軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リアムの艦隊

研修先でダラダラ過ごす日々が続いていた。

仕事など人工知能に任せ、チェックが終わればお昼前だ。

その後は優雅に昼食を食べ、時には軽くすませつつノンビリ休憩だ。

午後は残った仕事を終わらせ、定時で帰る準備をして後は休憩時間である。

文句を言う奴が来たら身分を盾に追い返し、時には正規艦隊の司令官に賄賂――違った。季節の挨拶を送るくらいか?

ティアが「前線に補給物資を大量に送れば、きっと皆さんリアム様の素晴らしさを理解されるでしょう」と言っていたからな。

帝国の金で恩が売れるというのは、実においしい話である。

流石に全て帝国の金というのも俺の体裁的に悪い気がして、ポケットマネーでそれなりの品を贈っている。

正規艦隊の司令官に恩を売っておけば、いつか役に立ってくれるだろう。

帝国からすればたまったものではないだろうが、俺が研修中は好きにさせてもらうとしよう。

さて、そんな日々が続いていたある日だ。

その日はクルトを昼食に誘っていた。

クルトは大学を卒業後に役人として研修を行っており、大変な日々を過ごしているらしい。

こいつは俺と違って真面目だから、手を抜かないので忙しいのだ。

そんなクルトの話題だが――。

「俺の副官?」

スーツ姿のクルトは、しばらく会わない間に背が伸びていた。

一見すると美青年というか――好青年っぽいのに、中身は真面目系悪徳領主である。

「うん。こっちでも話題になっているよ。リアムの副官に名乗りを上げている軍人は多いからね。軍も選考で苦労しているはずさ」

公爵様の副官になりたい軍人は多いらしい。

「美女なら誰でもいいけどな」

そう言い切ると、クルトは「相変わらずだよね」と言って笑っていた。

ウォーレスがステーキを食べながら、クルトに嫉妬のこもった視線を向けている。

「リアムはともかく、男爵家の跡取りであるお前にも女性陣が騒いでいるらしいじゃないか。お前の秘書や部下になりたい女たちが多いらしいな」

どこで聞いたのか、ウォーレスはクルトの事情に詳しかった。

「そうなのか?」

俺が聞くと、クルトは恥ずかしそうにするのだ。

「まぁ、それなりには多いけどね。ただ、別に僕に限った話じゃないよ。跡取りには秘書や副官に名乗りを上げる人は多いからね」

ウォーレスは羨ましそうにしている。

「軍の副官や役人の秘書は、そのまま引き抜かれるケースも多いからな。そこに滑り込めれば、勝ち組確定だろうさ。――私には一つも話が来ないけどね」

数の多い皇子様には、誰も魅力を感じないようだ。

おまけに、下手に関わり、皇族同士の争いに巻き込まれ処刑されたら笑えないだろう。

こいつも微妙な立場である。

「俺の副官か――とびきりの美女を希望しよう」

ウォーレスが俺を見て笑っていた。

「安心しなよ。副官や秘書の選考基準に容姿は必須だ。好みの問題でしかないという噂だよ。でも、リアムの副官か――いったい誰が選ばれるんだろうな?」

最終的に残った候補から俺が選ぶ形になるが、それまでのふるい落としが大変らしい。

身元調査とか色々と調べ上げると聞いた。

さて、いったい誰が残るのだろうか?

随分と広い部屋に並んだのは、見目うるわしい女性士官たちだった。

まるで美女を集めて軍服を着せたようなその場所を、パトロール艦隊の大幅な削減と正規艦隊編成の功績で昇進したティアが歩いている。

階級章は大佐になっている。

これは異例の出世だが、それだけの評価をされてのことだ。

「諸君、ついにリアム様が正式に軍に配属されることになった」

大艦隊を編成したティアの手腕は軍でも高く評価されており、引き抜きもあるが全て断っている。

そんなティアが集めた女性士官たちは、全員がバンフィールド家の領地出身者だった。

「君たちはリアム様の領地から選ばれた精鋭だ。きっとこの中からリアム様が自身の副官をお選びになるだろう。――選ばれなければならない」

リアムの副官に名乗りを上げる軍人は非常に多い。

だが、ティアからすれば余所者をリアムの側には置けなかった。

理由は、その副官をリアムが気に入れば、軍を去る際に一緒に連れ出してしまうからだ。

リアムの軍事面のサポートをしてくれるだろうが、リアムよりも帝国軍を優先する人物であると面倒だ。

あと、リアムが手を出す可能性があり、それなら領内から選りすぐった精鋭を側に置きたいと考えている。

「リアム様のために尽くせ。身も心も捧げろ!」

「はっ!」

全員が一斉に返事をして敬礼すると、その動作にティアは満足する。

(副官としての能力、そして容姿――これ以上はない者たちだ。きっとリアム様も満足してくださるだろう)

