軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

教誨

――――広場で ディアス

「見ろ、ディアス! この宝石……!

これならかなりの魔力を込められる! まさかこれだけの宝石が採掘出来るとは……隣領は宝石の名産地でもあるんだな!」

客人の世話や荷物の確認、運搬がある程度落ち着いた所で、宝石がいっぱいに入った木箱片手のアルナーがなんとも嬉しそうに声を上げる。

木箱の中に入った宝石はとても綺麗で大きくて、丁寧に削って加工してあることからもかなりの高級品であることが分かる。

だがアルナーにとっては魔力を込められるかどうかが大事なようで……綺麗さとか加工の丁寧さはそこまで重要視していないようだ。

「これなら……髪に編み込んでも良いが、いっそ首飾りや髪飾りにしてしまうのも良いかもしれないな。

それを皆に配っておけばいざという時の備えにも財産にもなるだろう」

更にそんなことを言ってもらった宝石をどう使うか悩むアルナーを、微笑ましいやら、とても高価であることに気付いて欲しいやら複雑な気分で見守っていると、一人の犬人族がタタッとこちらに駆けてきて、元気な声を上げてくる。

「ディアス様! ベン様から伝言です!

ベン様はこれからエルダンさんやお供の獣人さん達と荒野にいってキョウ……カイ? だったか、そんなことをしてくるそうです!

移動とかで結構時間かかっちゃうから、その間、エルダンさんの奥さん達の相手しておいてほしーそうです!」

「キョウ、カイ? ディアス、なんだそれは?」

犬人族の伝言を受けてアルナーがそう問いかけてきて、私は少しの間頭を悩ませてから……ああ、あのことかなと思い至り、口を開く。

「恐らくだが教誨のことかな? 神官の仕事で……聖人様の教えを知らない人に教えたり、抱えている悩みとかの解決法を提案したり、思いつけるよう助言したりすることでもある。

……エルダン達相手になんだってそんなことをする必要があるのかは分からないが、伯父さんのことだからもう荒野に行ってしまったのだろう?」

私がそう問いかけると犬人族は力強く頷いて……私はやれやれと首を左右に振ってから、もう一度犬人族に問いかける。

「伯父さんはもう好きにさせておくとして……エルダンの奥さん達は今どこにいるんだ? 神殿か?」

「はい、そうです!」

犬人族の元気な返事を聞いて私は「分かったよ」とそう言いながら頷いて……それから私も行くと言いながら木箱の蓋をしっかりと閉めたアルナーと神殿へと足を向けるのだった。

――――荒野で グリン

「この辺り一帯は、少し前に起きたドラゴン騒動で割れた山から流れる水が到達するだろう予想した地点でしてな……いずれここには新たな川が出来上がるのでしょうな。

イルク村近くの小川をここまで引くという計画もありましたが……その計画は変更する必要がありそうですなぁ」

ベンの指示通りに馬車が走り、護衛の犬人族達にもどこなのかよく分からない一帯へと到着し……馬車から降りるなりベンがそんな声を上げる。

この場に来ることになったのはベンとエルダン、グリンとエルダンの護衛の獣人が2人、それとマスティ氏族の護衛が10人、御者役や馬の世話係のアイセター氏族が5人となっていて……メーアバダル領の大型馬車二台を使っての遠出となった。

辺り一帯には何もなく、草花はもちろん小さな虫の気配もなく……そんな荒野を歩きながらベンが言葉を続けてくる。

「何故そんな場所で教誨を……という話は後にするとして、今はグリン殿の不安を解消するための話をするとしましょう。

まず結論から言ってしまえば新道派を恐れてディアスを害するというのは間違った判断ですな。

その理由は簡単、そうやって人間族を害してしまえば、それこそ新道派の思う壺、獣人亜人が人間族にとって危険な存在であると証明してしまうから……となります。

ましてディアスは救国の英雄であり公爵であり……新道派ではない国民感情にまで多大な悪影響がありましょうな。

仮にディアスを排除できたとしても、次なる領主が派遣されるだけのこと、その新領主はどうするのか他の隣接地の領主はどうするのか……次から次へと排除するのか、獣人だけの世界が出来上がるまで繰り返すのか……そうなれば大乱となり世は荒れてしまうことでしょう」

そう語りかけながら荒野を右へ左へと歩いたベンは、段々とグリンの側へと近付いてきて……グリンの目の前に立ち、グリンの目をじっと見やる。

するとグリンはまさかそんなことがと、目を丸くしながら息を呑み……同時にベンの威圧感に負けて数歩後退りする。

そんな様子を後方で見守っていたエルダンは、その程度のことに思い至っていなかったのかと大きなため息を吐き出してこれ以上ない程に呆れ……そんなエルダンの態度を耳や鼻で感じ取ったグリンは、なんとも嫌な冷や汗をかくことになる。

「ではどうしたら、不安が解消されるのか……その答えもまた簡単で、ディアスではなく新道派をなんとかしてしまえばよろしい。

そもそもの元凶は新道派の間違った教え、それさえ無くしてしまえば……獣人亜人への差別が正しいことだなんていう考えを改めさせれば、おのずとグリン殿の不安は解消されることでしょう」

ベンがそう言葉を続けるとグリンは、カッと目を見開き、威圧感や恐怖を紛らわすためにも口を大きく開いての大声を上げる。

「ば、馬鹿を言うな! 立太子が確実視されている第一王子と組んで王都ではすっかり主流派……! 金も力もある新道派をどうにかなんて出来るものか!!

