軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

商会の長

「いやいや、お久しぶりでございます、ペイジン・ファです。

お忙しい中、お呼び立てしてしまったようで申し訳ございません。

拙者共としましても、少々予想外の出来事が起きまして……急ぎディアス様に来て頂く必要がありまして……。

あ、以前話題にさせて頂きましたキコ様のお子様方が元気に暮らしている様子、無事確認出来まして、そちらはひとまず一安心といった所で、改めてディアス様の御厚意に心から謝意を表させていただきます」

慌てているのか混乱しているのか、手を右に左にと振りながら、早口でそんなことを言ったペイジン・ファは、私のことを馬車の群れの中心辺りへと案内し始める。

「はい、はい、そのままこちらに来ていただければと……えぇっと、はい。

ディアス様も驚かれているであろうこちらの馬車の数なのですが、半分はディアス様とヤテン様が交わされた投資に関する品々でして、獣人国名義で拙者共ペイジン商会が用意したものとなっておりますな。

では残りの半分は何なのかと言いますと、前回の会談の様子やそれ以前の交易の話や、色々な話を聞いたペイジン商会の長たる父ペイジン・オクタドが、妙に張り切ってしまいまして……これから良きお客様になってくださるだろうディアス様のためにと、用意させて頂いた好意を示す品、となっております。

つまりは、はい、拙者共からの贈り物でして……そしてこちらに座っておりますのが、拙者共の父、ペイジン・オクタドでございます」

そう言ってペイジン・ファは左右に振っていた両手をさっと馬車の群れの中央にある草を編んで作ったらしい大きな板の方へと振り……そこにドカンとあぐらに座った体格の良い……緑色のキコやヤテンの服によく似た服を身にまとったフロッグマンの紹介をしてくれる。

するとそのフロッグマンは、その服からはみ出している大きな腹を揺らしながら組んでいた両腕を解いて草編み板に突いて、黒色斑点模様の頭を大きく下げてから、その大きな口をゆっくりと開く。

「お初にお目にかかります、メーアバダル公。

ワシはペイジン・オクタド……愚息達が公の、格別のご厚情を賜わっていると聞き及び、父親として心よりの御礼申し上げるために参上させていただきました。

仮にも商会の長であるものが、手ぶらで他所の土地にお邪魔したとなれば、商会全体の恥となるため、つまらない品ばかりではありますが、いくらかの手土産を用意させていただきました。

どうかどうか受け取ってくだされば幸いでございます」

太く地面を揺らすかのように響く、ゴロゴロとした声でペイジン・オクタドはそう言ってきて……そこまで言われてしまうと受け取らざるを得ないなと苦笑した私は、顔を上げてくれとそう言ってから、ゆっくりと顔を上げたオクタドに……念のためにと懐に潜んでいたエイマの助言を受けながらの言葉を返す。

「こちらこそ初めまして、メーアバダル公爵のディアスだ。

こんな所までわざわざ来てくれて、毎回のように良い商売をしてくれているペイジン達にはこちらも世話になっているのだから、そこまで気にしないでくれるとありがたい。

オクタドがわざわざ足を運んでくれたことも、土産の品をこんなに用意してくれたことも嬉しいばかりで……どんな土産があるのか馬車の中が気になって仕方ないよ」

「おお、おお、そう言って頂けると肩の荷が下りたような気分でございますな。

馬車の積荷に関しましては、詳しくは後でファに説明させますが……大体は獣人国の産品になりますな。

食料に酒、布に精錬鉄……それと鉱山開発や関所建設に必要そうな工具を一式。

他にも人足を用意すべきかと愚考していたのですが……あの関所建設地を見てそちらは必要ないのだということがよく分かりました。

いやはやまさか、こんなにも早くあれだけの人数をお揃えになるとは……愚かなワシはまだまだどこかで英雄たる公を侮ってしまっていたのかもしれませんなぁ。

……ちなみにですが国からの品に関しても大体ワシらが用意したのと同じものとなっております、国名義とは言え我が商会が用意する以上はそれ相応の品にしなければなりませんからなぁ」

