軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

海と空

――――船上で イービリス

多くの人々に見守られながら、積み荷を満載した船が川を下っていく。

「ああ、愛しきメーアバダル草原よ、そこに住まう人々よ……。

我らは必ずやここに戻ってくるぞ……」

そんな人々の姿を見て、船上のゴブリンの一人がそんな声を上げ……それから空を見上げて感慨深げにする。

「見ろ、そこまで大きくない川だというのにこの流れの強さ……。

流石メーアバダル、流石陸上の知恵……学ぶことの多い冒険だったな」

続いてもう一人のゴブリンがそう声を上げると、船首のメーアの顔を模した飾りの上に立っていたイービリスが大きく頷き、声を上げる。

「ああ、全くだ。

メーアバダル公は以前からこの川の整備を進めていたらしい、そのおかげで十分な深さと流れがあり、こうやって船が下れるという訳だ。

全く驚嘆するしかない先見の明だ……彼には一体どれだけ先のことが見えているのか……。

……船を行き来させるにはまだまだ十分な深さとは言えないが、我らであればその点も全く問題にならんな」

するとその声を聞いてか、船底に張り付いて船底の様子を見守っていたゴブリン族が川から顔を出し、大きく手を振り問題はないとの合図を出す。

そうやって2人のゴブリン族が船底を見張り、危険だと判断したなら荷を下ろすなりをし、喫水を調整する腹積もりで……可能かどうかはさておいて、いざとなれば船底と川底の間に入り、船を持ち上げるという覚悟まで持っていた。

そして最後の一人は船を先導するかのように泳いでおり……その一人が引く大縄は、船の船首にしっかりと結ばれており、牽引するかのような形で船の動きをコントロールしようとしていた。

これらの作業はゴブリン達にとって初めてのことであり、上手くいくかどうかはやってみなければ分からないものだった……が、あの職人達が懸命に作り上げてくれたこの船ならば問題無く出来るだろうと、そう強く信じて、誰一人として不安を抱えることなく、海へ向かってまっすぐに川を下っていく。

「……これ程素晴らしい船をあんな短期間で造り上げただけでなく、それを無償で譲るというのだから……全く言葉もない。

……我らが今まで接してきた人間族とは何であったのかと思う程だ。

この心意気には必ずや答えねばなるまい……まずは海だ、海の恵だ、かの地にあの芳しい海風の匂いを届けるぞ……!」

イービリスがそう言葉を続けると、ゴブリン達は同時に拳を握り、大きく口を開けて咆哮を上げ……鋭く並ぶ歯をキラリと輝かせるのだった。

――――川を下る船を見送りながら ディアス

「川の流れがなかったとしてもイービリス達が引っ張るから帆がいらないんだったか……一人乗りの小舟を大きくした、みたいな感じなのか?」

ゆっくりと川を下っていく船を見守りながらそんな声を上げると、船の出来上がりに満足しているのか、うんうんと頷きながら船を見つめていたナルバントが言葉を返してくる。

「基本的な部分はそんな感じだのう。

なーにしろ帆だけじゃなくて舵やら色々なものがいらんからのう……仮に航海用の大船を作るとなっても基本的な構造は変わらんじゃろう。

食料は海で調達したものを生で食えば良いから調理場がいらん、洗濯場や風呂、厠も全部海があるからいらん、何であれば寝所さえも海を漂いながら眠るからいらんときて、大きな木箱を浮かべても結果は変わらんかもしれんのう」

「なるほどなぁ……。

ゴブリン達なら海に落ちて死ぬことがないし、食料が尽きて死ぬということもない……飲み水は海水でも平気らしいし、ゴブリン族の集落が世界中の海に存在しているらしいから遭難もありえない。

嵐とかも事前に察知出来るそうだし……そもそも船がなくても海を自由に行き来出来るんだものなぁ」

「船があれば船上で体を休めることが出来るし、水に触れさせずに荷を運ぶことが出来る。

……逆に言えばゴブリン達にとっての船の利点はそれだけということになるのう。

今回は今後の交易のためにと船を用意してやった訳じゃが……最悪、浮かせた樽にロープを縛りつけて引いても良い訳じゃのう。

……他に船に利点があるとするなら、オラ共のような水の中で動けないもんを運べるということかのう」

「ああー……言われてみればそうだなぁ。

交易ばかりに気を取られていたが……海の上を安全に行き来出来るとなったら、結構な需要がありそうだ。

ゴブリン達が守ってくれるなら安全なんだろうし……海って陸よりも早く移動出来るものなんだろう?

なら、色々な人がゴブリン達の船に乗りたがるかもしれないなぁ」

「客を乗せるとなると、それ相応の設備を用意する必要があるがのう。

……とは言え、安全なのは確かじゃから、需要は十分過ぎる程にあるじゃろう。

モンスターや海賊やどこかの軍船がおったとしても、海に住まうゴブリン達の方が上手じゃろうしなぁ。

……仮に戦が起きたとして、その船で兵士を運ばれたなら敵に打つ手はないかもしれんのう」

「なるほど……前みたいに亀の群れが遠方で出たとなったら、船で助けに行っても良い訳か」

と、私がそう言うとナルバントは笑っているのか何なのか、あまり見ない顔をする。

その顔は一体何なのかと私が訝しがるとナルバントは「むはっ」と笑ってから声を上げる。

「坊はそれで良いそれで良い。

そも、そんな風に兵士を送り込むような大船を作るには木材が足りんからのう、あれこれ言うた所で所詮は夢物語じゃ。

マストがいらんとしても竜骨はいるからのう……船体にだってかなりの量の木材が必要になる。

……ま、その木材もゴブリン達の協力があれば、簡単に手に入るかもしれんがのう。

どこかから買い付けて海に浮かせて運んでも良いし……ゴブリン達しか知らんような孤島から手に入れても良い。

海水につけておけば木材は長持ちするからのう……ぷかりと浮かんで運ぶのも楽で、木材でイカダでも作らせたら他の積荷を運んだりも出来るかもしれん。

……オラは商いにはそこまで詳しくないが、取引をしてくれる相手さえいれば海を制するゴブリンの大商人が生まれるかもしれんのう」

と、そんなナルバントの言葉を耳にするなり、見送りに参加していた一部の者達がにわかに活気づく。

ゴルディア、アイサ、イーライにエリー、エイマやヒューバートまでが一緒になってワイワイと盛り上がっていて……そのまま集会所の方へと歩いていく。

集会所で更に盛り上がるつもりなのか、何か話し合いでもするつもりなのか……。

ここにペイジン達がいたら一緒になって盛り上がっていたのだろうなぁ。

なんてことを考えていると、少し離れた所にいたアルナーが空を見上げ、それに続いてセナイやアイハンも空を見上げ……空を真っ直ぐに飛ぶ鳥の一団を見やる。

それからすぐにアルナーはこちらへとやってきて……嬉しそうな声を上げる。

「ディアス、渡り鳥だ! 冬備えの始まりだ!」

その言葉を受けてセナイとアイハンも嬉しそうに「やったー!」なんて声を上げ始め……ちょっとした寂しさが漂っていた見送りの場が一変し、なんとも賑やかで騒がしい場になるのだった。