軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

温かい風の中で

――――鬼人族の村の広場で ゾルグ

始まった戦乱に横槍を入れて、好き勝手に暴れて戦利品は持ち帰り放題、しかも相手はあの王国。

ディアスが用意してくれたその機会に鬼人族の村はいつにない賑わいに包まれていた。

戦勝祝い、帰還祝い、あるいはボロ儲け祝い……それぞれの家がハルジャ種や愛馬の背に飾り布を乗せて、その上に立ち乗りするなり、早駆けするなりして、笑顔を村中に振りまき楽しんでいる。

歌って踊って酒を飲んで食べて。

軍事物資を手に入れて、それを行商人に売り払って、いつにない儲けを得ていた鬼人族の賑わい方は、広場の中央でそれを見守るモール達老人の誰もが笑みを浮かべる程のものだった。

「はしゃぐのは良いけど、程々にな!

これからも出撃は続くが、それが最後の遠征ってこともあるんだから、ある程度は貯め込んでおけよ!」

そこにゾルグが冷水を浴びせるようなことを言うが、誰もそれに文句を言わないし、不満そうな顔もしない。

ゾルグがこの状況を作り出したと誰もが分かっている。

ゾルグの判断が、縁が、ゾルグの家族がこれだけのことをやってくれていて……ゾルグがまとめ上げた協定があれば、将来も安定でドラゴンや王国軍に怯えずに生きていくことが出来る。

数年前の状況からは考えられない話で、その感謝の思いの強さからか、いくつかの家は自分達の手で大メーアの神像を造り、毎日のように祈りを捧げていたりもする。

もちろんゾルグにも同じくらいの感謝の念を抱いていて……ゾルグ新族長という立場は揺るがないものとなっていた。

草原が賑わい、豊かになり、海から魚などが届くようになり、食料庫が溢れ、飢える心配がないからと子宝に恵まれる家も増えている。

そんなゾルグには支えてくれる家族も出来つつあって順風満帆、何もかもが上手くいっているが、だからと言って油断は出来ない。

戦乱がいつまでも続くとは思えない、今回の顛末次第では王国が大きく変化し、戦乱も何も起こらない状況が出来上がるかもしれない。

隙がなければ遠征班の仕事がしにくくなり、今回のような臨時収入が無くなってしまうかもしれない。

「結局俺達の基本はメーアと馬の世話なんだ、そこら辺を忘れないようにな!

それとディアスによるとそう遠くないうちに二回目の遠征があるようだからな! 今のうちに備えておけよ!!」

更にそう声を上げると村人達は元気に返事をし……それからまたお祝いムードを楽しみ始める。

ゾルグも祝うなとは言っていない、浮かれるなと釘を差しているだけで、ゾルグ自身も今の賑やかさを楽しんでいる。

それが皆に伝わっているから文句が出ることもなく……そうして鬼人族の村はなんとも賑やかにこの日を楽しむのだった。

――――数日後のイルク村で ディアス

「そろそろかな」

竈場に積み重ねておく用の薪割りを終えて、なんとなく空を見上げた時に、なんとなくそう思って言葉にする。

すると薪の山の上で静かに瞑想をしていたメイゾウが、立ち上がりながら言葉を返してくる。

「御意に、すぐ準備をするよう皆に伝えましょう。

次の目標はいずこで?」

いつの頃からかメイゾウはそういった堅苦しい口調になっていたが、態度は柔らかくなっていて、恐らくメイゾウにとって一番楽な口調がそれなんだろうなぁ。

「……王城かな。

また同じことをしても警戒されているだろうし、物資も分散するなり対策をされているだろう。

一度本拠を叩けば相手も驚くだろうし、動きを変えるはずだ。

もしかしたらそのまま和平という話になるかもしれない。

近くに港があるそうだし、そこを一気に制圧してそのまま城になだれ込むとしよう」

「御意に。

……ディアス様も段々と言語化がお上手になられてきましたな。

その戦場の勘による決断は正しく、何を言わずとも皆ついていきましょうが、しっかりと言語化してくださればありがたく、心も休まることでしょう。

ヒューバート殿による必要な物資量の計算もうんと楽になるでしょうし……前回よりも快適な戦いとなるやもしれませんな。

ともあれすぐに伝えて参りますので、ディアス様はこのままここでお待ちを」

そう言ってメイゾウは駆け出し、村中に今の話をしにいってくれる。

それを見送ってから私は、不在の分の薪を作っておくかと木材を薪割り台に乗せて、戦斧を振るっていく。

と、その時だった。

近くで話を聞いていたのか、メイゾウから話を聞いたのか、アルナーがやってきて声をかけてくる。

「ディアス、また行くみたいだな。

……私もついていこうか?」

「……うん? まぁ、アルナーの弓の腕は知っているから、来てくれるならありがたいが……村やセナイ達のことは良いのか?」

「もう側にいなければならないという程、子供でもないだろう。

村のことも他の大人達に任せておけば良い。

……流石に相手の本拠となれば戦いも激しくなるだろうし、魔法も必要になってくるだろう。

あのマヤが鍛えた弟子がいるという話だし、隠蔽魔法も打ち破られる前提で扱うべきだろうし……私がいてその辺りの指揮をした方が良いはずだ」

「そうか、そういうことなら頼むよ。

と言ってもまぁ、本気でやり合うつもりはないんだがな……。

王国人同士で殺し合っても得るものなんてないし、ジュウハではないがモンスターだけが得するような真似はしたくない。

可能ならこっそり入り込んで、リチャードだけをなんとかしたい所だな」

「……何とかって、どうするつもりなんだ?」

そう言われて私は薪割りの手を止めて、少し悩む。

悩みに悩んで……それから昔から子供の悪さを止めるためにやっていたことを思い出す。

そして戦斧から手を離して拳を構えてみせるとアルナーは、それで納得したのかそれ以上説明はしなくて良いと、表情で示してくる。

それだけでどうにかなるとは思っていないが、しかしまずはそれからだという思いもある。

それでもダメだった時には、その時どうするかを考えていけば良い訳で……それでなんとでもなるだろう。

問題は敵の本軍なんかがいた場合だが、王城に本軍がいるような戦況ならエルダンの勝利は決まったようなものだろうし、現地でエルダン達と合流するなんてことも出来るはずだ。

そんな考えはアルナーにも伝わったのだろう、アルナーは頷いてくれて……それから鬼人族に伝えるためなのか、今頃草原で食後の昼寝をしているだろう馬達の下へと足を向けるのだった。