それが出来なくて旧道派は何年も前に壊滅済み……そもそもアンタだって、どうにも出来なかったからこんな所にいるんだろう……!

どうやって新道派をなんとかするのか考えを改めさせるのか、その答えまで提示してくれなきゃぁ、ただの絵空事だ!」

そんなグリンの言葉にベンはただただ穏やかに……柔らかく微笑みながら言葉を返す。

「その答えもまたとても簡単なものとなります、神々の力をお借りしたら良い。

グリン殿も聞いているのでしょう? メーアバダル領に神が現れ助力くださったということを……。

聖人ディア様のように神に出会い、神の力を借りたならそれこそが正道……正道を往けば神々に会ったこともなければ聖地に至ったこともない、口だけが達者な新道派の教えや言葉など軽く吹き飛びますとも」

「馬鹿馬鹿しいにも程がある!

確かにスーリオ達が神々と思われるような存在と出会ったなどと、そんな話をしていたが、それが事実だと……いや、そもそもそれが神々であると誰が証明できる!

それこそ絵空事だ、マーハティの子供達であっても耳を貸さずに呆れ返ることだろう!」

「……では子供達が耳を貸してくれるように、多くの方が神々からご助力頂いたことが真実であると信じてくれるように、グリン殿にもその光景をご覧になっていただくとしましょう。

……これはマーハティ公にとっても良い経験となるに違いなく、少々お時間をいただきます」

グリンの反論に対し、一切の動揺無く柔らかな微笑みのままベンがそう返すと、その場に居た誰もが……グリンもエルダンも犬人族達も護衛達もが唖然とし何も言えなくなる。

そうやって誰もが唖然とする中、ベンは荒野の乾いた地面に膝をつき、持っていた神官杖を地面につき……その杖を両手で握って祈りの言葉を口にし始める。

「大地に眠る神々に 希(こいねが) う、我らの前にそのお姿を顕にし、我らの願いをどうか聞き入れたまえ……水を……海につながる程の水を、頂けたなら神々の勇者の道が出来上がることでしょう。

ここに希うはベンディア、聖地に至りし神官なり」

するとベンの目の前の地面がひび割れ持ち上がる。

そのことに誰もが驚き目を丸くし……冷や汗を流しながら恐怖したり尻尾を振り回しながら興奮したりする中、ひび割れた地面からのそりと……鋭く力強い棘の生えた分厚く茶色の鱗を持つトカゲが姿を見せる。

「まさかお前がなぁ……全くの予想外だった、そして望みは水……いや、川か。

以前森人の子にはここに川を通せと言ったが……いやはや、まさか我らがその川を作ることになるとは……。

……今回はまぁ、この荒野を見事踏破してみせた勇者達に免じて力を貸すが、この我らの力、そうやすやすと借りられるものと誤解してくれるなよ。

一生に一度どころか数百年に一度……いや、その国に一度だけのものと思うが良い。

……新道とやら全く気に食わぬが、だからと言ってお前の争いに手を貸す程愚物でもない……どうしてもと言うのなら他の者を頼るが良い、どこかには物好きがいるかもしれん。

それこそアレのサンジーバニーのように、邪心を抱けばたちまちに天罰が……と、そういうものだと思ってくれても良い、全ては我らの機嫌次第よ。

……事と次第によっては国を滅ぼすことも躊躇わんぞ」

姿を見せるなり、トカゲがそんなことを言い……直後トカゲが作り出した地面のひび割れから凄まじい音と振動が……地面の奥底から何かがせり上がってくるような音と振動が響いてくる。

見たこともない……独特の気配をまとうトカゲが喋ったというだけでもただ事ではないが、トカゲが引き起こしたことが明らかなその現象はとんでもないことで……先程のベンの祈りと合わせてこの場にいる一同は、目の前のトカゲが神々か、それに類する存在であるとの確信を得る。

そうしてエルダンの護衛達は腰を抜かして地面に腰を落とし、犬人族達は興奮のあまり振りすぎた尻尾を痛め、エルダンは顔色をこれ以上なく悪くしながらもどうにか倒れずに踏ん張り……そしてグリンは全身の毛を逆立たせ、体の奥底からせり上がってくる吐き気に苦しみ、めまいを起こして倒れそうになる。

それでもどうにかこうにかグリンが耐えていると、ひび割れから水が吹き出し、吹き出した水の受け皿であるかのように更なるひび割れが地面に出来上がり……そのひび割れがまるで道かのようにまっすぐ南へと伸びていって……そこに水が流れ込みひび割れた地面を削りながら流れていき……ありえない速度でちょっとした小川を作り上げていく。

そんな光景を受けてついに耐えきれなくなったエルダンが地面に尻をつく中……グリンは吐き気を一気に飲み込み、全く別の感情……感動と信心の入り混じった、新鮮かつ強烈な感情を抱き、その目から大粒の涙を次々に流し落としていく。

「……全く、ディアと言いお前と言い、神官という連中はどうしてこうなのだ……」

そんなグリンを見てか、忌々しげにそんな言葉を口にしたトカゲは……それ以上何を言う訳でもなく大きなため息を吐き出し、それによって砂埃を起こし……一同がその砂埃を受けて目をそらすなり瞼を閉じるなりしたその一瞬のうちに、その姿を何の音も気配もなく消し去ってしまうのだった。