作品タイトル不明
冴え渡る
「う~ん? それはなんともしっくり来ない話だな?」
私達のユルトの前に置かれた木の椅子、村の皆からの相談を受けるために用意したそれに座りながら私がそう言って首を傾げると、話をしてくれたアルナーとナタリーが首を傾げる。
「何がしっくり来ないんだ?」
と、アルナー。
「……アルナーお母様から聖地の話を聞いたけど、聖地の話が本当なら全然あり得る話だと思うけど?」
と、ナタリー。
私がその椅子に座ると構ってもらえると学習しているのだろう、犬人族の子供達がわいわい声を上げながら駆けてきて、構って構ってと両手を振り上げて主張してくるので抱き上げてやって、撫で回してやりながら言葉を返す。
「その王子の話は……何度か聞いたような気がするんだが、それからの印象だとしっかりした人なんだろう?
今のこの国のことを引っ張っている立派な指導者だ。
それが聖地関連のことでちょっと躓いたからって、そんな風におかしくなるものか?
元々聖地巡礼が夢だったとか、神様に強い誓いを立てていたとか、神殿通いを続けている敬虔な人物だったと言うのなら分からないでもないが、そんな人物でもないんだろう?」
「……それは……確かにそうだけど、でもお父様、様子がおかしくなったってことは事実なのよ。
これに関しては大事だから、何度も何度も色々なルートで確かめたんだから」
それはまぁそうだろう。
ナタリーの言う通りだ、国の指導者がおかしくなったなんてとんでもない話、間違っていましたで済むものではないだろう。
そんな嘘が流れているとなれば、大騒ぎも大騒ぎ、すぐに犯人探しが始まって犯人には厳しい罰が下されるはずだ。
完全に犯罪で……貴族とかそれに関わる連中が、そんな犯罪を肯定するような真似をする訳がない。
そんなのは馬鹿な真似でしかないから……きっと彼らの言っていることは本当なのだろう。
王子に何かがあっておかしくなった、それは事実として原因は別にあるのではないだろうか?
聖地に行ったのは……本当かもしれない、小メーアの話によると聖地は世界のあちこちにあるそうだから、そこにあると知りさえしたら行くこと自体はそう難しくないはずだ。
そして王都には大神殿があって……大神殿なんてものがあるのだから、聖地が近くにあってもおかしくはないだろう。
そうなると……、
「小メーアに話を聞いてみるべきだろうな。
正直小メーアが何を言っていたのか、連中が何のためにあんなことをしているのか、まだまだ理解しきれてはいないんだが……聖地には色々な道具がある様子だった、人がおかしくなるような道具や神器、薬があってもおかしくないんじゃないか?」
と、そんな考えが浮かんでくる。
聖地の誰かが何かをした、あるいは誰かが聖地の何かを利用してそうした。
そう考えた方が何故だか、どういう理屈なのだかは分からないがしっくり来るものがあった。
「……ディアスがそう言うのならそうなんだろうが……一体全体誰がそんなことを?」
「待って待って、お父様みたいな人がそこらにいるはずないじゃないの。
そんな人がいるなんてそもそも聞いたことないもの、そこらの酒場の雑談でだって身長とか過去の喧嘩話を張り合うみたいに、魔力量とかどんな魔法が使えるかって話になるのよ? それが定番なのよ?
それについていけないような人がいたら嫌でも目立つし、それなら私のとこに情報が入ってきているはずよ」
アルナーとナタリーはそれぞれそんな声を上げて、納得してくれない様子で……でもなぁと首を傾げた私は、子供達をこれでもかと、ワシャワシャワシャと撫でながら声を上げる。
「おーい、小メーア、聞きたいことがあるんだがー?」
地面に向かって出来るだけ遠くに響くように声を上げると、数秒後に、
「うるっさいわね、緊急事態みたいだから許してあげるけど、礼節を弁えたらどうなの、礼節を」
と、どこからか響く声があって、直後地面からにゅっと小メーアの顔が生えてくる。
「ぎゃぁ!?」
ナタリーが声を上げ、
「きゃぅいん!?」
子供達も声を上げ、驚いてしまったのだろう、子供達はそのまま逃げてしまう。
「わざわざすまないな、それでえっーっと……話は聞いていたんだよな?
