軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

交易の中心

ジュウハはあれからイービリスに頼んで、海や海の向こうの情報を学ぶことにしたようだ。

イービリスは海に住まう者の中では、陸地の常識を知っている方でこうして交流することも出来る。

だが中には常識を知らず交流などまず出来ない存在もいるようで、ジュウハはそういった一族まで理解しようとしたが、結局は理解しきれず諦めたようだ。

会話の様子を何度か見に行ったのだが、たとえば目がないとか、食事を一切しないとか、仲良くなった相手と融合するとか、海の中にはそういう一族も暮らしているようで……うん、それは確かに理解しきることは難しいだろう。

海の向こうの島や大陸で暮らす人達の常識も中々難しい。

そしてそこと直接取引するのは時期尚早と、ジュウハはそんな判断を下したようだ。

「直接取引する必要はそもそもないんだ、ゴブリン族に任せれば良い。

任せて色々学び……次か次の世代で交流を持てれば万々歳、気長に行くしかないと判断した。

だからお前達の領地である大入江をこっちも支援するぞ、支援してゴブリン族には交易に力を入れるための『余裕』を持ってもらう必要がある。

子育てや食の心配をすることなく、仕事に励める環境を用意してやるって感じだな。

内政の基礎と言えばその通りで、お前達も既にやってはいるんだろうが、より強力に押し進める。

対価はこっちの港が完成した後の友好関係で良い、こっちとそっちの港を繋げばお互い利もあるだろうさ」

と、そんなことを言っていて、私としては反対する理由がなく、イービリスもまたありがたい話だと受け入れたので、そういうことになった。

そしてその支援の対価としてイービリス達も隣領の南の開拓を手伝ってくれることになった。

海から港の候補地を探し、そこの確保と開拓を始めて……北と南から挟むような形で開拓を進めていくことになりそうだ。

荒野と違ってあちらの南は何もない砂漠、トカゲ神のような支援も受けられないだろうから川も存在しない。

そうなると開拓の難度は相当なものになるが……海から水や食料が届くなら、それもかなり緩和されるだろう。

隣領の結構な人数が既に南に向かっての開拓を始めているそうで、それに弾みがつくのは間違いなく、そこに支援を送るための経由地としてこっちも儲かるということになるらしい。

これは元々エリーが考えていたことに近い形でもある。

王国と獣人国の貿易の経由地として関税収入を得たり、貿易品を預かることで保管費を得たり、何ならイルク村でそれらの取引が出来るようにしたり。

王国、獣人国、海からの物資が集まる集積地であり取引所、自分達で商売をしなくても儲かる仕組み……そのためと街道と関所。

想定していた形とは少し違うが、ようやくそれが本格的に始まるとなって、ジュウハと一緒に帰ってきていたエリーは大喜び、早速そのための準備をしようと駆け回り始めた。

「関税は出来るだけ低くするわよ! 低くしてとにかくここに人と物を集める。

集めて場を整えて経験を積んで、お隣の開拓が成功してもこちらが中心であり続けられるように準備をしておくの。

商売のついでに神殿に足を運んでもらえるようにしておけば、聖都構想にも良い効果があるはずだし、人と物の流れと一緒に教えを広めることも出来るはず。

メーアバダル領を挙げてこれに取り組むわよ! 何ならギルドの全力を注いだって良い!

絶対上手くいくという保証はないけれど、挑戦する価値は絶対にある!!」

いずれは隣領の南が開拓されてそこに港が出来る、そうなると交易ルートや集積地としては競合相手になる。

だから今のうちから改良を進めて、隣領と渡り合えるようにしておく。

更に言うとエリーの考えでは、競い合う相手がいたほうが健全かつ良い商売が出来るようになるらしい。

どんどん法や取引所の改良をして相手の優位に立とうとして健全な発展が促されるとか。

そうやって稼ぐと同時に北方開拓の準備も進めて、いずれはモンスター全てを討伐して北の大地を手に入れて、東西南北を繋ぐ中心地となって更なる隆盛を迎える。

交易路の中心、経済の中心、そこにある聖都とその教えを体現する英雄の一族。

これにより将来もメーアバダル草原は安泰……というのがエリーの考えだった。

イルク村の中にこれに反対する声はなかった、マヤ婆さんやベン伯父さんは大賛成、鷹人族達もドラゴン退治という目的が達成されるので大賛成、犬人族達は私がそうしたいならそれで賛成で、北に興味津々な洞人族としても賛成。

ニャーヂェン族は名誉と安定した暮らしが得られるならと賛成で……メーア達も草原の平和が守られるならと賛成。

アルナーや鬼人族達もメーアと同じ理由で賛成で……何ならその話を直接耳にすることになったエルダンやジュウハも賛成。

エルダン達にとっても良い競合相手は歓迎らしい。

どちらが勝っても負けても良い関係を維持出来るだろうし、お互いにお互いを失う訳にはいかないし、エルダンの最終目標のためにも聖都構想は必要なものであるようで、お互い支え合う関係は変わらないだろう。

……その最終目標については色々と思う所がないでもないが、エルダンとジュウハが決めたことに私が何かを言うのも間違っているようで、特に何も言わなかった。

何も言わずにジュウハを見つめ続けた、言葉以外の態度でこちらの意思を伝え続けた。

もう戦争はごめんだと必死に伝えた。

最終的にジュウハは根負けして視線を逸らしていたので、こちらの思いは十分な程に伝わったのだろう、そうでなければ目を逸らす理由がないからだ。

聖域に至った、そして今まで知らなかったことを知った、見えなかったものが見えた。

このことで皆がよりハッキリとした目標をもって動けるようになって……流れのようなものが大きく変わっていった。

多分ここから一気に色々なことが進んでいくのだろうが……メーアバダル草原はこれからも変わらずに毎日を過ごすのだろう。

人や物が行き交っても、何があっても……。

そしてそれを守るのが私の使命だと改めて痛感することになり……その思いをしっかり胸にいだいて私はしばらくの間、視線をそらし続けるジュウハのことをしつこいくらいに追いかけ続けるのだった。