軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

草原旅行

――――メーアバダル草原を渡って 関所を初めて通る者達

メーアバダル関所の開放は、多くの者達が切望していたことであった。

商人達は商機を求めて、間者達は情報を求めて、あるいはなんでもない金持ちが道楽でそこの地に向かいたいと願うこともあった。

英雄に憧れる者、メーア布という新素材の産地を見てみたいと思う者、様々な噂飛び交うその地を知りたいという者……などなど、多くの者達がその地に足を踏み入れることを望んでいた。

そしてその開放はいつの間にか行われていた。

大々的に宣言や布告されることなく、いつの間にか、たまたま通りかかった者が気付かなければ誰も気付かない程に静かに行われていた。

マーハティ領主に近い何人かは事前に知っていたらしいが、それも一部の者だけで……開放の噂が街に届くと、多くの者達がその関所に殺到することになった。

……だが、関所に行けば誰もがそこを通れるという訳ではなかった。

「寝床にも限度がある! 一日に関所を通れる者の数はそれに合わせて制限させてもらう!

中に入れば領法に従ってもらう、たとえば奴隷を禁じているため奴隷を連れてくること働かせること全てが厳禁だ!

制限、領法どちらを破っても重罪と見なす、関所破りと大差ない罰があると心得よ!」

関所の主、筆頭騎士クラウスが歩廊の上からそう声を張り上げていて、中に入るまでには相応の時間と手間がかかることが伝わってくる。

だからと言って諦める者はいない、それで諦めるのなら最初から来てはいない。

商人なんかはこれを商機だと見て幕屋や竈を並べて、関所に入れるまでここで過ごすと決めた人々への商売を始めて、辺りはあっという間に賑やかになり……それぞれが幕屋なり設備なりを用意し始めて、ちょっとした村のような光景が出来上がっていく。

そんな中で何人かは関所の中に入ることが許されて、まず受けるのが積荷の検査だ。

小柄な犬人族達が何人もやってきて服から手荷物、馬車の中の隅々にまで鼻や耳を使っての確認が入る。

なんでも前に香辛料で匂いを誤魔化しての侵入があったとかで、その確認は徹底的に行われ、それが終わると兵士達による質問や禁止事項などの説明などがあり、角を生やした亜人達に睨まれながらのソレは場合によって長時間に及ぶこともあるようだ。

説明を全て受けてその内容に納得したとのサインを行ったなら、通行税の支払いがあり、ようやく関所の向こうへと進む許可が降りる。

……のだが、関所内部で休憩をしていく者も多い。

幕屋や木造小屋などの思っていた以上の宿泊設備に兵士達が管理する売店などもあり、そこを見るだけでも中々の観光と情報収集が出来る。

ここで既にメーア布などの名産品も売られていて、ここで買い物を済ませて帰ったとしても損のない出来となっていて、また治安が抜群に良く賄賂など余計な要求もないので居心地も抜群だった。

それでもと誘惑を振り切って進むと関所までの道と同じく森が待っているのだが、今までと違ってきっちりと手入れされた森の中は、獣も虫も毒草も少なく快適で、行楽気分で足を進めることが出来る。

森を抜ければ広々とした草原が待っていて……真っ直ぐに伸びる街道とその両脇にある柵以外には何も見当たらないといった光景が待っている。

広い青い空と草原と街道、ただそれだけ。

爽やかな風が吹き抜けるそこを進んでいくと、何箇所かの休憩所があり、そこにある井戸や小屋や竈は自由に使用出来て、専用の置き場に用意された飼葉と薪なんかも好きなだけ使って良いとのこと。

「使用料金は通行税に含まれていますから」

と言うのが休憩所の見回りをしていた犬人族の言葉で、柵のこちら側から届く範囲であれば、草原の草を馬に食べさせるのも問題ないらしい。

「柵の中に入らなければ問題ないですよ、入るには許可を取ってください。

許可なしで入れば矢が飛んできたとしても自己責任です」

とこれまた犬人族。

ここまで来てそんな違反をする者はおらず、誰もが素直に言葉に従い……休憩ついでに小屋などを確認して更に驚かされる。

寝具やテーブルに椅子といった家具だけでなく、馬車の修理道具や予備の車輪、馬の手入れ道具なども用意されていて、それも使用は自由。

壊した場合は弁償をすることになるが、普通に使用する範囲での損耗は全く問題ないとのことで、休憩所を使った誰もが驚かされることになった。

そんな街道を通り抜けるとイルク村と呼ばれる村が見えてくるが、そちらに近寄るのは厳禁とされていて、その光景を眺めながら旅人用の一帯へと足を進める。

村はあくまで生活の場、生活の場を乱すことは関所破りよりも厳しい罰が待っているそうだが、旅人用にと用意された一帯であれば数日寝泊まりするも良し、商売するも良し、村の誰かを呼んで来てもらって交渉などをするも良しと、望みを叶えるための機会は十分過ぎる程に与えられていた。

何よりその一帯は、今までの休憩所などよりもしっかりとした作りな上に快適で……また酒場や神殿は例外として立ち入りが許されていて、そちらでも様々な欲を叶えたり情報を仕入れたりも出来る。

特に今話題となっている大メーア神殿に入って良いというのは、誰にとっても大きなことだった。

神殿長は王都の神殿でも活躍していた人物かつ領主の血縁で、全く新しい神殿ということで飛び交う質問にも全てそつなく答え、悪ふざけ半分の神学論争も上手くいなし、迷う人々に新たな道を示し、そこに足を運ぶだけでもここまでの旅費と通行税を払った価値があるというものだった。

……そして、それらより何より価値があったのが、領主であるディアス・メーアバダルの鍛錬風景を拝めるということだった。

その時の鍛錬は見た瞬間、困惑し混乱するような内容だった。

川に腰まで使った状態で、複数の魚人族を相手に大立ち回り。

どう考えても勝負にならないし、鍛錬にもならないはずなのだが、どういう訳か善戦し、時には押し勝ってしまうという光景まで見ることが出来た。

相手をする魚人族も只者ではなく、水流や水を操ることが出来るようで、水の道を作り出してそこを泳いで襲いかかるという攻撃を仕掛けるのだが、

「それはもう見たぞ!!」

の一声と共に領主はうまくいなしてしまっていて……自らの目で見た光景が信じられないというのは、誰にとっても初めてのことであり刺激的なことでもあった。

黄金の鎧を身に纏い、変わった意匠の戦斧を振り回すその姿はまさに英雄で、

「あの鎧も武器も神々からドラゴン退治の褒美として下賜していただいたものなんですよ!」

という、側を通りがかった犬人族の説明が更に場を盛り上げる。

川の縁には魚人の他に猫の獣人、なんらかの亜人、他で見ることの少ない鳥人など様々な種族がいて……そうした光景もまた彼らの心を楽しませてくれて、まだまだ日程は半ば、旅の本番はこれからになるのだが、それでも旅人達は大いに満足し、メーアバダルという王国の新領地の光景を、これでもかと堪能するのだった。