軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百三十九話 帰還

迷宮都市で風、水、土、火、闇、光の属性の杖をすべて揃えて、メルにアダマンタイトを渡して泉の家に戻ってきた。この場所が聖域に指定されるまでもう少しだな。

「みんな、ただいま」

「裕太ちゃん、おかえりー。お姉ちゃん寂しかったわー」

泉の家に戻ると皆が出迎えてくれたが、声を掛けるとディーネが飛びついてきた。なんかディーネのテンションがおかしいな。

「イフちゃんが来ても、お姉ちゃんを忘れるのはダメなのよ!」

俺の胸倉を掴みグイグイと揺らす。

「いや、ディーネの事は忘れてないよ。どうしたんだ?」

「じゃあ、なんで召喚しなかったのー? ドリーちゃんもノモスちゃんも何回も呼ばれたわ。イフちゃんも迷宮探索に呼ばれたじゃない。それなのにお姉ちゃんは牛乳を冷やすだけだったわー」

「い、いや、ヴィータも呼んでないだろ。ディーネとヴィータには動物達のお世話や、水の管理をお願いしているから遠慮しただけなんだよ」

「ドリーちゃんも植物の管理してるわー」

疑惑の視線で俺を見るディーネ。まだ納得してないようだ。今回は結構気にしているのかもしれない。

「ドリーも大事な役目だけど、死の大地だと長い期間水を撒かないと植物が危険だよね。だからだよ」

真剣な目でディーネを説得する。もうさっさとお酒でご機嫌を取りたい気分だが、こういう時に安易な方法に逃げると信頼を失うから、ちゃんと説得しないとダメだ。

「むーー」

ものすごく悩んでらっしゃる。信用するかしないかまだ迷っているらしい。

「俺はディーネがちゃんと管理してくれるから、安心して迷宮都市に行けるんだ。とっても感謝してる」

「むー……分かったわ。お姉ちゃん、裕太ちゃんの事を信じるわ。でも、女の子をほったらかしにするのはダメなのよー! 偶には呼ぶ事!」

女の子って……まあ、あれだ、今はツッコんだらダメだって事は分かる。

「分かったよ。長く離れる時はちゃんと呼ぶようにする」

「良くできましたー。お帰りなさい裕太ちゃん」

「……ただいまディーネ」

帰って来て速攻でなんか疲れた。まあ、ディーネの機嫌が直ったのならいいか。

「えーっと、ヴィータも偶には呼んだ方がいいのか?」

「うーん、僕は用事がある時とお酒を飲む時に呼んでくれたらいいよ」

苦笑いしながらヴィータが答えてくれた。大人な回答を貰えてとても助かります。ディーネと絡んでいる間に、俺以外は全員帰還の挨拶を終えたらしく、こちらを見ている。

「えーっと、そろそろ夕食の時間だから家に入ろうか。新メニューもあるからみんなで食べよう」

「うむ、宴会じゃな」

「たらふく飲むぜ」

「お姉ちゃん、たのしみにしてたのー」

俺は宴会なんて一言も言って無いんだが、ノモスとイフとディーネが浮れた感じで家の設置場所に向かう。この前ノモスが戻る時に宴会だって言ってたけど、すでに確定事項として通達されていたらしい。

とりあえず、宴会の流れには逆らえない感じだが、一言だけ言っておこう。

「宴会は構わないけど、夕食が終わってからだからね」

「えー、すぐに飲もうぜ」

「ダメ!」

イフがすぐに飲ませろと言ってくるが、俺は毅然として断る。めざせ、NOと言える日本人。

「なんでだよ」

「教育に悪いとか色々と理由はあるんだけど、俺がいない時の様子も聞かせて欲しいからね。みんなお酒を出したら盛り上がって、あんまり話に集中してくれないし……」

ちょっと不満そうだが、なんとか即座に宴会の流れは阻止した。代わりに夕食の時にエールを一樽出す事を約束させられてしまった……もう少し交渉ごとに強くなりたいものだ。家を設置して中に入り、さっそく食事の準備をする。

とりあえず新メニューを全種類は確定で……いや、エンペラーバードの干し肉は止めておこう。あれを食べたら、酒飲み達がもっと酒を出せと騒ぎ出すのは間違いない。干し肉は宴会の時にだな。他にも色々と仕入れてきたしメニューは十分豊かだろう。

「へー、白と言うよりも黄色なのね。お姉ちゃん、初めて見たわ。美味しいの?」

「おいしー」「キュキュー」

ディーネの言葉にベルとレインが一生懸命説明している。

「まあ好みはあるけど、不味い料理では無いと思うよ。じゃあ食べようか」

「裕太、その前にエールが出ておらんぞ」

「ああ、そうだった。今出すよ」

ノモスの前にエールの樽を出して、改めて食事を開始する。

「へー、初めて食べる味だけど、なんだか濃厚で美味しいわ。お姉ちゃん大好きよ」

固唾を呑んで見守っていたベルとレインに、美味しいと告げるディーネ。

「確かに美味いが、エールにはあんまり合わねえな。ワインにしておけば良かったか?」

イフが首を捻っている。クリームシチューにお酒を合わせるって、あんまり聞いた事が無いな。俺には何が合うのかなんて分かんないけど、文句を言われても今回はエールだけだ。

