軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ピンチ

――バンフィールド家の領地に派遣した工作員から、報告が届いていた。

場所はカルヴァン派の集まる会議室。

聞こえてくるのは、大規模なデモ活動。

しかし、工作員の顔色は優れない。

『そ、想定していた以上の規模でデモが広がっています。こちらではコントロールしきれません』

統合政府からの移住者を煽って、リアムの領地を機能不全にする――その狙いは見事に達成されていた。

ただ、予想以上に成功してしまい、カルヴァンたちは困惑している。

「想像以上だね。正直、リアム君の領地でこれだけの規模のデモが起きるとは予想外だよ」

善政を敷いているリアムの領地で、これだけの“民主化”デモが起きるとは誰も予想していなかった。

貴族たちが顔を合わせる。

「やはり、領民に余計な知恵は必要ないな」

「増長して権利を寄越せなど、虫唾が走る」

「リアムの小僧も、これで懲りるだろう」

ただ、結果だけを見れば大成功だ。

カルヴァンは工作員を褒めてやる。

「ご苦労だったね。これ以上は、こちらが手を出すまでもない。戻ってきなさい」

『はっ!』

通信が切れると、カルヴァンは自派閥の貴族たちを前に笑みを浮かべる。

これだけの大規模なデモだ。

リアムを非難するには十分すぎる材料になる。

この時点で、カルヴァンたちの目的は達成されていた。

「これで、リアム君の統治能力に疑問符がつくようになる。ここで締め上げてもいいとは思うが、彼には武力がある。どうするべきかな?」

領地もまともに統治できないと、リアムを責め立ててやることも出来る。

だが、今はクレオを引きずり下ろす時期だ。

ここでリアムを責めて、戦争から遠ざければ面倒になる。

「連合王国との戦争をさせ、敗北、または辛勝した際に追い詰める材料にするべきです。リアムの軍事力は侮れません」

「我々で倒せぬとは言いませんが、まともにやり合えば危険です。奴自身、剣聖を倒す強者。何かあってからでは遅いので、皇太子殿下の護衛にはこちらも剣聖を用意しましょう」

「一人では足りないな。二人だ」

貴族たちもリアムとの直接対決は愚策と考えているのか、戦争は避けようとしていた。

たった一人で海賊貴族を潰した男である。

何をするか分からない。

リアムを徹底的に叩くためにも、戦場に送るのは決定事項である。

生き残って戻ってきた際には、デモを理由につるし上げだ。

そして、カルヴァンも自分の護衛については考えていた。

暗部もいるが、やはり剣聖を倒したリアムは怖い。

実力で剣聖の位を得た男を倒しており、純粋な力を持つリアムは脅威だ。

カルヴァンは剣聖二人の招集を決める。

「――アーレン流剣術の当主と、クルダン流剣術の当主、そして実力者である剣豪たちを集めよう。当主の二人には、腕の立つ護衛を用意するように伝えておくから、君たちも護衛を側に置きなさい」

