軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

議決

伯父さんが語り始めた古代の話は、とんでもない内容だった。

……古代の人々は瘴気を便利に使っていたらしい。

魔力に変換することで魔法を使ったり、魔石炉のようなもので燃料として使っていたり。

瘴気があまりにも便利なものだからどんどん使い方を工夫するようになって……そのうち武器としても使うようになっていったそうだ。

敵国の土地を瘴気で汚染するという使い方で、その使い方が広まるとそれはもう大惨事となったそうだ。

お互いに使い合って際限がなくなり、畑から作物が採れなくなり、動物や鳥、魚も減ってそれらの肉が食えなくなり。

古代の世界は色々なものに頼っていたとかで……食事や水くみも全部、先程の吸い込まれ扉のような不思議な仕掛けに頼っていて、健康管理まで頼っていた。

毎日毎日仕掛けに作らせた大量の薬湯のようなものを飲むことで健康を維持し、運動などはせず全てを仕掛けに任せて……そんな生活に染まりきっていたものだから、瘴気汚染のせいで一つの仕掛けが破綻するとあっという間に破綻が連鎖し、生活全てが破綻してしまったそうだ。

食事をしたくても料理の仕方が分からない、水くみの仕方が分からない、仕掛け無しでの健康の維持の仕方が分からない。

そうやって人々が苦しんでいる所に現れたのが瘴気によって生まれたモンスター達。

古代の人々は今とは比べ物にならないくらい強力な武器を持っていて、普段であればモンスターなんて簡単に倒せたのだが、色々な仕掛けが破綻している状態ではそれも難しく、敗北を重ねることになり……そして地下に逃げた一部の人達を残して全滅してしまったんだそうだ。

生き残った人達は地下でどうにか生活を立て直し、元の生活を取り戻そうと奮闘した。

瘴気を浄化する仕掛けを作ろうとしたり、そういう生物を生み出そうとしたり。

……そうして生まれたのが亜人と呼ばれる人々で、彼らは瘴気を吸い込んで体内で魔力に変換、それを魔法という形で消費するという仕組みを体内に埋め込まれた、らしい。

それだけでなく亜人は、人の……人間族の役に立つように作られていた。

森や植物、畑は生活に欠かせないので森人族を、鉄の道具や鍛冶だって欠かせないから洞人族を、人の側にいて魔法で人を助けるために魔石を身に宿した石人族を。

更に獣人も作っていった、亜人に動物の特性をもたせることで人の役に立つようにし……その中にはメーアのような、獣に近い姿の獣人も多くいたそうだ。

そんな風に生き物を作り出すなんてのはもうとんでもない話だが、古代人であっても全くの無から作り出すことは無理だったようで……自分達の血から亜人や獣人を生み出したらしい。

つまりは人間族と亜人や獣人は血縁ということになる、似た姿にもなる、だから子を成すことが可能で……獣人国で起きている血無し騒動というのは、混血を繰り返すことで様々な部分に宿っている人間族としての血が集約され、血が薄まったのではなくその逆、人間族としての血が濃くなることによって起きている人間族の姿に戻ろうとする作用、なんだそうだ。

しかしそうやって人間族の姿に近付いたとしても亜人は亜人、人間族とは全く違う生き物……ということになるらしい。

「……ま、儂にとってはどうでも良いことだがな。ディアス、お前はどう思う?」

ある程度話が進んだ所で伯父さんがそんな声を上げる。

伯父さんや私以外の皆はそれぞれ……突然の話に驚いてしまって疲れたのか、並ぶ椅子に座っていて……伯父さんに向き合っているのは私1人、真っ直ぐ視線を返しながら言葉を返す。

「どうと言われても困るな、自分がどういう生き物なんてのは元々知らなかったことだし、興味もないからなぁ。

……だが話を聞いていて思ったのは、もう人間族の時代は終わったんだろうなということだ。

魔法が使えなくて特別な力もなくて、ただ数を減らすのみの人間族……ならもう大人しく退場して亜人と呼ばれる人達に世界を明け渡した方が良いんだろうと思う。

一度滅んでおいてどうこうとし過ぎと言うかなぁ……諦めが悪いにも程がある」

私のそんな言葉を受けて伯父さんはにっかりと笑い、それで良いと表情で語ってから話を続けてくる。

「そう、それが普通の考えというものだ、儂もそう考えた。

しかし地下に潜った連中というのは諦めが悪かったらしい、どうしても人間族の世界を取り戻したくてまず自分を不死の存在に写し込み、それから色々な武器や道具を拵えた。

それがお前の持っている戦斧などの神器だ、彼らの言う本当の人間にしか使えない武器や道具。

文明が滅んでも使えるように原始的な武器にしながらも、宿っている力は強力無比。

……未だに諦めておらん連中がおる、そいつらは亜人にしか効かない毒なんてものを作って隠し持っておる。

全く持って度し難い、おぞましく醜悪で耐え難い悪だ。

……だが連中は妙なものに縛られていてな、その毒を使えんでおるのだ」

毒と聞いてすぐさま戦斧を握り込み、この地下の部屋全てをぶち壊してやろうとしていると、伯父さんがそんなことを言いながら手を上げて、私の動きを制止してくる。

「賛同がいるそうだ、不死になった者を除いた人間族過半数の賛同。

これは連中の社会において無視出来ぬものらしい……聖地に至った人間族による過半数の賛同を持って使用可能とすると、そう決められていて未だに使うとの意見が過半数を越えたことは一度もない。

