軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

状況分析

――――イルク村の神殿奥の部屋で

ディアス達が遠征に旅立つ前から、ここではディアス達を支援するための情報の整理と会議が行われていた。

その中心となっているのは誰もが驚いた人物、エグモルトだった。

「既存の砦、関所、城の位置は全て把握しています。

いくつかは破棄され新設されたそうですが、その位置も大体は知っております、知っていなくとも地図を見ればある程度の当たりはつけられるでしょうな。

……なぁに、この程度は雑学のうちですよ」

部屋の中央に置かれたテーブルの上に地図を広げて、その地図に軍事拠点の位置を書き込んだエグモルトが、その独特な眼鏡をクイッと上げながら声を上げる。

更にはリチャードが改革の一環として新設していった砦の場所も書き込んでいく。

すると隣に立つゴルディアが、

「ギルドの情報だとこことここはどちらの陣営にも属さないつもりのようだ、考慮に入れなくて良いだろう。

いっそ今回は地図を塗り潰しちまっても良いだろう、余計な雑音になるからな」

と、そう言っていくつかの領地を指差し、何人かは地図を塗り潰すなんてという顔をするが、エグモルトは躊躇なくインク壺に指を突っ込み、その指でもって塗りたくっていく。

「ああ、こことここにも記載を、軍事拠点とまでは言えないかもしれないが、物資の保管庫がある。

普段は使わず施錠をし、中は空となっているが、モンスターの襲撃などがあるとそこに物資が集められ運搬の中継地点となる、今回も活用していることだろう」

次に声を上げたのがピゲルだった、それを受けてエグモルトは素直に地図に書き足していく。

「西側の砦群は無視して良いだろう、マーハティ軍がなんとかするだろうからな。

北部や東部も主戦場からは遠いからな、無視してぇ所だが……そこから増援なんかが来る可能性があるからな、無視は出来ねぇ。

しかし今回不参戦を決め込んだ北部と東部の警戒は必要だからな、そこに戦力を残すはずだ……つまりはまぁ半分だな、半分だけ警戒するって形で良いだろう」

次はモント、そう言ってから当たりをつけた上陸地点から行動可能範囲を描いていく。

針にヒモを縛り、針の反対側にペンを縛り、針を上陸地点に刺してしっかりと固定した上で、ペンをぐるりと回転させて円を描く。

それがモントの経験から推測する一日に行動可能な範囲だと示し……机と地図を囲む一同は「なるほど」なんて声を上げながら唸り声を上げる。

「その円はもう少し広げても良いかもしれんのう。

例のゴム、あれの実用化が間に合ったからのう……馬車も荷車も全部ゴムの車輪にしておいた。

今までよりは行軍速度があがったはずじゃのう……ゴブリン達が急ぎで実物を持ってきて、エグモルトやヒューバートが古典から実用化法を解読してみせた。

メーアバダルの力を集約した発明と言っても良いかもしれんのう」

今度は洞人族のナルバントが声を上げる、何人かの洞人族の若者は戦場に出向いているが、ナルバントは今回留守番をすると決めていて……移動速度が決め手となる作戦においては自分は邪魔になるだろうと考えてのことだった。

「行軍速度で言うのなら、今回はゾルグ兄さん達遠征班が全員参加しています。

隠蔽魔法をかけた上で行軍する訳ですから、通常よりも早く大胆に移動出来るはずです」

鬼人族のルフラ、アルナーの弟として鬼人族の代表として先日からこの会議に参加していた。

「あっし共の手のモンが合流したんならば、更に行軍が楽になるに違いないでん。

先行偵察、夜間偵察、情報収集に罠の敷設、そして物資の管理、こと行軍に関してはあっしらは獣人国一番、誰にも負けんでん」

そしてペイジン・ド。

今王国で何が起きているか、その辺りの事情を聞いてペイジン・ドは単身駆けつけてくれていた。

単身な理由は部下達に参戦のための準備をさせているからで……遅参という形になりながらも、それでもペイジン達は……ペイジン商会はディアスに協力することを望んでいた。

更に言うと獣王も協力に前向きとのことだった。

王国が荒れることは獣人国にとって利しかない、獣人に友好的なエルダンやディアスが優位に立つことも同じことだ。

表向きの理由として王国内部の獣人の保護を掲げて……ディアスやエルダンが勝ったなら得、負けたとしても王国が弱体化してくれるのだから得、ここで獣人国の力を王国全体に見せつけられたならそれら以上の大儲けと、そう考えて協力を表明していた。

どの程度の軍勢を出してくるのか、どの程度の支援をしてくるのかはまだ分かってはいなかったが、かなり前のめりとなって準備を進めているとの情報は入ってきていた。

それらの要因を受けてモントは円を拡大する……地図上のことでほんの少しの拡大だったが、それでもいくつかの砦が円の中に入るなど影響のあることで、改めてモントは唸り声を上げる。

「ふぅむ……偵察ってだけなら鼻や耳の犬人族や目の鷹人族にも出来るんだがな。

行軍ってもんをしっかり意識して相手の動きなんかをちゃんと読む、一流の密偵としての偵察はまた別モンだからな。

かなりの効果があるはずだ……それに加えてディアスが指揮を執るんだからなぁ、通常では考えられん動きを見せてくれるはずだ。

……それで、奇襲を繰り返すんだったか?」

と、モントがそう言うと、少し離れた位置の椅子に腰掛け、懸命に議事録を書き記していたヒューバートが声を上げる。

「はい、今回我々の目標は軍事的な勝利ではありません。

敵将や本隊を討つことが目的ではなく、領地や陣地、砦の獲得も意味を成しません。

……ですが、いきなり目標へ向かっては仕損じる可能性があります。

そういう訳でまずは撹乱を行い、目標……リチャード殿下と王都から敵将と軍を引き離します。

その場合、殿下が出陣してくる可能性もありますが、それならそれで良し、殿下を捕縛後に王都を制圧するという流れになるでしょう。

殿下が王都に残る場合は、王都包囲時に殿下と接触……ディアス様による説得を試みます。

王都にはディアス様以外の人物が近付くのは危険なので王都はあくまで包囲するだけになりますが……包囲して内部の戦力を引き付ければ後はディアス様がなんとでもしてくれるはずです」

それは今まで以上にディアス頼りの作戦となる訳だが、聖地に関連する力に関してはディアスとベンディア以外に対抗手段がないためにどうすることも出来なかった。

ベンディアにはいざという時のためにイルク村に残ってもらう必要があるし……と、誰もがそんなことを考えた時だった。

コンコンと窓が叩かれる。

その窓は日光を取り込むために天井近くにある窓で……鷹人族でも開けられるように取っ手のつけられたその窓が開かれ、そこから鷹人族の若者が顔をにゅっと出し、報告をしてくる。

「あー、とりあえず初日の報告だ。

ディアスが上陸後、砦を4つ落とした、敵味方共に犠牲はなし、敵に負傷者が出ただけだ。

場所は……今から落とす地図に描いてあるらしいから、それを確認してくれ」

その言葉と同時に、小さく丸められた紙が落ちてきて、それを拾い上げたエグモルトは小さく笑ってから地図の南部分にある砦四つを塗りつぶす。

それを見てモントは、

「……普通に円を越えてきたな」

と、そう呟いてから円の大きさを改めて修正するのだった。