軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

命令

――――ディアス達の活躍を見守りながら セナイとアイハン

ディアス達の登場で決着はついたと言って良いだろう。

何しろ侵入者達の主な武器が弓矢なのに、弓矢が一切通用しないのだから勝負にもならなかった。

その上、ディアスや領兵達は、アルナーや鬼人族を相手とした鍛錬で弓使いとの戦いに慣れていて……ディアスは投げ斧で、領兵達は槍や投げナイフで、犬人族達はその牙で次々に弓の弦を切断していき、あっという間に侵入者達を無力化していた。

戦争での経験か、無力化した後の制圧も手慣れたもので、制圧した侵入者達を拘束し、移動させ、一塊にして監視するのも何十回もやってきたと言わんばかりの手慣れた様子で……最初は抵抗していた侵入者達も、抵抗が無意味と知ると項垂れ……大人しく拘束された上で何も言わず一塊になる。

一箇所に集まりしゃがみ込み……そうしながら侵入者達が魔力を練り上げているのを、セナイ達は見逃さなかった。

またあの魔法だ。

一体何が狙いなのか、セナイ達に魔法を向けてきて……セナイ達の魔力がそれを弾くと歯噛みして恨みがましい目を向けてきて……何がなんだかよく分からないが、何かをしようとしているらしかった。

それを受けてセナイ達は改めてその魔法がどんな魔法であるかの解析を始める。

馬を休ませるために下馬した状態でセナイは侵入者達を睨んで、アイハンは瞑目して……2人で寄り添いお互いを支え合い、どちらかにおかしな変化が現れたならすぐに気付けるようにしながら、魔力を練って……。

そんなセナイ達の周囲には防衛隊の犬人族達の姿があり……侵入者への警戒を解いていないのだろう、牙を向き毛を逆立たせながら侵入者達へ「グルルルル」と唸り声を浴びせかけていた。

少しでもおかしな動きをしたら噛んでやる。

そんな表情でもって犬人族に睨まれている侵入者達は、全く意に介さずにただセナイ達へと視線を向け続けて……そうしてその一人が、セナイ達へと向けて声を投げかける。

「森を捨てた森人の子というのは見た目だけはそれらしいが、その中身はなんとも醜いのだな」

その言葉を受けてセナイとアイハンは、意味が分からずただただキョトンとした表情を浮かべるのだった。

――――暴言を投げかけながら 森人族達

支配の魔法にはいくつかの対抗策が存在していた。

一つは魔道具を持つこと、これによって魔法を防いだり弱めたりすることが出来る。

次に相手の精神状態を乱すこと、冷静さを失わせたなら魔力のコントロールも乱れてしまい、魔力で劣っていても相手を支配することが出来ることもある。

他にも相手の魔力を消耗させるだとか、森人族以外の種族に化けることで魔法の対象外だと思い込ませるだとか色々な手法があり……危険な魔法だからこそ、様々な研究が成されていた。

そして今森人族達はそのうちの一つ、相手の精神状態を乱すという手段でもって目の前の子供達に支配の魔法をかけようとしていた。

彼らの目標は争いに勝つことではなく、目の前の子供達を支配すること。

それさえ成せば弓が壊されようが拘束されようが問題ないと考えていて……懸命に相手を罵り、煽り、あらゆる言葉を尽くして相手を動揺させようとするが……目の前の子供達の心は全く揺れない。

心は揺れず魔力は研ぎ澄まされ、どんどん密度が濃くなっていって……一体何をどうしたらここまでの魔力を子供が持てるのかと、森人族達は困惑してしまう。

魔力の保有量……許容量とも言われるが、それを増やす方法もまた複数存在していた。

魔石を側に置くこと、魔石を食すこと、モンスターを狩ること、モンスターの生息地、またはその側で暮らすこと……などなど。

だがその全てをやったとしても、ここまでの許容量にはならないだろう……ここまでの許容量になるにはドラゴンを複数倒すとか、ドラゴンの魔石を側に置くとか食すとか……そのくらいのことをしなければならないはずだ。

