軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロゼッタの修行

首都星の宮殿。

そこに行儀見習いとして修行に来たロゼッタは、廊下の窓から空を見上げていた。

首都星の空は映像に過ぎないが、とても綺麗に晴れ渡っている。

「――ダーリン、今頃はどうしているかしら?」

セリーナが修業先に選んだのは、自分のもと職場だった。

宮殿で修行をすれば、誰も格を疑わない。

貴族の娘たちも行儀見習いとして大勢来ており、メイドと言っても高貴な出身者たちが多かった。

ここで最低三年を過ごす予定だ。

花嫁修業も首都星で行うようにとセリーナに言われており、しばらくはロゼッタもバンフィールド家の領地に戻れない。

すると、まだ成人したばかりのメイド服を着用した女の子たちが、ロゼッタの方へと歩いてくるのだった。

「あら、クラウディア家の跡取りがこんなところで何をしているのかしら?」

リーダー格の子は、侯爵家の出身である。

取り巻きの子たちは子爵家の出で、いずれもお嬢様ばかりだ。

地元ではお姫様だっただろうこの女の子たちも、ここではメイドの一人である。

「今は休憩中ですから」

幼年学校を卒業し、外見的には高校生に見えるロゼッタに中学生になりたての女の子たちが絡んでいる光景だ。

「――その歳で修行に出てくるなんて恥ずかしくないのかしら?」

リーダー格の子がそう言うと、他の二人はクスクス笑って援護する。

行儀見習いとして修行している子は、成人したばかりの子が大半だ。

ロゼッタの年齢で修行に出るのは珍しい。

「色々と事情があったのよ。察してもらえると助かるわ」

「何その態度? 堂々としていないで、昔みたいに俯いていなさいよ」

リーダー格の子は、ロゼッタがパーティーでさらし者にされた際に見ていたのだろう。

昔のように馬鹿にしてくる。

「――今の私は行儀見習いのメイドですが、リアム様の婚約者でもあります。恥ずかしい態度は取れません」

すると、リーダー格の子は明らかに不満そうな顔をする。

「リアム、ね。最近有名みたいだけど、しょせんは田舎貴族よね? 貴方にはお似合いの相手だわ。でも、私は知っているのよ。あんたの婚約者、あのバークリー家と争っているのよね?」

海賊貴族――とても危険な貴族と争っている。

「それが何か?」

「バークリー家に逆らって生きていられるかしら? あんたも無事じゃすまないかもね」

絡んでくる女の子から離れようとすると、ロゼッタを三人が笑う。

「逃げるの? やっぱり、クラウディア家なんて名ばかりの公爵家ね。私だったらプライドが許さないから、徹底的に戦うわよ」

貴族の誇りがないと笑われ、ロゼッタは下唇を噛みしめる。

(我慢しないと。ダーリンのためにも、私が足を引っ張ることは出来ないわ)

ロゼッタが仕事に戻ろうとすると、銀髪の女性が歩いてくる。

セリーナの孫である【カトレア】だ。

シックなメイド服を着用しているが、その立場は大勢の使用人たちを束ねる役職にある。

行儀見習いとして修行に来ているロゼッタの教育係でもある。

「またあの子たちですか」

「カトレア様」

ロゼッタがお辞儀をすると、カトレアは困った顔で離れた場所で五月蠅く騒いでいる先程の子供たちを見る。

「ここでは立場を振りかざすなと教えているのですけどね」

地元ではお姫様としてかしずかれて暮らしており、その感覚が抜けていないのだろう。

また、実家の権力が大きいのも勘違いをさせる。

「私が出て注意すれば大人しくはなるでしょうが――ロゼッタ、貴方は自分の力で解決してみなさい」

「え?」

カトレアが注意しないと聞いて、ロゼッタは少し戸惑うのだった。

「自分で考え、そして対処しなさい。この程度を解決できなければ、この先が大変なだけです。――フォローはしますから、メイドとして好きにやってみなさい」

カトレアがそう言って離れていく背中を見ながら、ロゼッタは絡んでくる女子たちの対処を考える。

(――これは試されているのかしら?)

