軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

イメージプレイ

そこは辺境惑星だった。

寂れた街で無精髭を生やした着物姿の男が、腰に刀を提げて道の真ん中を歩いている。

後ろには門弟と思われる男たちが付き従っていた。

人々が彼らを恐れ、道を譲る。

門弟の一人が無精髭の男――安士に話しかけた。

「剣神様、あそこの店などどうでしょう? 看板娘が可愛いと評判ですよ」

「ほう、それは味見をしておく必要があるな」

ある夫婦がようやく開店した飲食店は、家庭的な料理を出すと評判の店だった。

オープンして間もないが、そこの娘が店を手伝って評判になっている。

男たちが店に入ると、まだ学生らしい女の子が制服の上からエプロンを着て店の手伝いをしていた。

男たちがその姿に嫌らしい顔をする。

女の子は、噂通り。いや、噂以上に美しかった。

「いらっしゃいま――せ」

放課後には家の手伝いをしていた女の子は、安士たちを見て笑顔がこわばり震えはじめる。

その様子にカウンターの向こうにいた両親が気付き、慌てて飛び出してくると娘を庇うように安士の前に出てきた。

「こ、これは剣神様! ようこそお越しくださいました!」

深く頭を下げてくる店主を見て、安士は気分良く返事をした。

「飯を用意しろ。それから酒だ。そこの娘は酌をさせる」

常連客たちが何か言いたそうにするが、安士の弟子たちが睨み付ける全員が視線をそらした。

誰も逆らえない。

店主が泣きそうな顔になりながら、振り返って娘に言う。

「すまない。本当にすまない」

「いいよ。お、お酌だけなら別に」

テーブル席に着く安士たちは、大声で騒ぎはじめた。

まだ学生の女の子の肩を抱き寄せ、飲み食いを楽しみはじめる。

客たちは逃げだし、店は店主とその妻、そして娘と安士たちだけとなった。

そのまま店をあらすように飲み食いする安士たちは、二時間も過ぎると出て行こうとする。

「馳走になった。では、失礼するとしよう」

安士がそう言うと、弟子たちも立ち上がって出て行く。

誰もお金を払おうとしないが、店主は慌てて安士たちに声をかける。

「剣神様、む、娘をお返しください!」

店主は、安士の弟子に担がれた娘を助けようとする。

だが、安士は下卑た笑みを浮かべていた。

「気に入ったから頂いていく。飽きたら返してやろう。それとも、この剣神安士に文句でもあるのかな?」

安士が店主に顔を近付ける。

担がれた娘が助けを求める顔をするが、店主は震えて俯いてしまう。

「あ、ありません」

崩れ落ちて膝をつく店主は、手を握りしめて悔しそうにしていた。

だが、逆らえない。

何しろ、相手は剣神安士だ。

「うむ。賢明な判断だ。逆らえば、拙者の一番弟子であるバンフィールド伯爵が黙ってはいないだろうからな」

ガハハハ、と笑って気分良く安士たちは店を出て行こうとする。

剣神安士の一番弟子は、あのバンフィールド伯爵だ。

名君として誉れ高く、文武に優れた貴族だ。

帝国中にその名前が知れ渡る有名人である。

今や巨大な派閥をまとめる若き権力者であり、辺境の民が逆らえるような人物ではなかった。

そんなバンフィールド伯爵の剣の師に抵抗など、店主には出来なかった。

悔しくて涙を流していると、店を出た安士が誰かとぶつかった。

「前を向いて歩け」

若い男が安士を睨み付け、店に入ってくると鼻をクンクンとさせて呟く。

「鯖味噌の匂いはここで間違いない!」

着物姿の若い男は、腰に刀を提げている。

その横には幼さの残る赤毛の女の子が、同じく着物姿で体に不釣り合いな刀を持って男の手を握っていた。

「師匠、店の中が汚れていますよ」

「悪いが腹が鯖味噌で決まっているから変更は無理だ。おい、店主。さっさと片付けろ」

若い男が偉そうに命令してくる。

店主も普通の状況なら申し訳ないという気持ちにもなるが、今はそんな余裕がなかった。

若い男が店にズカズカと入ってくると、その後ろから男たちを押しのけて女二人がやってくる。

「兄弟子、俺はとりあえず大盛りね」

「僕も同じでいいや」

女の子二人がそう言うと、若い男は気前よく振る舞う。

「なら、鯖味噌三つか? お前はどうする?」

「師匠と同じものがいいです」

この状況で何事もないかのように入店する四人組は、席に着くとメニューを見始める。

ただ、先程から安士やその弟子たちが激高して顔を赤くしていた。

「旅行客か? この惑星の流儀を知らないと見えるな」

