軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百四話 噂

ようやく宿に落ち着いてベル達を召喚。そのベル達を迷宮都市に興味津々だったフレアとムーンの案内がてらお散歩に行かせた。

「シルフィ、あの軍人の様子はどう?」

「イライラして部屋の中でウロウロしながら、ハメられた! って騒いでいるわ」

ハメたって言うより、筆頭従者の嫌がらせを兼ねた捨て駒にされただけだと思うよ。ハメるってのとはちょっと違う気がする。

「じゃあ、またこっちに手を出してくるって事は無さそう?」

「ええ、筆頭従者の悪口ばかりだし、文句を言う為に王都に戻るみたいだから、筆頭従者に言いくるめられない限り、戻って来ないんじゃないかしら」

……五分五分で戻って来そうな気がするのは俺だけなんだろうか? まあ、あの筆頭従者も、絶対に許さんぞって顔をしていたのに、この程度の嫌がらせしかできないんだから、主が行方不明で追い詰められてるって事だよな。

「悪いけど、一応迷宮都市を出るまでは、見張っておいてくれる?」

「了解、見張っておくわ」

「うん、頼むね」

色々気疲れしたし夕食までは少しまったりしながら、シルフィやディーネと話すか。

明日、絵師が来たらどうするかとか、ジーナの事をマーサさんにどう説明するかなんて事を話しながら時間を過ごした。

***

「夕食を持って来たよ」

夕食の時間、マーサさんとカルク君が料理をサラ達の部屋に運んでくれる。今日はオークのカツか?

「今日は教えて貰った新メニューだよ。試してみておくれ、特別に二種類盛ってあるからね」

「ありがとうございます。新メニューですか。楽しみですね」

「ああ、あとで旦那に感想を聞かせてやっておくれ。そう言えば、料理を習いたいって言ってたけど、明日から習うかい?」

ああ、そうだったな。

「サラはどうしたい?」

「是非、お願いします」

ものすごくやる気満々だ。

「こう言ってますのでお願いしてもいいですか?」

「あいよ、任せときな」

「ああ、それと、新しく弟子にした子なんですが、その子は迷宮都市の食堂の娘でして、その子もできればトルクさんに料理を習ってみたいと言ってるんですが、お願いできませんか? もちろん、この店のメニューを勝手に食堂で出すような事はさせません」

「ふーん、食堂の娘ってあんたが攫ったって娘だね。花嫁修業かい?」

キラリとマーサさんの目が光る。スイッチが入ってしまったか。でもこれは話を通しておかないといけない事だから、しょうがないよな。言い訳をしようとしていたら、救世主が登場した。

「かあちゃん、忙しいんだから早くもどってきてくれよ! お客さんがまってるぞ!」

料理を運んだあと戻って行ったカルク君が、マーサさんを迎えに来てくれた。とってもいい子だ、あとでお小遣いをあげよう。

「ああ、そうだったね。あんたの紹介なら間違いは無いだろうけど、一度話してからって事でいいかい?」

「はい、戻って来たらご挨拶に伺いますね」

「あいよ、また後でね」

とりあえず現状は凌いだが、ジーナと一緒に挨拶に行ったら、その時に騒ぐだろうからあんまり変わらないか。でも料理が冷める前に話しが終わった事はいい事だ。ボジティブに行こう。ベッドを一つ収納して、テーブルを増やして料理を配置する。

「しんめにゅーー」「キューー」「あたらしいあじ」「クーー」「くうぜ」「……」

ベル達も興味津々だから急ぐか。新メニューを半分にすれば全員食べられるだろう。半分に減った分を魔法の鞄から料理を出して補充する。

「じゃあ、食べていいよ」

一斉にシルフィ、ディーネ、ベル達とサラ達、フクちゃん達も新メニューに手を付ける。みんな新しい物好きだよね。まあ、俺も新メニューから食べるけど。

切り分けられた断面で大体の事は分かるが、片方はチーズラフバードカツ。もう片方はオーク肉のミルフィーユカツだろう。ミルフィーユカツには肉の層の間にペースト状の物が挟まっている。匂いだけで分かるな。ニンニクをスリ下ろした物だ。

トルクさんの揺るがないニンニクへの拘りを感じる。俺はニンニク大好きだから大丈夫だけど、お客さん達は飽きないんだろうか? ニンニクが苦手な人はこの宿屋、食事を選び辛いだろうな。だいぶお客さんを選別している気がする。

まあ、それがトルクさんの拘りなんだろうし、俺が心配してもしょうがない。ベル達やサラ達のおいしいって声が聞こえるし、まずはチーズラフバードカツからいってみるか。

ザクッっとした衣を突き破ると、プリプリのラフバード肉が現れ、続いて濃厚なチーズが口の中に広がる。このチーズ、美味しいな。肉に負けないのを選んだのかクセが強いが風味と味が濃厚だ。あとで、何処で仕入れたのか教えて貰おう。

次は、ミルフィーユカツ。うん……薄切りにされたオークのバラ肉が柔らかく解け、甘みがある油とニンニクが混じり合い口の中に広がる。肉厚なオーク肉を噛み千切るのもいいけど、こっちはこっちで美味しいよね。

「同じ料理で同じお肉なのに、薄切りにしただけで印象がかなり変わるのね」

シルフィが感心したように呟く。作ったのはトルクさんだけど教えたのは俺だから、シルフィのこの反応は嬉しいな。

***

「師匠、ただいま」

「お帰りジーナ……なんかものすごく疲れてるけど、どうしたの、大丈夫?」

帰って来た事を報告に来たジーナ。何かあったのか? 一緒にドリーがいるから、何か起こるって事も無いはずなんだけど。ドリーに目線をやると苦笑いしている。悪い事が起こった訳じゃ無さそうだな。

