軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十五話 精霊の微妙に不便な所

岩山から石材をひたすら切り出している。昨晩は海の幸をたらふく食べて、今朝も収納しておいた魚介類でお腹一杯だ。

いずれは魚介類にも飽きる時が来るだろうが、食料を切り詰めて食パンしか食べていなかった時と比べると、気分がまったく違う。

レベルも上がって体力も力もついたので、大きな岩山が見る見るうちに姿を消していく。移動式の住居用に特別大きな岩の確保にも成功したし、この岩山が消滅すると三つ目の岩山が姿を消した事になる。

「ふぅ。これだけ採取すれば足りるよね。後は戻って井戸周りの整備と住居を作ろう」

「足りると思うけど、岩山三つ分は多過ぎじゃないかしら?」

苦笑いでシルフィが話しかけてきた。確かにちょっと調子に乗った事は否めないが、多すぎて困る事も無いから構わないだろう。

「まあ、何かしらの使い道はあるから大丈夫だよ。余ったらスペースの拡張に使えば良いんだしね」

遠くで遊んでいるベルとレインを呼び戻し井戸に向かって出発する。

***

二時間掛からないぐらいで井戸まで到着した。レベルが上がった事が移動速度にまで、好影響を及ぼしているみたいだ。取り敢えず井戸を封鎖していた大岩を収納する。

「シルフィ。この井戸の底にディーネさんは居るんだよね?」

「ええ。水脈をつたって別の場所に移動している可能性もあるけど、たぶん下に居ると思うわ」

水の精霊は水脈をつたって移動できるんだ。便利……なのか? 飛べるんだし意味が無い気もするな。

「ありがとう。帰ってきた事を伝えておいた方がいいよね?」

「伝言で良いんじゃない。ベルとレインに頼めば直ぐよ」

おお、そんな方法が。ちょっと階段の上り下りが面倒だなって思ってたけど、それは楽だ。

「ベルー。レインー。ちょっとこっちに来てー」

「なーにー」

「キュー」

嬉しそうに飛んでくる幼女とイルカ。ファンタジーだ。

「井戸の底にいるディーネに帰ってきました。明日工事をするからって伝えてくれる? いなかったらそのまま戻ってきて良いからね」

「にんむー?」

「……うん……任務だよ」

「いえっさー」

「キュー」

嬉しそうに井戸に飛び込んで行く二人を見送る。ぐふっ。海でのハイテンションが……。いずれ忘れると信じよう。

「シルフィ。可哀想な人を見るような目をやめてくれる?」

「そんな目をしてないわ。裕太の被害妄想よ」

そうかな? 気にし過ぎか?

