軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゴブリンの冒険譚

再会を存分に喜び合い、それから小屋に持ってきた荷物を運び込み……それからイービリス達は海へと飛び込み、久しぶりの海の世界を堪能する。

全力で泳いでみたり、ただ漂ってみたり……海底の光景を眺め、水面を見上げ、久しぶりに活きの良い魚を丸呑みにしてみたりもする。

思うがままに海の世界を堪能し……そうして海底にある集落へと向かう。

海底近くの壁に出来た洞窟にゴブリン達の集落があり、陸上から流れ着いた家具や鉄具、ゴブリン族達の体を覆う程の貝殻や色とりどりのサンゴといった、日が届きにくい深さであっても色彩に溢れた懐かしい光景を見て顔を見て……集落独特の香りのする海水を口いっぱいに吸い込み、堪能し……帰ってきたのだという実感を得る。

それから家族や友人とゴブリン族特有の、水中での会話法での会話をたっぷりとしたならイービリス達は、集落を離れて水面に上がり……集落近くの岩礁地帯によじ登り、腰を下ろす。

「陸上の冒険を語るのであれば水中よりもこちらだろう!」

と、腰を下ろしたイービリスが声を上げると、岩礁に次々とゴブリン達がよじ登り、一部の者達は水面に浮かび……中には流れてきた木材を浮き代わりに身を預けている者もいる。

その誰もが目を輝かせていて……その輝きに応えるように両手を振り上げたイービリスは冒険譚を語っていく。

「入江の向こうにある荒野とは酷い場所であった!

潤いがなく水の代わりに砂が舞い、それが目や口、楯鱗に入り込み痛めつけてくる。

どうにか洗い落とそうにも水がなく、こんな世界があるものかと嘆いた程だ!

我らは何があろうと陸上に上がるべきではない、かつて祖父に言われた言葉を思い出し後悔することもあったが……あのトカゲとの邂逅が流れを変えてくれた!

生物がいないはずの荒野にいたそのトカゲは、北に向かえと我らに示し……それに従い北に向かった我らを出迎えたのは、空を自由自在に舞い飛ぶ勇士であった!」

そう言ってイービリスが尾びれを岩礁に叩きつけると、話に聞き入っていた者達は「おおおお!」と歓声を張り上げ……それを一身に受けたイービリスは更に語りを続けていく。

「荒野の先にあったのは緑の大地! そこに住まうは草を食む陸の生き物達と……それらをまとめあげる陸上最強の猛者であった!

単独でドラゴンを討伐し、幾度にも渡るドラゴンの襲来をも退け、ドラゴン達が恐れ躍起になって討伐せんとする猛者! 緑の大地を治める公爵ディアス殿は、ただ腕っぷしが強いだけでなくその人品清らかで爽やか、清らかな流れの如く一切の澱みがない人物であった!

我らの無謀なる冒険を称えてくれただけでなく村を挙げての宴でもって歓迎してくれ……その宴の豪勢なこと!

時折この付近の港町でも宴が開かれているが、あれとは比べ物にならん! 漂う香りも賑やかさも、人々の笑顔もディアス殿の村……イルク村の方が溢れていた!

多様な動物と人々が住まうあの村こそ、理想の楽園と言っても過言ではないだろう!」

イービリスがそう熱く語っていると、漁をしてきたらしいゴブリン達……イービリスと共に冒険をしていた者達が網を引いてやってきて……網の中にたっぷり詰まった魚を周囲の者達に振る舞い始める。

そうして始まる海の宴、イルク村と同じように輝きに溢れ、笑い声に満ち、喉を潤すためにと一旦語りを中断させたイービリスが海に飛び込み、魚を食らっていると、周囲にやってきた者達から次々に質問が投げかけられ……ディアスとはどんな人物なのか、イルク村とはどんな場所なのか、どんな人々が住んでいるのか、どんなことを生業にしているのかといったそれらの質問にイービリスは、魚を掴み上げ口の中に放り込み……そうする度に一つの答えを返していく。

魚を一尾食べて一つ答えて。

そんなイービリスを見ているうちに腹が減ってきたと周囲の者達も積極的に魚を食べ始め……宴の場はどんどんと盛り上がっていく。

それを見てイービリスの仲間達は流石イービリスだと感心する。

イービリス達が一族の下を離れて冒険が出来たのは、正体不明のトカゲがきっかけであり、古の約定が理由の一つであり、何か成果を持ち帰ることを期待されてのことであったのだが……このイービリスの冒険譚も立派な理由の一つだった。

場を盛り上げ、面白おかしく語り、間を掴み、飽きさせず。

海に住まう者達にとっての最高の娯楽、他に変えられない価値のあるひととき。

イービリスだからこそ作り出せるこの場を一族の多くが求めたからのことであった。

それからもイービリスの語りは続き、場は盛り上がり続け……岩礁地帯から少し離れた場所へと目をやれば、頑固で騒がしさを嫌う老人達までが冒険譚に聞き入っている。

陸上世界の情報を手に入れるため……という目的もあるのだろうが、それ以上にイービリスの冒険譚を楽しんでいることが、その表情から読み取ることができ……仲間達はそのことを誇らしく思い、イービリスの手伝いを少しでもしたいと強く願い、懸命に動き回る。

魚を配って、網の中が空になるまで配り回って……足りなければもう一度漁に出て、また配って。

急激な変化が訪れることの多い海に住まう者として、いざという時のため満腹になることを避けるゴブリン族であったが、今日だけは特別……一族全員が満腹になるまで漁をし、食べて食べて食べ続けて……食べながら夢の世界が舞台かと思うような冒険譚に夢中で聞き入る。

「―――そして我らは神々と出会った! 強烈無比な神の一撃は悪しきドラゴンを砕いたメーアの神!

大地を割り潤し、入江へと注ぐあの大河を作り出したトカゲの神! そして神々と対等に対話するのはメーアバダル公の伯父であるベンディア殿で―――」

そして冒険譚は佳境に入り、ゴブリンたちは一段と盛り上がり、もはやイービリスの声が聞こえない程に歓声が膨れ上がる。

そんな宴は結局、日が沈むまで続くことになり……そうしてゴブリン族の多くの者達が、陸上世界への憧れを抱くことになったのだった。

――――広場で耳を傾けながら ディアス

うぅん、なんと言うか過剰に良い場所だという風に語りすぎではないだろうか?

イルク村の宴はそこまで大規模なものではないし派手なものではないし……港町のものとは比べ物にならないはずだ。

私達にとって暮らしやすい村でも、他所から見ればそうではない部分もあると思うし……楽園というのも少し言い過ぎだと思う。

まぁ……自分の村を褒められて悪い思いはしないし、嬉しいのだけども……他のゴブリン達が勘違いしたりがっかりしたりしたら、それはそれで嫌な感じだしなぁ……。

と、そんなことを考えて周囲のゴブリン達へと視線をやるが……特にそんなことはなく、ウキウキソワソワとしながら周囲を見回していて、イルク村の宴を楽しんでくれているようだ。

ふぅむ? ゴブリンの価値観だとこちらの方が豪華、ということになるのだろうか?

何はともあれ楽しんでくれているのならそれで良いかと頷いた私は、隣で熱く語るイービリスへと視線を戻し、話に聞き入るのだった。