軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トンボ達との戦い その2

――――ディアス

「……あのトンボ達、どうしてあのまま追撃をしてこなかったんだろうな?

一度だけではなく、二度三度とあの攻撃をやられていたら、相当の深手となっていただろうに」

上空を旋回する三匹のトンボ達を睨みながら私がそう言うと、すぐ側で弓を構えるゾルグが呆れ混じりの声を返してくる。

「そりゃぁあれだろう、あんな風に殴ってくるような馬鹿にはいくらドラゴンでも近づきたくないんだろうよ。

迂闊に近づいたが最後、さっきのアレみたいに殺されると、そう考えて距離を取っているんだろうな」

「ふぅむ……なるほど。

しかし、そういう事なら距離をとった上で火を吹いてくるなりしたら良いのではないか? あれもあんな見た目だが一応はドラゴンの一種なのだろう?」

私がそんなことを言う間、ゾルグは弓の弦を引き上空へと狙いをつける……が、矢を射ることなく弦を戻してしまう。

……まぁ、頭上の敵を弓で射るというのは流石に無理があるようだ。

ゆったりと弓を下げて、そうしながらもいつでも弓を射ることが出来るように構えたゾルグは、空を睨みながら先程の私の問いへの答えを返してくる。

「お前の言う通りウィンドドラゴンもドラゴンらしく火を吹いてくるが、その威力の方はイマイチなんだ。

空を飛ぶことに特化したスカスカの体では満足に魔力を練ることも出来ないのだろうな。

そういう訳だから遠距離攻撃だとか、そういう心配はしなくて良い。アイツらの攻撃手段はさっき言った通り、牙と羽による近距離攻撃だけだ」

「……なるほどな。

近距離攻撃しか手段が無く、かといって迂闊には近付けないのでああしている、と

……うん? ならば何故トンボ達は逃げないんだ?

さっさと逃げてしまえば良いのではないか?」

「それは俺もそう思うが……何だろうな。

あいつらは人間族の血を好んで吸うと聞くから、お前の血の匂いに惹かれてしまって逃げるに逃げられなくなったとかか?

……まぁ、理由がどうであれ逃げねぇってのはありがたい。

アルナーの為にも村の為にも、あんな厄介な化物を逃がす訳にはいかねぇよ」

そう言って殺気立つゾルグ。

確かにあのトンボ達にイルク村が襲撃されたなら……想像もしたくないような酷い被害が出てしまうことだろう。

そういう意味ではここでトンボ達と遭遇出来たことはこれ以上ない幸運だったと言える。

ゾルグの言う通りこの機を、あのトンボ達を逃がす訳にはいかないな。

「私もあのトンボをここで仕留めるというのには賛成だが……しかしどう戦ったものだろうなぁ。

あのまま空から降りて来ないのでは手も足も出せないな」

上空のトンボ達を先程よりも数段強く睨みながら私がそう言うと、ゾルグはまたも呆れ混じりの声を返してくる。

「んなことは言われなくても分かってんだよ。

さっきみたいに油断してくれてりゃぁ打つ手もあるんだろうが……二匹も仲間が殺されたってのに油断するような馬鹿でも無いだろう」

「……油断、油断か。

例えばこちらが武器を失ったとなったら油断してくれるだろうか?」

「さぁな。ドラゴンの考えなんか俺に分かる訳ねぇだろ。

……つうか武器を失うってお前、一体何を考えてやがる?」

「いや、試しにあのトンボ達に向けてこの戦斧を投げてみようかと思ってな」

私がそう言うなり、空を睨んだまま声を荒げるゾルグ。

「あぁ!? そんなモン投げた所であの高さまで届く訳ねぇだろうが!?

そもそもその斧は投げようと思って投げられるようなモンじゃねぇだろ!! 何を馬鹿なこと言ってんだお前は!?」

「実は遊び半分で何度か投げる練習をしたことがあるのだが……これが中々悪く無いんだ。

まぁ、トンボに当てることは無理だとしても、武器を捨てたと思わせて油断を誘えるかも知れない、やる価値はあるだろう」

「あーあー、好きにしろ好きにしろ。

……投げ損ねて俺に当てたりしたら承知しねぇぞ」

半目でチラリとこちらを見て、呆れ果てたというような声でそう言って私から距離を取るゾルグに「任せろ」と一言返し頷いた私は、戦斧の石突きの辺りをしっかりと持って、そうして戦斧を投げる為の構えを取るのだった。

