軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異文化交易

それからもジュウハとエルダンの話し合いは少しだけ続いた。

話し合うならイルク村に戻ってからやれば良いと思ったのだが、絶対に盗み聞きの心配がないという空間ではあることは確かで、ジュウハはそれを利用したかったようだ。

ついでにチラチラと小メーアのことを見てもいて、どうやら小メーアの反応も探っているらしい。

神々を利用するのはどうのと言った矢先のその態度にはなんとも驚くが、ある意味ではジュウハらしく、私はそれが続く間、地図を見るための椅子の一つに腰を下ろす。

妙に固いが木でも金属でもない不思議な椅子、強度はそこまでではなさそうだが、しっかりと役目は果たしていて……そこに座っていると、小メーアが隣の椅子にちょこんと、まるで人間かのように座って声をかけてくる。

「この地図は悪用しようと思えば出来るけど、しないように」

「……もちろんしないさ、するつもりもないし、どう悪用するかも思いつかないな」

「貴方はそうなんでしょうね。

でもあっちの小賢しい男はしそうだから一応ね。

……そして悪用方法は簡単よ、他の採決参加者を殺してしまえば、以降の採決を貴方の好きに出来るというものよ。

そうしたら聖地の力を使って好き勝手なことが出来てしまうのだから」

「……そんな馬鹿なことをするつもりはないが、私以外の誰かがそれをしようとしたらどうするつもりなんだ?」

「本当にね……そう考えて怯えてきた数千年、それがもうそろそろ終わりになろうとしているの。

現時点で純血という形で子を成そうとしている者は存在せず、それが可能な者もほぼ存在しないと言えて……いずれは採決すら出来ない時がやってくる。

つまり貴方達は最後の世代と言える訳なんだけど……その最後の世代のほとんどが良識があって冷静、これといった邪心を抱いていないときたもので、私達は本当に安堵しているの。

大メーア様が貴方を助けたり守ったりした理由の一つがそれね……ドラゴン討伐のお礼もあるし、まともな人間を守りたいと思ってのことでもあるのだけど、貴方達のそういった態度には本当に感謝をしているのよ」

「……そうか。

まぁ、そう言われて悪い気はしないな」

「だから少なくとも私達は、貴方達を害したりはしない。

採決が行われなくなった未来でもその約束は守り続けましょう。

他の聖地がどうするかは知らないけど……そこまでの愚か者はいないと信じています。

……まぁ、また何か困ったことがあったらいらっしゃいな、相談くらいは乗ってあげますよ」

「……ああ、頼むよ」

神々に直接相談するような悩みは抱えないと思うが、善意でそう言ってくれているのだろうから、素直にそう言っておこう。

すると小メーアは蹄のついた手で鼻を軽くこすってから椅子から飛び降り、辺りをウロウロと歩き回り始める。

それはまるでそろそろ出ていけと言っているかのようで……ジュウハ達もそれを察したか、話を切り上げて帰ろうと声を上げ始める。

それに従い、階段を上がっていき……以前のように地上に出ると、あの黒い箱は綺麗サッパリと姿を消して、いつも通りの草原が私達を出迎えてくれる。

それから私達はイルク村の広場に向かい……ちょうど海からやってきたらしいイービリスを見つけて声をかける。

「やぁ、イービリス、よく来てくれた。海は変わりないか?」

するとイービリスはその目を輝かせ、物凄い勢いでこちらへと駆け寄ってくる。

「おお、おお、変わりないとも!

そして聞いたぞ! 聖地に至り神々に認められたと! 流石としか言い様がない!

我らの中にも神々に認められた戦士がいたが……まさか大地でも認められる戦士がいたとは!

最近の海は潮の機嫌が良くてな、味の良い魚が寄ってきてくれている。

今日持ってきた魚もどれも一級品ばかりだ、祝いと思って楽しんでくれ!」

そう言ってイービリスはどこまでも盛り上がって元気に声を張り上げ、そんなイービリスにエルダンやジュウハが話しかけ、挨拶をしていく。

イービリスも隣領の事情は知っていたので話は弾み、それから砂糖を海の向こうに売り出すという話になって、イービリスは手を下顎に当てて唸り声を上げる。

「ふぅーむ、砂糖か。

そのまま売っても良いが、何か加工出来るのなら加工をしていると良いだろうな。

以前話に聞いたが、砂糖で祝い人形のようなものを作るのだろう? ならばその方が興味を持たれるかもしれん。

それとだ、海の向こうではこちらの通貨が通用しないからな、売るにしても売り方を考える必要がある。

対価に求めるのは何なのか、食料なのか宝石なのか……ただどれだけ美味でも食料は食料としか交換しないという連中もいるからな、簡単ではないだろう」

そう言われてジュウハは頭を抱えながら言葉を返す。

「……通貨、通貨の問題があったか……海の向こうに金貨銀貨は存在しねぇのか?」

「存在するかしないかで言えばする、ただし宝飾品の一種のような扱いで通貨のようには使われないな。

また価値も純度もその土地によってまばらだ。

全く価値がない土地もあって、その辺りではそもそも掘り出そうとか、無駄に薪を消費してまで溶かして固めようという発想がない、掘らずとも粒のような砂金などでたまに見つかるらしいが、あまり興味は持たれていないな。

美しい貝殻の方が価値があり、貝殻が通貨として当たり前に使われている土地もあるし……後は石だな、大きな石を通貨としている土地もある。

大きくて重い石程価値があるため持ち歩くのではなく、商いの際にその所有権を譲り、譲る際にその石に関する物語が語られ、それらに価値が発生するという考え方だ。

そこに砂糖を売った場合は、大きな石の所有権と物語だけがこちらに届くことになる」

「……い、異文化にも程があるッ!!」

頭を抱えたジュウハが膝から崩れ落ちる。

「あー……イービリス、通貨がないのなら珍しい植物とかはどうだ?

なんだったか、投げると弾む樹液とか色々あるんだろう?

エグモルトが色々欲しがっていたし、砂糖も植物由来のものだからなぁ……そういったこちらにはない植物との交換ならなんとかなりそうか?」

私がそう問いかけるとイービリスはこくりと頷く。

「その辺りは先程言った通りだな、食料は食料と交換。その考え方は植物と植物でも当然通じる。

砂糖もまぁ、植物の一部ではあるだろうから、そのように交渉したなら珍しい植物や木材という形での入手は可能だろう。

ただし砂糖にどれだけの価値が生まれるかは我らには分からない。

実際にやってみるしかないというのが正直な所だ。

我らもイルク村で馳走になり、その美味しさは十分に知っているから無価値にはならんとは思うが……確たることは何も言えん」

イービリスのその答えに希望を持ったのだろう、崩れ落ちていたジュウハはどうにか復活し……それからイービリスの手を握り、あれやこれやと海の向こうの各地についての質問を始めるのだった。