軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夜の宮殿

ライナスは報告を受けると唖然としていた。

目の前にいる膝をついた仮面を付けた男に、机の上にあった物を投げ付けた。

「失敗しただと! 貴様ら、それでも暗部か!?」

腹が立つことに、ライナスが動いた証拠を残してしまったそうだ。

そちらはクラーベ商会の幹部が勝手に動いたということで、もみ消しは簡単に出来る。

だが、リアムはこちらが動いたというのをすぐに知るだろう。

仮面の男も焦っていた。

「敵は我々のやり方を知っていたとしか思えません。あまりにも手際がよく、リアムの側にいる者たちも相当な手練れかと」

帝国の暗部と同等の組織を持っている。

それを聞いたライナスは背筋が寒くなった。

自分が小物と見ていた敵が、実はとても厄介だと再認識したのだ。

それも、手遅れの段階で、だ。

「――リアムを何としても潰せ。クレオはどうにでもなるが、今動かなければ私の地位が危うくなる」

多少力のある貴族だろうと、どうとでもなると思っていた。

今まではどうにでもなった。

しかし、自分の手に余る存在だと気が付き、一気にライナスは追い詰められてしまった。

こんな状況では、カルヴァンと争うどころではない。

今の自分の状況を知れば、自派閥の貴族たちも逃げ出すだろう。

仮面の男が報告してくる。

「リアムはクレオ殿下に面会を求め、宮殿へやって来ます。もはや、なりふり構っている状況ではありません。殿下、手練れを集めてください。騎士でも傭兵でも構いません」

ライナスは既にかなりまずい状況だった。

宮殿内で暗殺――しかもかなり強引な手段だが、選んでいる暇がない。

こうなってしまえば、リアムに消えてもらわなければ自分に明日がないのだ。

「すぐに集められるだけ集める。お前らも全力を出せ」

「はっ!」

仮面の男が消えた部屋で、ライナスは絶望から虚ろな表情をするのだった。

クレオ殿下に会うため宮殿に足を運んだ。

と言っても、宮殿というのはかなり広い。

暗殺騒ぎがあったというのに、それを感じさせない静けさがあった。

時間が夜というのもあるだろう。

しかし、それにしても異様な雰囲気だった。

道路の上を浮かんで移動する車に乗り込み、外を見ている俺は殺気を感じ取る。

「――堂々と暗殺か。人間、追い詰められると悪手と分かっていても打つということだな」

俺の隣にいた護衛のクラウスなど、まだ気が付いていなかった。

「リアム様、何か?」

「おい、車を止めろ」

運転手に車を停めさせ、俺は護衛と共に外に出た。

ククリは気付いた様子で、俺が外に出た時には部下たちと一緒に姿を現していた。

その場所は綺麗に舗装された道路だ。

両脇には街路樹と街灯が並び、花壇も用意されている。

道幅は――前世で言うなら四車線はあるだろう。

上りと下りで八車線。

俺が外に出ると、問答無用で発砲音が響き渡る。

半歩だけ体を横に移動させると、弾丸が通過して地面に撃ち込まれた。

耳がキーンと嫌な音を立てる程度で済むのは、肉体強化をしているからだ。

クラウスが慌てて俺の前に飛び出す。

「リアム様、お下がりください!」

「構うな。お前らは自分の身を守れ」

クラウスを押しのけて前に出た俺は、持っていた刀を抜いた。

違う場所から俺を狙っているスナイパーが撃った弾丸を、次々に斬り落としていく。

ちょっと面白い。

前世で見た弾丸を斬るという達人技を再現できて、俺は少しばかり嬉しくなったね。

まぁ、肉体強化をしたこの体と一閃流の技術のおかげだ。

この程度は児戯に等しい。

ククリに視線を向ける。

「狙撃手が邪魔だ」

「はい」

ククリの部下たちが闇に消えていく。

そして、この場に続々と人が集まってきた。

それは異変を察知して駆けつけた宮殿内を警備する者たちではなく、殺気を漂わせている者たちだ。

騎士、軍人、傭兵だろうか? 大勢が俺たちを取り囲んでいる。

そんな連中を前に、クラウスをはじめとした護衛たちが剣を抜いた。

「貴様ら、自分たちが何をしているのか分かっているのか!」

敵は俺たちと会話をする気がないようだ。

顔を隠しており、武器を手に取っていた。

護衛たちが俺の前に出ようとするので下がらせる。

「クラウス、俺の邪魔をするな。丁度良いから、ライナス殿下が抱える凄腕たちを相手にしてやろうじゃないか」

敵を前に軽くアゴを上げてやる。

「どうした? かかってこないのか?」

この中に強い奴らもいるのだろう。

だが、俺の敵ではない。

この程度しか集められないライナスは、やはり最初の敵として相応しかった。

序盤に出てくる中ボスみたいな奴だな。いい経験値稼ぎになる。

騎士たちが俺に向かってくる。

軍人たちが銃器のトリガーを引こうとしたので、その前に俺は邪魔な者たちを片付ける。

構えは変えず、尊大な態度でいる俺の前で軍人たちが斬り裂かれて血を噴き出させていた。

傭兵たちが混乱しているが、それを騎士たちが怒鳴りつける。

「これが一閃流だ! 命が惜しければ、斬られる前に――」

口を開いた騎士から殺してやった。

俺に近付く前に首が飛ばされるが、他の騎士たちは覚悟が決まっているのか俺に向かってくる。

気概だけは素晴らしい。

だが――。

「気概だけでどうにかなると思うなよ」

――全て斬り伏せた。

俺は少しも動いていないように見えるだろうが、騎士たち全員の首を斬り飛ばした。

バタバタと騎士たちが倒れていく。

クラウスが唖然としていたので注意する。

「クラウス、自分の身くらいは守れよ」

「は、はい!」

騎士たちが倒れたのを見ているしかない、傭兵たち――バウンティーハンターと言うのだろうか?

