜いてもらう事にするよ。それでディーネ達は何時頃戻ってくるのかな?」

あの調子なら、速攻で戻って来そうだと思ってたんだけど、予想以上に時間が掛かっている気がする。

「うーん、距離的に十分に昨日の段階で戻ってこれるわ。それでも三人とも戻ってこないって事は……お酒を飲んでるんじゃないかしら?」

なんて説得力がある言葉なんだ。お酒を造っている場所で、あの三人がお酒を飲まないはずがない。

「じゃあ戻ってくるのはまだ時間が掛かるかな?」

「少ないお酒をみんなに配るんだもの。醸造所でもそんなに自由にできるお酒はないわ。聖域の醸造所を完全に放棄する訳じゃないんだし、道具や建物の保存と片付けにちょっとした酒盛りってところでしょう。今日の夜までには帰ってくるわよ」

「それなら良いか。じゃあコーヒーの種の加工は一時的にストップするね。とりあえず自由時間って事でのんびりしようか」

「のんびりー。ゆーた、あそぶー」「キュー」

のんびりと言ったんだが……まあいいか。ディーネが戻ってくるまで遊び倒そう。

***

日暮れ前、示し合わせたように、ノモス、ディーネ、イフが精霊達を連れて戻ってきた。一つのグループに十人ぐらいか。全部で三十人ほど住人が増えた事になるんだよな。

「裕太、こいつらがここで酒を造る奴らじゃ、よろしく頼むぞ」

いや、そんな大雑把な紹介をされても困るんだが。あとベル達とフクちゃん達が、精霊が沢山きたのが嬉しいのか、興奮している。

「えーっと、裕太です。美味しいお酒を楽しみにしていますね。よろしくお願いします」

俺が軽く頭を下げると、任せておけ的な返しが至る所から帰ってきた。酒造りに自信があるみたいだ。

「よし、挨拶は終わりじゃ。まずは醸造所を建てる場所に案内する。行くぞ!」

展開が早いよ。もう日が暮れるのに、どうするつもりなんだ? いやその前にディーネも一緒に行っちゃうのが問題だな。って言うか、しれっとドリーもヴィータも混ざってるな。どれだけ醸造所に興味があるんだよ。

「ディーネはちょっと頼みがあるから残ってくれ」

「あらー、お姉ちゃんに用事なの?」

コテンと首を傾げて残ってくれるが、少し醸造所の方も気にしている。シルフィは一緒に居てくれるみたいだけど、たぶん醸造所が気になってるんだろうな。とりあえず水分だけ抜いてもらったら、二人とも醸造所に行かせるか。本格的な加工は明日だな。

「ああ、この種の水分を抜いて欲しいんだ。頼む」

魔法の鞄からテーブルと種を取り出し、ディーネに頼む。

「水分を抜くのね、完全にカラカラにするの?」

……焙煎するんだから水分も飛ばすんだろう。でも煎る時に水分がまったく無かったらそれはそれで、砕けて割れたり、簡単に焦げたりしてしまいそうだな。

「水分は少しだけ残しておいてくれ」

「わかったわー」

ディーネが右手を種に向けると、木材を乾燥させた時と同じように、種から蒸気のようなモヤが出てくる。

「…………はい、これで水分は抜けたわよー」

「ありがとう。助かったよ。こっちはもう大丈夫だから、シルフィと一緒に醸造所の様子を見てきてくれ。無茶をしそうだったら止めてくれよ」

「ふふ、どういたしまして。じゃあ、ちょっと行ってくるわねー」

「裕太、私も行っていいの?」

「ああ、特に用事は無いから大丈夫だ。あっ、新しく来た精霊達の食事とかどうするの? 俺が用意した方がいいんだよね?」

「裕太、精霊には食事の必要はないのよ。だいたい毎回あの人数の食事を、契約者でもない裕太に用意してもらってたら、精霊達の方が気を使っちゃうわ。基本的にお酒が造れれば満足なんだから放っておいていいわ。もし気になるのなら、お酒ができた時に宴会するだろうから、その時にでも差し入れをしてあげて」

うーん、確かに契約者じゃない俺が、食事の準備までするのはおかしいかも。

「分かった。なら、お酒が完成したら宴会用の料理を沢山差し入れするよ」

「ええ、喜ぶと思うわ。それじゃあ行ってくるわね」

「うん、行ってらっしゃい」

シルフィとディーネが醸造所に向かうのを見送る。

「ゆーた、べるたちもみにいっていい?」

ん? んー、いきなりお酒を作ったりはしないと思うが、どうなんだろう? 作業の邪魔になったりしないか?

「……見に行くのは構わないけど、邪魔にならないようにするんだよ。できる?」

「できるー」「キュー」「だいじょうぶ」「ククー」「とうぜんだぜ!」「……」

少し不安だけど、まあ大丈夫か。邪魔になったりしたら、シルフィ達が対応してくれるだろう。俺も少し見に行きたい気もするが、見たら見たで胃にダメージを受けそうだから止めておこう。許可を出すと楽しそうに飛び去って行くベル達。ちょっとだけ不安だ。

「師匠、あの人達ってお酒を造りにきたんだよな」

ジーナが興味深げに聞いてくる。

「ああ、まあ人じゃなくて精霊なんだけどね」

そう言えばここに来たのはほとんどが人型の精霊だったな。何かを作る作業をするには人型が向いているのかもしれない。四本足形体だと、作業がし辛そうだもんな。

「そっかー。精霊が作るお酒か。師匠、完成したらあたしも飲ませてもらえるかな?」

「大丈夫だと思うよ。完成したらこっちにも差し入れしてくれるはずだから、もらったら飲ませるね」

「ありがとう師匠! 精霊が造るお酒か、楽しみだな!」

ジーナもお酒を普通に飲む。ただ、大精霊達の宴会には参加させないけどな。あのウワバミ揃いの大精霊の中に放りこんで、影響されたらご両親に申し訳が立たない。

「まあ、お酒ができるのは先の話になるだろうし、楽しみに待ってるといいよ」

「そうだな!」

ニカッっと満面の笑みで笑うジーナ。かなりの美女なのに、少年のような笑顔が少しもったいないな。精霊達も実体化したから、ドリーかシルフィ辺りを見習ってほしいところなんだが、俺が目撃する時はよくイフと話してるんだよな……。

「じゃあ、俺はちょっとこの種を調べるから、ジーナ達は夕食まで自由にしているといい。フクちゃん達が醸造所の様子を見に行きたがったら、迷惑を掛けないって言い聞かせたら許可を出してもいいからね」

「師匠、あたし達は見に行ったらダメなのか?」

「何が起こるか分からないからね。飛べない俺達は遠慮しておいた方が良いと思う」

「了解。じゃああたし達は家の中に居るね」

「ああ」

ジーナ達も家に入ったので、俺は乾燥してもらったコーヒーの種を確認する。まずはこの薄皮みたいな殻が問題だな。手でも意外と簡単に殻は外れるし、このまま焙煎したら殻の欠片が混ざりこみそうだな。脱穀して天神様の部分だけを使うのが正解かもしれない。

しかし、コーヒーの種の中身って、緑色だったんだな。焙煎された姿が印象的だから、結構ビックリだ。