「それよりこれからどうするの?」

「あー、まずはスペースを確保するよ。二メートルの正六面体を二百個用意しているから。後は並べるだけだね」

一辺に五十個置けば正方形のスペースが出来る。十分だろう。

「二メートルあれば、さまよっているだけのゾンビやスケルトンは入ってこないわね。ただデスリザードなんかは入ってくる可能性があるわよ?」

「うーん、とりあえず作ってから様子を見るよ。駄目だったらその時考えるね」

岩は二メートルの幅があるから上に積み重ねても大丈夫だろう。

「それが良いかもね」

「じゃあ、井戸が中心になるように並べるよ」

起点を決めて岩を置く。

「こうしてみると大きいわね。こんなに厚みが必要なの?」

確かに一つ置いただけなのに妙な迫力を感じる。

「まあ、建築なんて関わった事すら無いから、頑丈さで勝負だよ」

地面が重みで陥没しても収納して、対処すれば良いんだから簡単だよね。

「確かに脆弱なものより頑丈過ぎる方がマシよね」

「そういう事。酷い凹凸がある所だけ均して、置いていくね」

ズン。ズン。っと良いペースで岩を置き、隆起している所はスコップでサクッと削り、へこんでいる場所は土で埋めてハンマーでたたき固める。

「ただいまー」

「キュー」

おっ。ベルとレインが戻ってきたか。

「二人ともありがとう。ディーネには会えた?」

「あえたー。にんむかんりょー。ほめられたー」

「キュキュー。キュイ」

二人ともやり遂げたって雰囲気だ。お礼を言って。撫で繰り回す。

「ありがとう。今のところ用事は無いから二人は遊んでおいで。あまり遠くに行かないようにね」

「はーい」

「キューイ」

飛び去っていく二人を見送る。レインの返事が微妙に進歩していたように感じる。流石精霊だな。さて再開しよう。

***

うん。隙間なくグルッと一周囲めたな。少しズレはあったが、余っている岩を調整して対処した。魔物の侵入を防ぐという意味では問題無いだろう。

「このぐらい広さがあれば十分だよね」

死の大地と呼ばれ、赤茶けて乾いた地面しかない場所。でも、周囲を囲んで自分の領域だと認識すると、愛着がわくのが不思議だ。

「そうね。かなり広いと思うわよ。これだけの事が短時間で出来るって、やっぱり凄い能力よね」

「うん。道具としては破格の性能だと思うよ。まあ、空でも飛べたらこんなに苦労する事も無かったかもしれないけど」

スイッと飛んで町に到着。とても楽だ。

「私と契約したら飛べるんだから、今の能力の方が絶対に良いわよ」

確かにどれだけ苦労しても、開拓ツールの道具を手に入れるのは難しいだろうな。

「それもそうだね。よし。やる気出た。次は移動拠点を作るね」

移動拠点用に確保しておいた一番大きな岩を取り出して、仮の拠点に作ったような二部屋の家を作る。今回は囲いを作ったので、キッチンにはいくつかの窓を作る。

寝室にはゴーストとかが入ってきたら嫌なので、窓はなしだ。テーブル用の岩とベンチ用の岩を設置。コンロもおけばキッチンは完成。

寝室は部屋の中央にデンと大きな岩を置き、中に砂を入れるように内部を切り取る。砂浜で収納してきた砂に、浄化を掛けて岩の中に流し込む。これで、木の枕を置けば完成だな。

寝たら砂で汚れるし、木の枕は固いけど、岩の上で寝るより随分マシだよね。汚れは浄化で対処出来るし。あっ、水が出たんだし泉が完成したら風呂を作るのも良いな。浄化は綺麗になるけど疲れは取れないし。それにしても……。

「うーん」

「何を悩んでいるの?」

「えーっと、くだらない事なんだけど、このベッド、棺桶に見えない?」

長方形の岩の内部を切り取った、単なる箱に砂を敷き詰めただけなんだけど……なんか棺桶を思い出す。

「確かにそう見えない事も無いけど、そんなに悩む事なの?」

「縁起が悪そうだよね」

日本では縁起なんて気にした事無かったけど、普通にゴーストとかいる世界だからな。くだらない理由で運が下がるとか普通にありそうだ。

「じゃあ、角を削って丸みを持たせれば?」

「……おお、それなら雰囲気が変わりそうだ。試してみる」

シルフィのアドバイスに従い角を削り取って全体的に丸みを持たせる。……なんかカプセルみたいになったな。でもこちらの方が幾分マシだ。

「よし、これで移動住居が完成した。今日の作業はこれまでにして、晩御飯にしようか」

「今晩は何にするの?」

三連続魚介類を焼いただけはキツイな。煮つけは米が欲しくなる。夜は少し気温が下がるとはいえ、鍋はつらい。フライは色々材料が足りないし、つみれはどうだ……ショウガとネギが無いと、美味しく出来る気がしない。

そういえば野菜も取れていないんだよな。海藻を食べれば何とかなるのか? いかん不安しかない。野菜ジュースぐらい買っておくべきだった。栄養不足で体を壊す前にさっさとレベルを上げないと、大変な事になる。

「今日は……蒸し魚かな」

「微妙に変わってはいるけど……大丈夫なの?」

「色々と魚料理は考えついたんだけど、野菜や調味料が足りないんだ。日本の料理に魚介を添えれば贅沢にはなるんだけど……」

米が欲しい。調味料が欲しい。ハーブが欲しい。野菜が欲しい。何より肉が欲しい。

「ねえ、ベルに買い物してきてもらう事は可能かな?」

「実体化できないから無理ね。精霊が実体化出来るのは特別な場所だけなの。魔力を使って物を掴む事は出来るけど、厳密に言えば触っているのとは違うの。そんな状況で買い物はほぼ不可能かしら」

魚を取ってきてくれたから、物は持てると思ってたけど、違うんだ。微妙にややこしいな。

「採取してきてもらうのはどう?」

「可能ではあるわね」

夢が広がった。

「おお、植物が手に入るだけでもだいぶ違うよ」

「でも、長距離を物を持つ魔力を維持したまま飛んでくるのは、ベルには時間が掛かるし辛いわね。レインに補助してもらっても結局負荷は掛かっちゃうし」

シルフィがため息をつきながら申し訳なさそうに話す。そういえばベルと契約したら町まで運んでもらえるかって聞いたら、無理だって言ってたもんな。植物よりも断然重いから当然か。

「契約した精霊は離れていても召喚したら直ぐに来るって言ってたよね。その力を使えば直ぐに戻ってこられるんじゃないか?」

「残念だけど、移動できるのは精霊だけなのよ」

「おうふ、なんか雁字搦めに縛られているような気がするよ」

上手く行きそうでも、微妙な所で何かが足りない。神様が居るとしたらかなりの意地悪だな。何とか上手く行きそうな方法は幼女とイルカに多大な負担をかける事になる。罪悪感がハンパない。

「私ぐらい力があれば何の問題も無いんだけど」

「シルフィと契約出来たら町に連れて行ってもらえるもんね」

「ふふ、そうよね。いままで気にした事も無かったけど、なかなか上手く行かないものね」

精霊とこれだけ意思疎通が出来るのは、かなり珍しいみたいだからな。色々と知らなかった事も出てくるんだろう。

「まあ、ベルとレインに頼るのは本当の最終手段にして、自力で出来る事を頑張るよ」

まずはわがまま言わずにご飯を食べて、レベル上げだ。魚介オンリーな生活から抜け出すために頑張ろう。