軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハルジャ種

「やっぱり難しいですよね、出兵は。

出兵に関しては獣人国って言うか、気持ちが早ったペイジンさん達が勝手に言っているだけなんで、無理なら無理で良いんですけど、助力の方は無理のない範囲でやってもらえたら嬉しいです」

手紙を手に唸り声を上げているとセキがそう声をかけてきて……私は更に唸り声を上げてから言葉を返す。

「ふぅーむぅ……まぁ、出兵でないのならできる限りのことをしたいとは思うが、そんな風に他国に頼らないといけないような状況なのか? 獣人国は」

「まぁ……はい、そうですね。

何しろこれから冬ですから、乱が起きるには最悪な時期なんですよ。

乱を起こす側も起こされる側も、食糧不足を予測してなのか村々の冬備えを徴発していて……状況は最悪ですね。

乱を起こす側はそうやって国内が荒れて弱れば、勝機が増えるとか考えているみたいで……」

「……何を馬鹿な。

弱った国で内乱なんて起こしたら周囲の敵が……他の国なんかが黙っていないだろう」

そのくらいのことは私でも分かる、内乱を起こしている連中が私でも分かるようなことを分かっていないのだとしたら、そんな内乱は万に一つも成功するはずがない。

「その周辺他国の筆頭が王国で……それが襲ってこない、こなさそうだからとやらかしたって感じですね」

そのことを分かっているらしいセキは今まで見たことのないような呆れ顔となっていて……そんなセキの言葉を受けて私は痛む頭を手でそっと押し込み、声を上げる。

「確かに私は獣人国に攻め入るつもりも迷惑をかけるつもりもないし、そのことに関しては両親に誓っても良いが……だからと言って内乱だなんて、そんな馬鹿な話があるものか……。

獣人国ではよくあること……なのか?」

「うぅん……よくあることではないんですが、獣人国って王国みたいな、王朝でしたっけ? 王家の血筋とかそういうのがないんですよ。

その時一番強い……力を持った一族の長が王様になるんです。

初代様が象獣人で、三代後だったかな……そこで入れ替わりがあって熊獣人になって、また何代か後に象獣人に戻って、の繰り返しみたいな感じで。

だからこう、どの一族もチャンスさえあればって感じでやらかしちゃうんですよね……。

うちの両親なんかは象人族の方々による王朝を形成すべきって考えているんですが、その方がどの種族も研鑽を怠らず強い国になれて良い……なんてことを言う人もいて……。

まぁ、象人族の長も大事な血脈っていうか、直系のお姫様が行方不明のままなんで、王朝形成も難しいんですけどね」

セキがそう説明してくれた途端、とても……猛烈に嫌な予感が私の中で膨れ上がる。

何か、このまま話を進めると面倒なことになるというか、色々収拾がつかなくなりそうだと本能が訴えかけていて……どうしてそう思うのか理由を深く考えないように、強引に話を切り替える。

「獣人国の王家がどうこうは出兵以上に私達が関わるべきではない話だから置いておくとして……助力かぁ。

……ペイジン達は助力がいるような状況で立派な馬をこんなにも譲ってくれたのか?」

そんな私の問いに対してはセキではなくサクがずいっと進み出て答えてくる。

「そんな状況だからこそ譲ってくれたって感じですね。

この馬……えぇっと、ハルジャ種って言うんだったかな? とにかくこいつは見た目の通り力が強いし体力もあるし、それでいて大人しい性格でよく働くんですけど、その分だけよく食べるんですよ。

嘘か本当か、こいつを飼いすぎて破産した商会があるなんて程でー……冬前の内乱なんていうややこしい状況じゃー、手放した方が良いって考えたみたいですね。

ペイジンさん達はアルナー様が馬好きってのをよく知ってますから、立派な馬を譲ればその分だけ助けてもらえるだろうっていう思惑もあったみたいです」

ははぁ……それはまた合理的というか、ペイジン達らしい判断だが、アルナー達はどう考えるんだろうなぁ。

アルナー達の好みの馬は、荒々しく足が早く、どちらかというと細身の馬だったはずだが……と、そんなことを考えながら手紙を畳んで懐にしまい、セキ達の馬車の後ろで大人しくしている、ハルジャ達の方へと歩み寄る。

遠目で20頭程だと思っていたハルジャは……どうやら全部で25頭いるらしい。

とにかく体が大きく毛深く、足が太く……その体の大きさはベイヤース達とは比べ物にならないというか、ベイヤースと並べたなら親子なのではないかと勘違いしてしまう程だ。

その分だけ顔も大きく、どこかぼんやりともしていて……賢そうであり優しそうであり、大人しそうでもある。

そんなハルジャ達は早速とばかりに駆けつけたアイセター氏族とシェップ氏族の面々の世話を受けていて……大人しく目を細めてとても気持ちよさそうにしている。

見ていると眠くなってくるようなその顔を見やりながら足を進めていると……ひどく驚く光景が視界に入り込み、私は思わず悲鳴を上げそうになる。

「うおっ……な、何をしているんだ?」

私がそんな問いを投げかけた相手は鬼人族の女性達だった。

ハルジャ達に抱きつき……というか毛深いハルジャの体に埋もれながら物凄い表情でこちらを見ていて……うん、恐らく関所で手伝いをしてくれていた面々だ。

ジョー達との結婚を決めて関所で暮らしていて……結婚式の準備で忙しいはずなのだが、何故だかハルジャに抱きついている。

「この子はうちの馬だから!」

そんな女性の中の一人がそんな声を上げてきて……私は「な、なるほど」と、そんな声を漏らす。

そもそも今回馬を仕入れたのはジョー達の結婚のためであり、鬼人族の女性との家庭のためのものであり……つまりは彼女達のものでもある。

だからそんな風にして所有権を主張する必要は全くないのだが……どうやら女性達は、ハルジャ達の中からコレだ! という個体を見つけ目をつけていて……それを他人にとられない為に関所からずっと抱きついてきた……ということであるようだ。

わざわざそんなことをするくらいなら手綱に目印をつけるなりしたら良いと思うのだが……それでは足りないというか、横取りされかねないと思ってしまっているようだ。

つまりはそれだけハルジャのことを気に入っているという訳で……どうやらペイジン達の思惑は大成功となったようだ。

これだけの馬を受け取っておいて何もしないという訳にはいかず、今更馬を返すことも出来なさそうで……なんらかの助力をすることは確定だろう。

どんな助力をするかは……皆との話し合い次第だが、とりあえずはジョー達の結婚式を優先すべきで、話し合いはその後ということになるだろう。

そういう訳で私は女性達に馬と一緒で良いから準備を進めてくれと声をかけてから、セキ達や護衛の犬人族達に労いの言葉をかけて……彼らが早く休めるように荷物の整理や片付けを手伝うのだった。