軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

裏切り

オクシス連合王国動く。

その知らせを受けて、首都星は大騒ぎになっていた。

国境で小競り合いは続いているが、本格的な侵攻となると規模が違う。

数万隻ではなく、数百万隻の艦隊同士がぶつかるのだ。

そして、今回は連合王国も本気を出してきた。

「三百万隻?」

「は、はい! 連合王国は、内乱に加担した国や貴族たちを中心に大規模な艦隊を編成しています。リアム様、これは大変なことですよ!」

星間国家同士の本気のぶつかり合いは、下手をすると何百年と続く。

俺はホテルの自室で優雅にコーヒーを飲んでいた。

「そうか」

「そ、そうか!? リアム様、ちゃんと考えているのですか?」

俺にこの話を持ち込んだのは、連合王国にいる悪徳貴族と手を結ばせたトーマスだ。

悪徳貴族が早速仕事をしてくれた。

俺にいち早く情報を持ち込んだのである。

「俺には関係ない。軍の仕事だ。そして今の俺は役人だ」

出勤前に優雅に過ごしていたところに、トーマスが駆け込んできたのだ。

「そ、それはそうですが、軍だけでは対処しきれません。帝国貴族の方々に参戦を依頼してくるはずです」

「なら辞退する。俺は現在修行中の身だ。軍人としても予備役だからな」

三百万の敵が攻めてくる――これは確かに一大事だが、帝国だって巨大な星間国家だ。

その気になれば倍の戦力を用意できる。

だが、余裕があると、どうしても味方の足を引っ張り合うものだ。

俺のように、自分は参加せずに眺めているだけとか、ね。

悪徳領主たるもの、危険は冒さない。

戦争自体には勝てるかもしれないが、三百万の敵がいるのだ。

帝国にだって被害は出る。

その被害を受けるのが、俺ではないと言えるだろうか?

「今回は資金と物資の提供でやり過ごすさ」

「それは――正しいのかもしれませんね」

トーマスが落ち着きを取り戻す。

俺が戦争に参加するとでも思っていたのだろうか?

コーヒーを飲んでいると、使える部下のクラウスから通信が入ってきた。

『リアム様、緊急につき失礼いたします』

アポもなく俺に連絡を入れてきたクラウスの表情が、かなり焦っている。

「どうした?」

これが使えない部下――ティアやマリーからの通信なら、即切りしてやったところだ。

だが、冷たい態度を取っても興奮しやがるので、どうにも負けた気分がする。

『宮殿からの要請です。連合王国との戦争に参加せよ、と』

「辞退する。俺は忙しい」

『――それが、今回の総大将はクレオ殿下に決定しました』

「何だと!?」

連合王国にリアムと繋がっている貴族がいる。

ノーデン伯爵だ。

トーマスを介して、リアムから援助を受けている男だった。

惑星一つを領地に持つこの男だが、この男が仕えている王が以前に反乱軍に加担してしまった。

おかげで、みそぎの意味合いで戦争に参加させられる。

帝国のリアムと繫がりを持ち、甘い汁を吸ってきた男だ。

連合王国のために動くつもりはない。

そして――リアムのために動くつもりもない。

全ては己のために動く。

「つまり、リアムを戦場に引っ張り出す手助けをせよ、と?」

帝国からやって来た商人が笑顔で頷く。

「帝国内で騒ぎ立てている貴族たちがいます。その者たちが、貴国の相手となるのです」

「敵対派閥を連合王国に処分させたいとは、帝国の貴族は怖いですな」

「その見返りとして、クレオ殿下が率いる艦隊の情報は常にそちらに届くようにしておきます」

ノーデン伯爵は笑みを浮かべる。

その状態なら手柄も立てられる。

何より、敵艦隊は本国に負けるように望まれているのだ。

敵だけではなく、味方からも様々な嫌がらせを受けることになる。

「しかしですな~。私もリアム殿にはお世話になっております。裏切るのも簡単ではありませんぞ」

もっと対価を出せと 強請(ゆす) るノーデン伯爵に、帝国の商人が微笑む。

「もちろんです。成功した暁には、望む限りの報酬をご用意いたしましょう。こちらは前金です」

用意された資料には――莫大な金額と、大量の資源がリスト化されていた。

ノーデン伯爵は内心で笑いが止まらなかった。

(バンフィールド伯爵、貴殿は帝国内に敵を作りすぎたようだ。精々、私のためにその命を散らしてくれ)

