軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十六話 泉

ゴリゴリとハンドオーガーで岩に穴を開ける。今回のハンドオーガーのサイズは一メートル四十センチ。外側は直径二メートルを基本に円形に加工すると、井戸にぴったりと合う岩のパイプが完成する。とりあえず沢山作らないとな。

昨日は微妙に何かが足らないままならなさを魔物に八つ当たりして晴らし、今朝は焼き魚を食べた。毎日焼き魚って最高。俺、焼き魚って大好きって思えばなんてことない。グルグルグルグルひたすらハンドオーガーを回す。

***

「裕太ちゃん。今日、井戸の整備をするのよね?」

ディーネが井戸から出てきた。相変わらず素晴らしい物をお持ちですな。

「ああ、井戸に設置するパイプを作っているところなんだ。数が揃ったら魔法の鞄で下から設置するよ」

「そうなの。あら。周りに塀を作ったの?」

「夜中にゾンビやスケルトンが入ってこないように、シルフィのアドバイスでつくったんだ」

「ふふ。裕太ちゃんは凄いわね」

褒めながら俺の頭を撫でるディーネ。なんとか素晴らしい物に視線を送らないように耐える。これだけは言いたい。俺が紳士だから耐えるのであって、決してシルフィのジト目が怖い訳では無い。

「道具が高性能だからな。昼間にはパイプを揃えて穴掘りをする予定だよ。それで相談があったんだが、泉になる部分はすり鉢状でなければ駄目か? 丸いと岩が設置し辛いんだ」

「水が十分に溜められればいいから、裕太ちゃんの好きにしてちょうだい。楽しみにしているわね」

「はは、期待に沿えるように頑張るよ」

頑張ると言っても単純に逆ピラミッドに穴を掘って、岩を設置するだけなんだが……素人の俺が凝った物を作っても失敗するだけだ。シンプルイズベストだな。

話が終わり、俺は再びハンドオーガーを回す。ディーネはベルとレインと戯れながらシルフィと話している。

***

よし、パイプを作り終わった。次は穴掘りか。能力上仕方が無いが土木工事が多いな。俺の異世界生活どうなっていくんだろう?

シャベルをサクッと差し込み穴を掘り、土を収納する。いま魔法の鞄にはどのぐらいの土や岩が入っているんだ? 穴を掘りながら鞄の中身を考える。

この道具があれば発掘とか凄い活躍出来るだろうな。町にいったらどんな仕事が良いんだろう。異世界での基本は冒険者ギルドだよな。町に行けるって事はシルフィと契約出来てるんだし、活躍できるかな。

華やかな活躍をして、大金を稼いでウハウハ生活。俺の場合は精霊術師とかかな? ハンマー持って前衛も務める精霊術師か……カッコ良いのか悪いのか、分からないな。

妄想をしながらサクサクと穴を掘り進める。………………穴を掘り終わる頃には最強の冒険者で大金持ちで、ハーレムを作っていた。何気に楽しかった。

「掘り終わったの?」

「あっ、シルフィにディーネ。うん、掘り終わったよ」

「裕太ちゃん。一心不乱に掘り進んでとっても素敵だったわよ」

「そう? なんか途中でニヤニヤしてたわよ?」

ニヤニヤしてた時は、多分ハーレム展開で妄想絶好調だった時だな。顔に出るのか、注意しないと。最近中学生の頃に戻っているようだ。下手したらこの歳で黒歴史の増産を再開してしまう。

「ニヤニヤしてた? 泉が出来上がる時の事を想像したら嬉しくなっていたから、その時かな?」

「確かに泉が出来たら綺麗でしょうね」

「そうねー。私も楽しみだわ」

なんとか誤魔化せたか?

「後は岩を設置するだけだから、そんなに時間は掛からないよ」

一メートルサイズの正六面体をドスドスと並べる。三十メートルを目安にしたから結構大きな泉になるな。

***

「終わったよー」

逆ピラミッド状の穴に岩を敷き詰め終わり、上で見ていた精霊たちを呼び寄せる。

「お疲れ様」

「頑張ったわね裕太ちゃん」

「えらいー」

「キュー」

「あはは、ありがとう。後は井戸の中にパイプを引けば完成だよ。皆も下に来る?」

全員が頷いたので、一緒に井戸の底までおりる。泉が出来たらこの階段を降りる事も無くなるのかな? 一応螺旋階段の部分は残ると思うんだけど。隙間があるとズレるか。螺旋階段を埋めながらパイプを置いて行こう。

「ディーネ。このまま水の上にパイプを置いて良いの?」

「ええ、土砂が浮き上がって来ても私が沈めるから大丈夫よ。そのまま置いちゃって」

「了解」

よし。パイプを設置するか。上手くハマるかちょっとドキドキする。収納から出すと水を跳ね飛ばしながらピタリとハマった。なんか気持ち良いな。

パイプを出した部分に鞄から土を流し込み、踏み固める。ハンマーで叩けば完璧なんだけど、崩落が怖い。偶にパイプが引っ掛かると、その部分を削り、微調整をしながら設置を進める。