「うん、なんか実家に帰ったら、あたしが攫われたとか嫁に行ったとか色々と噂が広まってて、お客さんから質問攻めにあったんだ」

「そんなに噂が広まってたんだ。俺もこの宿屋の女将さんにジーナを攫ったって言われたよ。なんでそんな噂が立ったのかな?」

「だから師匠の事を伝えた時、女将さんがニマニマしていたのか。ごめんよ師匠。あたしが居なくなって、家の親父の機嫌が最悪だったのが噂になった原因なんだ。友達には説明してたんだけど、お客さん全員には伝えてなかったから、知らないお客さんが邪推したみたいなんだ」

……ある日突然ジーナが食堂からいなくなって、ピートさんが荒れたから噂が立ったって事か。詳しく聞いてみると、俺がジーナを迎えに行って、荷物を預かったりした事も噂の一端を担っているらしい。

「ピートさんとダニエラさんは否定しなかったの?」

「否定はしているみたいなんだけど、噂が広まるスピードの方が早かったって言ってた」

それで、お客さんもジーナが現れたから質問攻めにしたんだな。

「そうだったんだ。まあ、噂は否定してたらいずれは無くなるよ。ピートさんとダニエラさんは元気だった?」

「ああ、お客さんの質問攻めの後は親父とお袋の質問攻めで、もっと早く戻ってくるつもりだったんだけど、引き止められて遅くなっちゃったよ」

なんか大変だったのは分かる。ピートさんには変な事されなかったかとか聞かれたんだろうな。俺を信用して無さそうだもん。ダニエラさんはよく分からないけど話すのが好きそうだから、沢山の質問があったのは想像できる。

「大変だったね。でも、疲れているところ悪いけど、まだ一仕事あるんだよね」

「仕事?」

「仕事って言うか、この宿屋の女将さん、マーサさんの誤解を解く試練?」

俺の言葉で何をするのか理解したジーナが遠い目をする。帰って来たドリーに遊んでもらっているベル達との対比が凄い。

「実は、ジーナもトルクさんに料理を習いたがってたから、マーサさんにお願いしたんだ。そうしたら一回話してからって事になってね。それでいい?」

「ありがとう師匠!」

とても喜んでるな。いい事だけど料理が習えるって事で忘れてるみたいだから、試練の事も思い出して貰わないと。

「でも、さっきも言った通りマーサさんも誤解してるからね。俺が言っても信用してなかったから、頑張って誤解を解いてね」

急に顔が素に戻るジーナ。良かった、ちゃんと落ち着いて話さないと、マーサさんに飲み込まれる可能性があるからな。

「まあ、宿屋が落ち着くまでしばらく時間が掛かるから、それまでは自分の部屋で休むといいよ」

「……それなら、少し休んでくる」

ジーナが自分の部屋に戻って行った。ちょっとフラついたように見えたけど大丈夫かな? たぶんマーサさんの手強さが初対面でも分かったんだろう。他人事のように心の中で頑張れと応援しながらまったりする。頼りない師匠でごめんね。

まったりしている間に、マリーさんから使いがきた。絵師は明日でも問題無いらしい。ジーナとサラが料理を習うから、昼過ぎと言う事でお願いした。絵を描いてもらう場所も前に泊った館を提供してくれると言う事だ。かなりお世話になっているし素材の納品量を少し増やした方がいいかもしれない。

でも、一日で描き切れるんだろうか? シルフィ、ディーネ、ノモス、ドリー、イフ、ヴィータ、ベル、レイン、トゥル、タマモ、フレア、ムーン、フクちゃん、ウリ、マメちゃん、シバ、プルちゃん……いつの間にか大家族って感じだな。

絵師を二人用意してくれるみたいだけど、ちょっと心配だ。描く前にどのぐらいのペースで描けるのか確認しておこう。あっ、メルとメラルも呼んだ方がいいな。更に人数が増えた。

***

「ジーナって言うんだね。あたしはマーサだよ、よろしくね」

「あ、ええ、えーっと、よろしく……おねがいします」

ジーナがカミカミだ。そう言えばジーナって敬語を使おうとすると、カミカミになるんだった。

「どうしたんだい? 緊張しなくていいんだよ?」

「あー、すみません。実はジーナは敬語が苦手で、敬語を話そうとするとつっかえつっかえになるんです」

別に俺達だけで居る時は何の問題も無いんだが、こういう時に大変だな。やっぱり敬語の練習もするべきかもしれない。

「なんだい、そんな事かい。あたしもこんな感じだし、気にしなくていいから普通に話しな」

うーん、マーサさんが甘やかしてくれた。一瞬、ジーナの敬語教育をマーサさんとトルクさんがやってくれるかもって思ったけど、甘かったらしい。

「あ、ありがとう」

少し気が楽になったのか、少しずつ会話が弾むようになるジーナとマーサさん。料理を中心に会話が行われている。

「さて、じゃあ、ちょっと女同士で話そうか、裕太は部屋に戻っていいよ!」

「えっ? どうしてですか?」

「女同士って事も大切なのさ!」

ジーナは捨てられた子犬のような目で俺を見ているんだが……。

「では、お先に失礼します」

すまんジーナ、頑張ってくれ。大丈夫、シバがしっかり見守っているから。