一方。

軍の上層部は頭を抱えていた。

「どうするのだ?」

「――伯爵、いや次期公爵との間でパイプ役が必要だ」

「そのパイプ役になる人物がいるのかと聞いているのだ」

兵站関係で実績を作っているリアムは、自身の騎士に命じて軍に最新鋭の艦艇を配備した正規艦隊を用意した。

軍の頭の痛い問題を解決しつつ、レアメタルを大量に保有している貴族だ。

どうしても繋がりは欲しい。

だが、ティアが付け入る隙を見せないため、リアムとの間にパイプ役がいなかった。

副官というのは絶好のポジションなのだが、そこもリアムの領地出身者を配置しようとしている。

一人が顔を上げた。

「――有能な人間が一人いる」

「容姿は?」

「問題ない。それに、伯爵とは面識もある」

「誰だ?」

その女性のデータがその場に表示された。

「ユリーシア少佐だ。元は兵器工場に配属されていたが、その後に再訓練を受けて特殊部隊入りを果たした。情報関係の訓練も受けている」

様々な資格を保有しており、おまけに実績もある。

軍としては手放したくない人物だが、これだけ優秀で容姿にも恵まれていればリアムも納得するだろうという判断だった。

「本人の意志は? この手の話は、どうしても将来的な問題が出てくる。彼女は納得しているのか?」

貴族の愛人や側室になるのか? そのような問題があった。

中には喜んで手を上げる者もいるが、それを嫌がる女性も多い。

「問題ない。話を出したら快く引き受けてくれた」

「それにしても凄い実績だな。部下に欲しいくらいだ」

ユリーシアが高く評価されていた。

「少佐で駄目なら諦めもつく。すぐに伯爵に資料を送れ」

――案内人の力が働き、ユリーシアがリアムの副官候補に滑り込む。

職場でお見合い写真のような資料を見ていた。

周囲ではそんな俺を気にしているようだが、誰も文句を言ってこない。

ウォーレスがその中の一枚を手に取り、中身を見ると驚く。

「凄い美人だな! はぁ~、私の副官になってくれないかな」

ウォーレスも一応は皇族だから、研修が終われば中尉に昇進する予定である。

だが、副官がつく予定はない。

そのような立場にならないからだ。

「お前には鬼軍曹でも付けてやろうか?」

「リアムは冗談がうまいな。――おい、冗談だよな?」

こいつの教育係として鬼軍曹――良いかも知れないな。

もっとも、軍隊の全てを叩き込んでくるようなのは苦手だ。

長く軍にいるわけでもないから、別に必要ないだろう。

ウォーレスが色々と写真を見ていると、一つで手が止まった。

「お、この人の経歴は凄いぞ。元特殊部隊だ」

「何?」

資料の中身を確認すると、そこにはユリーシアの写真があった。

経歴を見れば、第三兵器工場から軍の再教育施設へ――その後、特殊部隊に配属されていた。

その後にまた再教育施設で、情報関係の技術を学んでいる。

まるで女スパイみたいな奴になっていた。

「何でこいつ、特殊部隊になんか進んだんだ?」

不思議に思っていると、ウォーレスが首をかしげていた。

「知り合い?」

「兵器工場の元セールスレディだな。うちの担当だった」

「いいな~。伯爵だと黙っていても美人が寄ってくるんだろうな~」

羨ましがっているウォーレスを見ていると気分が良い。

俺は山積みとなった資料を見る。

――これを全部チェックすると定時で上がれそうにない。

あと、パラパラと全て確認したが、どうにも決定打にかける女性ばかりだ。

はぁ――天城に会いたい。

いっそ首都星に連れてくるべきだろうか?

領地の仕事を任せているし、今はバークリーとかいう連中が俺の回りをウロウロしているので連れてくるのは不安だ。

――何だかバークリーと争うのも飽きてきた。

さっさと勝負を付けられたら良いのに。

「もうユリーシアで良いか。あいつとは面識もあるし、外れじゃないだろ」

「簡単に決めて良いのか?」

「はっ! 美女などいくらでも集められるからな。別に副官にこだわる必要がない」

深く考える必要もないので、もうユリーシアに決めた。

ちょっと残念な奴だが、問題ないだろう。

副官を決めた翌日のことだった。

研修先にユリーシアがやって来た。

「リアム様、お久しぶりですね」

笑顔で敬礼をしてくるユリーシアだが、以前よりもいくらか引き締まった体をしている。

だが、胸や尻には脂肪もついていて――スタイルが前よりも良くなっていた。

引き締めるべきところを引き締め、より胸や尻が強調されたようだ。

デスクワークをしている俺のところにやって来たユリーシアを見て、俺は電子書類を処理する手を止めた。

「――俺のところに配属されるのは半年後じゃなかったのか?」

「上層部の許可は得ています。それに、正式な配属前に仕事も増えるかと思い、お手伝いにまいりました」

随分と気が利くじゃないか。

以前とはまるで別人だな。

リアムの前に立つユリーシアは、そのドス黒い感情を隠していた。

(ようやくだ。ようやく復讐してやれるぞ、リアム)

ユリーシアは、以前へし折られたプライドの復讐のためにリアムに近付いた。

自分の色仕掛けを袖にしたこの男のことだけを考え、何十年と自分を磨いてきたのだ。

「リアム様、早速ですが――」

復讐の第一歩は、ここからはじまるのだ。

そう思っていたのだが、リアムの職場に泣きながら入ってくる者がいた。

色々と問題のある第七兵器工場の技術大尉であるニアスだった。

一見すると黒髪に眼鏡のインテリ女性だが、女性としては残念な部分が多い奴だった。

「リアム様~!」

ドアを乱暴に開け放って入ってくるニアスは、そのまま泣き崩れてしまう。

(お、お前は!?)

