軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

歓迎と多すぎる馬車

頑張って連絡係を務めてくれた犬人族にブラッシングをしてやって、それから立ち上がるとマヤ婆さん達がすっと近付いてきて、私の服をさっとメーア布を巻き付けた手で払い、いつのまにか付いていたらしい犬人族の毛を取ってくれて、それからあっちに行けと指差しでもって指示を出してくれる。

その指の先には既に準備を終えたらしいアルナーとセナイとアイハンと、エイマとダレル夫人がいて……私も慌ててそこに合流する。

するとすぐに馬に乗ったクラウスが揺れる草の向こうからゆっくりとやってきて……それに続く形で以前見たものとは違う、立派かつ豪華な……黒塗りで金の装飾がされていて、壁には絵画のような絵が描かれていて、天井には宝石をたっぷり使ったよく分からない置物のような何かが乗せられている馬車がやってくる。

以前はベッド型で、あれはあれで高価そうだったが、今度はこう来たかぁと驚いているとその馬車に続く形で何台もの……先頭の豪華な馬車に比べれば見劣りするものの、それでも立派な作りの馬車がやってくる。

一台二台……その次からは比較的普通の馬車に変わり、それが五台続き、その周囲を護衛の獣人達が囲っていて……いやはや、まるで王様のようだなぁ。

確か今回来るのは25人ということで、馬車が五台で御者が5人、徒歩護衛が8人で……残る12人のためにあれだけの馬車を用意したのだろうか?

……いや、先頭の馬車にはカマロッツを含めた2人の御者がいるから、残りは11人か。

初めて会った時から色々なことでこちらを驚かせてきたエルダンだったが、また今回もとんでもないことをしてくれたなぁ、なんてことを考えているとクラウスがやってきてエルダンが到着したことを知らせてくれて……それからカマロッツの指揮で馬車の列がゆっくりと速度を落としていく。

そして馬車のドアが開き、服装だけはいつも通りのエルダンが姿を見せて……私達の後方からざわついた声が上がる。

以前マーハティ領に行った私達は知っていたが、エルダンは最初に会った時とは別人と思う程に痩せていて……以前私達が会った時よりも更に身長が伸びて筋肉もついてきたようだ。

たったの数ヶ月でここまで変わるものかと思うくらいに成長していて、その表情はすっかりと大人のそれになっていて……そんなエルダンに手を引かれて2人の女性も馬車から降りてくる。

「メーアバダル公、お久しぶりです。

この度は神殿を建立なさったそうで……妻達と共にお祝いのために足を運ばせていただきました。

大した物はありませんが、いくらかのお祝いの品も持ってきましたので、受け取っていただければ幸いです」

そしてエルダンはそんな風に……なんともエルダンらしくない喋り方での挨拶をしてきて、私が目を丸くしながら、

「あ、ああ、よく来てくれた。

マーハティ公にわざわざ足を運んでいただけるとは光栄で……神々もきっとお喜びくださることだろう」

と、言葉を返すと、エルダンはエルダンで私がそんな風に挨拶をしたことに驚いたのか目を丸くしてくる。

そしてエルダンが先に吹き出し、それに釣られて私が吹き出し、私とエルダンが笑い合う中、アルナーとセナイとアイハンの挨拶が始まり、エルダンの奥さん達がそれに応える。

そうやって場が和やかになった所でエルダンが後ろに控えていたカマロッツに何やら指示を出してから咳払いをし、改めて声をかけてくる。

「ディアス殿、この度の来訪はディアス殿に久しぶりに会いたかったというのと、神殿のお祝いと春先の騒動のお礼と……それと妻達の安産を願い祈祷を求めてのことであるの。

もちろん祈祷の対価というかお礼の品も用意していて……色々とお話したいところなのだけどまずは、神殿での用事を済ませたいと思うであるの」

そう言ってエルダンはいつもの口調で、それでも以前よりも凛々しく力のこもった声で神殿までの案内を頼んできて、了承した私が案内をしようとすると、いつの間にか私の側までやってきていたベン伯父さんがすっとエルダンの前へと進み出て、エルダンに声をかける。

「ようこそおいでくださいました、マーハティ公……神殿はこの儂、ベンディアが預かることになりましたのでな……案内も祈祷も儂に任せていただきましょう」

そう言ってあまり見たことのない柔らかな笑みを浮かべた伯父さんは、こちらに振り返り、いつもの顔で言葉を続けてくる。

「ディアス、お前はアルナーさんと同行した皆さんや馬達の世話がしっかり行われるかの監督をしておれ。

ああ、祈祷の合間に奥方達の世話もあるだろうから……セナイ、アイハン、手伝ってくれるか? アルナーさんもそれで構わないよな?」

それは……何と言ったら良いのか、よく分からない指示だった。

同行した護衛達の世話なら迎賓館での仕事をこなしたピソン婆さんやジメチ婆さんが仕切っても良いのだし、今はダレル夫人もいる。

わざわざ私を残す意味がないというか……奥さん達の世話にしても何故アルナーや婆さん達ではなくセナイ達なのだろうか?

そんな疑問を抱いて私がなんとも言えない顔をしていると伯父さんは、余計に訳の分からないことを言ってくる。

「なぁに、これしきのことで神々の怒りを買うことはないから安心せい。

お前が欲をかいていないことは儂がよく知っておるし……あれが枯れることはねぇさ」

いよいよ本当に訳が分からなくなり、私が首を大きく傾げていると……何故だかエルダンが表情を強張らせ、顔色を少し悪くする。

そんな中、アルナーは問題ないと了承の返事をし、いつの間にかエイマと一緒に広場の畑に行っていたらしいセナイ達は、まるで何かを隠しているような両手を服の中に突っ込むという変な格好でこちらに駆けてきて……そのまま伯父さんやエルダン達と共に神殿の方へと足を向ける。

そしてアルナーは伯父さんの言葉通り客人や馬達の世話をし始め……私はなんとも言えない気分で傾げた首を元に戻し、作業を手伝おうとする。

するとカマロッツが、

「ディアス様、こちらが先程エルダン様がおっしゃっていたお祝いの品の目録となります。

こちらの目録が神殿に、こちらの目録がディアス様とメーアバダル領に贈る品の一覧となっておりまして、これから馬車から荷下ろしいたしますので、荷の確認と受け取りをしていただけますでしょうか」

と、声をかけてきて2つの目録を手渡してくる。

それを受け取った私が内容を確認すると……どちらの目録にもとんでもない量の品を用意してくれたということが書かれていて……そこで私はようやく、今日抱いたいくつかの疑問のうちの一つを消化することに成功する。

「……なるほど、これだけの荷物の量だから、あれだけの馬車が必要になったのか……」

なんてことを口にした私の頭の中に今度は、神殿の建立祝いでなんだってこれだけの量の品を? なんて疑問が湧いてくる。

だがあれこれ考えても、すぐには答えが出なさそうだし……まずは仕事をしようと目録を手に荷物の確認だけに意識を集中させるのだった。