軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヤテン家の使者

雪原の中、盗賊達を縛り上げ、一箇所に集め、何かしでかさないように囲み……領外追放という判決を下すかと居住まいを正していると、どこからか誰かの声が響いてくる。

「し、しばらく! どうかしばらく! しばらくお待ちを!! しょ、しょ、処刑だけはお待ちをぉぉぉぉ!!!」

甲高い声だけども、その奥には太さがあり、女性の声ではないようで……しかし領兵の誰かの声という訳でもなく、聞き慣れないというか初めて聞く声だなぁと、その声のする方を見やっていると……何人かの領兵達の後を追いかける形で白い毛に覆われた長い首の、ヤテンそっくりの2人の人物と何人かの獣人達がこちらに駆けてくる。

ヤテンそっくりの2人は毛と同じく白い服を着ていて、袖がやたらと大きくそれを振り回し……裾もまた大きいようだが、紐のようなもので縛ることで走りやすくしているらしい。

そんな感じのヤテンやキコの服に良く似た服を着ていることから獣人国の者であることが分かり……白い服を覆うように枯れ草などを束ねて作ったらしい不思議なマントを肩にかけていたりもする。

そんな集団は「しばらくしばらく」と繰り返しながらこちらに駆けてきて、私と盗賊の間に入り込んできたかと思えば、雪に膝を突き手を突き、深々を頭を下げてから声を上げてくる。

「公のお怒りはごもっとも! ですがどうか、どうかお慈悲を頂きたく……!

この罪人共は獣人国が責任を持って罰しますゆえ、どうかどうか、処刑だけはご勘弁いただけないでしょうか……!」

「ヤテン家兄弟、伏してお願いいたしまする!」

と、ヤテンそっくりの2人。

その言葉から2人がヤテンの関係者であることが分かり……ああ、そう言えば向こうでは家名を先に名乗るんだったな……そうすると彼らはヤテン改め、ライセイの子供達なのだろうか?

……領兵達が連れて来たということは、どうやら関所を通ってここまで駆けてきたようで、その息は絶え絶えといった様子だ。

「あー……とりあえず頭を上げて欲しい。

確かに盗賊に侵入されて困りはしたが、処刑をしようなどとは思っていない。

これから領外追放の判決を下そうとしていた所で……君達が心配するようなことにはならないだろう。

……ところで君達はヤテン・ライセイ殿の子供なのかな?」

ダレル夫人に習った堂々とした態度と表情でもって、相手から目を逸らさず、力を込めたはっきりとした声でそう告げると、ヤテン家の2人はバッと顔を上げ、喜び半分驚き半分という表情を見せてから立ち上がり、それぞれ自己紹介をしてくれる。

「これは申し遅れました、自分はヤテン家長男、ライキリと申します」

「次男、ライマルと申します!」

「私はメーアバダル公爵ディアスだ。

……それでライキリ達は、この盗賊達を追いかけてここまで来たのかな?」

私がそう返すとライキリは、後方に控えている部下なのか護衛なのか、様々な種類の獣人達に指示を出し、彼らが背負っていた黒塗りの箱をこちらに持ってこさせ……その一つを手にとって蓋を開け、中からこれまた黒塗りの小さな箱を取り出し、こちらに差し出しながら言葉を返してくる。

「元々の目的としましては、父ライセイの命で、こちらの家宝を色々とお世話頂いたメーアバダル公にお贈りするためにやってきたのですが……その道すがらこの愚か者共がよからぬことを企んでいると知り、事態を収拾するため慌てて関所に向かい……そして関所に到着しました所、この騒ぎが起きていると知り、更に大慌てとなってここまで駆けて参った次第です」

その言葉の途中、事態を聞きつけたらしいエイマがこっそりとやってきて、私の背中を駆け上り、私の冬服のフードの中に潜り込み……そこから小声での指示を出してきて、それを受けて私は、指示通りに言葉を発する。

