軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

文官の散歩

――――西へと伸びる街道をゆっくりと歩きながら ヒューバート

アースドラゴン討伐を祝う宴から数日が経って……夏らしい日差しが降り注ぎ、その暑さを吹き飛ばしてくれる爽やかな風が吹く中、メーアバダル領唯一の文官であるヒューバートは、頭に乗せた麦わら帽子を揺らしながら、出来上がったばかりの西へと向かう街道をゆっくりと歩いていた。

東からイルク村までの、エルダン主導で敷設されていた街道は仮設が完了し、これから本敷設となり、立派な石畳が敷かれるそうだ。

そしてイルク村から西……関所までの街道は今日までに半分程が出来上がったそうで……ヒューバートはその出来具合の確認と、各地に出来上がった施設の状況の確認をするために自ら足を運んでいた。

ディアスも洞人族も真面目で正直で、仕事に関しては特に手を抜かない性格をしているのだが、本来であれば事細かく確認、記録すべきことを「こんなもので良いか」と適当に済ませてしまうきらいがあり……その辺りの確認をし、しっかりと記録し、必要であれば書類を作成し……と、そんな風にディアス達に足りない部分を補うのが、最近のヒューバートの仕事となっていた。

そんなヒューバートの側には、妙に気が合い仲良くなったエゼルバルドとその妻達と、何人かのセンジー氏族の若者達の姿があり……ヒューバートは彼らと会話しながら、手元の紙束に炭片で文字を書き記しながら、足を進めていく。

「方角を見るに西に真っ直ぐ、歪むことなく進んでいて……後は幅の計測が終われば地図に記載できそうですね。

昨日は結構な雨が降りましたが水はけが良いのか、すっきりと乾いていますし……これなら長持ちしてくれそうですねぇ。

もう少し先まで進んで、その辺りの確認が終わったら各地の地下貯蔵庫に向かって……どれくらいの氷と食料が貯蔵されているのか記録をしておかないといけませんねぇ。

今日までで溶けた氷もあるでしょうし、傷んだ食料だってあるでしょうし……冷気を逃してしまうので毎日確認する訳にもいきませんが、それでも定期的に確認をしておかないといけませんねぇ」

「メァ~、メァン、メァメァー、メァー?」

ヒューバートの独り言のような言葉にエゼルバルドがそう返し、ヒューバートは足元のエゼルバルドへと視線をやりながら言葉を返す。

「え? 魔法で中に入ることなく確認出来ないのかって? えぇっと、まず自分は魔法が得意ではないんですよ。

それにそんな便利かつ犯罪に利用できそうな魔法があるなんて聞いたことないですし……アルナー様を見ていると魔法というものは、どれもこれも便利で物凄いものなんだと勘違いしそうになりますが……一般的な魔法使いの使う魔法というものは、そこまでのものではないですからねぇ」

「メァーン?」

「えぇ、たとえば炎を放つこのとのできる魔法があったとして……ただ火を点けるのなら火打ち石を使うとか、松明などで火を移すとかしたら良い訳で、長い呪文を唱え魔力を消費してまでやる価値があるのかというと微妙ですね。

戦いに使うにしても燃料なしで人や魔物を燃やすのって凄く難しいですからねぇ……中々上手くいかないんですよ」

「メァメァーン、メァー」

「えぇ、そうですね、火付け杖のような火力は魔法使いには出せませんね。

あれはあれで常識外の存在で……だというのにそれをただの火付けに使っているのがなんともディアス様らしいですね」

「メァメァメァー!」

「そうですねぇ……一族漏れなく魔法を使えて、その上効果が凄まじいという鬼人族が特別なだけで、一般的な魔法使いはそうでもないのだと思ってもらって問題ないと思いますよ。

人間にも極稀に物凄い魔法使いが生まれるのですが……そういった方はとても貴重な存在ですから、大体の場合は王城で保護されて、国のために魔法を使ったり魔法の研究をしたりしていますねぇ」

と、そんな会話をヒューバート達が続けていると突然ガサリと大きな音がして、少しだけ気を抜いた、のほんとした態度でゆったり歩いていたセンジー氏族達が驚きながら臨戦態勢を取る。

気を抜いてはいたが油断しきってはおらず、誰かが近付けばすぐに気付ける程度には警戒をしていたのに、その音はすぐ側……街道脇の草の中から聞こえてきていて、ヒューバートがディアスから持つようにと押し付けられた、腰に下げている小剣へと手を伸ばそうとしていると……もう一度ガサリと大きな音がして、メーアのようでメーアではない、メーアによく似た存在が草の中から顔を出す。

