軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

転生して四十五年。

ついにこの世界でも成人を迎えたわけだが、鏡の前に立つ俺は不満そうに自分の姿を見ていた。

「――五十年でこれかよ」

どうみても十三歳前後にしか見えない。

中学一年生になりました、ってくらいだ。

身長もこれから伸びるだろうが、まだ幼さが残っている。

周囲の使用人たちが涙を流している。

引くくらい泣いているのはブライアンだ。

「このブライアン、リアム様の成人されたお姿を見られて感無量でございます!」

「お前は泣き止め。天城、今日の予定はどうなっている?」

天城は普段通り淡々と答えてくれる。

「一時間後に成人式が開催されます。お昼よりパーティーが予定されておりますが、夜会の方へも出席していただきます」

ブライアンが泣き止み、涙を拭きながら付け加えてくる。

「ちなみに、明日からも予定が朝から晩まで詰まっております」

一ヶ月近く、俺は領内で忙しく働くことになるようだ。

「全部却下!」

「無理でございます」

ブライアンが真顔で返事をしてきたので、たじろぐと天城が俺をせかす。

「旦那様、そろそろ部屋を出ないと間に合いません」

「分かったから急かすな」

ブツブツ文句を言いながら部屋を出て会場に向かうのだが、アレから――首都星から戻ってすぐに新しい屋敷を用意した。

無駄に金をかけて作った屋敷は、広すぎて俺には理解できない規模である。

前世で言うなら地方都市とか、それくらいの広さか?

名のある芸術家を呼んで、莫大な予算で作らせたが――。

廊下を移動する際にも乗り物が必要と言えば、どれだけ無駄にでかいか理解して貰えるだろう。

部屋を出ると、待っていたのはクリスティアナだった。

女性騎士用の衣装に身を包み、俺が出てくるのを待っていた。

「リアム様、お似合いでございますね」

俺のゴテゴテした衣装を見てお世辞を言ってくる。

お世辞を言う奴は大好きだ。

だが、何だろう? ――こいつの目、本気でそんな風に思っている感じがする。

――気のせいだろう。

「そうか。それより、もう働いて大丈夫なのか?」

病院からの報告では、大人でも泣くようなリハビリを一年という短期間で終えて俺の騎士になると志願した女だ。

「問題ありません。ただ、帝国の騎士資格を得るためにすぐに領地を発たねばなりません。お側で仕えることが出来ず残念です」

クリスティアナ――ティアは外国の人間だ。

そのため、帝国の騎士資格を持っていない。

手に入れるためには、最低二つの学校を卒業する必要がある。

その後の研修やら実務も加わり、三十年は戻ってこられない。

「どうせ俺も成人後の予定が詰まっているからな。領地に戻ってこられるのは、いったいいつになるやら」

乗り物に全員が乗り込み、座ると移動を開始する。

豪華なソファーに座るとティアが続きを話す。

「リアム様のため、必ず成果を上げて見せます」

「気楽にやれば」

随分と気合が入っているようで何よりだが、お前を採用した理由は外見だよ。

元は外国で有名な騎士だったとか聞いたが、美人だから俺の騎士に任命した。

大事なのは外見だ。

酒池肉林に一歩近付いたな。

そんな俺の野望を知らないブライアンは、感動していた。

「ようやくリアム様にも騎士が仕官してきたのですね。これで、当家も安泰というものです」

譜代の家臣には逃げられ、仕官先としても人気がなかったバンフィールド家だ。

俺が活躍したことで仕官を希望する騎士も増えているらしい。

あまり興味がないので、仕官云々は天城やティアに任せてしまっている。

美女がいたら口を出すくらいだ。

目的地が見えてくるが、到着するにはまだ時間がかかりそうだ。

「――広く作りすぎたな」

今更ながら、俺は屋敷を広く作りすぎて後悔していた。

とにかく金をかけて作ってはみたが、想像以上に大きすぎてドン引きしている。

いや、豪華だし、俺に相応しいが――。

前に住んでいた屋敷でも十分だった。

アレだって凄く大きかったのに。

星間国家というか、宇宙時代の世界を甘く見すぎていた。

金持ちアピールがしたくて大きく作ってはみたが――もっと小さくても良かったな。

ただ、悪徳領主としてこれくらいはしないと駄目だろう。

悪い奴はでかい派手な屋敷に住むものだ。

式典会場。

新たに用意された屋敷に、商人であるトーマスは驚きを隠せなかった。

「なんと言いますか――伯爵の趣味は意外と渋いですな」

トーマスの意見に賛成するのは、ニアスだった。

「機能的でいいと思いますけどね。卵形のお屋敷に呼ばれたこともありますが、奇抜すぎると落ち着きませんよ」

縁のある人々を呼んでの盛大な成人式。

屋敷が完成したのでお披露目の意味もある。

そんな彼らから見て、リアムの屋敷というのは――質素だった。

大きさやら造りではなく、外観が質素なのだ。

立派ではあるし、名のある芸術家が全力で設計した屋敷だ。

ただ、奇抜な屋敷を作る貴族も多い中で、リアムの屋敷は機能重視に見られている。

確かに広く大きいのだが、それだけなら他にはもっと広くて大きな屋敷もある。

造りは丁寧で、とても落ち着いた感じなのだ。

「伯爵としての相応の屋敷で、生活しやすさを求めた結果ですかね。リアム様らしいと言いますか、何というか――莫大な報酬を得られたのに変わりませんね。てっきり、黄金の屋敷を建てられると思っていましたよ」