後宮。

クレオが暮らしているビルでは、朝から大騒ぎになっていた。

「数百万の艦隊を率いろだと!? クレオは軍人として教育を受けていないんだぞ!」

憤りを隠せないのは、クレオの姉であるリシテアだ。

彼女は皇族でありながら騎士を目指し、今は可哀想な弟になってしまった妹の護衛をしている。

クレオは、荒れている姉の姿を見て落ち着いていた。

「姉上、落ち着いてください。教育カプセルで基本は学んでいます」

「クレオ、教育カプセルは確かに優秀だが、それは知識がインストールされただけだ。使いこなさなければ意味がない。カプセルで十分なら、教育など不要だよ!」

「――どうせ、俺ではなくバンフィールド伯爵が艦隊を率いますよ」

「お前は何も分かっていない。バンフィールド伯爵が率いれる数は、精々十万隻だ。その倍にもなれば、優秀な指揮官たちが必要になる。バンフィールド家だけでは足りない」

リアムは優秀だが、一個人でどうにかなるレベルではなかった。

リシテアは頭を抱える。

「伯爵には経験が足りなさすぎる。数百万を率いるような提督は、才能だけではなく経験も必要なんだ。そして、手足となって動く部下が何万人も必要になる」

その何万人――何十万人という数字は、しっかりと教育を受けた士官たちを意味する。

ただの兵士では駄目だ。

一伯爵にはとても用意できない。

「これがまだ数年前に分かっていたならやり方もあるさ。だが、時間がないんだ。まとまりのない軍隊で勝てるほど、戦争は甘くない」

姉の様子を見て、クレオはどうやら自分はここまでだと思うのだった。

(伯爵、どうやら俺たちはここまでのようだよ)

これだけの大役、普通なら皇帝や皇太子が出て来てもおかしくない。

成功させれば、継承権が動いてもおかしくない。

普通ならカルヴァンが出るべきところだが――そのカルヴァンが、クレオを推薦したのだ。

明らかに、失敗することを望まれていた。

リシテアが涙目だ。

「最悪だ。この帝国の危機に、クレオが総大将を辞退すれば貴族たちに見放される。総大将になっても勝ち目がない」

たとえ、勝ったとしても――疲弊したクレオの派閥では、カルヴァンの派閥とは戦えない。

「カルヴァン兄上は厄介ですね」

クレオの感想に、リシテアも同意する。

「長年皇太子の地位を死守しているだけはある。伊達ではないということか」

手が届きそうで、届かない。

皇帝の椅子というのは、クレオにはとても遠いものに思えていた。

帝国首都星にある役所の一つ。

現代日本で言えば役場のような場所で、俺は大学卒業後に働いていた。

何故か?

出世コースから外されたからだ。

本来なら宮殿で優雅に働いているはずが、地方に飛ばされてしまった。

もっとも、毎日のようにそんな遠くまで車で通っている。

何故か?

車の性能が凄いからだ。

簡単に言えば、小型ジェットの機能を持っている。

これで地方に飛ばされても安心だ。

そして、俺の上司は――これまた反吐が出るような奴だ。

「リアムく~ん、君はわざわざ首都からこんな田舎に通っているよね? お金持ちなんだから、近所に部屋でも借りたらどうだい?」

大貴族の三十男だったか?