一番体が大きく威圧感のある弟子が四人に近付き、腰の刀に手をかけていた。

鼻息荒く四人組に近付くが、若い男女は気にした様子もない。

ただ、若い男は安士を見ると挑発的な視線を向ける。

弟子たちには見向きもしていなかった。

安士がそれに気が付き、若い男に近付く。

「拙者を剣神安士と知らないらしい。それとも、腕自慢の剣士か?」

弟子たちが店内で刀を抜く。

女子供と侮っている様子はなく、この場で斬り殺そうとしていた。

安士たちが恐れられているのは、一閃流やバンフィールド家の後ろ盾だけではない。

逆らえば即座に殺すという凶暴性に加え、辺境惑星の領主の剣術指南役だからだ。

この惑星に、安士に逆らえる者は少なかった。

安士が言う。

「謝るなら今の内だぞ、小僧? 拙者はこの惑星の領主殿と懇意にしている。そんな拙者に喧嘩を売って無事で済むと思うのか?」

すると、若い男が即答する。

「馬鹿なのか? 俺は最初からお前たちに喧嘩を売っているんだよ。いや、売られた喧嘩をわざわざ買ってやったんだ。感謝しろよ」

感謝しろと言い終わると、安士と娘を担いだ弟子以外が吹き飛ばされる。

店のドアや壁が吹き飛び、弟子たちが店の外に追いやられた。

一瞬の出来事に安士や、残った弟子――そして、店主と家族が呆然とする。

若い男が立ち上がり、店主に向かって言う。

「鯖味噌定食四つだ。大盛りにしろ」

店主は思った。

(鯖味噌定食って何ですか?)

師匠の名を騙った馬鹿がいた。

整形までして師匠の姿を真似た男は、多少の心得はあるようだが三流剣士だった。

俺を前にしても、誰に向かって口を利いているのか理解もしていない。

遊びで男の弟子たちを吹き飛ばしてやったのに、何が起きたのか理解していない顔をしている。

「おい、どうした? 一閃流の師範がこの程度で驚くなよ。偽者だろうと、せめて相応の実力は持ったらどうだ?」

ニヤニヤしながら近付いてやれば、男たちは引きつった顔をしていた。

だが、弟子の一人が担いでいた娘を投げ捨てて逃亡を開始する。

弟子の方が実力的には上のようだ。

そんな弟子に、風華が一瞬で背中に飛び乗って押し倒す。

刀を抜いて首筋に当てていた。

「逃げるなよぉ! 一閃流が逃げたら駄目だろ? 戦うなら、殺すか死ぬかの二択だろうがぁ!」

「違うんだ! お、俺は、ただ雇われただけで、偽者なんだ!」

自ら偽者と認めると、風華は刀を鞘に収めた。

冷たい目で偽者を見下ろしていた。

「無駄足かよ。これで五度目だ」

解放されたと思った弟子が顔を上げれば、風華に蹴り飛ばされ吹き飛んだ。

師匠を名乗った偽者が、俺たちを見て薄々気付いたようだ。

「あ、あの、もしかして」

「はじめまして、偽者野郎。――リアム・セラ・バンフィールドが、わざわざ出向いてきてやったぞ」

偽者の顔が青ざめていた。

ガタガタと震えて膝から崩れ落ちると、俺は偽者に領主を呼び出せと伝える。

「お前を雇った糞領主を呼べ」

「へ? い、いえ、お忙しい方なので」

「たかが田舎の小領主が、伯爵である俺の呼び出しに応えられないだと? どうやら、滅ぼされたいらしいな」

「ひぃぃぃ! す、すぐにお伝えします!」

地位も権力も使ってこそ意味がある。

俺は強い奴には媚びるが、弱い奴は徹底的に虐げる主義だ。

偽者を放置していただけでなく、召し抱えて一閃流の名前に泥を塗った辺境の小領主はどうしてくれようか?

俺は席に戻って困っている店主を見る。

「鯖味噌定食は?」

「その、あの――鯖味噌定食って何でしょうか?」

どうやら、俺が鯖味噌定食だと思っていた匂いは別料理だったようだ。

それから十五分後だった。

運ばれてきた料理を食べる俺は、転生してはじめて鯖味噌定食にありつけた。

「これだよ!」

転生前の酷い時期に、店の前を通る度に良い匂いがしていたのを思い出す。

その日の食事にも困って食べられなかった鯖味噌定食だが、星間国家なのに存在していなかった。

それっぽい何かはあるが、何かが違う。

いっそ自分で作ろうかと考えもしたが、修行で忙しく再現している余裕がなかった。

料理人たちに説明しても、出来上がるのは微妙な何かだ。

それが普通にうまいから腹が立つ。

だが、辺境惑星に来て、ようやく俺は鯖味噌定食に出会えた。

お宝を発見した気分だ。

ガツガツと食べている俺たちの横では、辺境惑星の領主が土下座をしている。

「バンフィールド伯爵が来られているとは知らず、大変失礼いたしました! まさか、あの男が偽者とは思わず、剣術指南役に雇った私の落ち度。奴らはすぐにでも処刑いたします!」

