軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

行商

酒の話で盛り上がり、醸造所をどう造るなんて話にまでなって……そうして盛り上がりに盛り上がった後に、酒好きの一団から抜け出してきたナルバントが、呆れ顔で様子を眺めていた私に声をかけてくる。

「ディアス坊、そろそろ本腰を入れての木材の定期輸入を始めたほうが良いかもしれんのう」

酒の話で盛り上がっていたのだから当然酒の話を振られると思っていた私は、突然の木材の話に驚きながら森の方を見やり……そちらを指差して森で伐採したらどうだ? との視線を送る。

「既に関所や水源小屋を建てたりした関係で結構な木材を使ってしまっておるからのう。

更に迎賓館周りの整備をして、醸造所まで建てるとなると……維持や管理の関係もあって森からの伐採じゃ足りなくなっちまいそうじゃ。

もちろん森を枯らす勢いで伐採すりゃぁ足りるんじゃろうが、そんなことはあの双子達が許してくれんじゃろうし……酒の為にもベリーなんかの森の恵みを失う訳にはいかんからのう。

人の行き来が増えれば更に木材が必要な場面が増えるんじゃろうし……そうなる前に他所から、余っておるとこから買うようにしちまうのが穏当というものじゃろう」

するとナルバントがそんな言葉を返してきて……私は「なるほど」と呟き頷き、そうしてから広場の一画に馬車を止めて、馬達の世話や隣領で買ってきた品々の管理をしていたエリーへと視線を送る。

するとエリーは作業をしながらも話を聞いていたのかすぐに視線を返してきて「うぅん」と声を上げながら悩む素振りを見せてから、ナルバントへと言葉を投げかける。

「一時的じゃなくて定期的な輸入を始めるとなると、どうかしらねぇ……。

メーア布の生産は順調だけど、領民が増えたのもあってその子達の服に使ったりユルトを建てたりで売れる量が減っていて、それでいて買う食料は増えていて……微妙なのよねぇ。

迎賓館用の家具なんかの支払いも考えると、今の収支はトントンかマイナスかって感じで……輸入にまで回せる余裕は無いと思うわ。

ウィンドドラゴンの素材を売れば余裕が出来るかもしれないけども、今回は装備に回すって話だし……何か他に売れるようなものがあれば良いのだけど……。

お父様がまたドラゴンでも狩ってきてくれたなら、小山が出来上がる程の木材を買えちゃうわよ?」

そんな風に冗談めかしながら言葉を投げかけたエリーは、またも「うぅん」と声を上げて悩み始め……私とナルバントもまたそれに続いて頭を悩ませ、冗談ではなく本当にドラゴン狩りに出かけるべきかと、そんなことを考えていると……シェップ氏族の若者が馬達の下へと駆けていって「お疲れ様!」とそう声をかけながら、手に持っていた岩塩を差し出して馬達に舐めさせ始める。

岩塩……岩塩か。

岩塩も売ろうと思えば売れるものなのだろうけども、限りのある品をそうホイホイと売ってしまうのもなぁ。

モールとも売りすぎないようにすると約束をしたしなぁ……。

と、私がそんなことを考えていると、エリーもまた岩塩へと視線をやって……そうしてからゴルディアへと声をかける。

「ねぇ、ゴルディアさん。岩塩の需要ってどんな感じなの?

王国のどこかで需要が上がってたりしない?」

すると未だに酒の話で盛り上がっていたゴルディアは、ようやくその輪を抜けてきて、口髭を撫で回しながら言葉を返してくる。

「おう、ちょうど今南海の方で上がってきているぞ……っておい!

おいおいおいおい! ここは岩塩まで採れるのか!? おいこらエリー! 俺はそんな話聞いてねぇぞ!!」

言葉を返して来る途中で何か思う所でもあったのか、急に声を張り上げてきて……そんなゴルディアに対しエリーはさらっとした笑顔を作り、

「しょうがないじゃないの、岩塩鉱床が手に入ったのは最近のことなんだもの、知らせる暇なんか無かったのよ。

っていうか海の方で岩塩の需要って一体何事なのよ」

と、事も無げに言い放つ。

それを受けてゴルディアは大きなため息を吐き出し……そうしてから王都の南の方にあるという港町の話をし始める。

「潮の流れなのか天候のおかげなのか、最近あの辺りで豊漁が続いていてな。

魚が獲れに獲れすぎて食うのも売るのも限界ってなところにまで来ちまってんだよ。

それで獲れすぎた魚を塩漬けにして保存食にしようとし始めたんだが……今度は塩の方が足りなくなっちまってなぁ。

おっと、海の側なら海水から塩を作れば良いだろうと言いたいんだろうが、海水からの塩作りには大量の薪が必要でな、そう簡単にもいかねぇんだよ。

煮出しのいらねぇ質の良い岩塩ならすり潰すだけで使えるからな、そこまで持っていけば良い値段で売れると思うぜ」

そんなゴルディアの説明を受けて私が、高く売れるのだとしても売っても良いものだろうかと顔をしかめていると、エリーがそんな私に対し、地面に絵図を描きながらの説明をし始める。

