軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルナーの兄、ゾルグと共にトンボ……もとい、ウィンドドラゴン達と戦った日の翌日。

酷い高熱を出してしまった私は、立ち上がることすら出来ずに朝から寝込んでしまっていた。

高熱の原因はウィンドドラゴンとの戦いの際に負った傷が化膿してしまった事によるものだ。

たったの一日でここまで症状が悪化してしまった理由は、化膿した傷口の様子を診てくれたアルナーによると、ウィンドドラゴンの羽に付着していた何某かのモンスターか植物の毒液のせいではないか、との事だ。

イルク村に帰るなりしっかりと傷口を井戸の水で洗い、アルナーに薬草を使っての手当てをして貰っていたのだが……どうもその処置だけでは不十分だったようだ。

……あの喋るメーアとの出会いも、もしかするとその毒と高熱が見せた幻覚だったのかも知れないなと、そんなことを考えながら高熱にうなされ続けて……そうして昼過ぎ。

ちゃぽちゃぽと音を立てる器を大事そうに抱えたセナイと、器の中身をこぼしてしまわないかと心配そうにセナイの手元を見つめるアイハンが、私が寝込むユルトの中に入ってくる。

「ディアス、お薬だよ」

「おくすり、のんで」

不安そうな表情でそう言って枕元にそっと座り、器をぐいぐいと私の頬に押し付けてくるセナイとアイハン。

そんな二人に心配をかける訳にはいかないと、私は僅かに残った体力を振り絞って、どうにかこうにか体を起こし、その器をそっと受け取る。

器の中に深緑色の液体がなみなみと注がれていて……どうやらいつもの薬湯のようだ。

正直今は水の一滴すら飲めそうにない体調なのだが、それでもセナイ達を安心させる為に、大きく口を開けて薬湯を口の中へと強引に流し込む。

そうやって一口分をなんとか飲み込むと、口の中いっぱいに薬湯の味と香りが広がっていく。

「……うん?

美味いな、これ」

その味に思わずそんな言葉が漏れる。

アルナーが作る薬湯は草の匂いが凄まじい上に苦いという、そんな味だったのだが、この薬湯は妙に甘く、それでいて爽やかな味わいで……驚く程に飲みやすい。

ハチミツと爽やかな香りの果物を混ぜて、甘さを抑える為に湯で薄めたような飲み物のような味というか……うん、少なくとも薬湯の味では無いな。

「……これ、えらく美味いが、材料は一体何なんだ?

アルナーの薬草では無いようだが……」

「えっとね、このお薬はディアスが持ってた葉っぱから作ったの」

「さんまいのうちのいちまいからー。たねは、はたけにうえたよ」

私の問いに対し、事も無げにそう言うセナイとアイハン。

よく見てみればアイハンの腰紐には、あの喋るメーアから受け取った麻袋が下げられており……それを見た私は軽く混乱してしまう。

あれは夢や幻覚では無かったのか?

いつのまにアイハンはあの麻袋を? どうしてあの葉を薬だと?

こんな味がするとはあの葉は一体何なのだろうか?

そんなことを考えて混乱し、混乱の中で限界を迎えた私は起こしていた体を倒して、寝床へと沈み、枕へと頭をあずける。

そうして霞がかった思考を放棄した私は、セナイとアイハンを安心させる為の言葉を口にする。

「……セナイ、アイハン、ありがとうな。

この薬、とってもよく効いたよ。

おかげで眠くなって来たから少し眠るよ」

飲んだばかりで効いたも何も無いのだが、それでも私がそう言うと、セナイ達はにっこりと良い笑顔を作ってから頷いて、立ち上がるなりタタタッと元気に駆けてユルトの外へと出ていく。

そんなセナイ達を見送って……そうして目を瞑った私は唸る高熱と疼く傷を抱えながら眠りにつくのだった。

「―――! ―――!」

ペシペシと誰かが私を叩いている。

私の額をしつこくペシペシと……。

「―――! ―――!」

一体何事だろうと意識を覚醒させて……ぼんやりと天上を見上げて、天窓の向こうに見える茜色から察するにどうやら今は夕方のようだ。

「ディアス! 起きろ!」

そして尚もペシペシと私を叩いているのは……なんだアルナーか。

「……どうした? 何かあったのか?」

寝ぼけた声で私がそう言うと、アルナーは驚きと安堵が入り混じったような、なんとも複雑な表情で言葉を返してくる。

「ディアスこそ一体何があった!