「お金はかけていますけどね。でも、伯爵の機能美を追求した考えは私も大好きです」

トーマスやニアスには好印象だった。

周囲の顔ぶれを見てニアスが肩をすくめる。

「それにしても凄い顔ぶれですね。大商会が目を付けているようですし。他の兵器工場からも人が来ています」

参加者の多くは地元の人間だ。

肩書きのある役人や軍人たち。

その他には商人が多く、帝国兵器工場の関係者たちも多い。

商売がしたい、商品を買って欲しい――そういった人間たちが多かった。

トーマスが肩を落とす。

「逆に貴族様が少なく不安ではありますね」

バンフィールド家に近い領主たちに招待状は出しているが、不参加の貴族たちも多かった。

ニアスは仕方がないと諦めている。

「周辺の貴族たちにすれば、いきなり力を持った伯爵家の誕生ですからね。いえ、復活でしょうか? 落ち着いていられませんよ」

貴族同士で、小競り合いから相手の家を潰すまでの本気の戦争をしている。

周辺領主たちからすれば、バンフィールド家が力を付けてきたのを素直に喜べなかった。

逆に、歓迎している貴族もいる。

自力では発展も出来ない弱小貴族たちである。

リアムに面倒を見て貰おうと、すり寄ってきていた。

「貧乏な貴族様たちは寄ってくるのですけどね」

自業自得の貴族もいれば、同情できる貴族もいる。

だが、リアムにすり寄ってきていることに変わりはなかった。

ニアスの方は無関心だ。

「帝国でも、辺境の隅々まで面倒をみるのは不可能ですからね。辺境の小領主たちは、力のある貴族に頼るしかありませんよ」

二人が話をしていると式典が始まろうとしていた。

リアムが到着したのか、周囲の参加者たちは緊張した面持ちだ。

トーマスが困ったように笑っている。

「意外と気さくな方ですが、やはり噂もあって皆さん緊張されていますね」

「仕方がありませんよ」

両親に領地と爵位を押しつけられてから、領内改革に乗り出した名君。

悪徳官僚を許さず、賊が来れば陣頭に立ち戦う民の守護者。

苛烈で厳しくもあるが、領民からすれば頼れる領主である。

それに、税金のほとんどを領内開発に投資する正しい統治者でもあった。

あと、帝国からすると納税してくれる優良領主だ。

ついでに真面目なのか借金もコツコツと返済していた。

バンフィールド家にはあまり信用がなくても、リアムにはそれなりの信用が生まれつつある。

役人、軍人の中には、リアムのためになら命を賭けるという者も少なくない。

足りないのは家臣――騎士くらいだ。

リアムが登場し、その側には新しく召し抱えた騎士の姿がある。

トーマスが顎を撫でる。

「クリスティアナ様ですね。リアム様が仕官を許された最初の騎士と聞いていますが、実力もあるようですよ」

「あら、外見重視で採用したのでは?」

「それもないとは言えませんが、多くの騎士を見てきましたが彼女は別格です。オーラとでも言えば良いのか、格が違う。目の輝きなども、普通の人とは違いますね」

あのリアムが特別待遇で召し抱えたとあって、ティアにも注目が集まっていた。

トーマスが噂話をする。

「何でも、あの姫騎士ではないかという噂がありますね。ほら、ゴアズによって滅ぼされた国の――」

「あの有名な? しかし、年齢が違うのでは? 本人ならもっと年上のはずですよ」

「いや、あくまでも噂ですよ。ただ、そのような方が従っていたのなら、伯爵――リアム様は希代の名君の器でしょうね」

本人が聞けばきっと首をかしげることだろう。

領内開発に力を入れたのも、あまりに酷くて領民から税を搾り取ることが出来なかったためだ。

悪徳官僚を斬ったのも腹が立っただけ。

海賊に立ち向かったのも、本人が勝てると考えていたからだ。

そして、借金やら税を支払っていたのは、元来の真面目な性格の表れである。

ティアを雇ったのも、容姿が優れていて忠誠心が高かったから。

深い意味はないし、ティアの実力も凄いらしいと人から聞いているだけだ。

本人はこれでも悪徳領主としてわがままに生きているつもりだった。

式典が厳かに進む。

トーマスはリアムの立派な姿を見て涙がこぼれた。

「あの方についてきてよかった。やはり、私の目に狂いはなかった」

ニアスは、トーマスに若干引いていたが同意する。

「うちの工場もお得意様をゲットできて安泰ですよ。今後もリアム様には頑張って欲しいですね。あと、うちの商品を買ってくれれば文句なしです」

トーマスが目を細める。

「貴女のいる工場は、もう少し外見や内装を気にしないと厳しいと思いますよ。性能だけを追求されても、その他の利便性がちょっと」