外を見れば、小領主の騎士たちに捕らえられた偽者たちが拘束され正座させられていた。

その顔は殴られて痣だらけになっている。

俺は小領主に言う。

「食事中だ。静かにしろ」

「し、失礼いたしました! ですが、このような小汚い店よりも、当家にてパーティーを準備中です。是非とも伯爵には参加していただきたく思います」

こんな所で飯なんか食わないで、うちで食おうぜ! という申し出だ。

普段なら厚意を受け取るが、鯖味噌定食の方が優先である。

あと、一閃流の偽者を雇って認めるとか、個人的に絶対に許されない。

「口を閉じろ。三度目は殺すぞ」

小領主が黙ってしまうと、凜鳳が鯖味噌定食を食べながら話しかけてくる。

「兄弟子、これからどうするの?」

「とりあえず次の惑星に向かう。ついでに旅行を楽しむぞ」

鯖味噌定食に出会えたのだから、他の惑星にも宝があるはずだ。

凜鳳はつまらなそうにしている。

「田舎を巡るだけだよね? 強い奴がいれば良いけど、偽者って基本的に糞雑魚だからつまらないんだよね」

「なら、ついでに強い奴らを見つけて挑むか。武者修行だ」

ちょっとした旅行ついでに、有名道場を荒らし回ろう。

なんて悪徳領主らしい振る舞いだろうか。

風華が食事を終えて立ち上がる。

「いいな、それ! 俺が一番な!」

「はぁ? 僕でしょ? 最近、斬ってないから動画の再生数が悪いんだよね」

宇宙一血生臭い地下アイドルだったか? 凜鳳は動画配信者としての顔も持っているため、目立ちたいようだ。

「交代で一人ずつだ。エレン、お前もやるんだぞ」

「は、はい」

話をエレンに振るが、いつものような元気がない。

やはり、人を斬ることに忌避感が強いようだ。

大事に育てすぎてしまったことを、少し後悔する。

食事が終わると、店主やその家族が居心地悪そうにしていた。

「おい、会計」

「は、はい、ただいま!」

俺はカードを取り出して電子決済を行うが、店主が目を見開いて驚く。

「あ、あの、こんなにもらってよろしいのでしょうか?」

「店を壊したお詫びだ。それより、お前たち家族はうちの領地に来い」

「え?」

驚いている三人に俺は命令する。先程の小悪党たちは娘だけを狙ったが、俺なら家族ごと狙う。

「時々無性に食べたくなるんだ」

前世で食べたくても食べられなかったせいで、妙に食べたくなる時がある。

こんな遠くの惑星にあったら食べるのが面倒なので、ならば領地に連れて帰れば良いと思い付いた。

悪徳領主らしい振る舞いだろう。

「いや、あの、その」

店主が困りながら、土下座をしている小領主を見ていた。

俺は土下座をする小領主に話しかける。

「文句はないな?」

「ありません!」

「だ、そうだ。すぐに荷物をまとめろ。これは命令だ。拒否権はない」

俺のわがままで人生が左右される家族というのは悲しいものだ。

ただ、店の手伝いをしている娘を見て声をかけたくなった。

「お前、ここの娘か?」

「はい」

素朴な感じの娘は、磨けば光りそうな美少女だった。

「店の手伝いか? 小遣い稼ぎも大変だな」

「いえ、もらっていません。その、この店は両親の夢でしたから、私も手伝おうと思って」

学校が終われば手伝っているそうだ。

何と心の優しい娘だろうか。

正直、気分でこの家族を領地に移住させるのが申し訳なくなる。だが、取りやめると俺の悪徳領主の沽券に関わる。

何か出来ないかと考え、一つ思いついた。

「手伝いとは偉いな。気に入った、領地についたら役所に俺の名前を出せ。学費や奨学金は手配してやる」

「え?」

美少女に金を貢ぐ悪徳領主らしいプレイを楽しみ、多少の罪滅ぼしをして俺は気分が良くなったところで、土下座をしている小領主が目に入った。

こいつの存在を忘れていた。

「てめぇ、今度調子に乗ったら族滅するから覚悟しておけよ」

一閃流を騙った連中を雇って公認するとか、俺からすれば激怒ものだ。

次にやったら滅ぼしてやるという意味を込め、念を押すと小領主が返事をする。

「これからは心を入れ替えます!」

「当然だ」

さて、こんな所にいつまでも滞在している時間はない。

師匠を捜すために俺たちは急いで店を出た。