軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二十二話 竹トンボ

プールから出て、干しておいた干物を回収する。なんかチョット優雅な雰囲気を味わったら、気持ちが楽になったな。

夕食は干物を試してみて、プレミアムなビールを一本飲んじゃおうかな? あっコーヒーも飲む予定だったんだ。ワクワクしてきた。

…………いかん。完全に気持ちがおおらかになっている。暑い死の大地。プールを作ったのは間違ってないが、だからと言って気を緩めるのは間違っている。

未だに魚介類生活だし、魔力もまだCランクにすら上がっていない。テンションを上げてビールを一本とか言ってる場合じゃないんだ。状況をしっかりと把握しろ。

このペースでいくと魔力がBに上がるのはいつ頃なんだろう。ふぅ。少しでもレベルを上げていざとなったらゾンビやスケルトンの巣に突っ込むか。ゾンビやスケルトンの強いバージョンがいるって言ってたからレベルも上がるだろう。

コンロに木材を投入して火をつける。上にフライパン代わりのシャベルをのせて、十分。三十分。一時間。に分けて海水に浸けておいた干物を焼く。

干物が上手く行けば、わずかな違いだが食卓のバリエーションが増える。流木が集まれば燻製なんかにも手を出せるかもしれない。小さなことからコツコツと生活を良くしていこう。

ベルとレインも干物を食べると言っていたが、取り合えず試食が終わるまでは待ってもらった。

焼いた干物を皿に載せ一つ一つじっくりと味わってみる。十分浸けた物に箸をつける。……微かに塩味を感じる気がする。塩がまったく利いてないな。腐ってなくて良かった。

三十分浸けた物……先程に比べるとまだまだ味は薄いが、身がしまって干物っぽい感覚にはなっている。

一時間浸けた物……減塩されたものより塩が利いていないが、干して旨味が凝縮され、薄味で悪くない。贅沢を言えばもう少し味が濃い方が嬉しい。

今後は海水の塩分濃度を上げる。もしくはつける時間を一時間半ぐらいに伸ばすかだな。次に作る時は浸け時間を延ばす方向で挑戦してみよう。

「うん。ベル。レイン。この一時間浸けた干物は美味しいから食べてごらん」

「やったー」

「キュー」

ベルとレインは美味しい美味しいと食べてくれる。シルフィとディーネは魚は暫くいらないそうだ。食べなくても平気なのが、最近羨ましくなってきた。

夕食を終えて、慢心した自分を戒めるために、予定していたコーヒーを延期する。この悲しみはレベル上げで発散しよう。

「シルフィ。作れる物は大体作ったから、前に言っていた夜のレベル上げの時間を、大幅に延ばす方法を試してみたいんだ」

「私は構わないわよ。どのぐらいまで頑張るの?」

うーん。昼間は畑が出来るまで本当にやる事が無いんだよな。プールでだらけて暑さをしのぐのが関の山だから、レベル上げに全力投入しよう。

「夕飯を食べたらレベル上げに行って、夜が明けるまでかな。起きるのはお昼過ぎになって、生活のリズムが変わるけど皆は大丈夫かな」

「私達は精霊だから問題無いけど、裕太は大丈夫なの? 体調を壊したら大変よ?」

「無理そうだったら元に戻すけど、起きている時間をズラすだけで、睡眠時間は変わらないから、何とかなるとは思うよ」

「分かったわ。でも無理はしないようにね」

「うん。生き残るためにレベルを上げるのに、そのレベル上げで死ぬのは意味が無いからね。最大限注意をするよ」

***

それからは朝に寝て昼過ぎに起きる生活が始まった。ベルとレインをそんな不規則な生活に付き合わせる事に戸惑いを覚えたが、シルフィとディーネから精霊にそんな心配はいらないと言われてからは割り切った。

でも真夜中に幼女精霊とイルカの精霊を働かせるって、傍目から見たら虐待事案な気がするよね。

夕食後から夜明けまでレベル上げをして、帰ってきて休む。昼過ぎに起きたら、畑の様子を見てプールに浸かって涼を取るか、思いついたものを作成する。

そんな中で大騒ぎになったのは竹トンボだ。食事の支度の時に破損した竹を見つけて、昼間に何となく作って飛ばしたら、精霊全員の注目を集めた。あの時は結構な騒ぎになったな。