「岩塩を売り過ぎてはいけないというのは私も分かっているわ。

その上での提案なのだけど、需要が高まっている今だけ岩塩を売って、時間を稼ぐというのはどうかしら?

稼げる今だけ鬼人族とも相談の上で売りすぎない程度に売って、その売上で木材の輸入を始めて……準備が整い次第に私達が進めている氷売りに移行して、秋までの時間を稼ぐ。

秋になったら更に売るものを見つけないといけない訳だけど、その頃には街道がしっかり出来上がっているでしょうから、それまでにメーア布の生産量を増やすなり、新たな商材を見つけるなりしておく……という訳ね。

安定して木材が入ってくるようになれば、色々な施設を作れるようになるでしょうし、ユルト以外の家なんかも作れるようになるでしょうし……悪くない話だと思うの。

安く大量に売るっていうなら反対されるかもしれないけど、高く売れる今だけの期間限定でって条件なら鬼人族の皆さんも賛成してくれるんじゃないかしら。

とりあえず変に売りすぎないようにって自戒する意味でも、ギルドだけを相手に売買するとしようかしら……ギルドなら王国の東端まで商売ルートがある訳だし」

岩塩が港町に運ばれて、港町から金貨がやってきて、その金貨が隣領にいって隣領から木材が運ばれてくる……というそんな絵図を、私に分かりやすいように描いていったエリーは、岩塩の隣に氷やメーア布と思われる絵図を書き足していく。

物が金貨やあっちこっちに移動して、移動する度に複雑な線を描いていって。

その線が道で、道を商品を持って移動しているのがエリー達やゴルディア達で……。

季節や状況に合わせて売るものを変えて、売る量を調整して、関わる人達が損をしないように調整もして……。

エリーが今までにやっていた、セキ、サク、アオイの三兄弟がこれからやることになる『行商』というものを改めて理解したというか実感したというか、絵図になったことにより今まで以上にハッキリと認識出来た私は、大きく頷いてからエリーに言葉を返す。

「分かった。

そういうことなら、とりあえず岩塩を売って木材を買っていくってことでエリー達に任せるよ。

鬼人族の代表はゾルグということになっているから、そこら辺の交渉も任せるし、ゴルディア達との交渉も任せる。

迎賓館を作ったらそこに取引所を建てるということにもなった訳だから、そこの管理もエリー達に任せよう。

……商売というものの一端に触れてみて分かったが、私がここら辺のことを完璧に理解するというのは無理なようだし、管理なんかに関わるというのも無理そうだ。

変に手を出すくらいならエリー達に任せてしまった方が良いということが今回のことでよく分かったよ。

ただし、金貨を稼ぐことが目的ではないから、稼ぎ過ぎないように溜め込み過ぎないように……程々に頼むよ」

元々商売に関しては、そのほとんどをエリーに任せていた訳だけども、改めて商売に関することを、細かいことまで含めて全てエリーに任せてしまおうとの私の言葉に対し、エリーはただ頷き、話を聞いていたイルク村の皆も笑顔で頷き、特にこれといった異論は出てこない。

代表会議に必要なメンバーも、クラウス以外の全員がここにいて……後はクラウスに確認を取れば大丈夫そうで、特に問題なく話がまとまりそうだ。

「……嘘だろ、おい。

リーダーが思いつきで方針決めて、それに誰も異論挟まねぇのかよ。

これがギルドの会議だったらお前、生意気盛りの連中があーだこーだと文句言いまくって、4・5日は揉め倒すような内容だぞ?

ディアスこの野郎……辺境で苦労しているかと思えば、相変わらず運が良いっつうか、良い縁にばっかり恵まれやがって……!!」

するとゴルディアがそんな……よく分からないことを言ってきた上でなんとも悔しそうな表情を向けてきて、それを受けて私が、

「何が気に食わないのかは分からないが……もう一度やるっていうなら受けて立つぞ?」

と、そんなことを言いながら手を構えると、ゴルディアは、

「やってやろうじゃねぇか!!」

なんて声を上げながら両手を振り上げ……先程よりも強い勢いでもってこちらに向かって突撃してくるのだった。