――――ゾルグ

どうしようもない馬鹿がそこに居た。

戦斧の石突きを両手で持ち、戦斧の先を地面に横たえ……足を軽く広げて緩く構える極上の馬鹿。

何度かの深呼吸をして、斧を軽く持ち上げて……そのまま斧を振り回し、己の体を軸に回転させて、一回、二回と回転し……その勢いと回転速度を上げていく。

三回転した辺りでこの馬鹿はもしかして本気なのかも知れないとそんなことを思い、四回転と五回転と回転数を増していって、風切り音が周囲に響き渡り……そうして馬鹿の雄叫びが周囲に響き渡る。

その直後に空気を斬り裂くような凄まじい音がしたかと思ったら、馬鹿の回転が止まっていて、馬鹿の手に握られていたはずの戦斧の姿が消えてしまっていた。

慌てて上空に視界を戻すと、あの形で何がどうしてそうなるのか、綺麗に回転しながら宙を舞う戦斧の姿があり……戦斧の獅子飾りの目が光ることで光の円を空中に作り出していた。

最早唖然とする以外に無いそんな光景に驚いたのはどうやら俺だけでは無かったようだ。

ウィンドドラゴンたちもまたその光景に唖然としてしまったようで……回転しながら飛んでくる戦斧を睨んだまま、戦斧の放つ光を睨んだまま不自然な程に動きを見せず……そうしてウィンドドラゴンの一匹が、戦斧に斬り裂かれて真っ二つになってしまう。

そうして戦斧は空中を舞い飛んで……少しの後に失速し、地面へと向かって落ちていく。

戦斧が地面に落下する音を合図にウィンドドラゴン達が動きを見せる。

逃げれば良いものを一体何を考えているのか馬鹿の方へと、半ば半狂乱のようになって突っ込んで来るウィンドドラゴン達。

そんなウィンドドラゴン達の突撃を受けて馬鹿は拳を構え、俺は弓矢を構える。

半狂乱になったウィンドドラゴン達は、何も考えていないのか真っ直ぐに馬鹿の方へと向かっていって……そんなウィンドドラゴンのうちの一匹を馬鹿の拳が見事に捉える。

右拳でウィンドドラゴンの目を殴り、怯んだウィンドドラゴンの体へと左腕を振り下ろして叩きつけて、そこに飛び込んで来たもう一匹に回し蹴りをかまし、すかさず組んだ両腕を振り下ろす。

そうやって地面に叩きつけられるなり怯むなりしたウィンドドラゴン達へと、その隙を逃すまいと放った俺の矢が一発、二発と突き刺さる。

一匹はそれでトドメとなったが、一匹はその身体を矢で貫かれながらも飛び上がり、尚も馬鹿に噛み付こうとする。

させるものかと魔力を込めて弦を引き絞り、馬鹿に当てないようにしっかりと狙いを付けて……最後のウィンドドラゴンを射殺す。

これで五匹。

一応念のために周囲の空へと視線をやるが、ウィンドドラゴンを恐れてか一羽の鳥の姿すら無く……どうやらこれで終わりのようだ。

全く……年に一匹見るか見ないかってところのウィンドドラゴンがなんだって五匹も……。

……というかだ、そうだ、そうだよ。

俺は今、あのウィンドドラゴンを狩った……んだよな。

鬼人族の男ならば一度は憧れるドラゴン狩りだが……まさかこんな形で達成することになるとは思ってもいなかった。

これでアルナーや村の皆も少しは俺を見直して……。

……いや、いやいやいや、違うだろ、これはなんか違うだろ!?

少なくとも俺の考えていたドラゴン狩りはこんなでは無かったはずだ、こんな……こんな馬鹿みたいな狩り方……。

ああもう、一体何なんだよ、あの無茶苦茶な野郎は!?

あれがアルナーの夫で、この草原の領主だなんて悪い冗談にも程がある。

……というかあの馬鹿、戦斧を拾いに行きもせず一体何をやってるんだ?

ウィンドドラゴンの死体を拾って、それを積み上げて……。

あああ、あの馬鹿!?

そんなことしたら羽やら牙やらがぶつかり合って折角の素材に傷がついちまうだろ!?

「おい、雑に扱うな!?

それ一匹でどれだけの価値があると思ってるんだ!?」

俺の言葉の意味が分かってないのかキョトンとした顔を見せる馬鹿。

役目を終えた弓を担いだ俺はそんな馬鹿を止める為、荒く声を上げながら馬鹿の方へと駆けていくのだった。