……そして使用と同じく破棄にも過半数の賛同が必要となっている」

……ああ、なるほどと納得する。

伯父さんが私をここに連れてきた理由がよく分かった、伯父さんの話が本当だとするなら今ここにいる人間族は伯父さんと私、その両者が賛同したならたったの2人であっても過半数越えとなる訳か。

「分かった、そんなものさっさと破棄してしまおう」

と、私がそう言った瞬間、伯父さんの背後にあった横長の板が光を放ち……そこに何か不思議な絵図が表示される。

……複雑な形の何かを描いたもの、地図だろうか? 地図にしては随分と細かいし広いし、複雑な図形をしているが……。

そんな絵図に目を奪われていると、小メーアが私達の前までトコトコやってきて声を上げる。

「お待ちなさいな。貴方達の気持ちはよく分かるけども、焦るんじゃないわよ。

あの毒を破棄するというその方針には賛成よ、ベンディアの言う所の不死の存在、私はもちろん大メーア様もお喜びになることでしょう。

でも世界にはこれだけの聖地があるの、そして聖地で暮らしている人間族も多くいる、簡単に過半数の賛同は得られないわよ」

と、小メーアがそう言った瞬間、絵図にいくつもの光が灯っていく。

その一つの光が一際大きく『ここ』と書かれているのを見るに、地図の中央辺りにあるのがメーアバダル草原なのだろう。

そして東の……恐らく隣領辺りにも一つあって、山を越えた北には一切なく、聖地は主に地図の下半分に集中していて……30箇所程があるようだ。

……モンスターは北の山からやってくる、ということは上半分は瘴気に汚染された地域ということになるのだろうか?

「この全てが賛同してくれるかなんて誰にも分からないの、むしろ下手に議決を取って刺激をしてしまったことで使用に傾いてしまうかもしれない。

事は慎重に行うべきよ、だからまずは情報を―――」

と、小メーアがそう話している所で伯父さんが構わず声を上げる。

「問題あるまい、人間族はそこまで愚かではないだろう。

それに情報なら儂なりに集めておいた、以前持ち帰った聖典はしっかりと使わせてもらっていたしな」

と、そう言って伯父さんは懐から一枚の黒い板を取り出す、独特の質感で……ガラスにも似た質感の板、それを伯父さんがトンと叩くと光が放たれて、ガラスの部分に様々な文字が表示される。

「……さぁ、議決の時だ。愚かな遺産である毒を始めとした虐殺兵器の廃棄を求める」

と、伯父さんがそう言うと……地図の光一つ一つが数字と思われる文字を表示する。

青色の数字と赤色の数字、メーアバダル草原の数字が青色であることを考えると、青色が破棄に賛同しているということなのだろう。

そして……地図のほとんどが青色だった、赤色もあるにはあるがほんの少しだ。

隣領の聖地が赤色なのは少し気になったが……間違いなく過半数が破棄に賛成してくれているのだろう。

世界の何処かに住まう人々が、恐らく暮らしや文化、言葉も何もかも違う人達が、伯父さんの考えに同調してくれている。

それならば当然、

「私も破棄だ、破棄だけでなく二度とそんなものを作らないようにしてもらいたい。

亜人だろうが人間族だろうが、今を生きる人々を殺す毒なんて許されるものではない。

既に滅んだ古代人が余計なことをしようとしゃしゃりでて来るな」

と、私がそう言うとメーアバダルの青色の文字が変化する、恐らくあれが2という意味なのだろう。

聖地から帰還して以来、伯父さんはずっとこの時を待っていたという訳か、あの聖典で情報を集めて準備をして……もしかしたら各地の人々と手紙なんかを送りあって説得もしたのかもしれない。

そして確実に過半数が取れると確信を得て、私をここに連れてきたという訳か。

……まぁ、過半数が取れるかどうか怪しい状況だったら、私は間違いなく全ての聖地を破壊しようとしていただろうし、伯父さんの判断は正しかったのだと思う。

「……まったくまったくベンディア貴方は、勝手なことばかり。

いえ、嬉しく思いますし感謝もしていますよ? これで我が子らが虐殺されることはなくなったのですから。

ですけど、少しは相談してくれても良かったのではないかしら? こちらだってそうしてくれたら相応の準備を―――」

「知らせたなら対策を打たれたかもしれんだろう。

儂はまだお前らをそこまで信用しておらんのだ、古代人の残滓共が横で繋がっていないとどうして言える」

またも途中で声を上げる伯父さん、その態度を受けて小メーアはやれやれと首を左右に振って、大きなため息を吐き出すのだった。