ヴィータは特にクリーム系の料理が口に合ったようで、ニコニコと頬張っているが、ノモスはちょっとしかめっつらをしている。

「ノモスは口に合わなかったか?」

「む? 不味くは無いのじゃが、儂はもっとガツンとした味がいいな」

なるほど、牛乳が入るとマイルドって言うか優しい味になる気はする。

「他にも何か料理を出そうか?」

「いや、不味い事は無いからこれで十分じゃ。儂の本番は宴会じゃからな」

「はは、まあいいツマミを手に入れたから、楽しみにしててくれ」

「なんじゃと、どんなツマミなんじゃ?」

「それは宴会の時にね。今出したらノモスはツマミとエールだけで、他を食べなくなりそうだからな」

「裕太よ。お主は忘れておるかもしれんが、儂等は精霊じゃから、別に食事をせんでも問題無いんじゃぞ」

「知ってるよ。酒を飲まなくても問題無い事もな」

完璧な返しができた。いま、俺は完全にドヤ顔をしている。

「バカを言うな。酒が無かったら儂は暴れるぞ」

とても真剣な顔で言われた。大精霊が暴れるとかどんな脅しだよ。俺のドヤ顔が一瞬で引きつったのが分かる。小粋な返しをしたはずなのにビビらされてしまった。

「暴れたらお酒も無くなるな」

「むぅ……」

勝った! なんか負けたらお酒を出す回数が増えそうな気がしたから、踏ん張って良かった。まあ、毎日お酒を出してもいいぐらいの恩は受けてるんだけど、毎日お酒を出すとなんか危険な気がするんだよな。アル中とは言わないけど、延々と飲み続けている気がする。

「ヴィータ、動物達の様子はどうだった?」

満足したのでヴィータに、俺がいない間の動物達の様子を聞いてみる。

「そうだね、警戒心は残ってるけど、毎日定期的に食べ物が運ばれてくるから、飢える事も無く落ち着いているよ」

「俺が近づいても大丈夫かな?」

「大丈夫じゃ無いね。野生は野生だから、人が近づくと逃げるか襲って来るよ。動物達に受け入れられるのは簡単じゃ無いからね」

ですよねー。地道に警戒心を解いていくしか無いだろうな。

「グァバードの卵はどうなってるの?」

「四羽が無事に生まれたよ。次に生まれそうなのはまだちょっと先かな」

やっぱり生まれてたか。すり込みは次の機会を狙うとして、明日にはヒナの様子を見に行こう。グァバードは元々警戒心が薄いみたいだし、近くで見られたらいいな。グアグア言って追い払われる可能性もあるが、飼いならされた鳥の野生の薄さに期待しよう。

「ディーネ、ドリー、池や植物はどんな感じ? 問題は起きてないか?」

「池は問題無いわよー。水生植物もちゃんと根付いているし、ヴィータちゃんのおかげで生き物も問題無く定着してるわー」

「植物も順調ですね。トマトがもうすぐ収穫できますよ。あとコーヒーも実らせる事が可能になりました」

おお、牛乳も砂糖もあるし、コーヒーの実を上手に加工できればコーヒーが飲み放題だ。トマトは正直忘れてた。でも楽しみだな、もぎたてのトマトに塩を振ってかぶりつこう。

「みんなありがとう。ろくに面倒も見ていないのに、順調なのはみんなのおかげだよ」

お礼を言って頭を下げる。全体的に順調だし、聖域の件や公園にも手を入れないといけない。色々とやる事が重なってるし明日から頑張らないとな。

「ゆーたー。べるあいすたべるー」

「キュー」

「れいんはぷりんー」

「あいすがたべたい」

「ぷりんだぜ!」

「……」

「むーんもぷりんだぜ」

考え込んでいるとベル達がデザートが食べたいと言ってきた。後ろにはシバ達も並んでいる。……今朝も食べさせたんだよな。

太らないし病気にもならないから、体的にもいくら食べさせても問題は無いんだが、欲しいと言われて簡単に与えていると、我慢ができない子になってしまうかもしれない。ガッリみたいになったら最悪だよな。

「んー、今日は特別だよ。明日からおやつは一日一回だからね」

なんでーっと言うベル達に何でもだよっと言って、リクエスト通りにアイスとプリンを渡す。トルクさんが大量に作ってくれているけど、これだけの人数で食べると十日ももたない気がするぞ。

「裕太ちゃん、それはなにー?」

「デザートだよ。皆も食べるか?」

ジーナ達と、ノモス以外の大精霊達は頷いたので、それぞれ食べてみたい方を聞いて渡す。二つ渡すとベル達が羨ましがるから一種類だけだ。

大精霊達がプリンやアイスを食べる瞬間を固唾を呑んで見守る。シルフィでさえアイスとプリンを食べた時は、表情が崩れたからな。どんな表情になるか楽しみだ。

「ぷるぷるしてるわー」っと言いながらディーネがスプーンでプリンを掬い、ゆっくりと口に運ぶ。

「んーーー」

ディーネがスプーンを持ったまま右手で頬を抑え、プルプルと震えている。何だかとても色っぽい。

「これは素晴らしい食べ物です」

あっ、ディーネに目が釘付けになって、ドリーが食べる瞬間を見逃してしまった。

「冷たくて最初はねっとりとした感触、なのにサラっと口の中で溶けて濃厚な甘さが……」

どうやらドリーは違う世界に行ってしまったようだ。ニッコリと微笑みながら、アイスの良い所を話している。日本酒を飲んだ時も同じような状態になってたな。ドリーは気に入った物が出ると、語りたくなるタイプのようだ。

「美味かったぜ!」

イフに至っては食べる姿すら見逃してしまった。他のメンバーはまだ半分も食べてないのに、食べるのが早すぎるよ。イフが普通の女の子みたいに、キャピキャピと喜ぶ姿を見て見たかったんだけど、この速さで食べ終わったって事は豪快に食べたんだろうな。ちょっと残念だ。

ヴィータは美味しそうにプリンを食べていた。うん、喜んでくれるのは嬉しいが、男の精霊だと何と言うか見ていても楽しくは無いな。

みんなデザートまで食べ終わったし、子供達は先に寝かせて宴会に突入するか。