しかしこんな子供にドラゴンを狩れるはずもなく魔石を手に入れることだって不可能で……一体何がどうなっているのだと、困惑を深めた森人族達は、それでも暴言を口にすることは止めず……その圧倒的な魔力をどうにか減らそうとし続ける。

当然その間も、支配の魔法をかけようとし続けていて……結果から言ってしまうと、それがまずかった、迂闊だった。

魔法を使い続けたことで、精神を乱そうとし続けたことで……目の前の、賢い子供に魔法を完璧なまでに解析されてしまったのだ。

それどころか暴言の意図まで看破されてしまって……聞くに耐えない暴言を浴び続けている子供……瞑目し続けている子供が小さな笑みを浮かべて、言葉を発する。

『森を捨てて』

それは支配の魔法と同時に放たれた命令だった、支配の魔法が成り命令が届き……森人族達の顔からは血の気が引き、冷や汗が吹き出し……何人かはガクガクとその体を震わせ始める。

まさか支配の魔法をこんな短時間で習得してしまうなんて、そしてそんな命令をされてしまうなんて……全くの予想外で、驚きと困惑と恐怖の感情が振り切れて涙まで流してしまう者までいる始末。

……支配の魔法対策の一つに、命令の解釈を自分にとって都合の良いものとする、というものがある。

支配され命令を発せられても尚、命令の解釈を都合の良いものとし、その命令を実行しながら相手を攻撃、また魔力で持って抵抗することで、状況を打破するというものだ。

たとえば支配した側が『前進せよ』と命令したとして、前とは受けた側にとっての前なのか、命令を発した側にとっての前なのか……一歩進めば良いのか、それとも千歩進めば良いのか……曖昧な命令ほど解釈の幅が出来てしまい、対策が容易になる。

だが森を捨てろという命令は、どう解釈したとしても森人族にとって致命的なものだった。

内容があまりにも明確かつ単純で他に解釈のしようがない、森を捨てるしかない。

そんな命令に従えば森を捨てることになり、命令に逆らえば森を捨てることになり……それは森人族にとって自害を命じられることよりも恐ろしいことだった。

死んだとしても種を残せさえすれば森に成れる……森として生きていけるし、家族と交流も出来るし、長年蓄えた知識を同族のために使うことも出来る。

当然死は恐ろしいし、可能な限り避けたいことではあるが、それでも森を捨てろと言われるよりは自害せよと命令される方がはるかに良い。

そんな致命的な命令は既に発せられており、彼らに出来ることはせいぜい『いつ捨てるのか』という解釈で……その時を先延ばしにすることくらいだった。

しかし先延ばしでは解決にはならない。

森を捨てろと言われて森に帰るでは道理が通らず、恐らく森に入った瞬間彼らは、魔法に従い森を捨てる決断をしてしまうことだろう。

かといって森に帰らなければ実質的に森を捨てたのと同義であり……恐怖に震えながら何か手はないか、どうにか出来ないかと思考を巡らせた彼らは、ほぼ全員が同時に同じ結論に達する。

目の前の子供達に許してもらうしかない。

許してもらい命令を撤回してもらえれば、森を捨てずに済む。

散々魔法で支配しようとし、攻撃を仕掛け、ありとあらゆる暴言を投げかけた幼い子供に許してもらえさえすれば……。

……どうやって?

どう許しを請えば許してもらえると? これだけのことをしておいて……??