とにかく、プライドだけは高い糞野郎で、仕事をしないで遊び回っている。

いつも俺の机に来て余計な仕事を持ってきたりするのだ。

「あ、それと今日中にこの資料をまとめておきなさい。明日までに、ね」

用意された大量のファイル――電子書類が俺の前に展開される。

時計をチラリと見れば、定時まで後三十分――終わらせるのは無理な時間だ。

分かりやすいいじめである。

俺は資料を手で払いのけ、その男の頭を掴んで机に押しつける。

「誰に命令している、この糞野郎」

「き、貴様、上司に向かって!」

「無能な奴が上にいるというのは、本当に度し難いな」

そう言って、俺はその上司の頭を押さえつける力を強めていく。

メキメキと聞こえてはいけない音がするが――気にしない。

あと、俺は無能な上司というのは肯定派だ。

俺自身が悪徳領主であり、無能上司の筆頭である。

しかし、俺の上に無能がいるのは許さない。

悪党は身勝手なのだ。

「この時間に仕事を割り振るとはどういうつもりだ? お前の仕事は管理だ。仕事を割り振るのも仕事だ。こんな時間に仕事を割り振って、時間内に仕事が終わるのか?」

「へ、へぎょ」

もう喋れないらしい。

「お前のミスだ。お前で処理しろ」

解放してやると、その男は震えていた。

「き、貴様! こんなことをしてただで済むと――」

思っていない。

ただで済ませるつもりはない。

無能上司の頭を掴んで握りしめてやると、ギチギチと音がする。

周囲は俺たちを見て震えていた。

「――お前がやれ。一人でやれ。お前のミスだ。そうだろ?」

「は、ひゃい」

返事をした無能上司に俺は微笑みかける。

「確か、明日までに終わらせろと言ったな? お前は出来るからそう言ったんだよな?」

見るからに一人では終わらない量だ。

無能上司が震えている。

「む、無理です」

「出来るよな!」

蹴飛ばしてやると、転がって震えていた。

「――明日までだ。俺にそう言ったなら、お前は出来るんだよな?」

無能上司に近付いて顔を覗き込んでやると、血の気が引いた顔をしていた。

だから優しく微笑んでやる。

「明日までにお前一人で終わらせろ。――出来なかったら、分かっているよな?」

「は、はい」

すると、終業のチャイムが鳴り、俺は片付けをして帰ることにした。

残業? そんなものは悪徳領主がするものではない。

他の人間がすれば良いのだ。

俺は絶対にしない。

「では、お疲れ様。――お前は明日までに終わらせておけよ」

無能上司への態度は無礼そのものだが、俺はそもそも伯爵だ。

帝国では全て許される。

何故って? 俺が本物の貴族だからだ。

本物と言っても心根やその他ではなく、社会的な地位だけだ。

ノブレスオブリージュ――貴族の義務など幻想だ。

それよりも、無能上司のおかげでストレスがたまる。

いっそ、職場の改善作業に取りかかるべきだろうか?

翌日、俺は無能上司の上司に呼び出されていた。

無能上司の血縁者で、大貴族の関係者であるその男は――俺に対して上から目線で接してくる。

「軍ではえらく暴れ回ったそうだが、ここは役所だ。軍人のように野蛮な行動は控えて欲しいものだな」

上司の後ろで震える無能上司――無能野郎は、俺を見て少し勝ち誇った顔をしていた。

俺? ソファーに座って書類を見ていた。

「――誰もがお前にひれ伏すと思っているのか? 私の実家はカルヴァン殿下の派閥に所属している。お前など怖くないんだぞ!」

貴族というのは俺も含め度し難い連中の集まりだ。

日頃からその地位のためにチヤホヤされるのが当たり前の生活をすれば、善人だって腐って悪人になる。

頭の良い連中は沢山いるし、こいつらのような無能ばかりではない。

ただ、無能も多い。

俺は書類を見ながら、その上司に言ってやった。

「それで? 気は済んだか?」

「強気だな。知っているぞ。お前は近い内に戦場送りだ。カルヴァン殿下を怒らせたことを悔いるんだな!」

――カルヴァンに同情するとしたら、派閥が大きすぎてこんな無能の面倒まで見なければならないことだろう。

だから、俺がその面倒を減らしてやることにした。

「それについては今も苛々していたところだ。それはそうと――この書類を見てくれ。お前らの汚職に関する証拠が揃っているんだ」

集めた電子書類が部屋中に展開されると、上司も無能も驚いていたが、すぐに笑みを浮かべていた。

「それがどうした? 今更この程度の汚職など――」

「みんなやっている、だろ? そんなことはどうでもいいんだよ。お前たちを蹴落とす材料がここにあり、俺はそれを実行して憂さ晴らしをさせてもらう。職場の環境が悪かったところだ。お前らを綺麗に掃除して、俺好みの職場にしてやる」

指を鳴らすと、武装した兵士たちが次々に部屋に入り込んでくる。

「動くな! 頭の後ろで手を組んで、床に伏せろ!」

「お、お前らいったい!」

上司と無能が兵士たちに蹴飛ばされ、そして拘束されていく。

兵士たちを率いる隊長が俺の前で敬礼してきた。

「通報、感謝いたします」

「仕事が早いな」

こいつらの汚職を調べて通報したのは俺だ。

昔、天城と一緒に頑張っていた頃から、この手の汚職を見つけるのは得意だった。

もちろん、その後の後始末も得意だ。

「――宰相より伝言です。仕事が早くて助かる、と」

こいつらを褒めたら、逆に褒められてしまった。

それがおかしくて笑う。

「なんだ、お前ら宰相に命令されていたのか」

「はっ!」

「宰相には世話になっている。お礼もしたいところだな」

仕事の早い兵士たちにも、あとで賄賂――じゃなかった贈り物を届けさせよう。

俺は自分に役に立つ人間への配慮は忘れない男だ。

それにしても――最近、妙に運が悪い。

地方に飛ばされるし、上司は無能だし、職場は汚職まみれ――おまけに面倒な戦争にまで巻き込まれている。

面倒事が次々に舞い込んでくる。

しかも、星間国家同士の戦いに巻き込まれつつある。

正直、俺の手には余る内容だ。

いったいどうなっているんだ?