ニアスが聞こえないふりをして、トーマスの言葉を聞き流す。

――式典から一ヶ月。

俺は難問に頭を悩ませていた。

「――なぁ、俺って贅沢に暮らしているよな?」

俺の問いに答えるのはブライアンだ。

「え? いや、あの、他家をあまり詳しくは知りませんが、歴代当主様たちからすれば随分とその――質素な部類かと」

執務室。

机に突っ伏す俺は、薄々気が付いていた。

あれ? これって贅沢かな? 贅沢だよね? でも、おかしいな。通帳の金額が全く減らないぞ。

いくら使っても桁に変化がない。

「質素――なのか?」

「はい。質素な部類かと。もう少し贅沢をしても、お立場を考えるとおかしくはありませんよ」

そもそも俺って伯爵だった。

伯爵の贅沢ってどのレベルなのか知らなかった。

とりあえず金を使ってみようと、食事の際は楽団の生演奏を希望した。

前世で見た、お金持ちの食事風景を真似てみただけだ。

大きな屋敷も建てた。

二十四時間、いつでも入れるプールとかも作ったよ。いや、レジャー施設だな。波の出るプールとか、流れるプールとか。

作った初日に、流れるプールを逆走して遊んでやった。

それに、風呂場には温泉だって引いている!

なのに――質素だって。

この世界の価値観を舐めていた。

「ブライアン――贅沢って何だ?」

「いえ、私に聞かれても困ります」

ブライアンは、助けを求める視線を天城に向けていた。

天城が答える。

「私の記録には、ある伯爵家の当主は、惑星を丸ごと自身の惑星――プライベートプラネットにしたとあります。自分のためだけの観光惑星を用意したそうですよ」

「それにいったい何の意味がある!?」

自分のためだけに観光地を用意するって、行かない日はそこで何があるの?

そもそも、客を入れろよ。

意味ないだろ!

天城が俺の間違いを正す。

「そんな反応をする旦那様には、この手の贅沢は合わないのでは? そもそも、意味を求めるのが間違っています。確かに、贅沢をすることを求められる場合もあります。ありますが、贅沢とはそういうものなのです。意味など求めてはいけません。旦那様の性格を考えると、本当の意味での贅沢は合わないと思われますよ」

「そ、そんなことはない! 俺は贅沢をしてみせる。金ならあるんだ。何だって出来るさ!」

ブライアンは笑顔だった。

微笑ましそうに俺を見ている。

俺が困っていると天城が助け船を出してくれた。

「では、贅沢に留学などどうでしょう?」

「留学? 俺、しばらくしたら修行に出るんだが?」

「いえ、リアム様ではなく領民に、です。首都星や他家を知ることで、見識を広める者が増えますからね。領主にとっては不必要であり、贅沢と言えます」

遊びで海外留学みたいな?

俺の金で他人を遊ばせるのが贅沢になるのだろうか?

だが、確かに領主の立場からすると領民に知恵などいらない。

領民など黙って従っていればいいのだから、留学など不要である。

それなのに、ブライアンも賛成してくる。

「よろしいかと思います。以前リアム様もおっしゃっていましたが、バンフィールド家の領地はようやく発展してきたばかり。芸術やらファッションもそうですが、まだ学ぶことが多い領地ですからね。そういった必要ない分野を学ばせるために、留学させるのは贅沢と言えるでしょう」

ブライアンの話を聞いて思い出した。

「そうか、そのための留学か!」

未だに自領でナンパ――女を見繕えないのは、ファッションに問題を抱えているからだ。

心にグッとこないのだ。

世間を――他の領地を知れば、少しはマシになってくれるかもしれない。

全身スーツみたいな格好で、海水浴を楽しむのは間違っていると気付くべきだ。

頭に小さな傘をさすファッションが流行っていると聞いて、涙を流した日を俺は忘れない。

それに、芸術とかファッションとか、生きるためにどうしても学ばなくてはいけない分野ではない。

ギリギリの生活の中では、見向きもされない分野だ。

そういった分野に手を出すというのは、確かに贅沢だった。

「すぐに手配だ。ガンガン送れ! 金ならある!」

天城が素早く手配をするのだった。

「では、リアム様の予算で計画を立てましょう。早ければ、来年度から希望者を募り留学させることが出来ますね」

「いいな。最高の贅沢だ!」

ブライアンが目元を拭っていたが無視する。

「身銭を削って領民たちを学ばせるために留学させるとは――流石です、リアム様」

何か言っていたがよく聞こえなかった。

とにかく金を使おう、金を使え!

贅沢だ。

悪徳領主は贅沢をするのだ!

そんな気持ちで俺は金を使いたかった。

目指すは誰もが恐れる悪徳領主だ!