「……そうか、わざわざのご足労痛み入る。

こちらとしては被害らしい被害も特に無く……お父上であるライセイ殿には良くしてもらった、この件についてはここまでとしよう。

そして贈り物のため、わざわざご足労頂いたこと感謝の至りだ、ありがたく受け取らせていただこう」

と、そう言って差し出された箱を受け取ると、ライキリとライマルは本当に嬉しそうに笑顔を弾けさせ……それから改めて盗賊の処遇についての話をし始める。

曰く、盗賊達は獣人国で特別な仕事を担っていて、その仕事は盗賊達にしか出来ないことであるらしい。

そのため命はどうにか助けたいと考えていて……私が処刑をしないと言ったことを本当にありがたく思っているようだ。

とはいえ隣国に盗賊行為を目的として入り込んだことは重罪で……重罪人として厳重な監視をした上で労役を課すので、それでどうにか許してくれとのことだった。

「もちろんそれだけで許されるとは思っておりませぬ、これだけの騒ぎとなった以上相応の賠償をさせていただくつもりです。

賠償につきましては、事情を知っているペイジン商会に任せたいと考えており…公にご満足いただけるよう、取り計らうようにとお願いしておきまする」

と、そう言って説明を終えたライキリとライマルは改めて深く頭を下げ……私はそんな2人に出来るだけ柔らかくした声を返す。

「そうか……気心の知れたペイジン商会が取り計らってくれるのなら、こちらとしても文句はない。

賠償までしていただく以上、今後この件について問題にする気もなく……これ以上の謝罪は不要だ。

……それよりもこんな寒空の下、雪に伏して体が冷えたことだと思う、どうか村に立ち寄り、体を温めて行って欲しい」

「……そのお言葉はありがたく頂戴しますが、この者達をこのままにしておく訳にもいきませんので、今回はここで失礼したく思います」

「お言葉だけありがたく……」

「……ではせめて、関所までは同行しそこでちょっとした歓待をさせて頂こう。

何しろこの人数だ、見張るにしても連行するにしても容易ではないだろう……関所には何日でも滞在してもらって構わないので、獣人国から十分な人手が届くまでの間、休んでいかれると良い」

私がそう返すと2人は私の提案がよほどに嬉しかったのか、表情を綻ばせ、先程とはまた違った……柔らかい仕草で深く頭を下げる。

2人が関所での歓待を受け入れたことで、そのことを知らせるために犬人族達がすぐさま駆け出し関所やイルク村に向かって雪煙を上げていき……そして私達は盗賊達を連行するための準備を始める。

持ってきたロープで改めて盗賊達をきつく縛り上げ、縛ったロープを連結させ……と、皆がそんな作業をしている様子を見守っていた私は、脇に抱えていた小箱のことを思い出し、その中身を確認することにする。

蓋を縛っている赤い紐解き、そっと蓋を引っ張り開けると……中には短剣程の長さの、金色の……いくつもの鈴をぶら下げた棒が入っていた。

金色の取っ手があって、その取っ手には犬か狼の彫刻がされていて……そして取っ手から伸びる棒が3枚の丸い板を貫いていて……丸い板の縁から木の実のようにいくつもの鈴が垂れ下がっている。

ライキリ達は家宝と言っていたが……楽器? が、家宝というのは中々珍しいように思える。

獣人国ではよくあることなのだろうか? なんてことを考えながらそれを手に取ると……いつもの違和感があって、私はフードの中のエイマに小声で語りかける。

(エイマ……いつものだ)

(またですか……とりあえずここでは使わないでください、人目が多すぎます。

歓待と送り出しが終わった後、イルク村に戻ってからどんな力があるのか確かめましょう)

するとエイマはそう返してきて……こくりと頷いた私は、とりあえず盗賊達の連行だとか、拘束が完了するまで待ち、それからベイヤースに跨り……セナイとアイハンを含む皆と共に西の関所へと向かうのだった。