軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

手遅れ

宇宙空間を移動する艦隊。

整列し、美しく並んだ光が何もない場所に道を作っているように見えた。

総旗艦の客室は、豪華すぎてビックリである。

世話をする者たちも控えており、座っている俺の側には総司令官や提督たちがいた。

「リアム様、無事に修行の一つを終えられましたね」

「これからが長いんだ。数年もすれば、今度は帝国の首都星に留学だぞ。何十年拘束するつもりだよ」

クルトは落ち着かないようだ。

ティアは、俺の世話を甲斐甲斐しく行っている。

あれか? 迎えに失敗したので、点数稼ぎか?

そういうのは嫌いじゃない。

「リアム様は、大学と士官学校のどちらから進むのですか?」

ティアの問いかけに、俺は飲み物で喉を潤してから答える。

「――どっちでもいいな。どうせ、どっちも同じだ。腰掛け程度だよ」

クルトは真面目に考えている。

「結構大事だと思うよ。僕は父さんの伝で、修行が終わればしばらくは軍で働くつもりだ。そこでコネを作れと言われているからね」

上に気に入られようと頑張るのか。

こいつも大変だな。

「立場もある俺たちは、どうせ後方勤務さ」

「出来れば手柄が欲しいけどね。リアムは、修行が終わればすぐに領地に戻るのかい?」

修行が終わった若者たちは、大体が二百歳くらいまで自由に過ごす。

その後、実家の後を継ぐとか、手伝いをして代替わりの準備に入ると聞いた。

だが、俺は既に伯爵だ。

「しばらく遊んでもいいとは思っているよ」

役人になって、そこでコネを作れば悪さをしてももみ消してもらえる。

軍人も同じだ。

何かあったときは、俺を助けてくれるし、問題が出てももみ消してくれる。

どちらともコネを作るのが正しいだろうが――さて、どうするべきだろうか?

首都星に留学したら遊びたいし、役人になって遊び歩いてもいいな。

今の内に賄賂を贈っておくか。

色々と考えていると、ワープを行える宙域に到着する。

提督たちも、そろそろ自分の艦隊を率いる必要があり、部屋を出ていくと総司令官だけが残った。

「リアム様、エクスナー男爵領での海賊退治ですが、敵の規模は三千とのことです」

「そうか。財宝を貯め込んでいるといいんだけどな」

クルトが不安そうな顔をしていた。

「安心しろよ。三割はちゃんとそっちに渡すから」

「そ、そうじゃないよ。リアムは緊張しないの? 相手は海賊だけど、時には傭兵稼業にも手を出している連中だ。戦いの素人じゃない」

真面目君過ぎる。

真面目系悪徳領主とか、こいつは個性が強すぎるな。

「言っただろ。海賊は俺の財布だって。奴らは俺のために財を集め、手柄にもなる素晴らしい人材だ。残らず掃除してやる」

クルトは不安だろうが――俺には案内人がついている。

加護と言ってもいいだろう。

あいつのおかげで、俺の第二の人生は幸運なのだ。

何をやっても成功する。

「それにしても三千は少ないな」

戦闘でデブリが発生したら、それも資源に変換して大儲けできるのだが――今回は期待外れかもしれない。

最近、海賊たちもあまり貯め込んでいない奴らばかりで萎える。

ティアが、俺の脚に体を預けてきた。

「リアム様、一番槍をこのティアにお任せください」

「図に乗るな。お前の出番は俺が決める」

「も、申し訳ありません」

すぐに離れて膝をつくティアを見て、こいつはまるで犬みたいだと思った。

しばらくそのまま話をしていると、総司令官に連絡が入った。

「何事だ?」

『敵がこちらの進路方向を遮るように展開しております。その数は二万に届く数です』

「敵? 海賊か?」

『そ、それが――』

「どうした?」

『――海賊の中に、貴族の家紋を掲げる艦艇を確認しております』

ブリッジに到着すると、既に両軍が向かい合っていた。

戦場を簡略的に把握する立体映像には、敵がこちらを飲み込もうと広がっているように見えた。

対して、こちらは球体になるように陣形を組んでいる。

「囲い込んで叩くつもりか?」

クルトは俺の呟きに頷いた。

「包囲して叩くつもりだ。相手の数が多いから取れる手だよ」

それを見て俺は――。

「よし、突撃だ」

「待って! リアム、突撃はまずい。相手は待ち構えているよ!」

慌てているクルトを無視して、総司令官が命令を下していた。

「全艦突撃用意」

ティアは心なしか――少し呼吸が荒く、高揚して汗ばんでいる。

こいつ大丈夫か?