「……おお、そうか、工具まで用意してもらえるとは嬉しい限りだ。

関所に関しては……スムーズに積荷確認が出来るよう、専用の場所を作る他、商人達があそこで休めるよう、いくつかの部屋を作り隊商宿のような機能も持たせるそうだから、出来上がったらペイジン達も遠慮なく利用して欲しい。

もちろん、今まで通り自由な商売が出来るよう、ペイジン達には特別な配慮をするつもりだからその点も安心して欲しい。

変な事件を起こさない限りは積荷の確認は免除するし、通行料などに関しても免除するつもりだ。

その代わりと言っては何だが今まで通り、私達はもちろん、鬼人族との商売も引き続き行って、生活に必要な品々をこの草原に届けて欲しい」

「ええ、ええ、もちろんでございます。

そこまでして頂いた以上はワシらペイジン商会一同、ディアス様とこの草原のため、粉骨砕身、良い商売をさせて頂く腹積もりです。

……そういう訳で早速と言いますか何と言いますか、ここまでの道中で、関所の縄張……いえ、設計の方を見させていただきましたが、中々良さそうな造りになっているようですな。

軍事拠点、関所として申し分なし、あれが出来上がれば行商人達は安心して商売が出来ることでしょう。

ただし商人視点で言いますと、もう少し広い方が良いと言いますか、積荷の確認ついでにあそこで露店でも開けるような広場のような空間があっても良いのかもしれませんな。

そのような広場が軍事拠点として邪魔になるようでしたら、別棟のような形で用意しても良いかもしれません。

ああ、それと一つ気になったのはあの関所の位置ですな、ヤテン様と取り決めた国境よりもかなり遠慮しているというか、王国側に寄った位置となっているのは何か意図あってのことですかな?

ワシならもう少し国境間際に関所を建てますが……まぁ、あの空間を商売用に使っても良いかもしれませんな。

獣人国では宗教の、あー……こちらで言う……あー……」

と、オクタドはそこで言葉につまり、私の近くにいたファへと視線をやり、慌てて駆け寄ったファが、フロッグマンの耳はそこにあるんだなぁと思うような位置、後頭部に近い頬の後ろあたりに耳打ちをする。

するとオクタドは、

「神殿! そう、神殿の前の通りなんかで商売をすることを許されているのですよ。

神殿が守ってくれる、許可を出してくれるから安心安全に商売が出来ると、そういう訳ですな。

あの関所の辺りもそういう場にしたなら、物と人が活発に行き交い……交流の場となり、王国と獣人国の仲も、良い方向に深まるに違いません」

と、そんなことを言ってその両手をグニグニと揉み合わせる。

スラスラと変な訛りもなく話していたオクタドだったが、今の様子を見ると王国語に慣れきっているという訳ではなく、恐らくはファのように、誰かに王国語を習い、懸命に勉強をしてきた結果なのだろう。

そんな辺りからもオクタドが私達と仲良くしたいと本気で思っているということが伝わってきて……私はそんなオクタドに近付き、手を差し出して握手を求める。

するとオクタドは目を丸くし、驚いたような顔をしてから大慌てで立ち上がり、服でゴシゴシと手を拭いてから握手に応じ……目を細めて大きな口の口角を上げてにっこりと微笑む。

それからオクタドはその口を開き、

「愚息達から聞いていたお人柄のままで、嬉しいことこの上なく……この歳になって新たな友を得られたこと、感激するばかりです。

僭越ながらこのオクタド、メーアバダル公のお役に立ちたく……関所の縄張について助言出来ればと思うのですが、お時間いただけますかな?」

と、そんなことを言ってくる。

それを受けて私が笑顔で頷くとオクタドは「では、早速」とまさかの言葉を口にして……また先程の板に座り込み、周囲に控えていた護衛達に指示を出し……まさかのまさか、その板についていた棒を護衛達に掴ませ、持ち上げさせ……その板ごと自分のことを、馬車の群れ中でも一際大きな場所の中へと運び込ませるのだった。