「ちょっと裕太。いま何をしたの? 魔力は使ってなかったわよね?」

「ん? 今の? 今のは俺の故郷に古くからある玩具だよ。作ってみたら上手く行ったんだ。面白いだろ」

「玩具なの?」

何でそんなに驚いているんだ? でも美人は驚いた顔をしても美人なのは、ある意味ズルいよね。

「ゆーた。もういっかい。もういっかいやって」

「キュイキュー」

竹トンボを飛ばす時に、ベルとレインを呼んで見せたんだけど、大興奮だった。落ちた竹トンボを拾って飛ばそうとしていたが、無理だったみたいだな。

「おう。こうやって「裕太ちょっとみせて」な」

手から竹トンボが奪い去られた。自分が空を飛べるのに、なんで竹トンボにそんなに驚くんだろう? シルフィは竹トンボを様々な角度から観察して首を捻っている。

「なんでこんな物が空を飛ぶのかしら? ディーネ。間違い無くこれが飛んでたわよね」

「ええ。間違い無いわね。不思議よね。これって板に棒をはめ込んだだけみたいだし、板の削ってある部分に秘密があるのかしら?」

シルフィはともかく、ディーネが真面目な表情で竹トンボを考察している姿には正直ビビった。シルフィとディーネの真剣な議論が続く。

「ゆーた……」

「あー、ベル。ごめんな。なんか物凄く真面目に話しているから、もう少し待ってあげようね」

「はーい」

「キュー」

ベルとレインがとても残念そうにしている。心が痛い。今すぐ竹トンボを奪い返して飛ばしてやりたくなったが、シルフィとディーネのまじめな表情にストップをかける。

暫く議論を続けた後、グリンとこちらを向くシルフィとディーネ。正直洩らしそうになりました。

「ねえ、裕太。これって玩具なのよね? もしかして玩具じゃなくて人が空を飛ぶ乗り物とかあったりしない?」

「裕太ちゃん。大事なことなの。お姉ちゃんに正直に答えて」

「どういう事かよく分かんないけど、その原理を利用した飛行機は昔使われてたかな」

プロペラ飛行機が竹トンボを参考にしたかなんて分かんないけど。原理は似たようなものだよね? ライト兄弟って何処の国の人だっけ? 竹トンボあったのかな? でも何がそんなに問題なんだ?

「そうなの。あったのね。ねえ裕太。この玩具はここ以外では使わないって約束してくれない? 絶対に人には見せないようにしてほしいの」

「別に構わないけど、なんでそんなに深刻そうな表情なんだ?」

「裕太ちゃん。これは確かに玩具かもしれないけど、確かに空を飛んだわ。この玩具から閃きを得て空飛ぶ道具を開発されると、とーーーっても面倒な事になるの」

「見たとしてもそんなに直ぐに飛行機が作れるとは思えないが……」

「裕太。たとえそうだとしても、時間を掛ければ分からないでしょ? わずかな可能性も出したくないの。お願い」

「まあ、シルフィがそこまで言うなら、人には絶対に見せないようにするよ。知識も教えない。でも人が空を飛んだら不味いのか? 魔法でだって空は飛べるだろう?」

「まだよく分かっていないみたいだから説明するけど、風の上級精霊と契約でもしない限り、自由に空を飛ぶ事なんて出来ないの。そのうえ上級精霊と契約を交わす事すら至難なのよ。中級精霊と契約すれば国が頭を下げて迎えに来るわ」

あれ? シルフィ達って上級精霊より上の大精霊だよな。なんか俺Tueeeeが現実味を帯びてきた気がする。

「空を飛ぶことがとても難しいって事は理解したよ」

「分かってくれて嬉しいわ。今でさえ人間は至る所で戦争をしているのに、空が飛べるようになったりしたら迷惑この上ないわ」

……なるほど。空を飛ぶ事につながる事を、玩具と言えど秘密にしたかった理由が分かった。地球でも戦争に飛行機が使われて被害がかなり大きくなったもんな。知識チートもよく考えてやらないと滅茶苦茶怒られそうだ。

「ああ俺の世界でも飛行機は戦争に使われた。言いたい事はよく分かったから安心してくれ。絶対に秘密にする」

「そう。ありがとう」

「裕太ちゃん。お姉ちゃんは信じてたわ」

ディーネは放っておいて、シルフィとの約束は必ず守ろう。袖をクイッと引かれる。下を見るとベルとレインが待ちくたびれて袖を引いていた。

「ここでは遊んで良いんだよな。ベル。レイン。今から飛ばすからよく見てろよ」

「はーい」

「キュー」

竹トンボを飛ばしてやり、飛ばし方も教える。ベルとレインはとても楽しそうに遊んでいた。手がちっちゃいから、飛ばすのは苦手だったけどね。

しかし竹トンボでシリアスっぽい空気になるとは予想外だったな。

予想外な事はあったが昼間はこんな風に過ごして、夜はレベル上げをする。そんな生活を土の大精霊ノモスが来る日まで続けた結果。

名前 森園 裕太

レベル 25

体力 C

魔力 C

力 C

知力 B

器用 A

運 B

ユニークスキル

言語理解

開拓ツール

スキル

生活魔法

ハンマー術

ある程度全体的に上がり、一番大事な魔力はCになった。あともう一ランク上がればシルフィと契約できる。契約出来るんだが、いっこうにレベルが上がらなくなった。

このレベルまで来ると死の大地でうろついている魔物では経験にならないそうだ。いよいよ魔物の巣に突入する事が現実味をおびてきた……というよりほぼ確定だ。本気でブルーだな。

器用がAランクに上がったのは嬉しいが土木工事や小物作成の影響だとは信じたくない。ついでに言うとハンマー術は覚えた時に狂喜したが、覚えた技がスキル無しでも普通に出せて本気で凹んだ。

まあ良い。今は土の大精霊ノモスの出迎えが大事だ。悲しい事は忘れてしまおう。