それなら聖地でそういうことが可能なのかを教えてくれないか?」
子供達の毛の手触りはなんとも良いもので、それを失ったことに少しだけがっかりしながらそう言うと、小メーアは顔だけじゃなく体も生やしてきて……地面にちょこんと、人がそうするように座ってから言葉を返してくる。
「その答えは基本的には『不可能』になるんだけどね。
ただ『可能』になる可能性は存在しているのよね。
……つまり、こちらの知識と技術があれば、そういうことも可能だろうと考える。
でもね、少なくとも大メーア様はそんなことはお許しにならないわ、研究したいと言っただけでも即処分されるでしょうね。
倫理的にありえない話だとお説教をされた上で、僅かな痕跡も残さずに抹消されるでしょう」
「えーっと……つまり、なんだ、そういう薬を作ろうと思えば作れる、のか?」
「薬じゃないけども、そう言う現象を起こすことは可能よ。
そもそもとして貴方が使っている神器、それらの力を思えばそのくらいは出来そうとならないものかしらね?
ただし普通の神々ならばそんなことはしないし、させないの。正義観と倫理観が許さないから。
……ただしこれはあくまでここの、大メーア様の聖地の考え方なのよ」
小メーアの話は今日も分かりにくかった。
何を言いたいのかがハッキリ伝わってこない、変に言葉を濁す部分があるし回りくどいし……もっとハッキリ言ってくれないかなぁと、そんなことも思ってしまう。
と、そんな事を考えていると小メーアは小さなため息を吐いてから、先程よりは幾分かハキハキした様子で説明をしてくれる。
「分かった分かった、出来るだけハッキリ言ってあげるわよ。
つまりね……その、言いにくいことではあるんだけど、世界には魔力を持っている者達を軽視する神も存在しているの。
自分達が作ってやった、本来存在しない存在なんだから、どう扱おうが構わないだろうと、そういう考えでね。
そういう連中なら、そういったことをしでかしてもおかしくはないわね。
貴方達が想像も出来ないような、とんでもない非道な真似をしているかもしれないわね。
……ただし、それが実行可能なのはあくまでその聖地の中だけよ、モンスター駆除とかの特例以外で聖地の外に神々が出ていって、そんなことしでかしたとなったら、数秒後には世界中の神々がその神を駆除するわ。
聖地も含めて徹底的に跡形もなく……そんな存在を許すことはあり得ないの、絶対に何があっても。
そこまでやるには貴方がやったように、聖地での特例投票での許可が必須となっているわ。
……だからまぁ、その王子様が自分の足で聖地に入り込んだのならあり得る話ではあるのだけど……」
「……なるほど、王子が魔力無しという話は聞かないからそれはないと、そういうことか。
……ふーむ……?
いや、しかしだ、私の時のように魔力無しの誰かが連れていったならあり得るんじゃないのか?
それこそ王子を利用しようと思った誰かが、王子を聖地に連れていって、自分の都合の良いように人格を変えるとか、悪人なら考えそうなものだろう?
指導者をそう出来たのなら、どんな悪いことでも可能になってしまうだろうしなぁ」
そう自分で話していると、私の中で何かが噛み合ったようなしっくり来る感覚を覚える。
恐らくこれが正解なんだろうという確信、直感……これならナタリーが王都を離れたがったのも納得だ。
王都はつまり、その悪人に支配されているも同然なんだからなぁ……ナタリー達もその被害に遭ってもおかしくなかった訳で、ナタリーの嫌な予感にも納得がいく。
もしかしたらナタリーの知り合いにも被害者がいたのかもしれない。
そしてそれを直感というか経験というか、今の私のような無意識の何かで感じ取って、それでナタリーはその場から逃げ出したと思うようになったのかもしれないな。
どうだ、今の私は冴えていただろう?
と、そんな考えでもって周囲を見回すと、どういう訳か皆の顔色が悪くなっていた。
アルナーもナタリーも、いつの間にか側にいたらしいエイマに至っては全身の毛が逆だって針の山みたいになっているし、アルハルも尻尾が初めてみるくらいにぶわっと膨らんでいて、あんな風になるんだと驚かされる。
他にも大勢が私の話を聞いていたようだ、伯父さんもゴルディア達も、マヤ婆さんも……ピゲル爺さんに至っては今にも卒倒しそうな程顔色が悪い。
「なんだ、皆してどうしたんだ?」
と、私がそんな声を上げていると、いつの間にやらユルトの屋根にやってきていたらしいサーヒィが声を上げる。
「……とりあえず隣領の連中に知らせてくるぜ、その間にこれからどうするのか、皆でちゃんと話し合っておけよ。
あ、爺さんは話し合いに参加しないで寝ておけ、アンタがこのままおっ死んだなんてなったら、いよいよどうにもならなくなるぞ」
それからサーヒィは皆の返事を待つことなく翼を大きく広げて飛び上がる。
あっという間に、凄い勢いで……普段はあえてゆっくり飛んでいたんだということが分かるくらいの疾さと鋭さで。
それを見送った私は……とりあえずピゲル爺さんを休ませてやるかと肩を抱えてやって、爺さんのユルトへど運んでやるのだった。