さっきまでのあの高熱がすっかり引いているじゃないか!!」

アルナーのそんな言葉を受けて、まさかそんなはずが無いだろうと思いながら、自らの体調を確かめてみると……あの高熱と全身を覆っていた気怠さと、体の奥底から来るような、重い吐き気と鈍痛が消えていることに気付く。

ゆっくりと体を起こし、深呼吸し、頭を振って自分が寝ぼけていないことを確認した上で、再度体調を確認してみるが、これといった異常は無いようで、それどころかいつも以上に体調が良いような気がする……と、そんな錯覚を抱いてしまう。

「熱どころか、怠さも吐き気も無くなっているぞ。

何日間も寝てしまっていた……という訳でも無さそうだな、これは一体……?」

と、そんな言葉を口にして困惑する私にアルナーは、

「……傷の様子を確かめてみよう」

と、そう言って、私の腕や腹に巻かれていた紐を解き始める。

紐を解き、紐によって押さえつけられていた傷当布をそっと剥がしていくアルナー。

そうして顕となった傷口へと視線をやると……赤黒く膨れ上がっていた腫れがすっかりと引いてしまっている様子が目に入る。

傷口のその様子を半目で睨んだアルナーは、薬草の絞り汁や私の血、膿などで汚れている傷当布を近くにおいてあった籠の中にしまい、新しい綺麗な布を取り出して、それでもって傷口の周囲の汚れを拭い取って……そうして傷口をじぃっと見つめて観察し始める。

「……傷自体はまだ治っていない。

治っていないが……もう膿んでもいないし、腫れてもいないし、空気に当てておけば直にかさぶたが出来て、傷を塞いでくれることだろう。

……一応聞いておくが、ディアスだから早く治ったとかそういう訳では無いんだな?」

傷口を二度三度と拭い、これまた近くに置いてあった器から薬草の絞り汁を指ですくい取って、傷口とその周囲に薄く塗りながらそう言ってくるアルナー。

「勿論だ。

戦場でも何度か怪我が膿んだことはあったが、こんなに早く治ったというのは初めての事だ。

ただ膿んだだけで無く毒を食らったともなれば、十日は寝込むことを覚悟していたのだがなぁ……」

私がそう言葉を返すと、アルナーは首を傾げて「うーむ」と唸り……少しの間そうしてから問いを投げかけてくる。

「……何か思い当たることは無いのか?

例えばこの数日の間に、何か変なものを……薬草だとかそういった類のものを拾い食いしてしまったとか」

「拾い食いなんて、そんなことする訳が……あっ」

「……何だ、一体何を拾い食いした、正直に話せ」

あらぬ疑いを向けてくるアルナーに、私は昨日の喋るメーアの事と、眠る前にセナイとアイハンが用意してくれた薬湯のことを話す。

「……そういえば昨夜も寝る前に喋るメーアがどうのとそんな話をしていたな。

酒に浮かれていたせいで真剣に受け止めていなかったが……ふぅむ。

ひとまずセナイとアイハンに詳しい話を聞いてみる―――」

と、そんなアルナーの言葉の途中で「失礼します!」とクラウスの声が響き、クラウスがユルトの中へと入ってくる。

「ディアス様、隣領からの先触れがありまして、これからカスデクス公がこちらにいらっしゃるそうなのですが……体調がまだ優れないようならまた後日にと俺の方からお断りをしましょう……か。

ってあれ!?

もう起き上がって大丈夫なんですか!? それにその傷!? もう治ったんですか!?」

そんなクラウスの声を受けて私とアルナーは互いの目を見合う。

そうして私はアルナーの目を見つめたまま……さて、どうしたものかと頭を悩ませるのだった。