「リアム、危険だ。相手はこちらを取り囲むつもりだ」

イメージとしては、ボールを包み込むようなものか?

敵の動きは、こちらに合わせて包み込むように広がっている。

「問題ない。うちはこの手の戦い方を得意としているからな。そもそも、この程度の数の差は無意味だ」

何しろ――俺には幸運の守り神のごとく、案内人が付いているのだから。

宇宙空間で案内人は悶えていた。

「何故だ! 何故、これだけの数を用意しているのだ、リアム!」

本来なら、リアムの迎えは数百隻程度。

それを、百倍の戦力で叩き潰そうとしていたのに、リアムの迎えには一万を超える艦艇が来ていた。

あり得ない。

あってはならない。

「私の計画が――私が最後の力を振り絞り、ようやくここまで揃えたというのに」

海賊やピータック家に協力し、少しでも戦力をかき集めた。

あまり大きな貢献は出来なかったが、海賊もピータック家も、全力でリアムを叩こうとしていたのだ。

それなのに、リアムが半分とはいえ――数を揃えたら勝ち目がなかった。

宇宙空間。

衛星に腰を下ろした案内人は、膝に顔を埋めて呟く。

「もう駄目だ。おしまいだ」

海賊団は震えていた。

「どうしてだ。どうして――あいつらは崩れないんだ」

今までの経験から、大抵の貴族たちは囲めば戦意が低下していた。

見栄ばかりで、戦艦自体の性能が低い相手は同数でも簡単に勝てる。

今回はピータック家の力も借りて、敵の倍は数を揃えた。

部下が報告してくる。

「団長! ピータック家の連中が崩れて、包囲網に穴が空きました!」

練度の低いピータック家は、思うように動かないばかりか撃破されていく。

数の利が徐々に失われていた。

「あ、あいつら、最新鋭の艦艇を揃えているんじゃないのか? おい、同盟を結んでいる海賊に通信を繋げ!」

「ジャミングが酷くて――」

「いいから繋げ!」

繋げた相手は、同じ規模を持つ海賊団だった。

ノイズの酷い映像を前に、団長は相手に助けを求める。

「よう、兄弟。実は少しばかり助けて欲しいんだ」

相手は呆れていた。

『何をやった? 戦闘中か?』

「あぁ、そうだ。だが、敵が強くてこっちが不利だ。助けを寄こせるか? もしくは、俺たちを一時的でいいから匿ってくれ」

逃げることも考えていた団長に、相手が敵の名前を尋ねる。

『お前を追い込む相手って誰だ?』

「バンフィールドだ。伯爵家のバンフィールド」

それを聞いて、映像の海賊は咥えていた葉巻を落とした。

震えていた。

『バンフィールドだと』

「あぁ、そうだ。リアムという小僧が率いている。そいつが俺たちに喧嘩を売りやがった」

だが、目の前の海賊の様子がおかしかった。

『てめぇ、なんてことをしやがる!』

「どうした、兄弟?」

『バンフィールドのリアムって言えば、海賊狩りのリアムじゃねーか! あいつは、あのゴアズを倒した張本人だ。そんな奴と戦争だぁ? ふざけるのも大概にしろ!』

一方的に通信を切られると、そのまま繋がらなくなる。

その後も、知り合いの海賊たちを頼るも、反応はどれも同じだった。

団長は立ち尽くしていた。

「――どういうことだ。バンフィールド家は落ち目の貴族じゃなかったのか?」

戦争が始まり数日。

早くも敵が崩れて、そこから切り崩しに入っていた。

ブリッジで様子を見ていたクルトは、リアムの率いる軍の精強さに驚きを隠せなかった。

(正規軍と同じレベルなのか?)