賞金稼ぎたちが俺を見て震えている。

「どうした? お前たちは俺の首が欲しいんだろう? なら、武器を構えないと命を取れないぞ」

一歩踏み出すと、怯えた彼らが武器を捨てて逃げようとする。

俺に背中を向けた奴を斬る。

とても刃が届くような距離ではないが、敵がいる場所は俺の間合いだ。

「俺に武器を向けた段階で、お前らもお前らの主人も死ぬしかない。残念だったな」

賞金稼ぎたちが錯乱しながら武器を向けてきたので、俺は刀を鞘に納める。

パチン、と音がすると同時に敵がバタバタと倒れていく。

見ている方からすれば理解できない光景だろうな。

クラウスが困惑している。

「クラウス、もう終わりだ。別ルートでクレオ殿下に会いに行くぞ。宮殿内の警備隊にも知らせておけよ」

周囲の光景はとても酷いものだった。

クラウスが首を振り、真面目な顔になる。

「予定通りのコースは危険ですか?」

「馬鹿正直に進んでやる必要はない。嫌な気配がするからな」

車へと戻ろうとする俺に、ククリが近付いてきた。

「リアム様、お耳に入れたいことがあります」

ククリからの報告に俺は笑みを浮かべた。

クレオが逃げ延びたのは後宮から出た場所にある施設だ。

そこには警備隊が常駐しており、いざという時の避難所にもなっている。

そんな施設に逃げ延びたクレオは、護衛のリシテアと安堵していた。

リシテアは溜息を吐く。

「セシリア姉上が後宮にいなくてよかった」

荒事に向かないセシリアが、見合いで後宮を離れていたのは幸運だった。

クレオは逃げてきた使用人たちの顔を見る。

「ティア、数名の者が見当たらないが?」

護衛として武装したティアが側にいるのだが、見当たらない使用人たちに対しては酷く冷たい言葉を放つ。

「襲撃を予想していたのか、今日は理由を作って外泊していましたよ」

クレオはそれを聞いて察するのだ。

「そう、か。長く俺に仕えてくれた者もいるのだが」

襲撃を予見していた――つまり、裏切り者だ。

身を寄せ合って怯えている使用人たちを前にして、クレオは不安そうな態度を見せられない。

堂々とするよう、心掛ける。

その態度を見て、ティアは褒めるのだ。

「立派でございますよ、クレオ殿下」

「子供扱いか? それよりも、伯爵には連絡が付いたのか?」

「はい。途中で襲撃を受けたご様子ですが、問題なくこちらに向かっているとのことです。後、五分もすれば――」

そこまで言ったティアは、レイピアを抜いてクレオを庇うために移動する。

金属のぶつかる音が聞こえると、ティアが投擲された武器を弾き返したようだ。

この場を守っていた警備隊の騎士たちの返り血を浴びた者たちが、入り口から続々と侵入してくる。

リシテアも武器を手に取っていたが、ティアよりも反応が遅れていた。

「こ、こんな場所まで攻め込まれたのか!?」

リシテアが困惑するのも無理はない。

だが、相手は事情を知り尽くしているようだ。

「宮廷事情は摩訶不思議――この程度の事は、日常茶飯事でございますよ」

リシテアが困惑する理由は、その騎士が普段から宮殿内で見かけるような男だったからだ。

普段は普通の騎士として働いていながら、この襲撃を行ったのが予想外だった。

目を閉じているかのような糸目の男なのだが、今は目を少し開けている。

その目はとても冷たい目をしていた。

ティアは部下たちにクレオを守るように命令し、その男の前に立つ。

普段とは違い低い声だ。

「お前の飼い主は手段を選ばないらしいな。なりふり構わないと見える」

それを聞いた男たちが、小さな声で笑っている。

ティアが目を細める。

「何がおかしい?」

糸目の男が少しだけ手を広げ、ついでに肩もすくめて見せた。

「な~に、宮廷事情に疎いのがよく分かっただけだ。俺たちの飼い主が誰なのかを知れば、お前たちはショックを受けるだろうからな」

