軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エイマの獣人国での奮闘記 その5 まさかの展開

――――広場に置かれた椅子に座り、エイマの報告書を読みながら ディアス

今朝方サーヒィが届けてくれた、すっかりと恒例となったエイマの報告書は今回で三通目となる。

前の報告書にはどうやって内乱勢力の砦を落としたとか、モント達がどういう活躍をしてくれたとか、そんなことが書いてあり……成りすまし作戦についてはこれで知ることになった。

正直あの内容と時系列なら最初の報告書に書いてくれても良かっただろうにと思うが……報告書の紛失などで敵に作戦が露呈することを警戒していたとかで、あえて報告書に書いてないこともあるそうだ。

最終的かつ正確な報告は無事に帰ってから口頭でする……とのことで、エイマらしいと言うか何と言うか……うん、エイマに任せて良かったなと思う。

そして今手元にはその続きとなる三通目がある訳で……さて、今回はどんな内容となっているのやらなぁ。

「ディアス! はやく読んで!」

「どんなないようか、おしえて!」

報告書を広げる私の左右には、同じ椅子に腰かけるセナイとアイハンの姿があり……エイマがいない寂しさを紛らわせてくれる上に、毎回毎回とんでもないことが書かれていて面白くてたまらない報告書の内容を、早く教えてくれと体を揺らしての体当たりをしてくる。

そして目の前には堂々と立つアルナーの姿があり……アルナーは完全に覗き込んでの盗み見体勢だ。

「内容を早く知ることは大事なことだろう? 内容次第では事前準備も必要になる。

実際今だって、山のような荷物がいつ届いても良いようにハルジャ種の鍛錬をしている訳だしな。

大食いだがその分多くの荷物を運べて、体力もあるハルジャ種なら荒野に届いた荷物の山だって運び切ってくれるだろうさ。

輸送隊に関しては妙に張り切ってるカーリッツに率いてもらうことにした、既に何度も荒野に足を運んでいて……やる気も下準備もばっちりだな」

私の視線を受けてかアルナーがそんなことを言ってきて……私は「分かった」とそう言って頷き、報告書に目を通す。

今回もやはり最初のページに『報告書全体の概略』との文字があり……いつもの文体での箇条書きがされている。

成りすまし作戦は依然順調、順調過ぎたせいか内乱勢力本隊に勘付かれ、本隊がこちらに進軍中、サーヒィの偵察によるとその数およそ2000。

また近くの港を管理する港湾組合や盗賊の類も不穏な動きを見せている……ので、撤退を決定、物資をできるだけ浜辺に運び、ゴブリン達の協力を得て船に積み込む予定、撤退した全員が乗り込み次第出船、そのまま荒野に帰還予定。

そのついでに内乱勢力本隊への撹乱工作を行う予定で、これにより当初の目的である内乱抑止を達成する見通し。

「……うん? うん??」

思わずそんな声が漏れる。そして何度も何度も報告書を読み返す。

2000の敵が迫っている、更に他の勢力も動き出している。

エイマ達の数は合流したペイジン達の数を考えても20と少し……とてもじゃないが相手出来る数ではないと言うか、撹乱工作なんてやりようがないのでは……?

そんなことせずに物資だって捨てて、さっさと帰ってきた方が良いと思うのだが……概略の最後にはそんな私の考えを予測してか、こんな文が添えてある。

『全て想定通りですし、策も事前に考えてあるので安心してください、皆無事に帰します』

賢いエイマにそう言われたら何も言い返せないし、そもそもここからでは何も出来ないし……ただ黙るしかなくなった私は、周囲の早く読み進めろとの視線と圧力に負けて、報告書のページをめくるのだった。

――――物資運び出しの様子を見守りながら エイマ

ペイジン商会が用意してくれた荷車に物資の入った木箱を乗せて、領兵達が荷車を引き、鬼人族が隠蔽魔法を使いながらの護衛につく。

荷車が向かう先は南の砂浜で……その沖にはまさかの事態を受けて慌てに慌てたペイジン商会が用意してくれた商船が浮かんでおり、ゴブリン達による積み込みも既に始まっている。

ゴブリン達の魔法は水流を操る、ただ水流を操るだけでなく水を操ることもでき……その魔法を駆使したなら、木箱に水が近寄らないようにも出来てしまうらしい。

雨だろうが海水だろうが、水であれば全てを弾けるんだそうで……おかげで木箱は一切濡れることなく船に積み込まれているそうだ。

(ボクとしては想定通りなので、なんだか申し訳なくなりますけど……まぁ、あちらが善意で用意してくれたのですから、使わせてもらわないと損ですよね。

おかしな動きをした上に、王国領海に入り込んだ船を変に返却しても問題になるとかで、あちらに到着したならそのままメーアバダル領の船にして良いそうですし……これは大収穫ですね。