装備の質、人材の質、そして練度――全てが並の領主の私設軍ではない。

すると、崩れていた敵の――ピータック家の旗艦から通信が入る。

『こちらピータック家の総旗艦ペーター二世。降伏する。こちらは降伏する!』

相手は大騒ぎの中、通信を繋いでおり酷く混乱している様子だ。

対して、こちらのブリッジは静かなものだった。

オペレーターたちの声は聞こえるし、参謀たちも指示を出しているが落ち着いている。

チラリとティアの方を見れば、敵の指揮艦を見て目を細めていた。

(この人は強い。並の騎士じゃない。そんな騎士を、リアムは従えているのか)

総司令官が、リアムに確認を取るのだった。

「リアム様、ピータック家が降伏を申し出てきました。海賊と手を組んでいたのは確かですが、あまり追い詰めても問題が――」

総司令官は、ここで終わりだと思ったのだろう。

リアムに降伏の受け入れの確認を取っている。

だが、内心ではピータック家に怒りを覚えているのか、あまり面白そうではない。

真面目な軍人だ。貴族が海賊の真似事をしているのが許せないのだろう。

ティアなど握った手からギチギチと音が聞こえている。

海賊を憎んでいるのが、見ているだけでも理解できた。

するとリアムは――。

「ピータック家? おいおい、お前にはあいつらがピータック家に見えるのか? 俺には見えないな。目の前にいるのは全て海賊だ」

笑い出したリアムが命令する。

「――あれは海賊だ。善良で立派な貴族であるピータック家が、海賊の真似事などするわけがない。つまり、あいつらは貴族を騙った海賊だ。降伏を受け入れる理由がどこにある?」

――その瞬間、総司令官が帽子を深くかぶり直した。

「失礼いたしました。では、攻撃を続行します」

「当然だな」

リアムが立ち上がる。

「さて、俺もそろそろ暴れるとするか。ティア、お前も来い」

「はっ!」

クルトは、そんなリアムに声をかける。

「リアム! 本当にいいんだな?」

これはつまり、ピータック家――そして、その関係者たちと争うことを意味していた。

それなのに、リアムは笑っていた。

「当たり前だろ」

平然としながら、ティアを連れてブリッジを出ていく。

二人が見えなくなると、総司令官がクルトに声をかけた。

「アレがリアム様です」

「――本物の領主貴族というのは凄いのですね。僕も、そして父も、成り上がり者と言われる理由がよく分かる」

自分ではリアムのような判断は下せない。

「何、アレはただの海賊です。クルト様も、そう思えばいいのです」

そして、同時に理解した。

(自分が言えば、黒も白になる。――言うのは簡単だが、リアムはそれを実現したのか)

リアムが言えば、ピータック家もただの海賊として扱われる。

あの言葉が冗談ではないと知り、同時に凄い覚悟を背負っているように感じられた。

「強いはずだ」

震えが来る。

敵対しなくてよかったと思いつつも、戦いたいとも思う自分もいた。

だが、正確には――剣士として戦いたいが、領主としては絶対に敵対してはいけない相手だと確信した。

「――この修行は幸運だったな」

レーゼル子爵家での修行は、どうにも物足りなかった。

だが、リアムと知り合えて、友好関係を結べたのは幸運であったとクルトは思う。

格納庫へと続く通路。

ティアは、リアムの背中を見て頬を染めている。

(あぁ、リアム様。何と気高き精神。たとえ、貴族だろうと海賊に与する者はその手で打ち倒すのですね。その決断に痺れてしまいます)

リアムがピータック家だと知りながら、海賊呼ばわりして殲滅を決定した時――ティアは震えた。

歓喜により震えた。

(やはりリアム様こそ、私の主君。全身全霊を以ってお仕えしなければ)

まだ幼く自分よりも小さなリアムの背中が、ティアにはとても大きく見えていた。

そして、格納庫に到着すると――騎士たちが整列して待っていた。

リアムの愛機――アヴィドに続く道には、赤い絨毯が敷かれている。

リアムが周囲に声をかける。

兵士、整備兵、その他の者たちもリアムを見ていた。

「――楽しい海賊狩りの時間だ。全員、俺についてこい」

一斉に敬礼をすると、すぐに騎士たちが自分の機体へと乗り込んでいく。

リアムは笑っていた。

「特別機もいいが、量産機もいいな。ただ、戻ってきたら隊長機には角を付けろ」

リアムがアヴィドに乗り込むと、ティアも自分の機体に乗り込むのだった。

宇宙へと出たアヴィド、敵へと突っ込む。

『ピータック家を名乗る馬鹿な海賊共は殲滅だぁぁぁ!』

アヴィドが通り過ぎたところは、敵の戦艦も機動機士も――全て両断されていた。

(気高さに加えて、この強さ――もう、見ているだけで――)

ティアは興奮が冷めず、近くにいた敵を剣で突き刺していく。

コックピットに一突き。

そうして次々に撃破していき、リアムの背中を追うのだった。