ティアがレイピアを構えると、糸目の男の後ろからもの凄いスピードで距離を詰めてくる二人の騎士を斬り裂く。

クレオは反応できなかった。

(こいつら手練れなのか?)

それをいとも容易く倒してしまうティアも、相当な腕前だろう。

糸目の男が拍手を送る。

「素晴らしい腕前だ。是非ともスカウトしたい」

ティアは挑発的な笑みを浮かべていた。

「抜かせ。皆殺しにしてやる」

そうして踏み出したティアだが、すぐにその場から後ろへと飛び退いた。

直後、ティアのいた場所に剣が振り下ろされる。

剣を振り下ろした男は、二メートル五十もある身長をしていた。

自分の体と同じくらいに大きな剣を振り下ろしてきたその男は、ティアの反応速度に笑みを浮かべている。

「ほう、俺の初撃を避けた者は数年ぶりか」

クレオはその男に見覚えがあり、目を見開くのだった。

「どうした貴方が」

リシテアも震えている。

「――剣聖殿が、どうして我々を」

長剣を肩に担いだ剣聖は、糸目の男に視線を向けた。

糸目の男が不敵な態度を見せる。

「帝国の闇というのはとても深い。そこを覗いたと思えば、それがまだ入り口だった、などよくある話ですよ」

帝国には剣聖が複数名存在する。

時代によって人数は違うが、現代では四名が剣聖と呼ばれていた。

流派や派閥に関係なく、剣の腕だけで上り詰めた者――その最高位の剣士が自分たちの目の前にいる。

それも、敵として、だ。

ティアも警戒を強めていた。

先程よりも余裕が見えない。

剣聖はティアに声をかける。

「さて、もう一度だけ聞いてやろう。それだけの腕を持つ剣士をこのような場で殺すのは惜しいからな。どうだ――こちら側に寝返らないか?」

ティアは鼻で笑って見せた。

「私の主君はこれからも一人だけだ。寝返るなどあり得ない」

「残念だよ。――もっと腕を磨いたお前を殺したかったのだがなっ!」

一瞬で距離を詰めてきた剣聖がティアと剣を交える。

火花が一瞬の間に何度も発生し、剣聖とティアの剣撃にクレオは目が追いつかなかった。

(これが上位に位置する騎士同士の戦いか)

二人の体が速すぎて目で追えず、気が付けばティアが吹き飛ばされて壁に激突していた。

糸目の男が剣聖を褒め称える。

「流石は剣聖です。当代きっての実力は伊達ではありませんね」

しかし、おべっかに剣聖は眉をひそめるのだった。

「白々しいお世辞はいい。それよりも、片付けはお前たちがしろ。弱者を斬っても面白くない」

剣聖は強者との戦いを求めるタイプだったのか、ティアの方へと向かってクレオ達には見向きもしなかった。

実際、クレオも――そして騎士として鍛えているリシテアも動けない。

その迫力に圧倒されていたのだ。

糸目の男が髪をかく。

「さて、では片付けを始めましょうか。あまり時間をかけたくないので、手早く終わらせましょう。ほら、仕事の時間ですよ」

糸目の男が振り返ると、部下たちは動かなかった。

「どうしました? 早く――」

入り口の奥――侵入者たちが入り込んだ場所から、足音が聞こえてくる。

「――もう死んでいるから仕事は無理だ。休ませてやれよ」

その声にクレオは息をのむ。

「バンフィールド伯爵」

通路の暗闇から姿を現すのは、リアムだった。

「楽しいパーティー会場はここですかぁ?」

リアムが糸目の男の部下たちを無視して通り過ぎると、バタバタと倒れて血を流していく。

壁にめり込んだティアが、苦しそうな声を出すが――とても嬉しそうだった。

「リアム――さ――ま」

リアムはティアを見て、それから剣聖へと視線を向ける。

「剣聖には会ってみたかったんだ。なぁ――お前の称号を俺にくれよ」

剣聖と対峙したリアムは、まるでゲームで対戦を挑むような感覚で喧嘩を売った。