そうして森人族達の思考は深い絶望へと沈み……そんな森人族を見て、ずっと森人族のことを見つめていた少女は一体どうしたのか? 何故こんなに怯えているんだ? と、首を傾げる。

……その答えは隣で瞑目している少女が知っていたのだが、それに気付くことはない。

そうこうしていると更に何人かの森人族が捕縛されてやってきて……後からやってきた者達も同じように魔法をかけられ命令を下され、死よりも恐ろしい恐怖を味わうことになる。

底なし沼のような恐怖に全身が沈む中で、せめて捕まっていない者達だけは逃げおおせてくれと願うが、それすら叶うことなく全員が捕らわれることになり……そして一人残さず命令を受けることになってしまう。

いっそ自害でもしてみるかと思うが、それでは種を森に残せない……ここで死んだとして目の前の者達が種を見逃してくれるとは到底思えない。

奪われ燃やされるに違いなく……ここまでの絶望を味わうのなら心が壊れてくれた方が良い、むしろ壊れてくれと、そんなことまで願い始めた折……そこに先程現れた黄金の鎧の騎士が戻ってきて……それを見たドラゴンよりも恐ろしい子供達は満面の笑みを浮かべ、その騎士の方へと駆けていくのだった。

――――盗賊の捕獲を終えて ディアス

獣人国から侵入してきたらしいセナイ達に少し似た特徴を持つ、森人族らしき盗賊達の捕獲を終えて、盗賊達を集めておいた場所へと戻ると、セナイとアイハンが元気いっぱい、笑顔で駆け寄ってくる。

いきなり盗賊と戦闘になって攻撃までされて……怯えているのではないかと思っていたが、そんなこともなく笑みを浮かべる2人を見て安堵した私が帽子ごと頭を撫でてやると、2人は嬉しそうに目を細めて首を揺らし……それから口を開き、問いを投げかけてくる。

「ディアス、この人達どうするの?」

「しざい?」

「ん? いや、まぁー……獣人国に引き渡して終わりだろうなぁ。

何かを盗んでいたり誰かを殺めていたりしたら死罪もあっただろうが、何かをする前に制圧されて……セナイ達への攻撃も私が防いだ訳だし、変に厳しい罰を与える訳にもいかないだろう。

同じ森人族として色々と思うこともあるかもしれないが……こんな連中のことは忘れてしまった方が良い。

そんなことよりアルナーが美味しいご飯を作っている頃合いだろうから、村に戻る準備をすると良い」

私がそう返すとセナイとアイハンは「ん~」なんて声を上げて頭を悩ませ始める。

一体何を悩むことがあるのか、いつもなら美味しいご飯に釣られて駆け出すだろうに……やはり同族への同情があるのかと、そんなことを考えているとセナイ達は、更に言葉をかけてくる。

「……もし悪いことしてて、死罪にするってなったらどうするの?」

「だれがしざい、やるの?」

「それは私だな。

領主である私が責任を持って裁き、罰し、罪を犯せばどうなるかを知らしめる。

それが領主の仕事だと教わった時から覚悟しているし……そのための準備もしているつもりさ。

……これは他の誰にも任せられない、私の大事な仕事だからな、何かがあったのだとしても全て私に任せておけば良いよ。

ただまぁ……今回はそんなことにはならないし、セナイ達が気にすることでもないかな。

……そんなことよりもご飯だ、帰りが遅くなると皆が心配するぞ」

と、私が返すとセナイとアイハンは何を思ったかお互いの顔を見合い……それから、

「はーい! 分かった!」

「じゃぁぜんぶ、でぃあすにまかせる!」

と、そう言って盗賊達へと向けて軽く手を振るような仕草を見せてから、馬達の方へと駆けていき……馬に飛び乗りイルク村の方へと馬を駆けさせる。

すると私の何がそんなに恐ろしいのか、妙に怯えて顔色を悪くしていた盗賊達は何故だか安堵の表情を浮かべ、安堵のため息を吐き出し……それで何か緊張の糸みたいなものが切れてしまったようで、一斉に倒れ伏すなり気絶するなりしてしまい……私や駆けつけたモント、ジョー達や犬人族達は、訳も分からず唖然とした表情で盗賊達のことを見つめるのだった。