軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

命の重み

世の中、命というのは軽く考えられている。

それは星間国家でも同じ――いや、前世の世界よりも非常に軽い。

たった一度の小競り合いのような戦争でも、何万人が簡単に消えていく。

何百万人がたった一度の戦争で消えてもおかしくなく、そんな戦争が今もどこかで繰り広げられている。

いくら科学や魔法が進歩しようと、人が進歩しなければ何の意味もない。

さて――前置きはこの程度でいいだろう。

星間国家で命の価値など軽い。

それは、簡単に子供が作れてしまうことも原因の一つだ。

俺がこの世界に誕生したのは試験管の中であり、その後は機械の中で育てられた。

両親も俺に愛情などなかったのだろう。

俺が五歳になると同時に、借金まみれの領地を捨てて出ていったよ。

子供など簡単に生まれるし、人は簡単に死んでいく。

これがこの世界だ。

「言い訳を聞こうか。その前に、クラウス! こいつらの罪状を教えてやれ」

椅子に座り脚を組んで頬杖をつく俺は、頭を垂れる二人を見下ろしていた。

仕事で忙しいティアとマリーを呼びつけ、土下座をさせている。

俺の側にはクラウスが、もう呆れを通り越して悟ったような顔をして立っていた。

罪状を読み上げさせる。

「ノーデン男爵率いるアイザック一味を放置し、リアム様の艦隊を無断使用。その後、領内にある惑星で決起。また、リアム様の遺伝子を不正に手に入れ、跡取りを身籠もろうとしていた――と」

あまりにも酷すぎる。

俺が留守ならば、家を守るのが俺の騎士たちの仕事だ。

それを、自分勝手に動くなどあってはらない。

「お前らには何度も失望させられてきた。だが、今回一番の罪は俺を裏切り、好き勝手に振る舞ったことだ」

ティアが顔を上げて言い訳をはじめる。

「リアム様! 跡取り不在の領内のことを考えれば――」

床を一蹴りしてティアを黙らせた俺は、言い訳する前に大事なことを伝えるのを忘れていた。

「正論大いに結構。だが、俺はそんな話が聞きたいんじゃない。俺がつまらないと思うような言い訳をすれば、この場で斬り捨てる」

今まで何十年と俺を支えてきた二人だが、有能であろうと俺を裏切るような奴は不要だ。

見た目がいい女性騎士を揃えようと思っていたが、こんな奴らばかりなら女性騎士など俺のハーレムに加えられない。

今後、騎士は容姿ではなく能力重視――もっとマシな連中を集めさせよう。

二人が言葉に詰まっている。

こいつらもアイザックや他の連中と同じだな。

そう思って椅子に立てかけている刀に手を伸ばそうとすると、マリーが自分の髪を肩にかけて俺に首を見せてきた。

斬るなら斬れ、ということだろう。

「お、潔いじゃないか。痛みもなく首を斬り落としてや――」

「リアム様の子供が欲しかったのです!」

「――おい」

あまりの言い訳にツッコミを入れたくなってしまった。

この場で、いったい何を言い出すのか?

マリーがそのまま言い訳を続けるのだが、もう酷すぎる。

「た、たとえ、リアム様に認められず、跡取りになれなくても私が一人で育て続けるつもりでした! ど、どうか、お許しくださいませ!」

困ってクラウスに視線を向けるが、クラウスも困惑しているようだ。

常識人もビックリな言い訳をしているらしい。

これが星間国家の普通なのか? と、少し疑ってしまった。

ま、こいつらが普通なわけないか。

ティアも泣きながら訴えてくる。

「リアム様のご寵愛を受けたいなどとは申しません。ですが、どうしても繋がりが欲しかったのです。今回の件がなくとも、いずれは家名を残すためにリアム様の遺伝子で我が子を身籠もる予定でした。バンフィールド家の跡取りを名乗らせるつもりはありませんでした。こ、今回は魔が差したと言いますか」

お前らにとって子供って何よ?

「俺の子を身籠もりたかった、だと?」

マリーが震えながらも頷き、理由を述べる。

「不敬にもリアム様との間に、繋がりが欲しかったのです。このマリー、大罪であることは認識していましたが、我慢できませんでした。ですが、リアム様に斬られるならば本望でございます!」

俺との繋がりを求める道具?

