軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百三十話 牛乳

マリーさんにアダマンタイトを卸して宿に戻って来たら、既にベティさんが宿に来ていた。色白ムッチリの可愛い女の子でちょっとビックリだ。ベティさんが俺に会いに来た目的は、食べた事が無いお菓子を聞く事だった。自分の欲望に素直なタイプらしい。

とりあえず異世界物の王道、プリンがあるか聞いてみるか。プリンも素材の分量が微妙だけど、液体だし分量の調整はしやすいよね?

寒天があればゼリーの方が簡単そうなんだけど、死の大地近くの海で天草ってあったかな? 寒天の作り方はアイドルグループがダッシュな感じで農業とかする番組で見たから、誰かに教えれば作ってくれるかもしれないな。時間が掛かるから後回しだけど、マリーさんに話を振ってみてもいいかもしれない。

あとはクレープか……クレープ生地は意外と簡単に作れるしジャムもある。中に入れる具を考えれば何とかなりそうな気がする。ホイップクリームは、牛乳が手に入れば生クリームも手に入るだろうし問題無い。

それどころか牛乳が手に入れば、クリーム系の料理にも手が出せるようになる。そうなればシルフィが興味を持っていたカルボナーラも作れるな。あとはクリームシチューも食べたい。気温が高いからシチューは辛そうだが、シルフィとディーネに頼んで、部屋を冷やしてでも食べたい。

商業ギルド所属のベティさんなら、俺が頼むよりも確実に手に入れてくれそうだな。食べ物に対する情熱も凄そうだし、頑張ってくれるだろう。

ケーキはさすがに難しいから、こんな食べ物があったよって丸投げだな。誰かが研究してくれれば俺も美味しいケーキにありつけそうだ。

「ベティさん、プリンってデザートを知ってますか?」

プリンって名前かどうかは分からないけど、通じると思えば変換されるから、プリンが存在するのならベティさんにも分かるだろう。

「プリンですか? ……聞いた事がないです。でもデザートなんですよね! どんなデザートなんですか?」

興奮気味に聞いてくるベティさん。食通のベティさんが知らないって事は、最低でもこの辺りではメジャーな食べ物では無いって事だな。

「ちょっと待ってください。とりあえず、俺でも作り方が分かるデザートはあるんですが、材料が手に入るかどうか分からないんです。牛乳を手に入れる事はできますか?」

「牛乳ですか? ここから馬で半日ぐらいのところにチーズを作っている村がありますから、そこに行けば手に入るかもしれません。でも牛乳をお菓子に使うんですか?」

半日か……牛乳の賞味期限ってどのぐらいなんだろう? このくそ暑い中で、半日も馬車に揺られたら腐る可能性もあるよな? もしかしてここら辺で乳製品がチーズしか広まって無いのは、輸送の問題なのかな?

「牛乳は美味しい料理やお菓子を作る為に必要な材料なんです」

「牛乳で美味しい料理やお菓子が作れるんですか! いえ、そうですね。チーズが美味しいんですから、原料の牛乳でも美味しい物ができてもおかしくありませんね。ふふー、新しい出会いの予感がします!」

一人で興奮して、一人で納得してしまった。何だか強引な気もするけど、理屈的には間違ってない……のか?

「ま、まあ、好き嫌いはありますが、俺が居た国では大人気の料理やお菓子が作れますね。その為には牛乳を冷やして、悪くなる前に運んでくる必要があるんですが可能ですか?」

「…………難しいです。物を冷やすには魔術師か魔道具の力が必要なのです。高貴な方の為に食材を運ぶそう言った馬車があるにはあるんですが、私の権限では手配できないんです。儲けが確実であれば上の方達を動かす事も可能なのですが……」

ものすごく悲しそうにベティさんが言う。美味しい料理やお菓子って聞いてテンションが上がったあとに、自分に材料を手配する権限が無くてショックらしい。

馬で半日、シルフィなら一瞬で到着するな。俺が牛乳を手に入れて、上の方達とやらに牛乳の素晴らしさを納得させる事ができれば、ベティさんの上役が迷宮都市に牛乳を広めてくれるかもしれない。レシピを教える条件にこの宿にも牛乳を卸す事を付け加えておくか。

気軽に牛乳が手に入るようになったら、トルクさんにクリーム系統の料理を作りまくって貰おう。また食卓が豊かになるぞ。

「俺なら樽を冷やせますし、飛んで行けばなんとか今日中に戻って来れますからね。今回は俺が牛乳を手に入れて来ます。その村の場所と紹介状か何かを用意して頂けますか?」

紹介状は前回、卵を手に入れた時に、村の人達に警戒されまくったから、絶対に必要だよな。商業ギルドの紹介状があればスムーズに交渉できるだろう。でも何かが頭の中に引っ掛かる。何か大事な事を忘れている気が……あっ、卵だ、そう言えばグァバードの卵が孵化するんだった。

時期的にはもう孵化する時間は過ぎちゃったよな? ヴィータがいるから無事に孵化したとは思うけど、あわよくばグァバードのヒナに、すり込みをしたかった。……さすがにもう間に合わないか、次の機会になんとか孵化に立ち会えるように予定を組もう。

「飛ぶんですか?」

ベティさんが不思議そうに俺を見ている。迷宮内では普通に飛び回ってるんだけど、冒険者以外にはそんなに広まってないのかな?

「ええ、飛べるんです」

「飛べるんですか……えーっと紹介状はどういった理由で?」

よく分かってない感じで話を進めるベティさん。いいのかそれで?