***

「これで最後。完成ー」

最後のパイプを設置して土を流し込んで完成。ベルが胸に飛び込んできて褒めてくれる。レインも鼻先を擦り付けてくる。たぶん頑張ったって褒めてくれてるんだろうな。

逆ピラミッド状の泉を出て、上から井戸を眺める。短期間で作ったとはいえ感慨深いものがあるな。

「裕太ちゃんが頑張ったんだもの。お姉ちゃんも頑張るわよー」

……お姉ちゃんって……突っ込むべきなのか? 疑問に思ってシルフィを見ると、ツイッと目を逸らされた。ディーネはちょっと天然な所があるのかもしれない。

「いくわよー」

ふわりと浮き上がったディーネが両手を広げて胸を張る。……ご馳走様です。シルフィのこれだから男はって声が聞こえるけど、こればっかりは男の本能だからしょうがない。

「水の大精霊ディーネが水の精霊王に申し上げます。この地に千年の水の祝福を……」

普段はのんびりした雰囲気のディーネが。祝詞みたいなのを唱えだすと、凛とした雰囲気を身に纏い、まるで女神のような神々しさを感じる。

「えーい」

次の瞬間いきなり元のディーネに戻り、気の抜けた声と同時に両手を井戸に突き出した。何がどうなったんだ?

「あのバカ。カッコつけたのに、言葉が思いつかなくて途中で諦めたわね」

「はっ? ちょっとシルフィ。どういうこと?」

聞き捨てならない言葉が聞こえ、シルフィを問い詰めようとすると、井戸からゴゴゴゴゴゴと異音が聞こえ、ドーンっと水の柱が打ちあがった。なんだこれ。大事な場面なはずなのに、あちこちに気が行って集中できない。

「ふおおおおおお。じゅごーーーーい」

「キュイーーーーーーー」

ベルとレインが大はしゃぎしている。俺が作った泉に勢いよく水が満ち。溢れるギリギリのところでピタリと水の増加が止まった。

赤く乾いた大地に、勢い良く打ち出されたにも拘わらず、澄んだきれいな水が満たされキラキラと輝いている。

「凄いな」

柄にもなく感動している。暫く泉を眺めて達成感に心を震わせる。

「……さてシルフィ。聞きたい事があるんだけど、続きを思いつかなかったって何? 大事な祝詞を失敗したとかじゃないんだよね?」

「あー、そもそも小さな泉を作るのに、精霊王に申し上げる事なんて無いの。仮にも大精霊なんだからそれぐらいの事は自己判断で出来るわよ。だいたい千年の祝福とかも、何となく響きがカッコいいとかで言ってみただけね」

頭が痛そうに額に手を当てるシルフィ。俺は心が痛いよ。そんな事とは知らずにまるで女神のようだって感動していたんだから。

「えーっと、じゃああの大仰な呪文は単なる演出で、えーいの掛け声と身振りだけで良かったの?」

「いいえ。あれぐらいの現象は指先一つで済むわ。全部が不必要ね。お姉ちゃん頑張るって言ってたからカッコつけてみたんでしょ。途中で諦めてたけど」

ディーネを見ると、ベルとレインに褒められまくってふんぞり返っている。

「ねえシルフィ。出来ればディーネをキツク叱っておいてくれる?」

「私、無駄な事はしない主義なの」

そうなのか。叱っても無駄なのか。

「裕太ちゃん見てたー。お姉ちゃん凄かったでしょー」

ニコニコと自慢げに近寄ってくる。説教をしたい気持ちが湧き上がるが、無駄な事で神経を疲れさせたくない。凄かったのは事実なんだから、その一点で頑張って褒めよう。泉を作って貰って助かるのは俺なんだから……。

「ああ、とっても凄かったよ。流石ディーネ。大精霊は伊達じゃないな」

「でしょー」

ご機嫌だ。周りを飛び回ってはしゃいでいるベルとレインに、精霊の心得らしき物を語っている。二人の将来が心配になるから止めてほしい。

過程には問題があったが、目の前にはキラキラと輝く泉がある。開拓ツールの力を借りたとはいえ、結構凄い事だよな。泉に近づき手で水をすくってみると、ひんやりとしてキラキラと輝いている。

「ディーネ。この水はこのまま飲んでも大丈夫か?」

「大丈夫よー。とっても綺麗な美味しいお水。水の大精霊のお墨付きよ」

ちょっと不安だけど、飲んでみるか。ゆっくりと水を口に含む。おかしな味はしないな。手に残った水をゴクゴクと流し込む。美味いような気がする。

「裕太ちゃん。美味しいでしょう」

「う、うん。美味いな」

ごめん。正直水の味とか全然分かりません。でも目の前に溺れるほどの水がある。渇き死にを恐れていた時に比べると天国だ。

「ゆーた。おみずであそんでいい?」

「キュー?」

おうふ。二人とも小首を傾げて上目遣いとは、どこでそんな高等テクニックを覚えたんだ。

「ディーネ。この子達が泉で遊びたいそうなんだが問題無いか?」

「精霊が水を汚すなんて事は無いから問題無いわ。ベルちゃんもレインちゃんも、気にしないで遊んで良いわよー」

俺も頷いてやると、二人は大喜びで泉に飛び込んでいった。レインはともかくベルは風の精霊なのに水遊びも好きなんだな。

空を飛んだり水にもぐったり、楽しそうにはしゃぐベルとレインをみて、何となくこの先も大丈夫な気がした。