しかも、俺に斬られるなら本望って――やる気失せるわ。

呆気にとられた俺は、刀に伸ばした手を引っ込める。

「帝国騎士であるお前らの騎士資格剥奪は俺には不可能だ。だが、領内においてお前らの騎士としての地位や立場は認めない。しばらくは屋敷でメイドとして働け」

殺そうと思ったが、馬鹿らしい言い訳に毒気を抜かれてしまった。

二人が涙ながらに感謝してくるが、本当にどうでもいい。

「ありがとうございます、リアム様!」

「このマリー、メイドになってもリアム様にこれまでと変わらぬ忠誠を誓います!」

有能だからと放置してきたが、どうやら失敗したようだ。

今後は、セリーナのもとで女性らしさを身につけさせよう。

「もういい、下がれ。あ、それからクラウス」

「何でしょう?」

「実は、以前から有力な騎士たちに番号を与えてやるつもりだった。お前、今回は頑張ったから一番な」

「はい――え?」

頷いて受け入れた後に、クラウスの奴は目を見開いていた。

いきなり一番と言われ、困惑してしまったのだろう。

「権限と給料を増やしてやる。これからも励めよ」

「は、はい!」

ティアとマリーが、ハイライトの消えた目でクラウスを見ていたのが印象的だ。

こいつらには、俺とクラウスとの会話の方が堪えたらしい。

「ティア、マリー」

「は、はい!」

「何でしょう、リアム様!」

「お前らも普通に仕事をしていれば、どちらかを一番にしようと考えていたのに、非常に残念な結果になってしまったな」

固まって動かなくなった二人に満足した俺は、立ち上がって部屋を出ていく。

クラウスは冷や汗が止まらなかった。

以前、リアムが騎士に番号を振り、特別な階級制度を用意しようとしている――というのが噂として広がったことがある。

その際に、何を勘違いしたのかノーデン男爵などの寄子たちが、自分たちこそリアムを支える十二騎士に相応しいと言いだした。

放置していたが、領内に留学に来ていた寄子の家の出身者たちがそれを言いふらしていたのだ。

リアムによって否定されたが、それでも自分の騎士に番号を振るというのは事実だったと聞いている。

いったい誰が選ばれるのか?

騎士団の中では興味のある話題だったが――。

(私が一番に選ばれるとは思わなかった!?)

――クラウスには寝耳に水、という話だ。

リアムが去って行った部屋では、クラウスの他に一番になり損ねたティアとマリーがいるではないか。

クラウスを見る目が、本当に暗かった。

ティアがゆっくりと立ち上がる、体に力が入らないのか不気味な立ち上がり方になっている。

「クラウス殿――おめでとうございます」

マリーも立ち上がるが、生気のない目をしていた。

動きも遅く、まるでゾンビのようだ。

「リアム様の一番の騎士とは素晴らしい称号ですね。あ~でも、今回の件がなければ、私が一番だったのに」

一番になり損ねたのが、相当堪えているようだ。

「い、いや、私にも急な話だった。この件は、リアム様も思いつきのはず。騎士団や軍との話し合いで、流れる可能性がある――はずだ」

二人が恨めしそうな顔でクラウスを見ている。

クラウスはまた胃が痛くなるのだった。

(何で私が騎士団の筆頭にならないといけないんだ!?)

