軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

竜光

亀が弱くなり、甲羅も柔らかくなってしまって……素材としての価値は無くなるものと思っていたのだけども、そんなことはないようだ。

ナルバントが言うには、密度が下がったことによって透き通るようになり、柔らかい分加工が簡単で、それでいて普通の素材よりは頑丈で、魔力での操作も効くとなって、ありがたい素材になってくれたらしい。

柔らかくなったので装備などには向かないが、他の使い道はいくらでもあるとかで……その一つが眼鏡だった。

ヒューバートやエイマが使っている眼鏡、その枠に使ってはどうか? と、ピゲル爺さんからの提案があり、ナルバントが試作してみたところ、これがもう、ヒューバートとエイマが歓喜の声を上げる程の出来上がりだったようだ。

何がそんなに良いのかというとまず軽い、もともと甲羅はそこまで重いものではないらしく、その上密度とやらが低いので鉄などで作る枠よりうんと軽く、だけども頑丈でちょっとしたことでは壊れず変形もしない。

仮に壊れてしまってもニカワでの接着がよく効くとかで修理が簡単で、変形も魔力を流してやれば一瞬で直る……だけでなく、魔力での操作までが出来る。

魔力を流すことで、弓の弦のように固くしたり柔らかくしたりといったことが可能で、その応用で使う人の顔に合わせた変形が出来たり……手を使わずに位置を直したりも出来るらしい。

私は眼鏡を使ったことがないのでよく分からないのだが、唐突に位置がズレて困るということは日常的にあることなんだそうで……手を離せない作業中などに起きるのは結構な煩わしさなんだそうだ。

それが手を使うことなく魔力を流すだけで解決が出来るというのは画期的だとかで……先程の変形しない壊れないの話と合わせて、歓喜の声を上げる程に嬉しいことだったようだ。

それと……洞人族が加工した亀の眼鏡はとても美しいというのも利点の一つと言えるだろう。

ガラスのように透き通っていて、宝石のように色がついていて……独特の模様が中に封じ込められていて。

甲羅の部位ごとに色や模様が変わるとかで、宝石とはまた違った落ち着いた美しさを放つそれは、アクセサリーとしてもかなりの価値がありそうで……普段眼鏡を必要としていない面々まで興味を持つ程のものだった。

そんな上等な枠に嵌めるのだからと、中のガラス……レンズと言うらしいが、それも洞人族達が、上等なものを作ってくれることになったようだ。

「あのレンズは適当に作っただけで、それぞれの目に全く合っておらん。

どこの職人モドキが作ったもんかは知らんが、あんなもんを商品にしておる時点で程度が知れるというものじゃのう」

工房で、私がそのレンズ作りを見学していると、レンズの研磨という作業を……グルグル回転するよく分からない道具でやっていたナルバントがそんな声を上げる。

水をかけながらグルグルグル……ドラゴン素材を貼り付けた丸い棒が回り続ける道具にレンズを擦り付けると、ヒューバート達に合った形になるんだとか?

「……ふーむ、それぞれの目に合っていると、楽になるものなのか?」

と、私が返すとナルバントは、もちろんだと言いたげに頷き……私にはよく分からない理屈をあれこれと語り始める。

そんな私の肩にはエイマが、背後にはヒューバートがいて……、

「エルダンさんが用意してくれた一級品なんですけどね……?」

「……王都の職人では一番の方の名品だったのですが……」

と、それぞれそんな声を上げるが、ナルバントには届いていないようだ。

「―――とまぁそんな訳なんじゃが、エイマ嬢ちゃんのレンズは何しろ小さいからのう、流石に手間がかかって一晩は徹夜せんと無理じゃのう。

だがヒューバート坊のはもう少しで出来上がるから、それで本当の職人の腕というものを思い知るが良いのう。

……まぁ、出来上がってからも何度かは調整の研磨をしなきゃぁならんからのう、 竜光(りっこう) のフレームに嵌めるのはそれからになるのう」

一通りの説明を終えたナルバントはそう言って……磨いていたレンズを持ち上げてじぃっと見つめ始める。

竜光というのはナルバントが今回の素材につけた、獣人国風の名前だ。

獣人国にはウミガメの甲羅を使った素材があって、それによく似た音というのと、光をよく吸い込んで綺麗になるから……というのがその名前にした理由だそうで、他の案もなかったのでそのまま採用となっている。

言われてみると確かに獣人国に贈るための物なのだから、そういう名前の方が良いのだろうなぁ。

念の為にペイジンに確認してみた所、問題ないどころか縁起も勘所も良いとかで、両手を振り上げての大賛成をしてくれた。

両手どころか舌まで振り上げながらの大ジャンプをする程の喜びようで……そのままいくらかの竜光素材の仕入れ交渉をし始めた。

これにはエリーが上手く対応してくれて……希少素材だからどうしても高値となること、まず優先すべきは獣人国への贈呈なので、流通や売買はその後にすることなどなど、色々な条件をつけた上での契約となったようだ。

……とまぁ、そういう訳でジュウハとのモンスター狩りは思っていた以上の成果を上げることになった。

ジュウハであってもこんな結果になるのは予想外も予想外……かと思いきや、そうでもなかったようだ。

曰く、

『お前は運が良いからな、こういう結果を期待していなかったかと言えば嘘になるな。

……それと神々が動いてくれるかもという期待もあったさ。

お前は神々に愛されているようだから、こっちの事情を察して神々がこっちにドラゴンを追いやってくれる……みたいな感じだな。

今回のは様子を見る限りそういうのではなかったようだがな……ま、お前の強運様々だったよ』

とのことだった。

……運に期待するというのはなんともジュウハらしくない話だったが、戦争以外の部分では賭け事が好きだったり、冒険の真似事のようなことも好きだったりするし、そちらの方が本当のジュウハらしいのかもしれないな。

ともあれ何もかもが上手くいき、エリーの外交官としての初仕事も明るいものとなりそうだ。

それは誰にとっても嬉しいことで……ドラゴン討伐のことも含めた祝いの宴の準備をアルナーが進めていたりもする。

討伐だけでなくドラゴンが弱体化する程、瘴気が弱まったことも祝うとのことで……今回の宴には鬼人族からも何人かが参加してくれることになっている。

こちらに嫁いでくれた女性の家族とか、ゾルグとか……鬼人族の誰にとっても故郷の瘴気が薄まり、危険がなくなるというのは嬉しいことで、あちらの村でも後日宴が行われるとかで、そちらには私やアルナー、セナイ達も参加することになっている。

……きっかけは本当にただの気まぐれだったのだけども、ここまでの結果となったのはなんとも気分の良いことで、それから私はしばらくの間、その気分の良さに浸りながらナルバントのレンズ作りを見学するのだった。