貴族たちにも気を配るのを忘れないのは、カルヴァンの処世術だった。

招集する二つの流派は、帝国でも主流の剣術になる。

そのため、剣聖の称号を与える際には、流派がどれだけ広がっているかも加味して与えられている。

言ってしまえば、その二つの流派は政治的な意味合いで剣聖の称号を得た。

ただし、力だけで剣聖に上り詰める男だけに帝国の剣聖を名乗らせておくのも危険だ。

素行不良では、帝国の権威に傷がつく。

そういった意味もあり、立派な剣士を選ぶ必要があったのだ。

二大流派の二人の当主が、帝国にとっても都合が良かった。

それに、強さも当然のように兼ね備えている。

「――剣聖二人にはしっかり説明するように。一閃流という新興流派に、その地位を奪われないためにどうすれば良いのか、それを伝えるのを忘れては駄目だよ」

カルヴァンは、リアムを徹底的に追い詰めるつもりだった。

リアムの名を貶めるために、一閃流すら怪しい剣術だと広める。

二大流派も、最近話題の一閃流を潰すために、本気で動くだろう。

そして、彼らはすぐに動いた。

帝国は大手メディアを使い、それこそ外国にも届くようにあるニュースを報道していた。

それは、リアムの一閃流についてだ。

かつて、リアムに安士を紹介した男が、モニターの中でインタビューに答えている。

『そもそも安士という男は剣士としては三流ですよ。素人に毛の生えた程度の男で、 香具師(やし) って言うんですかね? 大道芸で飯を食っていた男ですよ』

『それでは、一閃流というのは?』

『そんなの、あいつのデタラメでしょう』

違う番組では、一閃流の基礎とも言える動きを解説していた。

どうやって調べたのか、安士が教えた基本動作――他流派の真似を徹底的に解説している。

『一閃流の動きですが、これはクルダン流の動きですね。こちらはアーレン剣術のものです。言ってしまえば、継ぎ接ぎだらけなんですよ』

『それはつまり?』

『一閃流は他流派の真似をしているだけ、ということです』

徹底的に一閃流をこき下ろしていた。

そんなモニターにしがみつくのは――安士だ。

「いいぞ! もっとだ。もっと言ってくれ! 一閃流など偽物だと知らしめてくれ!」

嘘がばれるとリアムに殺される。

しかし、今では剣神などと呼ばれて追い回される日々を過ごしていた安士には、嘘だと広めてくれる方が安心だった。

「ようやく! ようやく――肩の荷が下りる」

涙を流して感動していた。

自分の嘘から始まった剣術が、ようやく消える。

安士は全てから解放されたような、晴れやかな気分だった。

場所は変わり、帝国領内にある大衆食堂。

そこで二人の人物が麺料理を食べていた。

テレビから聞こえてくるのは――「一閃流は偽物!?」と題した、報道番組だ。

『最近話題の一閃流ですが、これがとんでもないデタラメ剣術だったと判明しました』

『それはそうですよ。伯爵の言っていることが本当なら、今まで表に出てこなかったことが不思議です。嘘ですよ、嘘』

周囲の客たちも、一閃流のことを話している。

「お貴族様は見栄を張りたがるからな」

「一閃流なんて偽物剣術だろ」

「本物はアーレン剣術とクルダン剣術だな。やっぱり、二大流派は強ぇよ」

番組では、その二大流派の当主や師範代たちが、一閃流を悪く言っていた。

食事をしていた二人は、その場にお金を置いて店を出る。

二人は店の前で――。

「どっちにする?」

「どっちでもいいかな。まぁ――どっちも潰すけど」

――そんな話をすると、少し会話を続けた。

その後、二人はその場で別れてしまう。

――ぶっ殺してやる。

お気に入りの刀を持ち、ソファーに座る俺は連日報道されている一閃流への非難に腸が煮えくりかえる思いだった。

剣聖の称号を持つメジャーな流派の当主たちが――それから、その他多くの流派が一閃流を貶し始めた。

やれ、デタラメだ、パクりだ、偽物だ――。

いずれ、こいつらは全て斬り伏せてやる。

だが、今はタイミングが悪すぎる。

激怒している俺を前にしているのは、エレンだった。

「――師匠」

不安そうにしている弟子を見て、つい苛々して言ってしまう。

「なんだ? お前も一閃流を疑うのか?」

すると、エレンは首を横に振る。

「私は師匠の剣を信じます! 複雑なことは分かりませんけど、師匠の剣を信じます。師匠は私にとって、宇宙一の剣士です!」

目に涙を溜めて俺を見ている弟子を前に、俺は目を見開いた。

エレンの後ろに――安士師匠が見える。

もちろん幻想だろう。

俺の妄想かもしれないが、師匠が俺に微笑んでいた。

『リアム殿、心乱される時こそ自分を省みるのです。心は熱く、頭は冷静に――そして、大事なことを見失ってはなりませんぞ』

安士師匠の言葉を思い出す。

かぶりを振って、俺はクツクツと笑った。

「そうだよな。師匠の剣に嘘はなかった。俺がこの目で見たものが真実だ。他人がどう言おうと、真実は変わらない」

あの日見た光景を思い出す。

師匠の「一閃」は本物だった。

それは、俺がよく知っていることじゃないか。

「師匠?」

エレンが俺を見て不思議そうに、そして不安そうにしていた。

――俺は師として未熟である。

「先に片付けるべき事があった。他流派は後で潰すとして、俺には俺のやるべき事がある」

この糞みたいな状況を打開する。