彼女たちを黙らせる方法はいくつかある。

リアムの力を借りればすぐに解決するし、仕返しをして黙らせてもいい。

だが――それらの解決方法を選択した場合、自分は公爵夫人に相応しいのだろうか?

(ダーリンの力を借りるのは駄目。それをすれば、あの子と同じになっちゃう。幼年学校も卒業していない子供に仕返しするのも駄目よね)

高校生が中学生に仕返し――理由があったとしても、世間の目がどう評価するかを考えると選べない。

ロゼッタがそのような行動をすれば、リアムの評判にも傷がつく。

(なら――私が選ぶ方法は、ダーリンに相応しい正々堂々! メイドとして誰からも認められる仕事をすればいいのね!)

前向きなロゼッタは、メイドとして頑張ろうと決意するのだった。

バンフィールド家の屋敷。

リアムもロゼッタもいない屋敷では、ブライアンが寂しそうにしていた。

「はぁ~」

休憩中に溜息が増えている。

そんな様子を見て、セリーナが呆れるのだ。

「辛気くさい顔をしているんじゃないよ」

「――あの元気一杯のロゼッタ様もお屋敷を離れて寂しいのです。リアム様も士官学校から戻ってこられませんし、屋敷の中の火が消えてしまったようですよ」

「静かでいいじゃないか。忙しくなれば、今を懐かしむ日も来るさ」

ブライアンはロゼッタの心配をする。

リアムも心配だが、そちらは多分自力で乗り越えるような気がしていた。

だが、ロゼッタは別だ。

「ロゼッタ様はお元気でしょうか?」

「孫の【カトレア】に預けたんだ。大丈夫だよ」

セリーナの孫であるカトレアは、非常に優秀な子だった。

ロゼッタを預けても問題ないとセリーナも太鼓判を押している。

「宮殿では他の行儀見習いの子たちからいじめを受けていないか心配ですぞ。その――女性同士というのは、どうにも過激になる部分がありますからな」

長年、バンフィールド家に仕えてきたブライアンも、そうしたドロドロした女の争いを見てきた。

だから心配なのだ。

「――そういうのもひっくるめて、ロゼッタ様は学ばないといけないのさ。これも修行だと思って諦めな」

セリーナも宮殿はかつての職場である。

そこで女同士の争いを見てきたので、ロゼッタに悪意を持って近付く存在がいることは知っていた。

だが、将来的に公爵夫人であるロゼッタは、その程度の事で潰れてもらっては困る。

「カトレアがフォローするから安心しなよ」

「他にも気になることがあるのです。――バークリー家との争いが急に落ち着いて、何やら不気味な気がするのですよ」

少し前まで経済的に殴り合っていたのに、急にバークリー家が大人しくなった。

こちらに手を出さなくなったのが、逆に不気味さを増している。

「諦めたのでしょうか?」

ブライアンがそう言うと、セリーナは「それはない」と断言する。

「随分と気合を入れて戦争の準備をしているらしいよ。リアム様も軍備増強に力を入れているからね。お互いにさっさと勝負を付けるつもりかもね」

「なんと!? リアム様はこれを見越して軍備増強を決められたのですか? このブライアン、リアム様が思いつきで艦隊を増やそうとしたのかとばかり考えていましたぞ」

リアムをずっと側で見てきたブライアンの感想に、セリーナは真顔になる。

「――そんなわけないだろ」

セリーナが素でツッコミを入れてしまった。

(バークリー家が本腰を入れる前に、軍備増強に踏み切る辺り勘が良いのかね? もしくは、これを予想していたのか――ま、相変わらず優秀すぎて怖い子だね)

