軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雑談だったはずの会話

――――賑やかな広場で アルナー

アルナーとネハが中心となって用意した食事は無事に完成となって……それらが並べられた広場は、美味しい食事を喜ぶ声と談笑とで賑やかさに包まれていた。

誰もが笑顔で腹を満たしていて……そんな広場を見回したアルナーは、隣に座り同じように広場の様子を微笑みながら見守っているネハを見て、改めてその腕に感心する。

料理の腕前は明らかにネハの方が上だ。

奴隷時代も炊事を任されていたそうで、エルダンが立ち上がると軍に同行して食事を作り続け、そして今の立場となっても変わらず台所を預かっている。

作ろうと思えばアルナーの料理を上回る、より美味しく印象深いものを作れたはずなのだが、あえてそうはせずにアルナーの料理を引き立てるようなものばかりを作り、この場を整えてくれた。

それでいてディアスやアルナー達に食べさせたかった料理や、今日のために準備をしていた料理はきっちり仕上げていて……何の相談もなしにそれが出来るネハの料理の腕前は、アルナーの遥か上だと言えた。

前回も腕の差をある程度感じ取ってはいたが、今回は更にその上を行っていて……改めて感心し頷いたアルナーは、尊敬するネハと雑談でもしようと声をかける。

「そう言えばネハ、孫の誕生が嬉しかったのは分かるが、それにしても少し祝いの品が過剰過ぎないか?

エルダンも以前色々と贈ってくれたし、神像まで作ってくれていると聞く……私達としてはそこまでしてくれなくても良いんだぞ?」

「……それは……そうね。アルナーちゃんには話しておいた方が良いかもしれないわね。

もちろんあの子の体のことや、孫の誕生のことに対する感謝の気持ちも大きいのだけど……正直に言ってしまうと他にも目的というか狙いがあるのよ。

つまりね、メーア神殿にはもっともっと大きくなってその教えを広めてもらって……新道派に代わると言ったら良いのか、新道派に受け入れられない者達の受け皿になって欲しいと言ったら良いのか、そんな存在になって欲しいと思っているの。

新道派は今王都でかなりの影響力を有していて……それにリチャード王子の改革の成功が合わさったことで、大変なことになっているから、今のうちにできる限りの応援をしておきたいって気持ちがあるの」

「リチャード? リチャードというのは確か……」

アルナーがそう返すとネハはこくりと頷いて……エルダンが収集したという王都の最近についてを語り始める。

王都やその周辺、そして騎士団領は今、いつにない好景気となっているらしい。

理由はリチャード王子が始めた改革……でもあるそうだが、何よりも帝国の領地を獲得したことにあるんだそうだ。

穀倉地帯と言って良い収穫量を誇る土地や、今まで王国になかった作物の名産地、そしていくつかの港を得て、その統治が思っていた以上に上手くいっていることにより、かなりの税収増があったようだ。

去年はまだ戦後のゴタゴタが残っていたが、今年となってそれが落ち着いて、リチャード王子当人が驚く程の増額となり……その上、リチャード王子の改革でも税収増となっていて、そうやって集まった税をリチャード王子は、どんどん吐き出し道や砦、救護院の整備などにあてていて、結果の好景気ということらしい。

更に騎士団に騎士団領を与え、多くの資金と権限を与えたことで騎士団の戦力が強化され、賊などの討伐が積極的に行われることになり治安も改善した。

資金と戦力、その両方を手にしたリチャード王子に逆らおうとする貴族も稀で、抵抗勢力が壊滅状態にあるため、政策の決定、実施が迅速で、人々の暮らしは安定化。

安定した結果、娯楽に費やす時間と金が増えて、それがまた好景気を呼び起こし……と、好循環が出来上がっているんだとか。

その立役者であるリチャード王子当人は、たまたま時勢と政策が上手く噛み合っての一時的な成功でしかない、まだまだ道半ばで本格的な改革はこれからだと言っているそうだが、王都の民達はそうは考えていないようで……リチャード王子の名声は日々高まっている……らしい。

「―――でもね、王子はこれを歓迎していないようなのよ。

王子の名声が高まり、人望が寄せられる度に囁かれるのは立太子及び、王位の継承……王子はそんなことは時期尚早、今は戦後の立て直しに注力するべきだと考えているのに、周囲が黙ってはいない。

ひどい時には民達が王城を囲んで大声を張り上げて立太子なんかを迫っているようで……王子は困り果てているそうよ。

……だというのに王都の神殿はそれを利用しているそうでね、むしろ神殿が煽ったからこその民達の暴走だったようで、王子とその周囲はどうしたものかと頭を悩ませているそうよ。

もしこの流れで立太子が成ったなら、王子は不本意な借りを神殿に作ることになって……そうなった際に新道派達がどんな行動を起こすのやら、予想も出来ないという訳ねぇ」

「ふーむ……実際には何もしていないのに、人々を煽ることで自分の手柄にしようとしている連中がいるのか。

全くロクでもない……確かにそんな連中よりはメーアの神殿の方が良いのかもしれないが、しかしメーアの神殿だぞ?

私達はメーアと共に暮らしているから気にしないが、ベンはメーアの考え方や言葉も重要視していくつもりのようで……親しみがない者にとっては新道派と同じようなものになるかもしれないぞ?

新道派対策を本気で考えるのなら、エルダン達はエルダン達で神殿を作った方が良いと思うがなぁ」

と、アルナーが返すとネハは、初めて見せるような渋い顔をし、苦笑をしてから言葉を返す。

「それが出来れば良いのだけど、あいにくアタクシ達の下には神様がいらっしゃってないから、それは難しいのではないかしら。

あるいは奇蹟の一つでも起きてくれたら良いのだけど、そういったことも起きていないし……。

奇蹟と言えば新道派の神殿でも困ったことになっているようね……なんでも各地で伝統ある儀式が失敗に終わっているんだとか。

儀式に必要な神器が力を失ったり、神々の声が聞こえなくなったり……これらは今に始まったことではなく、数年前から起きていたことらしいけど、最近になってその数がどんどん増えていって……一部の神殿では民が離れて大変なことになっているみたいね。

そういった状況もあって焦った新道派が、あれこれ動いているのかもしれないわねぇ」

「ベンやフェンディアのような真面目な神官や、パトリック達のような男気のある神官から見放されているくらいなのだから、神々に見放されたとしても驚かないな。

……もしかしたら神々も見放してこの辺りに移住してきたのかもしれないし、そのうち隣領にも顔を出してくれるのではないか?

もしまたあの変なメーアや大トカゲが現れたら隣領にも顔を出すよう、頼んでおくとしよう」

「あらあら……もしそうなったらとーっても素敵なことね。

……そしてそんなことになったらまたお礼をしなければならないし、大メーア神殿の名声はますます高まるだろうし、アタクシ達が神殿を作ることはないでしょうね。

作るとしても大メーア様の第二神殿とかになるんじゃないかしら」

「……ん? ああ、そうなる……のか?

ふぅーむ……第二神殿が出来たとしたら、パトリック辺りが神殿長になるのか?

……今からそのつもりでベンに神殿長としての仕事を叩き込んでもらった方が良いのかもしれないな」

「うふふふ、そうね、そうなったらとっても素敵なことね」

と、この会話をアルナーは、食後にベン達にそのまま伝えることになる。

雑談の……ちょっとしたおしゃべりのつもりだった会話をきっかけに、パトリック達が異様に張り切ることになっていくのだが、アルナーは全く気にした様子もなく……ベンは甥嫁のやらかしに頭を抱えることになるのだった。