領内は大規模デモが発生して問題を抱えている。

クレオ派閥は星間国家間の戦争を前に大忙しだ。

俺の軍隊も大部分を連れていくため、領内の治安維持すら危うい。

手が足りない。圧倒的な人手不足だ。

「エレン。むしゃくしゃする時は修行だ。汗を流して――」

すると、緊急通信が入る。

領内で留守番をしているブライアンからだった。

『た、大変ですぞ、リアム様!』

バンフィールド家の屋敷。

そこでブライアンは、冷や汗をかいていた。

「――大規模なデモがここまで広がるとは」

領内は機能不全を起こしている。

それでも、リアムが抱えている企業は問題なく動いていた。

収入が途切れることはない。

だが、各地でデモが爆発的に広がり――おまけに。

「ブライアン、屋敷内で働く使用人たちの 嘆願書(たんがんしょ) だよ。屋敷で働く人間の八割以上がサイン済みだ」

侍女長のセリーナが、更に追加で爆弾を持ってきた。

「ノォォォォォォ!!」

ブライアンは頭を振り乱し、この異常事態に胃が締め付けられる。

「は、八割以上ですと!?」

「日頃の不満は馬鹿に出来ないね。領内の雰囲気にのまれて、これを機に要望を押し通すみたいだ」

「さ、先程、リアム様に現状をお伝えしたばかりだというのに――どうして。どうして、こんなことばかり続くのか」

ブライアンが膝から崩れ落ちてしまった。

案内人はスキップをしていた。

鼻歌まで歌い、幸せそうな雰囲気を出していた。

「むほほほ、こんなにも効果が絶大だとは思わなかった」

リアムの領内は機能不全を起こし、おまけに一閃流が偽物だと言いふらされてリアムは大激怒。

案内人は嬉しくて仕方がない。

この数十年、ここまで嬉しかったことはなかった。

過去最高の幸せを感じている。

「私がリアムを支援する、リアムは困る。素晴らしいことです。私が好きな間接的に干渉して、相手を不幸にするという願いも叶った」

本当に糞野郎である。

だから――大事なことを見落とすのだ。

「今後もリアムを大プッシュ! まだまだ、私の支援は終わらな~い!」

――裏切り者が出た。

「屋敷にいる使用人たちまで裏切るとは思わなかったぞ」

俺の屋敷で働く使用人たちは、選び抜いた領民たちだ。

そいつらが俺を裏切ったのである。

この俺に嘆願書などと――ふざけている。

苛々している俺をなんとか慰めようとしているのは、ロゼッタだ。

「ダーリン落ち着いて」

「これ以上なく落ち着いている。領地に戻ったら、俺を裏切った連中をどう処罰してやるか楽しみで仕方ない」

今から拷問方法を考えておくべきだろう。

「――ダーリン」

悲しそうな顔をするロゼッタから視線を外し、俺はエクスナー男爵から預かったシエルを見た。

「シエル、エクスナー男爵からは何か言ってきたか?」

すると、シエルは無表情ながらも――俺に敵意をむき出しにしていた。

隠しているのだろうが、俺には手に取るようにシエルの気持ちが分かる。

こいつは俺を嫌っている。

「伯爵様をしっかり支えろ、と。父と兄からきつく言われております。特に兄からは、心配しているのか毎日――毎日、毎日、連絡が来ております」

内心では悔しさを滲ませているが、表情は落ち着いている。

こいつは本当に面白い奴だ。

「クルトの奴は軍人として忙しいだろうに。後で俺から連絡しておこう。ところで、困っていることはないか?」

「――ありません。皆さんによくしていただいております。色々と学ばせていただき、感謝しております」

会話だけを聞けば、修行しに来たシエルを俺が案じているように周囲からは見えるだろう。

だが、俺とシエルとの間にあるのは、そんな微笑ましい関係ではない。

こいつは、俺に敵意を隠さない。

いや、隠しているつもりだろうが、全て丸分かりだ。

エクスナー男爵という悪徳領主を父に持ちながら、こいつ自身は清廉潔白に育ってしまった異端者だ。

そんなシエルだが、俺を倒せる実力もなければ頭もない。

優秀ではあるのだが、シエルでは俺をどうすることも出来なかった。

つまり、俺にとっては楽しい玩具だ。

ロゼッタというチョロインではなく、本物の鋼の精神を持つ少女である。

俺に話しかけられると、嫌悪感を出してくるから面白い。

ただ、エクスナー男爵の娘であり、クルトの妹だ。

手荒なまねだけは出来ない。

遊ぶにもバランス感覚が必要になってくる。

「そうか。最近慌ただしく、お前の修行をしっかり出来ているか不安だったんだ」

俺たちの楽しい会話に割り込んでくるのは、空気の読めないロゼッタだ。

「安心して、ダーリン! シエルのことは私がしっかり面倒を見るわ!」

「――そう」

お前は空気を読めよ!

シエルをいじって遊んでいたのに邪魔しやがって。

しかし、俺の領地にある屋敷で裏切り者が出たとなると、他にもいるだろうな。

よく考えなくても、カルヴァン派はこれを機に俺たちの勢力を削るはずだ。

きっと色んな工作をしているはず。

いや、工作の最中だろう。

裏切りそうな連中は、みんな裏切っていると見て間違いない。

――くそ、今回は案内人が助けてくれていないのだろうか?

そうなると、俺一人の力で切り抜けなければ――ん?

俺はそこで一つ一つ、ゆっくりと考える。

この現状から脱出し、勝てる可能性を考えて気が付いた。

「あれ? この状況、そんなに悪くないんじゃないか?」