そんなリアムの側で支える存在になるロゼッタは、これから大変だろうと思うセリーナだった。

一方その頃。

士官学校を首席で卒業したティアは、中尉となっていた。

本来であれば研修期間中で、色んな部署で雑用をするはずだった。

だが、特別に免除され、今はパトロール艦隊の再編を行っている。

執務室を用意され、そこでリアムに相応しい艦隊を編成するために忙しく働いていた。

「第四千九百八十九パトロール艦隊――艦艇数や人員の数に差異があるな」

資料では三十隻程度の艦隊だった。

しかし、離反者が出ているのか艦艇の数は十隻程度だ。

人員の数もとても少ない。

「艦艇の再利用は無理か。解体してリサイクルに回すとして――人員の士気も練度も最低だな」

事前調査では、軍を離れたいという兵士が六割を超えていた。

職業訓練を行い、その後に就職先を斡旋して解放することになるだろう。

ただ、兵士に職業訓練を行うのも、就職先を斡旋するのも無料ではない。

予算が必要だ。

「帝国軍が再編に乗り気じゃないわけだな。これではいくら予算があっても足りないな」

再編成をするくらいなら、新たに艦隊を用意する方がいいという考えだった。

色々と問題はあるが、最前線に少しでも使える戦力を送りたいという気持ちが強いようだ。

士気も練度も低く、旧式の装備しかないパトロール艦隊を最前線に送るにはかなりの予算が必要だ。

まずは休暇。

その後に再教育と再訓練。

機種転換訓練やら、色々と時間と予算が必要になる。

それなら、訓練が終わって新型を扱える兵士たちに装備を与えた方が時間も予算もかからない。

そして、実際にリアムの命令でティアが再編に取りかかると、兵士たちの質の低さに目眩がしてくるのだった。

――だが。

ティアは予算としてリアムのポケットマネー全額を預かっている。

その金額は、正規軍の一個艦隊を編成しても余裕というか有り余る金額だ。

ティアは微笑む。

「なる程、リアム様が私に莫大な予算を預けるわけだ。だが、どうしてここまでするのだろうか?」

ただの腰掛け程度の艦隊に、これだけの予算を出すのもリアムくらいだろう。

しかし、だ。

リアムを崇拝するティアは、この予算やら最近の状況を考えて深読みをしてしまう。

「これだけの予算を使用するなら、バンフィールド家の艦隊を増強した方が――いや、待てよ。そうか! そういうことか! 流石です、リアム様!!」

帝国軍に投資しても、利益を得るのは帝国だけだ。

それなら自分の領地に投資した方がいいと普通は考える。

だが、ティアは「きっとリアム様にはお考えがあるはず!」などと考え、そこに理由を求めてしまった。

探せば理由もあるもので、それらをこじつけていく。

「リアム様の狙いが分かったわ! これはバークリー家の将来的な戦力を削りつつ、帝国軍内部に自身の影響力を残す作戦だったのね!」

パトロール艦隊だが、少なくない数が海賊になるという話だ。

つまり、海賊貴族であるバークリー家の将来的な戦力になる可能性が高い。

そんな将来的な海賊を減らし、帝国軍の正規艦隊を編成する。

リアムが編成した艦隊は、嫌でも縁が出来てしまう。

軍はリアムに恩を感じるだろうし、そして編成された艦隊は――バークリー家と戦う際に切り札になる可能性が高かった。

「バンフィールド家だけでは、増強できる数に限りがある。帝国の人員を使って、戦力を確保する妙手だったのね!」

深読みするティアは予算を確認する。

「この予算に相応しい規模となると、かなりの数を用意できるわ。将来的にもリアム様が軍で影響力を維持できる。――手は抜けないわね」

ティアのやる気が更に増してくる。

リアムの 深謀遠慮(しんぼうえんりょ) に感動するティアは、益々リアムに心酔するのだった。

「海賊貴族などと言うゴミを排除し、帝国内部の腐敗の塊すら解決する。リアム様は何と高潔なのかしら」

興奮して頬が赤くなったティアは、そのまましばらくリアムについて考えて幸せな時間を過ごした後に――仕事に戻るのだった。