軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

時計

さて、時計という凄い発明が生まれて……イルク村の暮らしに特に影響はなかった。

……まぁ、そもそも時間とかを気にした暮らしをしていないからなぁ。

誰もが空を見上げて日の傾き方でなんとなく把握した時間で十分だと思っているし、夜が明けたり日が沈んだり、これから食事という所で犬人族が遠吠えをして報せてくれるので、無かったとしても全く問題ないのが正直な所だった。

ヒューバート達がやたらと喜んで、その細工の細かさを絶賛していたので、凄い技術であることは確かなようだが……ほとんどの村人には関係のない話だったようだ。

ヒューバートが言うには地図の世界には緯度と経度というものがあって、このうち緯度は測量器具ですぐに割り出すことが出来るそうだ。

測量器具でもって太陽と北極星なんかの位置や高さを見ることで、かなり簡単に割り出すことが出来るらしい。

大地の上でも海の上でも緯度は空さえ見上げればそれで良い。

しかし経度……地図の東西を示すそれは、そう簡単にはいかないようだ。

太陽などなど天体は常に東西に動いていて、その上で自分まで潮の流れに乗って動いているとなると、割り出すための基準点が分からないので、もうどうにもならないらしい。

常に動き続ける数字で計算をするなんてことは出来ないとかなんとか。

しかし時計さえあれば、太陽の位置と時間からスタートした地点から自分達が東西にどれくらい動いたかが計算で割り出せるんだそうだ。

……時差だとか、その時差と太陽の角度でスタート地点からどれだけ離れたかが分かるとか、そこから経度が割り出せるとか、そんなことをヒューバートが懸命に説明されたが、結局はよく分からなかった。

しかしアルナーやセナイ達はちゃんと理解していたようなので、説明自体は悪くなかったようだ。

……まぁ、うん、仕方ない、そこら辺は分かる人に任せてしまえば良いだろう。

驚いたことに時計とそれによる測量はゴブリン達にも好評だった。

海の中で暮らし、各地を冒険しているゴブリン達なら迷うことなんてないはずだと思っていたが、実際はそんなこともないらしい。

たとえば普段通りだと思っていた海流に乗っていたらとんでもなく水温の低い地域に流れ着いてしまったり、氷だらけの海に流れ着いてしまったりして、そのまま体を冷やして死んでしまう……なんてことはザラにあるようだ。

私達だって普段暮らしている大地の上で迷子になったり遭難したりしているんだから、当然ゴブリン達だってそうなる訳で……特に海底が見えない程の深い海だと周囲に島もないので、一度位置を見失うと遭難状態となり、そこで海流が普段と違う動きをしたならそのまま二度と帰って来られなくなる……なんてことにもなってしまうんだとか。

海底が見えさえすればそこにある目印や地形などで大体の場所を把握出来るが、海底がなければ海の中は陸地以上に目印のない、何も無い場所となる。

そうなったらもう遭難しない方がおかしいってことになるらしい。

そういった遭難が時計と測量器具さえあれば防げるというのは、とてもありがたいようで……流石に水中で使えるような仕組みではないが、それでも余裕があれば作って欲しいと、そう言ってくれるくらいには好評だった。

水上でしか使えないのだとしても、休憩用の船の上とかで使えば良い訳で、使い方はいくらでもあるようだ。

時計があればそれで解決という話ではなく、しっかりと測量器具を使った上で計算して割り出す必要があるのでそう簡単な話ではないが、その覚悟はしっかりあるようで、早速何人かのゴブリン達がヒューバートにその辺りのことを学んでいるそうだ。

そんなゴブリン達に刺激を受けてなのか、それともこれから始まる大騒動に備えてなのか、段々とイルク村のあちこちで色々なことを学ぶ者達を見かけるようになっていった。

メイゾウはエイマから戦い方や私のサポートの仕方などを学び、ジョー達を始めとした領兵達やニャーヂェン族は、軍としての動きなどを学び、遠征に必要な家事などを学び。

ゾルグ達もやってきて、改めて戦い方や軍の動かし方、糧食の管理などを学ぶようになって……まぁまぁ悪くない形でイルク村が賑やかになっていった。

「こういうのも悪くないものだな」

と、アルナー。

家事を終えて広場にやってきて、腕を組んで堂々と立っての休憩中に、そんな声を上げてくる。

「何かをするための準備を進めている最中っていうのは楽しいものだからなぁ。

このまま楽しいままで終わって欲しいものだな、皆が笑顔で再び集まれるように被害なく終わらせられると良いんだが」

そう私が返すとアルナーは、問題ないと鼻息吹き出してから言葉を返してくる。

「何も問題はない、ドラゴンに比べれば楽な相手だ。

それよりも王都に意識を向けすぎてドラゴン達に奇襲されないかが心配だ、連中はどうやらそういった隙を狙いそうだしなぁ。

だから王都に行ったらさっさと解決して戻ってこい、向こうに長居するんじゃないぞ」

「……まぁ、うん、確かにドラゴンよりはマシな相手、かな。

まさか連中もドラゴンと比べられているとは思ってもいないだろうが……」

私がそう返すとアルナーはからからと笑い……そうしてなんでもない日々は、過ぎていくことになる。

その中で王都の方からは様々な報告が届くことになった。

たとえばリチャードが軍を編成していて、その先鋒は妹でもあるディアーネだとか。

たとえばエルアー伯爵は無事に王都を脱出して領地に戻り、静養しているとか。

たとえばサーシュス公爵はリチャードに味方するでもなく敵対するでもなく、帝国だけに意識を向けていると宣言したとか。

そんな報告が次々に届くことになった。

それらはゲラント達が入手してくれた情報で……当然ながらその全てを知らせてくれている訳ではないので、隣領エルダン達はもっと色々な情報を得ているのだろう。

王都がどうなっているのか、リチャードが軍を編成した目的は何なのか、他の貴族達はどうしているのかなどなどなどなど、きっとかなりの量の情報を手に入れているはずだ。

その信憑性の問題なのか、私達には秘密にしたいのか、そこらの情報がイルク村に届くことはなかったのだが、そこら辺はゴブリン族が上手くやってくれて、海からの様々な視線を届けてくれることになった。

各地の港町で入手した情報とか噂とかを次々に、際限なく届けてくれる。

その中には面白い情報もちらほらとあって……そうしていよいよ、開戦の日が近付いてくる中、私達はそれらの情報を整理するための会議を開催することになるのだった。