軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宰相 覚悟を告白する

目の前のソファに座った叔父は両手で頭を抱えて俯き、隣に座る従兄弟は息を飲んだまま固まった。

執務室に置かれた大きな壁掛け時計が時を刻む音だけがやけに大きく聞こえる。その他の音が一瞬にして消えたようだった。

「……申し訳ありません、叔父上。クリスにも迷惑をかけることになってしまって」

何度目かになる謝罪の言葉と共に頭を下げた。

亡き父と同じ色合いの叔父、その叔父と良く似た跡取りである従兄弟。今回の騒動では、彼らにも迷惑をかけることになってしまい申し訳ないとしか言い様がない。

「いや、……謝罪はいい、知らなかったというのならば我らも同じだからな」

「それよりも、ヨシュア一体どうなってるんだい?」

硬直の解けたクリスは少し冷めた紅茶を一気に飲み干すと、未だ俯いたままの叔父の背中を軽く叩きながら言った。

「この国の宰相として国内外に対して辣腕を振るい、王の側近として不動の地位にいるキミが、突然爵位を譲りたいなんて」

その言葉に叔父もようやく顔をあげたので、六年前に黒騎士であるリィナを妻に迎えたことから、母と妹と使用人たちのリィナへの仕打ち、母方の従兄弟のしでかした騎士団事務所での犯罪にいたるまで、その全てを話し説明した。

その間、叔父とクリスは「ああ」とか「うん」とか小さな相槌を打つだけだったが、その顔には驚きや呆れ、嫌悪と言った表情が次々と浮かんで、話しが終わる頃にはふたりとも俯いてしまった。

「………………陛下のご命令だった結婚は書面上でしか成立しておらず、リィナ殿は負傷し騎士団を退団した後、行方不明。彼女の給料と恩賞は全て侯爵家の懐に入り、彼女自身には支給されていない。親戚である伯爵家の三男坊は公文書偽造で完全に犯罪者、しかも義姉上とマリーシアがその犯罪をそそのかした、と?」

叔父は声を絞り出し、現実を確認するように述べた。

「母とマリーシアがそそのかしたのは事実なのでしょうが、残念ながらそれを証明することは出来ません。書面や魔道具で残されているわけではありませんので」

トミーの行った公文書偽造について、公に罪に問われる部分はリィナの討伐スケジュールの管理が出来ていなかったこと、討伐数の改ざんなどだ。

彼女の給料や恩賞が侯爵家に入っていたことは罪にはならない。なぜなら、リィナは侯爵家の人間だからだ。書面上であっても。

いくらトミーが母と妹に唆されて犯罪を犯した、そう話しても、それが事実だとしても証拠がない。口で言った言わない、はなんの証拠にもならない。

「……ううん、それもどうなんだ? 事実、シャルダイン家の三男坊は伯母上とマリーシアに言われたから、やったんだろう?」

「そうなんだが……公式には証拠がないため、どうにも出来ないな」

「伯爵家の三男で騎士団の事務官として働いていた、か……犯罪者として扱われることが確定してるってなると、除籍されて切り捨てられるんだろうなぁ」

母とマリーシアが公的に犯罪者とされることはない、トミーひとりがそう扱われるのだ。実家から捨てられ、平民になり犯罪者とされる。

「でも、仕方が無い部分もあるよな。伯母上とマリーシアから言われたからって、騎士団で決められた規則を守れないっていうのは問題だからさ。貴族だから、よりそういう部分はきっちりするべきだってのも分かるし。伯母上とマリーシアになんの処罰もないってのは納得がいかないな」

クリスはそう言って冷めた紅茶を飲み干した。

「…………それで、ヨシュア。これからどうするつもりだ? その話しをするために我々を呼んだのだろう」

私は頷き、用意しておいた書類を叔父とクリスの前に出した。

「私はグランウェル侯爵家当主の座を降り、その座を叔父上へ譲ります。同時に、侯爵から伯爵への降格も申請します。今後、グランウェル家は伯爵家として叔父上からクリスへ、クリスの子たちに受け継いで行って貰います」

書類と私の言葉に驚いたクリスを片手で制止ながら、叔父上は私に続きを話すよう促した。

「母上は実家であるシャルダイン伯爵家の領地にある修道院に入って、父を偲んで過ごして貰う予定です。マリーシアは婚家であるアストン伯爵家に全てを話し、今後の対応を決めて貰うつもりでいます……最悪離縁となるでしょうが、その場合はグランウェル領の修道院へ入れるつもりでいます」

「……ふむ、了解した。アストン伯爵家への説明は?」

「この後、私が伯爵に直接説明する予定です。それで、叔父上……」

「なんだ、もうここまで来て言い辛いことなどなにもないだろう。さっさと言え」

叔父上は、シャツのポケットに入れていたらしい魔道万年ペンを手で弄びながら、私が用意した書類に目を通し始める。

「……トミー・シャルダイン伯爵令息のことなのですが」

「うむ」

「今回、このような事件を起こしましたが、本来は几帳面で計算も得意で事務官としては有能な部類に入ります。罪を償った後、行く宛てがないようだったら……」

「分かった。彼が希望し、その能力が見合えば我が領地で面倒を見よう。地方役所に勤めるのなら、平民で問題ない」

「ありがとうございます」

叔父上はまず爵位の降格手続き用の書類にサインを入れた。

「で、リィナ殿のことはどうする?」

「現在彼女の行方は分かっていません。捜索中です。……彼女が見つかってから話しをして、その先のことはそれから決めたいと思っています」

「なんにせよ、リィナ殿と会えなくてはどうにもならないか。それで、こちら書類にサインをする前に聞きたいことがある」

爵位譲渡の書類が叔父の手でヒラヒラと揺れる。

「なんでしょう?」

「…………私に爵位を譲りその後をクリスに引き継がせ、義姉上とマリーシアを片付けて、そしておまえ自身はどうするつもりなんだ?」

「私は……」

私の言葉に、貴族らしからぬクリスの「うえええええええええええ」と言う悲鳴が響いた。

その悲鳴は私の耳に非常に堪えた。