その分だけいくらかの金貨銀貨と質の良い、お金になりそうな武具をペイジン商会に渡すことになりましたけど、正直船の方が何十倍も価値があるので、何の問題もないですね)

と、エイマがそんなことを考えながら物資の運び出しの様子を見守っていると、エイマを頭に乗せた……物資の中にあった服を自分風に改良した服を身に纏ったアルハルが声をかけてくる。

「しかしあの鷹、よく2000人も数えたよな? 空から見下ろせるって言っても、2000とか大変だろ?」

「えぇっと……正確に2000人を数えた訳じゃないんですよ。

数えるのは一部だけで良いんです、大勢の人の中の一部分だけを切り取って数えて、その一部が全体の何分の一かを考えるんです。

……あ、分かってない感じですね、えぇっと……例えば目の前の木箱の山、指で丸を作って覗き込んだら何個見えます?」

エイマがそう返すと、ドレススカートにシャツにチョッキ……に見えなくもない服を揺らしたアルハルは、言われるがまま指で丸を作って覗き込んで、答えを返す。

「え? 4個」

「はい。じゃぁ今度は、木箱の山全体はその丸が何個分の大きさなのかを数えるんです。

これはざっくりで良いです、きっちり正確に何個分かを数える必要はなくて……なんとなくで数えてください」

「えぇっと……多分10個」

「なら木箱は4個の丸が10個で、40個あることになりますね、

他にも見えてない範囲に……奥に2列目があるので倍で80個ですか、実際には今……76個なのでまぁまぁ合っていますね。

サーヒィさんに教えた数え方も同じ感じで……規律ある軍は兵士さんがきっちりと並んでいるので、そんな数え方でも数を把握しやすいんですよね。

当然大雑把な数になると言いますか、正確な数ではないんですが……その分だけ早く数えることが出来るので、急いでいる時、敵に見つかりたくない時なんかには有用なんですね」

「ふーん……で、そうやって数えた2000人に……撹乱とやらをやるんだよな?

本当に出来るのか? ……なんかゾルグにあれこれ指示出してたけどさ。

なんだっけ……隠蔽魔法でなんかを隠して相手を迷わせたり、夜襲かけるんだっけ? 人数差がありすぎて上手くいくとは思えないけどな?」

「完璧には出来なくて良いんですよ。

一日か……半日でも時間稼ぎをしてくれたらそれで良いんです。

そもそものボク達の目的は大体達成していて、後は逃げれば良いだけで……逃亡手段もルートも確保済み。

だから後は少しでも時間を稼いでくれればそれで良くという訳です。

その上、相手は2000人ですからねぇ、相手は進軍が少しでも遅れたなら、2000人の物資を余計に使っちゃう訳で……そんな大人数でボク達の元に向かっている時点で、もう相手の負けみたいなものなんですよ。

ただでさえボク達のせいで物資がないのに、更に無駄に消費したとなったら……いつまで士気を維持出来るのかなぁって感じです」

「ふぅーん……ま、腹が減るのが辛いってのはアタシにも分かるよ。

最近はエイマのおかげで腹いっぱい食べられてるけどさ、ちょっと前までは本当に辛かったからなぁ」

と、そう言ってアルハルは頭の後ろで手を組み……山積みとなった物資をじぃっと見つめる。

その中身はほとんどが武具で、食料は入っていないのだが、全く入っていない訳ではなく……どうやらその一部の食料に目をつけているらしい。

「……あれは船の上で食べる予定なんですから、今食べちゃ駄目ですよ。

そのうち荷物を運ぶために浜辺に向かった皆さんが戻ってきますから、それまで待ってください。

海の仲間が用意してくれた食料……魚とかを持ち帰ってくれるはずですから」

「良いな! 魚か! うんうん、それは楽しみだな。

ならまー……あの食料には手出さないでおくよ、まぁ、そもそもエイマに黙って手出したりはしないけどな。

……エイマに叱られたくないし」

エイマが細目になりながらそう言うと、アルハルはそんな言葉を返し、ヘラヘラと笑う。

頭の上にいる関係でその表情を見ることが出来ないエイマだったが、これまでの付き合いでどんな顔をしているのかは丸わかりで……そうしてエイマは小さなため息を吐き出しながら、北へと……撹乱のために出発したゾルグ達がいるであろう方角へと視線を向けて、彼らが無事に帰ってくることを静かに祈るのだった。