「商人でもない俺が、いきなり牛乳を分けてくれと村に行っても、信用してくれない可能性があります。商業ギルドの紹介状があれば、交渉もスムーズにいくかもしれません」

「そう言う事ですか、それぐらいなら何とかなります。チーズを作っている村の担当が、商業ギルドに居ますから、その人に紹介状を用意してもらいますね。牛乳の量はどのぐらい必要ですか?」

あんまり大量に仕入れたら色々と怪しまれそうだが、トルクさんに料理も作って欲しい。

「大きな樽で一樽ぐらい欲しいです」

「そんなに必要なんですか?」

「ええ、色んな料理に使えますし、俺なら樽を冷やせるので長持ちするんです」

「そうですか。分かりました、紹介状と村までの地図ですね。直ぐに用意します。裕太さん、今から商業ギルドに戻って用意して来ますけど、時間は大丈夫ですか?」

「あ、はい。時間は大丈夫です」

一瞬、牧畜用に家畜も譲ってもらえるように紹介状を書いてもらおうかと思ったが、さすがに牧場まで手が回らないだろう。先にやらないとダメな事を済ませて、余裕ができたら牧場に手を出そう。

「分かりました。では、行ってきます」

ベティさんは立ち上がり、急いで宿を出て……途中で戻って来て昼食代を置いて、改めて急いで宿を出て行った。ベティさんがお金を払った時に俺も気づいたけど、食い逃げ一歩手前だったな。

紹介状が届いたら出かけるとして、遅くなる事をマーサさんに伝えて、ベル達とジーナ達の分の夕食も宿に部屋に置いておこう。

「紹介したあたしが言うのもなんだけど、良かったのかい?」

「何がですか?」

ベティさんからお金を受け取ったマーサさんが、心配そうに尋ねてくる。

「あの子、とても張りきってたよ。影響力がある子だから、騒ぎになるかもしれない」

なるほど。まあ俺は騒ぎになったら泉の家に戻ればいいから問題無い。それに牛乳を使った料理が広まれば、美味しい物が食べられる可能性も上がる。それにお世話になっているこの宿も大繁盛でいい事ずくめだ。繁盛し過ぎてトルクさん達が過労死しないかが、ちょっと心配だな。

「俺の方は問題ありませんが、この料理が人気になればこの宿が、更に忙しくなるかもしれませんね。人を雇う事も考えた方がいいかもしれませんよ?」

……今はある程度落ち着いてるけど、ピークの時は凄かったもんな。その時の事をマーサさんも思い出したのか、額に手を当てて去って行った。俺的には、優しくしてくれたマーサさん達に役に立とうとしての行動なんだが……もしかしたら有難迷惑? ……まあ、もう動き出しちゃったし、デザートも食べたい。次からはもう少し慎重に考えよう。

***

「確かに商業ギルドのクレートさんの紹介状だな。しかし、その樽いっぱいの牛乳か、結構時間が掛かるぞ?」

さすが紹介状。門番に見せただけで、普通に村長さんの所まで話が伝わった。やっぱりコネって大事なんだな。

「夕方までに終わりますか?」

「夕方か、それなら大丈夫だ。しかしチーズではなく牛乳を買いに来たのは初めてだ。なんに使うんだ?」

「ええ、ちょっと料理に使えないかと思いまして」

「料理に使うのか。この村では牛乳を飲む奴も居るが、他の村の奴なんかは結構嫌がるぞ。大丈夫なのか?」

この村では牛乳を飲んでるのか。やっぱり輸送の問題で周辺に牛乳が広まらないっぽいな。

「ええ、俺も故郷では牛乳を飲んでましたから大丈夫です。それで代金は幾らですか」

「うーん、牛乳を外部に売った事がないんだ。値段って言われてもな……」

村長さんが困っている。今まで売って無かった物にいきなり値段を付けろって言われたら、確かに困るよね。

「では五万エルトでどうですか?」

牛乳としては高いけど、なかなか手に入る物でも無いしこれぐらい出してもいいだろう。って言うか一樽分の牛乳の値段とか俺には分からん。もし牛乳に人気が出れば商業ギルドが丁度良い値段を設定するだろう。

「五万エルトか……貰い過ぎな気がするがいいのか?」

「ええ、問題ありません。先に支払っておきますね。牛乳が手に入るまで、村の中や牧場を見て回っても構いませんか?」

銀貨を五枚渡しながら聞く。ちゃんと聞いておかないと、見知らぬ男が牧場をウロウロしてたら、警戒されそうだからな。

「ああ、牧場の者達には知らせておこう。休みたくなったら家に戻ってきていいからな」

「ありがとうございます」

村長さんにお礼を言って、村を見学しつつ牧場に向かう。迷宮都市と違って木造の家が多い事と、暑い地域だけあって窓が大きいのが特徴かな? 村長さんの家が大きめの石造りなのは、なにかがあった時の避難所って事っぽい。

……小さな村だから、特に見どころも無くすぐに牧場に到着してしまった。木の柵に囲われた牧場。グァバードを売ってもらった村でも思ったけど、魔物の襲撃に対してあれで意味があるんだろうか? 見張り台はちゃんとあるから、早めに発見してなんとかするのかな?

牧場を見学しやる事が無くなったので、村長さんの家に戻り、お茶を飲みながらゆっくりさせてもらう。牛乳が手に入ったらディーネに冷やしてもらって、のんびり迷宮都市に戻るか。