有能だが、問題児ばかりのリアムの騎士団をまとめることになったクラウスの苦悩は続く。

――お手上げだ。

首都星に宮殿で一人頭を悩ませる男がいた。

カルヴァンだ。

「とうとう、追い詰められてしまったな」

机の上にはリアムのデータが表示されている。

そこに書かれているのは『リアム最大の弱点は、ワンマン統治によるリアム不在時の脆弱さ』という内容だ。

リアムが失踪したという情報が広がっただけで、分裂して領内が戦国時代に突入してしまったのだ。

確かに脆弱である。

普通に考えれば、リアムさえ倒せばいいので楽な話だ。

だが、それが一番難しい。

「暗殺は駄目。戦場に出しても駄目。領内で流言を流しても駄目。破壊工作のほとんどをはね除ける相手に、どうすればいいのか」

リアムを守る影の一族により、暗殺などは不可能に近い。

なりふり構わず殺すにも、剣聖すら斬り伏せてしまうリアムには勝てる見込みが少ない。

そんなことをすれば、カルヴァンは自ら評判を落としてしまう。

また、戦場で消そうとしても難しい。

リアム個人も厄介だが、有能な騎士や軍人たちを揃えている。

そして、今回の件で領内にいる役人たちも引き締められ、裏切りも難しい。

内部からゆっくり崩していく工作も、まったく進んでいない。

今回の騒動でリアムは領内を厳しく取り締まり、カルヴァンやそれ以外の手の者たちが一掃されてしまった。

リアムがいなければバンフィールド家など恐れるに足りないが、そのリアムを消すための手段が見つからない。

それに――リアムが抱えるはずだった余計なお荷物を、気がつけばカルヴァンが背負っている状況だ。

一体何が起きたのか、カルヴァンにも分からない。

若干の支援をしたばかりだったのに、気がつけば彼らの後ろ盾にされていた。

「このままでは危ういな」

本当に自分を廃し、クレオが皇太子になる可能性が見えて来た。

カルヴァンはこの状況に頭を抱えたくなった。

頭を抱えている――いや、帽子を抱えている男がいた。

案内人だ。

小さな手足でうずくまっていた。

「何をやってもリアムを利する行動になってしまう」

召喚魔法で遠くに飛ばし、その間に領内を滅茶苦茶にしてやろうと思った。

最初は成功もしたが、気がつけば元々燻っていた問題を表面化させ、リアムにより対処させただけになっている。

バンフィールド家の領内。

大通りでうずくまる案内人は、巨大モニターを見上げていた。

『政庁から公開された動画データですが、リアム様はロゼッタ様と仲睦まじくパーティーに参加されていますね』

『何の進展もないという話を聞き、このような公開に踏み切ったのでしょう。それにしてもお似合いの二人です』

ニュースが流され、リアムが首都星で豪遊を繰り返していたのに領民たちの反応が薄い。

領民たちの関心は、別にあった。

「何だ。仲が良いじゃないか」

「デモまでする必要はなかったな」

「お祭りみたいなものだろ。この調子ならお世継ぎもすぐだろ」

大通りを歩いている領民たちが、笑い話をしている。

『続いてのニュースです。政庁はこの度、社会福祉の充実を理由に増税を行うと発表しました』

『社会福祉の充実ですが、今後は――』

空中に投影された巨大モニターでは、キャスターが増税について話をしていた。

領民たちの反応は鈍い。

「増税かよ」

「リアム様最低だな」

「それより、病院関係の治療費が安くなるってさ」

「やっぱリアム様最高だな」

増税は嫌だが、社会福祉が充実するとあって受け入れる方向で話が進んでいた。

案内人は地面がいつもより熱く感じる。

いや、熱かった。

まるで地面が火をかけた鉄板のような熱さだ。

「熱っ!? 熱っ、熱いぞ!? ぎゃぁぁぁ!!」

ぴょこぴょこと足をバタバタさせていた。

こけて転がると、帽子姿の案内人がこんがりと焼けてしまう。

「いやぁぁぁ!! どこにいても熱いぃぃぃ!!」

ジュー、という焼ける音と共に、案内人から黒い煙が発して力を奪い取っていく。

このままでは、焼き殺されてしまう。

案内人は転がりながら、安全な場所を探すがどこにもない。

黒焦げになっていく案内人は、この現象の原因を察してしまう。

「ま、まさか!?」

宙に浮かび、そのまま宇宙まで上がっていくと――惑星が神々しく見える。

黄金の粒子を発し、輝いていた。

「何だ? 原因は何だ!?」

リアムの感謝の気持ちがあふれ出たにしては、スケールが大きすぎる。

惑星一つを飲み込み、自分を追い出してしまうようなことがあり得るのだろうか?

そこまで考え、案内人は思い出した。

「も、もしや、せ、世界樹か!!」

遠くにある惑星から、時や空間を超えて何かが流れ込んできている。

その先にあるのは、復活したばかりの惑星だった。

リアムの管理下にあり、リアムが守っている世界樹だ。

まだ復活したばかりで、小さな苗木に過ぎないが――リアムへの感謝の気持ちがあるのか、その神聖な力で守ろうとしている。

「世界樹がリアムを守るだと!? こ、こんなの、どうやっても勝てないではないか!?」

世界樹。

それは本当に神聖な植物であり、案内人にとっては厄介な毒と同じだ。

本来なら世界樹を枯らせるはずだった悪いエルフたちを、目先の利益に囚われ毒気を抜いてしまったのが案内人だ。

ただ――普通は世界樹もここまでしない。

個人を救うなどありえないことだった。

案内人も想定外の事態に、震えてくる。

「も、もはや、私一人の力ではどうにもならない。こうなれば――この世界にいる私のような存在を集めるしかない」

一人で駄目なら助けを求めればいい。

だが、同種の存在に助けを求めるなど、本来はプライドが許さなかった。

しかし、今の案内人はリアムという存在を前に――プライドを捨ててしまう。

「リアムを倒すためなら、何だってやってやるぞ!」