ユリーシアとも面識のあるニアスだが、再会の挨拶すらなかった。

リアムが呆れた顔をしている。

「――何の用だ?」

(くっ! 無礼なんだから追い返しなさいよ! 相変わらず甘い男ね)

リアムは基本的に知り合いに甘い。

厳しさもあるが、基本的に慈悲深い部類の貴族だ。

それもユリーシアは知っているが、自分の邪魔をするニアスを腹立たしく思うのだった。

「聞いてくださいよ! 以前リアム様からもらったレアメタルで試作艦を建造したんです! そしたら、みんなして横やりを入れてきて――」

「それは前に聞いたな」

ニアスが色々と実験をしていたのに、第七兵器工場の関係者がわらわら集まってきて色んな新技術を試したようだ。

結果――ニアスはやりたいことが出来なかったらしい。

ユリーシアは内心でほくそ笑む。

(いい気味よね。ほら、愚痴が終わったらさっさと帰りなさいよ)

早くリアムを骨抜きにしたいのに、ニアスがいては邪魔だった。

しかし。

「――追加でレアメタルと予算が欲しいです」

「はぁ!?」

図々しい願いに、流石のユリーシアも驚いてしまう。

新世代の戦艦を開発しようと思えば、莫大な予算が必要になる。

あと、レアメタルも多く必要だ。

そんなことをリアムに頼むのは筋違いである。

だが、リアムは興味を持っていた。

「新造戦艦か」

「リアム様のために特別な戦艦をご用意いたします! そのための開発費だと思って、ここは予算とレアメタルを!」

流石のリアムもその程度の交渉で予算を出す気はなかったらしいが、泣き崩れたニアスが立ち上がったことでスカートがめくれていた。

狙ってやったのではないのだろう。

何しろショーツは――機能的なタイプだった。

それを見たリアムの目が見開かれる。

(ま、まずい!)

ユリーシアは常にリアムのことだけを考え続け、その趣味嗜好も調べてきた。だから分かるのだ。

リアムが好きなのは、派手な下着よりもスポーティーなタイプだと。

リアムの視線に気が付き、慌ててニアスがスカートを元の位置に戻す。

恥ずかしがっているニアスは、言い訳を始める。

「し、失礼しました。いや、最近は本当に忙しくて、つい簡単に手に入る下着を着けていたんです。普段はもっといい下着を着けていますからね!」

ユリーシアは絶対に嘘だと思いながらも、リアムが嬉しそうにしているのを見逃さなかった。

「そ、そうか。うん、そうだな。え~と、予算だったか? 俺のポケットマネーで用意してやろう」

ユリーシアは両手で顔を覆う。

(馬鹿! 何でそんなところはウブなのよ!)

すかさずニアスが追加で要求するのだ。

「レアメタルもお願いします! あと、うちの戦艦も買ってください。酷いじゃないですか。今編制中の艦隊は、リアム様が用意する艦隊なのにうちからは一隻も購入しないなんて。第三と第六の共同開発の艦艇で統一とか、本当に酷すぎますよ」

「え、そうなの? ティアに丸投げしたから知らなかったな」

リアムは興味すらないようだ。

元第三兵器工場で働いていたユリーシアは、その伝で共同開発の件を聞いていた。

(――次世代艦の共同開発か。第九兵器工場も動いていると聞くわね)

正規艦隊を用意するため、各兵器工場が忙しく動いていた。

そんな中、ティアにより第七兵器工場は除かれてしまったのだ。

「――お前ら、また外見を無視した艦艇ばかり作っただろ」

ニアスが眼鏡を外して涙を拭う。

「私たちも頑張ったんです! なのに、あの人が“リアム様に相応しくないから”って断ってきたんですよ。うちに在庫として八百隻もあるんです! 買ってくれないと困るんですよ!」

ユリーシアは思う。

(相変わらず技術偏重は変わらないのね。そもそも、八百隻も作るんじゃないわよ)

リアムも呆れていたが――何かを思い付いたようだ。

「分かった。その八百隻は買ってやる」

「本当ですか!?」

喜ぶニアスに、リアムが条件を付けるのだ。

「ついでに追加で注文もしてやるよ。他の兵器工場は忙しそうだが、お前らは暇そうだし。後な――廃棄前の艦艇やら兵器があるだろ? あれ、俺の方に回せよ」

リアムが何を考えているのか、分からないユリーシアだった。