「メーアモドキ……!」

それを見てそう声を上げるヒューバート。

ディアス達が見たという謎の存在、ディアス達がそう呼ぶ凄まじい力を持った何か。

確かにこれはメーアモドキだなと、ヒューバートが妙に納得したような気分になっていると、メーアモドキがゆっくりと口を開く。

「―――のことをそんな風に呼ぶなんて、なんて無粋な。

まぁ、いきなり捕まえようとしないだけあの男よりはマシですけど……。

……まぁ良いです、今回も我が主からの褒美です、この街道はなんとも野暮ったくて鬱陶しいですけど、我が子らへの配慮を欠かさない態度、度々のドラゴン討伐、その辺りは評価してあげます。

……今回は物を直接渡す形ではないので……ここから北の辺りと南の辺り、それとアナタ達の村の周囲をよく観察してみることです」

その声はなんとも不思議な響きをしていた。

一部の単語がどういう訳か聞き取れず……音は聞こえているのに、どんな単語なのか、どんな音なのかが理解出来ず、思わず目眩を起こしてしまう程で……目眩のせいでヒューバートが返事を出来ないでいると、いつのまにかメーアモドキは姿を消していて……臨戦態勢となっていたセンジー氏族達も、妻を守るため雄々しく顎を上げて威嚇の体勢を取っていたエゼルバルトも、突然それが消えたことに困惑して、キョロキョロと周囲を見渡している。

「……あ、あれがメーアモドキ……。

あれがサンジーバニーやオリハルコンを……。

しかし物ではなく観察してみろとは一体……?」

そんな声を上げてエゼルバルド達のように周囲を見回したヒューバートは……渋々ではあるが確認をするために街道を外れて北の一帯へと足を進める。

街道を外れるとそこには青々とした草が生い茂る草原があり……夏の日差しでどの草も真っ直ぐに力強く伸びていて……普段と変わらない、いつも通りのメーアバダル草原の光景が広がっている。

観察をしろと言われても、具体的にどの辺りの何をしたら良いのか……もう少し詳しく説明してくれないとこのまま草原を宛もなく歩き回ることになるぞと、ヒューバートが小さな絶望感を抱き始めた……その時。

見たことのない、小さな花が咲き乱れている一帯が視界へと入り込んでくる。

それは明らかにこの辺りでみる草ではなかった。

この辺りの草は花を咲かせない、ただただ真っ直ぐに草の葉を伸ばすだけだ。

だというのにその一帯には小さな白い花が咲き乱れていて……見たことのない花だと驚き困惑するヒューバートは……それでも好奇心の方が勝ったのか、駆け出しそうな勢いでその花の方へと近付いていく。

「……ん? この花……花びらだと思っていた部分が白い草の葉になっているのですねぇ。

するとこの小さな、中心の粒みたいなものが花で……こんな草のような花というか花のような草、図鑑でも見たことが……」

その草の方へと近づき膝を折り、顔をぐっと近付けてそんな声を上げて……そうやってヒューバートが観察をしていると、エゼルバルドが駆け込んできて、その顔を一帯へと向けてバフッと突っ込む。

そしてモグモグモグモグと口を動かし、物凄い勢いでその花のような草を食んでいって……エゼルバルドに続く形で妻達も同じようにその草を食み始める。

そんなメーア達の様子にヒューバートが驚いていると、そんなに美味しい草なのかと興味を持ったセンジー氏族が草へと鼻を近付けてすんすんと鳴らし……そうしてから自分達もと、その草へと食らいつく。

すると、

「え、この草、美味しいですよ!」

と、若者の一人が声を上げる。

「あ、ほんとだ、火を通してないから青臭いけど、いい匂いで美味しい!」

続けてもう一人が声を上げる。

「メァー!! メァメァメァー!!」

そしてエゼルバルドがこんなに美味しい草は食べたことがない! と力のこもった声を上げる。

それらの声を受けて好奇心に負けてしまったらしいヒューバートまでが草を摘み取って口にし……、

「……ああ、本当に美味しいですねぇ、青臭くて苦くて、味としてはいかにもな草の味なのですけど物凄く香りが良くて……それだけで美味しいと思えてしまう……。

こんなハーブが世の中に存在したとは……ああ、いや、これが今回の贈り物という訳ですか。

するとこれにもサンジーバニーのような薬効が……? いや、それにしてはサンジーバニーの時のような説明が無かったような……」

と、そんな言葉を口にする。

それからもう一度草を摘み取ったヒューバートは、それをじぃっと見やりながら首を傾げて……エゼルバルド達が猛烈な勢いで草を食み続ける中、その草にどんな意味があるのかと頭を悩ませ続けるのだった。