軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モントという男

クラウスにここまで案内されたらしいあの顔が……コッコッと義足で地面を踏みしめながら、もう見ないものと思っていた顔が、こちらにやってくる。

笑顔というかしかめ面というか、その両方の混ざった顔というか、そんな顔で……。

「おう、久しぶり」

そうしてかつて戦場で共に戦ったモントが声をかけてきて……村の広場で呆然としていた私は頭をかきながら言葉を返す。

「……久しぶり。

なんだってここに? 故郷に帰ったはずでは?」

「その故郷がいつの間にやら王国領になっちまっててなぁ……。

帝国には帰らずそっちに行ったなら、故郷の連中のどいつもこいつもが王国の統治は良いだとか、ディアスについて良かっただとかふざけたことばっか言いやがってよぉ……敗軍の将としちゃぁ居辛いったらねぇときた。

……つまりはまぁ、何もかもお前のせいってこった。

一応言っておくとあの野郎……ご領主様には許可取ってここまで来たからな、法をちゃーんと遵守している以上は文句を言うんじゃねぇぞ」

「きょ、許可を取ってまで来たのか……そこまでして一体何をするつもりなんだ?」

「そりゃお前ぇ……以前と変わらねぇよ。

俺をナメやがったお前に、俺をナメやがったことを後悔させてやろうってんだよ!」

と、そんなことを言うモントは、帝国の元軍人で、義足であることを理由に手加減をしてしまった私のことをひどく憎んでいた男だ。

憎んでいて、捕虜という立場でありながらあれこれと嫌がらせをしてきて……嫌がらせの程度が軽いものだったので、排除しようにも出来ないというか、まさか殺す訳にもいかず……かといって酷い扱いを受けるとの噂の正規軍に引き渡す訳にもいかず、そうしてそのまま放置されることになって。

そうこうしている間にもモントは、様々な嫌がらせをし続けて……やりたいことをやり尽くしたのか、嫌がらせのタネが尽きたのか段々と嫌がらせをしないようになり……数ヶ月経ってからだったか、一年を過ぎた辺りだったか、いつしか私達に協力するようになっていった。

『タダ飯ぐらいにはなりたくねぇよ』

『お前らがあんまりにもひでぇ有様だからついつい文句を言いたくなっちまったんだよ』

『お前らが全滅したら俺のお先も真っ暗だからな』

なんてことを言いながら志願兵の皆を鍛えたり、行軍の指揮を執ったり……帝国式の、奇策だとかを嫌う真っ直ぐなやり方を貫くものだから、ジュウハと何度も衝突していたが、それでもそのやり方を貫き続けて……。

そうして仲間からもジュウハからも認められるようになって、いつしかそこにいるのが当たり前の存在となって……その付き合いは随分長く、7・8年は一緒に居たかもしれない。

そんなモントは最後の最後までその意図というか、心の内が見えなかった人物でもあるのだが……私は今、モントの背後にその心の内というか、真意を見てしまっていて、クラウスと一緒になって表情が崩れるのを、吹き出してしまうのを必死になって堪えていた。

「あぁん? なんだその面は?

そもそもお前が悪いんだからよぉ、文句を言おうなんてのは筋違いも良いとこなんだぞ?

あの時お前は俺のことをすっぱりと斬っちまってりゃ良かったんだ、そうしなかったのはお前で、ナメた態度を改めたのもお前で……ぜーんぶお前が悪ぃんだからな!」

なんてことをモントが口にすると、モントの背後でアルナーが、その角を青く光らせる。

以前アルナーはその角を光らせなくても魂鑑定が出来るようになったと、そんなことを言っていたはずなのに……私に知らせるためなのか、モントの背後でぴかぴかと青い光を放っている。

そんなアルナーの隣にはクラウスが立っていて……すぐ隣で青い光を浴び続けているクラウスの顔は、私よりも厳しい状況にあり崩壊寸前といった有様で、両手で口を抑え込んでの見るも無残な姿となっている。

「良いか、ディアスこの野郎、俺は殺ろうと思えばいつでもお前のことを殺れたんだからな!

寝ている時、水浴びしている時、厠に籠もっている時、いつでも俺はお前を殺れたんだ!

それでも手を出さなかったのは全てお前を後悔させるためなんだよ、この野郎!

あの時のお前のふざけた態度が、どれ程の悪行だったか、思い知らせてやらねぇといけねぇんだ!!」

青、それでも青。

モントが口にしている言葉は本当のことなのだろう。

本音で……心からそう思っていて、それでいてモントは私に悪意を抱いていないらしい。

「おい、こらてめぇ、話を聞いてんのかぁ?

っとにお前は昔からそうだよなぁ、人の話を聞かねぇわ、人の指示を無視するわ。

罠だらけの敵城に突っ込んだなんてこともあったよなぁ! あの時は本当に肝が冷えたってんだよ!!」

モントがそんなことを言う間もアルナーの角は強い青色を放っていて……いい加減もう吹き出したいというか、笑うのを我慢したくないというか……。

長年の付き合いがあるだけに、モントの青さは衝撃的で……口を手で抑え込みながら、もうそろそろ我慢の限界だなと、そんなことを考えていると……セナイとアイハンがテテテっと木の器を持って、こちらに駆けてくる。

「おじさんは領民になるんですか?」

「きょうからむらびと?」

駆けてくるなりモントにそう問いかけて……モントはその頭をペタンと叩いて撫でて、少し困ったような表情になりながら言葉を返す。

「あー……なんつったら良いのかな。

まぁ……故郷のご領主様にここで暮らすつって出てきちまったからな、そうなるとここの領民ってことになるんだろうな。

不承不承仕方なくっつうか、なりたくてなる訳じゃねぇんだが、他に行く所もねぇしな……。

まぁ、あれだ、お嬢ちゃん達が困るようなことはしねぇし、世話になる以上は働きもするから心配はしなくていいぜ」

その言葉もまた青で……アルナーの方をちらりと見て、アルナーが頷いたのを受けてセナイとアイハンは、手にしていた木の器を……緑色の液体がたっぷりと入ったそれを、モントの方に差し出す。

「じゃぁこれ、飲んでください」

「やくそういっぱいの、やくとう、のまないとだめー」

差し出しながらそう言って……その薬湯に何が入っているのか、大体察した私やアルナー、クラウスがなんとも言えない顔をしていると、モントは、

「まいったねぇ、薬は苦手なんだがな」

なんてことを言いながら、セナイ達と視線を合わせるためか跪いて器を受け取り、それを一気にゴクリと飲み干す。

「んん? これが薬か?

いやに爽やかで甘くて……なんだぁこりゃぁ。

色んな薬草が混ぜてあるのか、薬草らしい青臭さや苦さもあるにはあるんだが……こんなのは初めて飲んだなぁ」

飲み干して首を傾げながらそう言って……そんなモントに対しセナイとアイハンはにっこりとした笑みを浮かべる。

するとそれを合図にしたかのように、距離を取って様子を見ていたメーア達や犬人族達が、タタタッと駆けてきて……モントを歓迎するためなのか、跪くモントへと一斉に飛びつき……モントは驚きながらも笑みを浮かべて、そんな一団をしっかりと受け止めるのだった。